HRシステムを核としたNittoのグローバルHR施策の再構築
作成者:SAP Japan イベント 投稿日:2020年8月5日
SAP HR Connect 2020 Digital Days
事業戦略を支える人事の挑戦 ―多様な人材が活躍する強い組織の創り方
レポート(1)
2020年6月24日~26日、第25回目を迎えるSAP HR Connect 2020が開催されました。昨今の情勢を踏まえ初のオンライン開催となった今回、グローバルHRの課題解決と推進に果敢にチャレンジする2社の人事リーダーによる講演およびSAP社員との対談と、SAPの最新テクノロジーを紹介する計3つのセッションが行われました。
経営を支える明日の人事の役割に迫る、各セッションの見どころをお伝えします。
*各講演のオンデマンド視聴はこちら。
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HRシステムを核としたNittoのグローバルHR施策の再構築
日東電工株式会社
人財統括部 人事企画部長
坂東 保治 氏
とかく障害が多く、滞りがちな日系企業におけるグローバルHR施策の導入・推進。グローバル人事施策におけるシステムへの期待はどこにあり、どう活用しようとしているのか。本講演では導入がゴールではなく今後、真の意味で必須のツールとしてコアプラットフォームに昇華させるための仕掛けと展望について、ご紹介いただきました。
企業紹介
日東電工株式会社は1918年設立、連結売上高7,410億円、連結従業員数28,751人。世界28か国に92社のグループ企業を展開し、連結売上高の実に8割近くが海外市場です。グローバルシェアNo.1を目指すグローバルニッチトップ™戦略、各国・エリアの市場において特有のニーズに応じた製品を投入してトップシェアを狙うエリアニッチトップ®戦略を掲げる同社では、多様な人財の活躍を推進し、グローバルで次世代幹部候補を育成する数々の人事施策を実施してきました。
人事上の課題と取り組み ―グローバルでタレントマネジメントサイクルを確立、多様な課題に対応
人事上の課題は「多様な人財活用、ダイバーシティ」「人財リテンション、エンゲージメント」「グローバル次世代幹部候補の育成とキャリアパス」「潤沢な人財供給パイプライン確保」「イノベーティブな働き方とマインドの改革」など、多岐にわたります。
日東電工(以下、当社)では人財プーリング、グローバルグレーディング、グローバルコンピテンシーとグローバルHRIS等の人財基盤を活用し、グローバルでのタレントマネジメントサイクル(PLAN/DO/CHECK/ACTION)を展開、グローバルリーダーの輩出を目指しています。

図:Nittoグローバル人事施策の全体像
グローバル共通の職務階級制度を取り入れ、ポジション管理、報酬水準の透明化、サクセッションプラン策定に活用。また、グローバルでの経営理念浸透を図るためグループ共通の評価軸として「Nitto Competency」を定め、採用、人財育成などに幅広く活用しています。
特色としては、グローバル次世代幹部候補の育成とキャリアパスを目指す選抜教育機関「NGBA(Nitto Global Business Academy)」の設置、海外現地法人代表を中心に、今後の後継計画をグローバルに策定するサクセッションプランの実行および、年に一度の棚卸しを行っています。
グローバル人事システム導入の狙いと、4つの成功キーファクター―「システム導入」ではなく、「業務変革」の3年間
システム導入の目的は、全社経営課題、人事オペレーション向上、エリア経営支援の3つの視点から以下のように定めました。

図:グローバル人事システム導入の狙い
その上で、グローバル経営基盤「SAP S/4 HANA」、サプライヤ情報のデジタル化「SAP Concur」「SAP Ariba」などに加えて、従業員情報のデジタル基盤にタレントマネジメントシステム「SAP SuccessFactors」を、グローバル人事システムとして採用しました。

図:IT全体方針と合致したシステム全体像
当社はグローバル人事システム導入に、インプリテーションに約3年、プランニングを含めるとそれ以上の年数をかけました。振り返ると「システム導入」ではなく、「業務を変革」し続けた3年間でした。
クラウド型のソリューションはプロダクトの理念が高く、これまで日本企業が好んで活用してきたオンプレミス型と違い、融通が利きません。ゆえに、社内で導入目的を明確に定義した上で、業務の変革をやり切らないと失敗します。“システムを業務にあわせる”のではなく、“業務をシステムにあわせる”。よって、実態はシステム導入ではなく、業務改革であることを認識すべきなのです。
また、最初に完璧な導入計画を立てるのは不可能です。必ず、路線変更がある前提で、臨機応変に短い期間で区切り小さく成功事例を積み上げること。そしてその成果を次フェーズに活かすスピード感が重要です。
グローバル人事システム導入を成功させるためのキーファクターは、大きく4つあります。
1. 「人事のためのシステム導入」はNG
当社の場合、グローバル人事システムの導入は、人事単体の取り組みではなく、グローバル経営におけるIT利活用のロジックに即してBest of Bestのシステムを活用するというIT全体方針の中で導入が進められました。
2. 海外子会社先行の導入アプローチ
最初から大きくではなく、小さな成功事例を積み重ねる戦略を取ることも重要です。
当社では常にグローバルを意識し、海外から日本へ逆輸入するアプローチを取りました。先行しての活用がある場合は無理に上書きせず、その実績を活かすことでデータに裏付けされた効果が把握でき、経営幹部に理解していただきやすいというメリットがあります。
導入検討時は業務プロセスも同様にグローバルを基準に検討、”日本に合わせに行く”ことはしませんでした。
3. グローバル体制とガバナンス
業務要件を人事が、システム要件をITが担当するチーム編成です。その際、海外の主要メンバーをアドバイザーやステアリングコミッッティのキーポジションとして参画してもらいました。これは、ドメスティックにならないグローバルプロセス作りという点で、非常に効果的です。
4. システム鮮度とインターフェース
グローバル人事システムの導入に際し、必ず各国の給与システムなど既存システムとの競合が問題となります。その際、どちらを「正」とするかが重要です。新システムをサブとして使用するとどうしてもメンテナンスがおろそかになります。当社ではタレントマネジメントデータの鮮度を重視し、新システムを「正」として給与システムに流れるよう、インターフェース連携を実施しました。そのことでメンテナンスが習慣づけられ、情報鮮度が保たれます。
今後の構想と意識すべきポイント ―経営データとして個人プロファイルをフローデータ化し、AI活用も視野に
当社のタレントマネジメントシステム「SAP SuccessFactors」は人事のみではなく、ビジネスが活用することを視野に入れています。そのために積極的なアナリティクスツールを活用し、人財リソースの過不足感や採用、離職状況の可視化や分析など、経営の視点を意識した高度な要員管理の実現を目指します。

図:経営分析のためのツールとして
今後はより”個人”が自立したキャリア志向が強まる傾向にあると予想されます。そのため、会社は異動やローテーション計画において、これまで以上に精緻に個人の希望を吸い上げる必要があります。その積み重ねが、グローバルでの適材適所と共に、社員のエンゲージメントにもつながると考えます。
VUCA時代においては、現状企業が保有するストックデータでは不十分です。今後、スピード感をもって情報をキャッチアップする必要があり、より社員のリアルタイムな状況を反映したフローデータへの着目が求められます。将来的にはAIツールを活用し、将来予測系の活用が理想です。
この後、日東電工株式会社 人財統括部 人事企画部長の坂東 保治氏と、SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューションアドバイザリー本部 本部長 佐々見 直文が対談を行いました。
佐々見:グローバル企業の皆様に参考となるお話をありがとうございました。御社はグローバル共通の職務階級制度を取り入れ、ポジション管理、報酬水準の透明化、サクセッションプラン策定に活用されているとのことですが、日本と海外の違いをどのようにお感じになりますか。
坂東氏:ジョブ型は日本には理解浸透が難しく、まだまだ意識改革が必要だと感じています。共通する項目に加えて、日本向けにきめ細かく改良する必要もあると感じています。数年かけて実施し、最終的にはハイブリッド型での運用になるのでは、と思っています。
佐々見:グローバル次世代幹部候補の育成とキャリアパスを目指す選抜教育機関NGBAのお話が興味深かったのですが、後継者で選抜されたことは、ご本人には伝えるのでしょうか。そうであれば、選抜されない人のモチベーション管理はどうされていますか。
坂東氏:人財プールに登録されている時点でハーフオープンですので、選抜されたことは本人も認識しています。選抜されない方のケアよりも、選抜された方が前向きに進めるための動機づけ、プレミアム感が大切だと思います。ここはまだ、試行錯誤中です。
佐々見:次世代幹部候補の選抜教育について、日本人と海外の方で受け止め方に違いはございますか。
坂東氏:日本の文脈で選抜教育は業務の延長と捉えられ、時間の供出など、ともすればネガティブに受け取られることもあります。海外は選抜教育への期待値も、モチベーションも高いですね。
佐々見:グローバル人事システム導入時、海外メンバーの巻き込みがポイントとのことでしたが、苦労されている企業も多いと思います。貴社はプロジェクト開始前から交流が盛んだったのでしょうか。
坂東氏:ありがたいことに過去の先輩方の資産というか会社の文化で、海外とのネットワーク、コミュニティはさまざまな機会がありました。今回のシステム導入きっかけで作ったものではありません。これはシステムに限らず日頃から重要な取り組みですね。
佐々見「最後に、プロジェクト推進における社員と外部のコンサル、ベンダーとの役割分担についてどのようにお考えでしょう。
坂東氏:ベンダーの選定時に、実績はもちろんのこと当社と似た規模感、グローバル企業であることは意識しました。やはりその方が課題感も共有でき、連携もしやすいように思います。