デジタルニッポン2020「コロナ時代のデジタル田園都市国家構想」―デジタルテクノロジーをベースとしたビジネスイノベーションへの挑戦―SAP NOW|JSUG Focus
作成者:SAP Japan イベント 投稿日:2020年8月17日
例年の物理的な開催からオンライン・イベントへとシフトチェンジしたSAP ジャパンの年次キーカンファレンス「SAP NOW」の2020年のテーマは「DXで日本を立て直す。~事例に学び、ともに創ろう~」。その基調講演では、日本の「次の時代」を常に考え、社会全体のIT化を牽引してきた自民党デジタル社会推進特別委員長 前IT・科学技術担当大臣の平井卓也衆議院議員による特別講演に続き、お客様・取引先様を含めた業界全体のデジタルトランスフォーメーションのハブとなることを志し、2020年1月にSAP S/4HANAを中核とした新基盤システムを稼働されたトラスコ中山株式会社の取締役CIO、数見篤氏が登壇。「ヒトxデジタル」の最新インテリジェント・エンタープライズのリアルな姿が紹介されました。
コロナ禍でのデジタル敗戦を足がかりに「デジタルニッポン2020」の推進へ
「新型コロナによって初めて人が動けなくなり、モノとカネがロックされて経済がかつてないほど落ち込んでいます。この大不況に対して今までのデジタル政策が役に立たなかったということは、事実上の『デジタル敗戦』です。さらに、最も起きてはならないと思っていたパンデミックと災害の複合災害に直面し、デジタルテクノロジーで十分に対応できていない現状は大きな反省点と言わざるを得ません」と平井氏。
2001年にeJapan特命委員会としてスタートしたデジタル社会推進特別委員会は、2010年から「デジタルニッポン」をとりまとめ、政府にIT政策の提言を行っていますが、このコロナ禍で起きた「逆都市化」からの学びとしても、1980年に大平元総理が提唱した「デジタル田園都市国家」が今後目指すべき姿であるとしています。
つまり、「人が集まることは価値が高いとされてきた既成概念が崩れ、人が密集することがこんなにも大きなリスクになるということを痛感したことで、地方分散の流れが起きています。在宅勤務もその一つです。地方の持つ豊かな自然、潤いのある人間関係、健康なくらしをサステナブルに作っていくことが求められているのです」と平井氏が指摘するように、インターネットの利活用により都市とのギャップがなくなっている今、利便性や効率性といった指標ではなく、国民の生活の質(QOL)やハピネスを重視した人間中心のデジタル社会を作ることが重要になっていくという考え方です。これはSAPが注力する回復力、収益性、持続力とも合致します。
しかし、こうしたデジタル化を力強く推進していくためには2001年に施行されたIT基本法の大幅改定が大前提であると平井氏は主張。「なぜなら、戦略や戦術はできたとしても、この社会全体をどうするかという大きな理念が国民と共有できない限り掛け声、倒れになってしまうから。」
パンデミックはこの20年の間に3回起きています。今後10年のうちに今回の新型コロナにも似たパンデミックが起きたとき、再び右往左往するようなことがあってはならないでしょう。「SAPが今まさにけん引されているデジタルトランスフォーメーション(DX)は、日本社会が必要としているものであり、進めるなら今しかありません。これが私の結論です」と平井氏は強調しました。
在庫を敢えて増やしてユーザーニーズに応えたい小売店を支援
続いて登壇したのは、SAPユーザーのコミュニティ「ジャパン SAPユーザーグループ(JSUG)」の会長も務めるトラスコ中山の数見氏。SAPジャパン株式会社インダストリークラウド事業統括本部 IoT/IR4ディレクターの村田総一郎がモデレーターを務め、同社のデジタル活用に迫りました。
工場や建設現場で使われるプロツールと呼ばれる工具や作業用品を扱う総合商社であるトラスコ中山は、「在庫はあると売れる」という考え方のもと、在庫ヒット率を最重要KPIに設定。在庫を徹底的に拡充することで91%という高いヒット率を誇っています。また、物流においても独自の配送ルートを配備し、明日届く仕組みを全国的に構築しています。
「我々は問屋というポジションでユーザーに直接販売はしませんが、卸売りの機能と、エンドに商品を届ける小売店の機能をしっかりとマッチングするという意味において、エンドユーザーとの接点に注視しています。トラストにコンセントをつなげば40万点の商品が明日には届く。コンセントの数をエンドユーザーや販売店の要望に応える形で増やし、差し方によっていかようにでも当社をうまく利用できるようなプラットフォームとしての位置づけを目指しています」と数見氏。同社が、社内だけでなく、メーカー、販売店、ユーザー様など、サプライチェーン全体を意識したDXを推進する理由がここにあります。
ここで、「ロングテールに大量の在庫を持ち、ECサイトを運営し、エンドユーザーにもリーチするとなると、いわばプロツール界のAmazon.comという印象がありますが、私は2つ大きく違う点があると思っています」と村田。1つはB2Bであること。もう1つは、エンドユーザーにも電子的なサービスを提供しつつ、あくまでも販売店、小売店を支援する形でビジネスを進めていること。つまり、販売店から見れば、共存共栄のパートナーというスタンスを取っています。2018年にポーター賞を受賞した理由も次のような独自の戦略とその成果が評価されてのことです。
トラスコ中山の独自戦略
- 問屋不要論が叫ばれて久しいなか、逆に「問屋を極める」と宣言している
- 人材や物流センター、情報システムは自前で抱える
- 在庫削減と真逆を行く戦略が機能している
夢を持って働ける会社へ!新ERP「パラダイス3」構築を変革のチャンスに
そんなトラスコ中山が2020年1月に本番稼働させたSAP S/4HANAをベースとした新ERP「パラダイス3」について、村田と数見氏とのやりとりから整理してご紹介します。
DXへの挑戦
2017年10月頃から刷新の検討を開始し大胆な変革に臨むことに。
- キーワード
「自動化できる仕事は、システムですべて自動化!」 - システムアーキテクチャ
SAp S/4HANAを中心にSAP BW/4HANA、SAP HANA2.0に加えて、SAP CloudPlatformを駆使して構築
業務変革における施策
- 即答名人
毎日5万行もの見積もり依頼を全国の支店にあるFAXあるいは電話で受け、担当者が手作業で価格を決め、納期を確認してFAXやメールで回答していたため、受注率は20%程度。過去の実績をもとにロジックを自動で走らせ、約5秒程度で回答できるようにした結果、受注率が27%まで改善。見積もりの精度と回答のスピードが向上しました。 - 仕入先とのやりとりの効率化
2,500社もの仕入先とのやりとりにもFAXを使用していましたが、ポータルサイトを開設し、見積もり、納期回答、受注のプロセスをデジタル化しました。 - 在庫の需要予測
在庫の厚みや場所などを徹底的に分析しながら、欠品や数量不足の減少を実現。より精度の高いロジックへと日々磨きをかけており、こうした取り組みが在庫ヒット率の向上につながっています。 - チャットベースでのやりとり
営業と顧客とのやりとりをできるだけチャットベースに移行。そこに蓄積していくデータを分析し、顧客への問い合わせ対応のスピード、品質を高める取り組みを進めています。 - 配送の見える化
GPSのデータとHANAのリアルな情報をもとに顧客に商品が届くタイミングを回答。 - 商品の自動採用へ
担当者の目利きや勘、経験に頼った商品の採用から、自動採用への移行を目指しており、現在はバイヤーにレコメンドするところまで実現しています。 - リアルタイムデータ連携
在庫データを販売店のWebサイトに直接連携。これにより顧客の売上アップに貢献しています。 - 置き工具
究極の短納期を実現するため、在庫アイテムを先読みして配送。エンドユーザーや工場の生産現場の手元に適量のストックを置いておく「MROストッカー」を実現。テクノロジーの力で欠品を起こさずに補充できており、エンドユーザーエクスペリエンスの向上にも貢献しています。
「今回HANAを導入することによって、数値として可視化できるタイミングが早くなり、必要なときに必要な情報にアクセスできるようになったことが非常に有効に機能していると感じています。」(数見氏)
経営・事業を支えるDX推進
チェンジマネジメントのポイントは、経営トップや経営会議のメンバーへの働きかけと同時に、推進体制を構築すること。2020年8月には推進専門部署も設立。IT部門がテクノロジーの視点も含めて業務部門をリードするスタイルを取りながらも、「徹底的に相手の気持ちに共感する姿勢が大切」と数見氏。
また、さまざまな取り組みをKPIやKGIとして事業と結び付けたり、中核メンバーやリーダーとなる人材が積極的に社外の人と交わる機会を提供したりすることで社員の意識を変え、DXの風土や文化の素地を醸成しています。IT投資については、「効率化により抑えられる領域を視覚的に理解できる図解がお勧め」(数見氏)。目下の課題は、人のリソースのコントロールであり、社員にデジタル時代に即した能力をいかに育成するかが重要としています。
数見氏は、「投資した成果を定期的に示し、どこに課題があるのかを明確にしながら進んでいくこと。たとえ出したくない数値があっても、現場と共有して一緒に乗り越えていくことが重要」として、最後にその理由を次のように語りました。
「一番大事なのは人。人の仕事、人の働き方、人のモチベーションです。これらをデジタル化と共にトランスフォーメーションしていくことです。せっかくの大きな変革のチャンス。社員一人ひとりがモチベーションを持ち、夢を持って働ける会社にしていきたいですね。これこそが今後当社が目指すべきことであり、そのためにSAPやパートナーと一緒に取り組みを進めていきたいと考えています。」
実際の講演は9月11日まで開催中のSAP NOWにご登録いただき、登録済みでまだご覧になっていない方もNK-01「デジタルニッポン2020~コロナ時代のデジタル田園都市国家構想~」「デジタルテクノロジーをベースとしたビジネスイノベーションへの挑戦」を視聴ください。