非財務情報を組み入れた企業価値向上の実践


今回は、国内外で注目が集まっているサステナビリティ経営で論点となる「非財務情報をいかに企業価値に取り込むか」について、気候変動(地球温暖化)のトピックを引き合いに、SAPの事例も交えてご紹介します。

まず、気候変動については以前より話題になっています。例えば、世界経済に影響を与えるメンバーが集うダボス会議では、毎年グローバルリスクに関するアンケートを行っており、下図はその2007年~2020年の結果推移です。
明らかに、この数年特に「環境」に関わるリスクの発生可能性及び影響の大きさが注目されていることが分かります。

出所:環境白書2020

出所:環境白書2020

また、日本でも近年異常気象の報道が増えていますが、気候変動が経済に与える影響が大きくなっているため、G20での話し合いを通じてTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と呼ばれる財務インパクト開示要請が国際的に出されており、日本でも賛同する企業が増えています。(2020年9月11日時点で日本が世界最大数)

そして、今回のパンデミックを受けて、欧州を中心に経済の回復だけでなく脱炭素も両立した「グリーンリカバリー」と呼ばれる動きが起こっています。
日本でも、環境省が主導する「Platform for Redesign 2020」という近い活動が始まっており、経済と環境を対立構図とせずに新しい社会を設計しようとしています。

同じく企業の視点でも、ESG投資への対応やSDGsを自社目標に紐づける動きとも絡めて、株主だけでなく、マルチステークホルダーを重視するサステナビリティ経営を志向する動きが出てきています。
ただし、どうしても環境や社会がテーマとなると、短期的な経済的利益を追求する日々の活動との繋がりが見えにくいため、報告が目的になってしまい効果的な活動に繋げるのが難しくなります。

非財務データを企業の財務価値に組み込む際には、まずは「財務と非財務指標の見える化」が重要になってきます。

実は今回と同じ課題は、1980年代にも株主偏重への反省として提起されており、それを解決するために「BSC(バランススコアカード)」というツールが考案されました。
BSCは、多面的な指標を可視化するモニタリングツールとして当初は注目されました。そして徐々に戦略を策定・進捗を測るコミュニケーションツール、そして今では実行要素も合わせた統合マネジメントシステムの一部として進化してきました。
日本でもリコーを初めとして営利・非営利を問わず多様な組織で導入されています。

このBSCの基本的な使い方を交えて、CO2削減を例にした適用イメージを紹介したいと思います。

まず、BSCでは価値を「財務」「顧客」「業務」「学習と成長(従業員)」という4つの視点で初期提示しています。これらの視点でそれぞれKPI(重要業績評価)を設計し因果関係でつなげることで、財務と非財務のバランス(他にも過去・現在、原因・結果、社内・社外)を測ります。
ただし上記はあくまで一般的な型ですので、適用先の組織戦略・対象範囲に応じて、これら4つの視点の内容・数及びその解像度は自由に設計出来ます。

今回のケースでは、上記の基本型に「社会(または環境)」という視点を加え、CO2削減をそのKPIに置くことで、財務へのつながりを企業として意識付けすることが出来ます。
BSCを以前より導入しているリコーでは、実際に「環境」という第5の視点を追加しており、商品の省エネ化に取り組んでいます。下記に仮想企業での例を挙げてみます。BSC
これで財務と非財務の繋がりは可視化され組織の活力を共通の目的にもっていくことが出来ます。 ただ、これだけだとどうしても仮説に依存し、かつ定性的な判断に留まってしまいます。そのため、どの程度の影響があるのかを「データサイエンスの手法」で検証することで、より実践的なものになります。

例えばSAPでは、統合報告書で財務情報だけでなく「CO2排出量」「顧客ロイヤルティ(NPS)」「従業員エンゲージメント」といった非財務情報もKPIとして定義しています。
Fin And NonFin

それらの相互関係をデータ分析で検証することで経営の判断に活用しています。下記がCO2排出量の影響度を可視化するダイアグラムですが、詳細については、下記サイト(画像からリンク)に各KPI間の連関方法について公開しています。Fin And NonFin2

なお、この取り組みについては、経産省による企業価値に関するケーススタディとしても利用されています。(下記画像からリンク)
CarbonSAPは、自社での実践だけでなくVBA(Value Balancing Alliance)という団体を2019年に他社と設立しており、非財務含めた新しい企業価値のモデル化を目指しています。日本からは三菱ケミカルホールディングスがVBAに参画しています。(2020年9月時点)VBA

 

VBAの他にも、非財務を財務価値に組み込もうとする国際的な動きはあります。例えば、IIRC(国際統合フレームワーク)が提唱する価値モデルは有名で、日本では大手製薬エーザイがこのモデルを元に独自の企業価値評価方式を設計して開示しています。

エーザイの価値モデルの詳細については、エーザイCFOの柳 良平氏が著した下記の書籍でも詳しく紹介されています。
CFOポリシー

 

 

 

 

 

 

 

 

今後ますます気候変動・疫病など非財務の要素が経営活動に影響を与えていくなかで、企業価値の評価及び開示についてもさらに重要性が増すと思います。
本稿が少しでも読者の皆様の参考になれば幸いです。