新規事業の量産にかけるライオンの新価値創造プログラム「NOIL」の制度設計―SAP NOW|JSUG Focus

作成者:SAP Japan イベント 投稿日:2020年8月19日

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128年にわたり日用品の製造販売を生業としてきたライオンが、次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへの転身を掲げています。この未来の経営の「実弾」創出を担うのが、社内新価値創造プログラム「NOIL」です。SAP NOWのSAPセッションでは、経営トップに直談判してNOILの実現を勝ち取った同社ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション 部長の藤村昌平氏と、同ビジネス開発センター 統括部の猪谷祐貴氏が登壇。SAPジャパン 常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサーの大我猛がファシリテーターを務め、次世代リーダーのお二人とともに、ボトムアップの新規事業創発の要諦に迫りました。

ライオン株式会社様講演の様子

会社の今を裏側から眺めたときに見えてくる新しいアイデアに期待

本セッションのテーマは、いかにして社内起業家を育て、新たなビジネスを創出するか。SAPジャパンの大我は冒頭で、「パッションとスピードを兼ね備えたスタートアップに足りないものといえば、リソース(ヒト、モノ、カネ)です。大企業の力でここを補填できれば、非常にスケールの大きなことができるはず。かくいうSAP自身も社内起業家の育成に取り組んでおり、大企業、VC、自治体、大学といったさまざまなステークホルダーをつなげて、目的、志を一緒に出来る方とイノベーションを起こそうとしています」と説明。

実際にこうしたイノベーションをどうドライブしているかというと、SAPには「NVT Intrapreneurship」と呼ばれる社内起業支援プログラムがあります。優れた才能や強みを持つ社員を発掘し、彼らのパーパスを引き出し、「自ら動くリーダー」候補を創り出すプログラムです。すでに社員の6割近くが関与するような設計をしており、5年間で11個もの社内起業を創出。このプログラムの展開においてSAPが特に注力しているのが、制度づくりで終わらないための「場づくり」です。たとえば、経営陣が強いコミットメントを示したり、スカウトやメンターのスキルを高めたりなど、パッションを持ちながらチャレンジできずにいた人たちを後押しする環境を作っています。

SAPの社内インターンシップの説明図

一方、本セッションにお招きしたライオン株式会社では、2019年4月1日に新価値創造プログラム「NOIL(ノイル)」が始動。LIONを180度裏側から読んでNOILとしたのは、頭を捻って上下を逆さまにするようなアイデアではなく、ライオンを裏側から眺めるつもりで、可能性をより進化させていくような新しいアイデアを作ってほしいから。しかし、120年を超える老舗メーカーがなぜ今、新規事業、新価値創造に取り組むのでしょうか。それは、「人口減少による日本市場の縮小」「デジタル化による既存市場の破壊」「先が予測できない不確実な時代」などを背景に、これまでのビジネスモデル、働き方のままで果たして生き残れるのか?という問いに応えるために他なりません。とはいえ、いきなり素晴らしい新規事業が生み出されるわけもなく、失敗例もたくさんあります。その敗因を藤村氏は次のように分析します。

新規事業を生み出せない要因

  • 既存事業の延長戦上にある価値を探してしまう
  • 縦割りの業務範囲で最後までやり抜けない
  • ライオン内部の選定基準だけで判断してしまう。

強い思いがあっても目指すところが定まっていない人は選抜できません。優れたアイデアがありながらパッションが伴わない場合も同様です。こうした失敗要因を排除するために、ライオンは、「これまでの常識を破る事業アイデアを持っていること」と「最後までやり抜ける(パッションを持つ)ヒト」の2つの要件が揃っている人を選抜することにしたと言います。選ばれた人は強制的に異動となり、新規事業に専任させる形で事業化の検証を進めることになります。また、外部のパートナーを入れて事業化を加速していきます。こうすることで新規事業を連続的に創出していく計画です。

ライオン株式会社様 NOILの説明図

「私が大事にしているのは、パッションやスキル、人脈を育てる『ヒトづくり』、ビジョンが語れて議論ができる心理的安全性が確保された『場づくり』、ビジネスにつながる『テーマづくり』の3つ。この順番でフローを作っていくことが重要で、この考え方をNOILの設計にも反映しています。」(藤村氏)

新規事業を連続的に生み出すヒトづくり、場づくりが制度設計の肝

ここからは、SAPジャパンの大我が藤村氏と猪谷氏にインタビューする形でNOILの制度設計に迫りました。

NOIL立ち上げの経緯

藤村氏:2030年に向けて次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーを目指すにあたり、働き方もお客様に提供する価値ももう一度問い直そうという動きがあります。こうした動きを背景に「リデザインフォーラム」という全社的なフォーラムが立ち上がり、ここに、経営と同じ目線でライオンを良くしていくためのさまざまな提案が社員から上がってきます。その一つが我々のチームが投げかけた「新規事業を連続的に生み出していくためにはどうすればよいか」という問いでした。

大我:トップからのコミットメントは?

藤村氏:事業そのものをリデザインしていくとなると、必ずしもトップダウンで進めることが正解とは言えません。コンセプトを語っても空中戦になるだけです。現場としてできることは、実弾を示してやる価値があるかどうかを議論すること。そうしなければ新しい可能性や未来は見えてきません。

大我:実弾がないと具体性に欠けるということですね。

藤村氏:はい。社員の中にあるアイデアを組み合わせていったん形にしてみて初めて、もっとこうしたほうがいいのでは?もっとこういう可能性があるのでは?というのが見えてきます。そうすると、周りから「ここまでやろう」「こうやろう」「ここと組もう」という話ができるようになってきます。

NOILの制度設計

大我:NOILに応募する場合、どのようなプロセスで進むのですか?

猪谷氏:募集開始時期を告知したあと、約2ヵ月はインプットの時間になります。全国の事業所に出向いて説明を行い、すべての正社員の方に応募の権利があることを伝え、モチベートすることから始まります。他の大企業で新規事業開発を手がけている方やスタートアップのCEOなどをお招きして自分の事業のやりがいについてお話しいただくこともあります。まずは駆動力を生み出すことに重きを置き、方法論を学ぶのはそのあとです。

応募後は、書類審査、面接審査、3ヵ月間のメンタリング期間を経て最終的に経営陣に提案するのですが、可能性を狭めてしまわないように、書類審査も面接審査も社外審査員の評価に比重を置くように設計しています。また、メンタリング期間は社外の新規事業開発コンサルタントと社内のメンターがしっかり伴走し、最終審査は社長と会長のほか、投資家、事業化パートナー、新規事業開発コンサルタントの責任者の3人が加わります。外部の視点を強めにすることは、事業開発の幅を広げる上で非常に有効です。

NOILの効果

猪谷氏:去年の実績でいうと、応募数140超。これは応募資格を持つ社員の人数の7%に相当します。一般的に大企業の同様のプログラムでは1~3%と言われているので、初年度にしてはかなり集まりました。その中から経営陣に提案するまでに至った人が10名、最終審査で選ばれた5名が現在事業開発に取り組んでいます。

大我:NOILの効果についてはどのように捉えていますか?

藤村氏:個人が何かをやり始めた場合、社内の説得は困難を極めるのが常ですが、設計の中にトップのコミットメントがあるおかげで、既存と新規のカニバリが発生することもなく、社内の協力体制が築けているように感じます。

大我:コンフリクトを避けて一緒にやろうという雰囲気が出来上がっているんですね。

藤村氏:はじめに既存の進化と新規事業創出の両輪が必要という話をしましたが、未来を創っていくビジネス開発センターという組織の中に、既存も新規も含めてどういうプロセスで進化させるべきかを考えるブレーンがいて、オーナーがいて、それをサポートするプロフェッショナルがいるわけです。ここがうまく機能すれば、ライオンのビジネスそのものがもう一段進化するように思います。

大我:経営陣が実弾をもって判断するためのプロセス、既存事業の変革も含めて新しい価値を創造していくプロセスがNOILを通じてデザインされている。そんな印象を受けます。アウトプット以外に、副次的な効果として実感されていることはありますか?

猪谷氏:最終プレゼンに進む方が決まると、その同僚や上長に事務局が挨拶にいき、サポートのご協力をお願いしているのですが、これをやることで同僚や上長がNOILに協力的になってくれます。これを何期も繰り返していくうちにNOILに関与したことのある人がどんどん増えていくことになります。こうして応募した方を応援する風土が醸成されていくわけです。

ヒトづくり

大我:大事にしていることとして、ヒトづくり、場づくり、テーマづくりというお話がありましたが、アントレプレナーシップのマインドセットを持った人を育てる一方で、選ばれなかった人も含めて火を燃やし続ける仕組みについてはどう考えられていますか。

猪谷氏:「NOILチャレンジャー」というチャットグループを作り、そのコミュニティに対して我々から持続的に情報発信をしてモチベートしています。同じ釜の飯を食った仲間は心理的安全性が高く発言も活発です。

藤村氏:猪谷が注力しているのは文化を創ること。まさに「ヒトづくり」ですね。応募しただけで終わってしまった方とはたった1ヵ月のお付き合いになるので、その後のモチベーションを維持するのは簡単ではありません。だからこそ事務局として関わりを持ち続け、何かが変わるきっかけを提供しているのです。

加えて、我々自身が熱量を持っていることが重要です。社員が我々を上回るモチベーションで挑んでくれることは、まずありません。立ち上げた人間として、自分自身のモチベーションが一番高くありたいと思っていますし、そういう意味でも、常に「自分はどうなのか」を振り返るようにしています。こちらのアクションが大きくないと、相手が活動量で返してくれることはないので、自分が一番汗をかくように心がけています。

応募者にとってのNOILの価値

藤村氏:応募時に事業を実現したい理由を書く項目があるのですが、他のどの項目よりも文量が多いんですね。内に秘めた感情や熱量をぶつける場があることに価値を感じてくれている証拠だと思います。優れたソリューションというのは、そこに込められている熱量だったり、裏側に流れているストーリーだったり、それが最後にライオンという会社の中にフィッティングしていくときに未来を創るバリューになっていきます。NOILでは、新しい一歩を踏み出すと自分のキャリアが急激に変わっていくところまでデザインされています。求められて期待に応えているうちに覚悟も決まっていくので、応募という一歩目の行為がとりわけ重要な意味を持ちます。

大我:最後にお二人からメッセージをお願いします。

猪谷氏:やはり「ヒトづくり」「場づくり」が肝です。新規事業開発に取り組む場合は、この部分の設計を問い直すべきでしょう。また、制度設計にあたっては、仕組みづくりが得意というだけでなく、「人が好き」「場づくりが好き」「人をモチベートするのが好き」という人を巻き込むことをオススメします。

藤村氏:まだまだ走り始めたばかりで自慢できる成果が出ているわけではありませんが、こういうプログラムのプロセスは社外秘にしておくのではなく、お互いの成果を共有し合いながら、みんなでより良いものを作っていくべきだと考えています。ぜひ、社会実験のようなイメージで、日本発のグローバルブランドを作るぐらいの大きな取り組みにしていきたいですね。

大我:そうですね。社会起業家のパッション、スピードに、大企業が持つリソースを掛け合わせたら、本当に社会は変わっていくはずです。SAPも社内起業支援プログラムを閉じたものにせず、そこでの取り組みをオープンに共有して高め合えるような場づくりをしていきたいと改めて思いました。みなさん、一緒にがんばりましょう。本日はありがとうございました。

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