ビジネス × IT教育を通じた高校生のキャリア形成支援

作成者:横山 浩実 投稿日:2020年10月19日

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日本でも2020年度から小学校でのプログラミング教育が必修化されるなど、ICT教育の重要性はますます高まってきています。一方で、高等学校の履修科目である「情報」では、インターネット利用マナーなどの情報社会のルールやPCの基本操作・プレゼンテーションなどを学ばせるものの、社会で必要となるテクノロジーやビジネスの基礎などにはほとんど触れない学校が多数であるのが現状です。

本ブログでは、社会人の卵である「高校生」に対し、ビジネスとテクノロジーの分野に入るための学びの機会をSAPがどのように提供しているか、それにより高校生のキャリア形成にどのような効果が生み出されているか、国内外の事例をご紹介します。

 

HISD-学生インターンシッププログラム

高校生にとってオフィス環境で働くことがどのようなものなのか?を想像することは非常に難しいものです。想像できない状況で、ビジネスや情報技術のキャリアを夢見て、それに向けた進路を選択することはできるでしょうか。SAPは高校生にハンズオン型のSAPインターンシッププログラムを提供することで、ビジネスとテクノロジーの将来のために高校生が準備できる機会を提供することにしました。このプログラムでは、学生はSAPのトレーニングを受け、SAPサポートチームに所属するメンターと一緒に仕事をすることができます。

12 Apr 2014 --- High School Students Taking Part In Group Discussion --- Image by © Monkey Business Images/Monkey Business/Corbis

12 Apr 2014 — High School Students Taking Part In Group Discussion — Image by © Monkey Business Images/Monkey Business/Corbis

 

The Houston Independent School District (HISD)は、学校での学問に特化しての良い教育だけでは、将来のビジネスの成功に対し野心的な高校生の期待を叶えられないと感じていました。将来どのようなビジネスや技術の機会があるかを認識するための「実践的」な経験を積ませ、自身の将来のキャリア形成に役に立つ進路の選択を可能にすることを目標として、SAPのインターンシッププログラムを高校の卒業資格につながる単位として取り扱うことにしたのです。インターンは平均的に週に2~3日程度のワークロードを本プログラムに割いています。

インターンシッププログラムは8週間かけて行われます。前半4週間はメンターがかかわっているプロジェクトで起きている課題とその解決策を学ぶことで、ビジネスにおけるITの価値を体得します。例えば、クレジット会社のビジネスシステム分析PJに関わった学生は、会計部門や調達部門へのヒアリングやクレジットカード履歴のSAPシステムでの取り扱い方法の学習を経た後、メンターの支援を受けながらデータベーステーブルのデータ項目修正・最適を行います。後半4週間は課題発見と対応策実施を行います。メンターと一緒にクライアントから要件を収集し、ギャップ分析を通じて対応策を明らかにし、SAPシステム各業務モジュールによる実装を行うのです。

学生に対しては、セキュリティ・ネットワークなどの基礎教育やSAPシステム各業務モジュールのトレーニング、更には取り組む課題によっては財務会計などのビジネス領域のトレーニングも行われます。メンターは日常業務の中で新規アサイン者などと同様の説明やデモンストレーションを行い、インターンは、会議、研修、フィールドアサインメントに参加するといった方法で実践的に学び、「インターンシップ終了時プレゼンテーション」によりその成果が確認されます。
– インターンシップのサービス分野の簡単な説明を含む、インターンシップ分野の概要。
– 経験から学んだことと、それが将来どのように応用できるかの説明。
– インターンシップで検討した課題とその対応策の説明。

2014年に始まったこのプログラムは、5年間で合計60名の学生がプログラムに参加しています。プログラムに参加した学生は全員大学に進学し、そして、多くの学生がテクノロジー分野の専攻を選びました。SAPセキュリティの認証を取得した学生もいます。また、本インターン終了後、有給のサマーインターンで雇用される学生も多数いて、8週間で対価を得るレベルでの成果を出せるスキルを身に着けることが可能になっているのです。

このように、テクノロジーに興味のあるデジタルネイティブの若者たちに、ビジネスを志向した適切なインターンシッププログラムを提供することは、これからのエキサイティングで革新的な未来への道を切り開く実践的な力を得ることに大きく貢献していると考えています。

ERPSim-ERPシミュレーションゲームを通じた楽しみながらの学び

現代社会の企業基幹業務運営および経営においてERPが必須ツールであることは共通認識かと思いますが、一消費者でしかなく、経済の仕組みも学んでいる途中である高校生にとって、「ヒト・モノ・カネ」を経営資源として捉え、経営における情報の価値を理解するのは、大きな飛躍が必要な状況です。デジタルネイティブなX世代は、視覚的な学習が得意であり、また、PC操作にも慣れています。課題に対して前向きに取り組むことができる一方で、せっかちに達成感を得たがる傾向にあります。一方通行になりがちなプレゼンテーション、チラシ、パンフレット、ビデオなどを利用した従来のアプローチでは、彼らにアピールすることはできません。

SAPジャパンはCSR活動において、次世代のキャリア育成につながるイノベーティブな社会事業の構築やトレーニングとキャリア開発プログラムを通じてのIT分野における次世代育成に注力しています。活動の一つとして、ERPsimというERPシミュレーションゲームを用いた、ビジネスプロセスや技術の理解、意思決定方法の習得などの機会を提供するワークショップを開催し、学生が自身で将来のキャリアを考えるための”実世界 “の視点を提供しています。

ERPSimはBATON SIMULATIONS社が開発したSAPのソリューション(SAP S/4HANA、SAP Fiori)を利用したリアルタイム経営シミュレーションゲームです。ワークショップでは、5名程度でチームを組み、CEO、営業、マーケティング、調達等の役割を決めてミネラルウォーターの販売会社を運営し、同一市場で企業間競争をし、最大利益を出したチームが優勝というルールでアクティビティを行います。企業の1日がワークショップでは1分で過ぎさり、20分で20日間のシミュレーション×3セットを繰り返します。

スライド1

本ワークショップで学ぶのはERP(SAP S/4HANA、SAP Fiori)の操作そのものではありません。
第一に学ぶのはデータ駆動型経営の意義です。企業競争において、リアルタイムでワンファクトワンプレースの情報がいかに重要であるか。参加者は、ミネラルウォーターを販売するために、販売価格やマーケティング費用を設定し、調達購買を行いますが、市場で何が起きているかを分析しリアルタイムに見極めることが、事実に基づく判断にいかに有効かを体感できます。
第二にチームワークです。参加者は役割に応じてデータ分析・判断を行いますが、その際には関連する部門との意識合わせが重要になります。利益が上がらない要因は複数想定され、ある役割の動きと他の役割の動きは連動するため、自身の責任範囲においてリーダーシップを発揮することや、端的なコミュニケーションによる迅速な合意形成を図ることなどが、チームとしての総合判断に必須であることを体感できます。
第三に戦略的思考に基づく意思決定です。総利益は個々の利益×販売量―コストで算定されますので、個々の利益を増やす・販売量を増やす・コストを減らすことで総利益を高めることができます。市場で何が起きているか、すなわち、他社の戦略も想像しつつ、市場に受け入れられる戦略を判断し決定することを体験できます。また、意思決定結果が、実際に総利益にどのような影響を与えたか、更には貸借対照表や損益計算書といった詳細レベルでどのような効果を生んだかも把握することができます。

ERPSimワークショップは、チームワークやコミュニケーションの重要性から、従来はオンサイトイベントとして開催しておりましたが、コロナ禍への対応として、今年度はオンラインイベントとして開催しています。初のオンライン開催は桜蔭高校1年生に対して実施いたしましたが、参加した生徒さん方から「もう1回やりたい!」という声が多くあり、また企画からご担当いただいた教諭の方からは「本気の戦闘モードでした。SAPの方がそれぞれのチームを支えてくださったので、みんな、のびのび楽しめたと思います」との嬉しいメッセージを頂戴しております。

おわりに

高等学校の履修科目である「情報」の学習要領は2022年に改訂される予定であり、従来の情報教育に加えてオープンデータ、API、テキストマイニングなども登場する予定であるなど、IT実践力がますます問われる時代になっています。
デジタルの力、ビジネスの変革の速さ、身に着けるべきは基礎知識に支えられた「判断力・コミュニケーション力・発想力」など、純粋に学問を学ぶ素敵さは残しつつも、実社会のファーストステップを学べる機会を提供することで、ITを活用した企業経営に実感の伴う希望を抱く学生を生み出せると考えます。さらに、学生たちの希望に沿う体制が企業側には求められ、それを適える組織や企業に優秀な学生が集まることは想像に難くありません。これからも、学生側も企業側も強力に支援するSAPとして、「社会課題を共に解決する」企業として提供していきたいと考えています。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、HISDのレビューを受けたものではありません。

■参考文献

https://www.forbes.com/sites/sap/2020/07/20/empowering-high-school-students-to-achieve-successful-careers-in-business-and-tech/#959b9cf6b3e8

https://www.sap.com/idea-place/sap-innovation-awards/submission-details-2020.html?idea_id=1159

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