世界が求める環境改善への想いが躍進の原動力

作成者:柳浦 健一郎投稿日:2020年10月19日

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前回のブログではユニコーン企業の1Magic Leap社を題材に、マンパワーに頼る人海戦術な企業活動からの脱却について深堀を行い、スタートアップの企業はもちろんのこと、社歴のある老舗企業でも通用する、成長するためのポイントを挙げました。ユニコーン企業の定義は「非上場ながらも市場評価額が10億ドルを超える企業年数10年以内の企業」であり、当然ながらビジネスがグローバルスケールで急成長しているのが特徴ですが、そのスピード感を生み出した理由を探ってみると、興味深いことが詰まっていると実感します。そこで、今回もユニコーン企業からニューノーマルな時代を生き抜くヒントを探してみました。その企業とはリチウムイオン電池の世界トップカンパニーCATL社です。

中国のユニコーン企業 寧徳時代新能源科技股份有限公司
CATLContemporary Amperex Technology Co., Ltd.

CATLは、2011年に創業し、類まれなる技術力を武器に成長を続け、2016年にはパナソニック、BYDに続く世界3位になり、翌2017年には世界トップに上り詰め、「2017年中国ユニコーン企業発展報告」では企業価値200億ドル(約2兆2000億円)で6位にランクインしたユニコーン企業です。たった7年ほどで業界トップに立つ驚異的な企業です。
(翌2018年に中国深圳証券取引所に上場したため、現在は厳密にはユニコーン企業の定義から外れています。)

中国の文化に根ざし、グローバルな文化を受け入れ、グローバルで最高の革新的なテクノロジー企業を目指し、人類のグリーンエネルギーの解決に優れた貢献をし、従業員の精神的および物質的な幸福を追求するプラットフォームを提供します!

出典:CATL ホームページ コーポレートビジョン

彼らの歩みについても公開情報から知ることができます。

2011年、CATL設立

2012年、BMW社の戦略的パートナーシップを締結し、程なくしてEV電池部門のキーサプライヤーに

2013年、青海省に生産拠点を設立し、LFP電池の大量生産開始

2014年、最初の海外子会社CAT GmbH in Germanyを設立

2015年、広東邦普循環科技有限公司を買収し、電池のリサイクルと産業チェーンの再生成開発を開始 / 乗用車向けNMC電池の大規模供給に向けた中国初の企業に / EV電池製品の世界トップ3に仲間入り

2016年、中国『第13次5ヶ年計画』における重要なR&Dプログラムである2つの新エネルギー車とスマートグリットプロジェクトを担当 / CATL学識経験者と専門家のためのワークステーション設立

2017年、EV電池製品における世界トップに

2018年、再度EV電池製品における世界トップに / 中国深圳証券取引所に上場 / ドイツで最初の海外生産拠点立ち上げ

2019年、電気化学エネルギー貯蔵技術のための国立工学研究センターの設立を主導 / 3年連続でEV電池製品の世界トップに

出典:CATL ホームページ  会社概要

公開されているシンプルな情報だけで、世界の自動車メーカーに選ばれて成長しようとする姿勢が窺えます。リチウムイオン電池の卓越した技術力を持ち、異なる文化も受け入れ共に歩んでいく姿勢を持つCATLは非常に魅力的なのでしょう。

中国政府の新エネルギー車の補助金制度の後押しもある世界最大のEVマーケットである中国では、リチウムイオン電池の現地調達ニーズが高まっています。多くの取引先を持つCATLは、急ピッチで生産能力を拡大して、苦労しながらも高まる需要に対応しています。2020年2月には260億元(約4000億円)を投じて生産能力を4倍にすべく、生産拠点の拡張、新設をするとの発表もされるなど、毎年のように生産能力拡大をしている状況です。

 

自動車メーカーからの強烈なコストダウン圧力

EV自動車メーカー各社も、競争力強化のためにサプライヤーに対して強烈なプレッシャーをかけています。需要にタイムリーに応える安定供給体制、人命にかかわるため安全・安心を担保する自動車の品質要求基準、コストダウンなど、Q(品質)C(コスト)D(納期)に関する要求レベルは高く、特にCATLの場合、EVコストの3割を占めるリチウムイオン電池であることが理由です。

 

競争力を支えるCATLの次世代製造プラットフォーム

2014年、需要が急速に高まる中、CATLは厳しい安全基準と高品質を維持しながら生産能力を拡大するための策が検討されました。製造プロセスの自動化をサポートし、生​​産プロセスのすべてのステップで詳細な監視を可能にするインテリジェントな製造プラットフォームの確立がCATLには必要、という考えに至りました。その製造プラットフォームとして採用されたのが、インメモリDBであるSAP HANA上で稼働するSAP Manufacturing Execution およびSAP Manufacturing Integration and Intelligence でした。2014年に導入したSAP ERPとシームレスに連携し、需要変動にもタイムリーに対応するプラットフォームの確立を目指しました。2015年末にはパイロット拠点をベースに導入し標準システムアーキテクチャーや製造機器との接続に関する標準も定まり、ERPから製造実行システム(MES)そして製造現場の装置まで垂直統合した製造プラットフォームの型ができました。2016年には他拠点へのロールアウト。ちょうどこのころは業界3位のポジションを獲得しており、競争力を支える製造プラットフォームが展開された翌年2017年、業界トップの座に就きました。

SAP Manufacturing SuiteSAP Max Attentionのおかげで、最高の品質基準を維持するための支援を得ながら、効率的な自動化プロセスの実現による生産スピードの向上、そして意思決定に必要な可視性を手に入れました

— Chen Ling , CIO, CATL

インテリジェントな垂直統合型製造プラットフォームの確立による具体的な効果については、いずれもQCD向上に関連していることがわかります。

  • 合理化された自動化プロセスにより、生産量が約25%増加
  • 新設ラインへの導入時間が短縮し、生産能力拡大の期間を短縮
  • 生産プロセス全体、エンドツーエンドのトレーサビリティが可能となった
  • プロセス分析により品質向上が可能になり、市場での製品の差別化
  • リアルタイム監視機能による現場作業の改善促進
  • IoTテクノロジーを使用して8,000以上のマシンを単一のインテリジェントな製造プラットフォームに統合
  • インメモリコンピューティングを使用してマシンセンサーからの膨大な量のデータを分析
  • 単一の信頼できる情報源に基づく生産インテリジェンスによりビジネス意思決定をサポート

情報ソースはこちら

関連するSAPソリューションの詳細は割愛しますが、興味がある方はこちらのブログをご参照ください。SAP S/4HANA時代に求められる製造管理システムとは?

CATLは類まれなる技術力を持ちながら、旺盛な需要に対して早期に対応できる製造プラットフォームを武器にQCD向上を継続的に行い、一歩先を行く競争力を身に着けているように思います。2019年秋にはボッシュとの戦略提携、2020年ホンダと包括的パートナーシップを結ぶなど、創業して10年に満たない若い企業CATLは、とどまることのない勢いをみせています。

 

世界中で高まる環境意識

2020年は、新型コロナウィルスで価値観が大きく変わった年と誰の記憶にも残るでしょうが、実は環境意識の点でも大きな転換の年と言えます。

2020年1月、毎年開催される世界経済フォーラムの年次会議(通称ダボス会議)の統一テーマは「持続可能な世界」でした。その後、新型コロナウィルスが世界中に拡大し、多くの国、都市がロックダウンを余儀なくされ、サプライチェーンが分断されたために経済活動が大打撃を受けました。一方で、人々が外出しないため交通量が減り、飛行機も便数が激減したために温室効果ガスの排出が抑えられ、IEA(国際エネルギー機関)によると、世界のCO2排出が前年度比で8%減少すると予測*されており、過去最大の排出量削減になる見込みとなりました。

METI

出典:気候変動対策の現状及び新型コロナウイルス感染症による 影響を踏まえた今後の気候変動対策について(2020年9月 経済産業省)

しかし、過去にも何らかの経済活動が停滞する事象が起きたときには同様の状態になったことから、今回もロックダウンの解除と共に経済活動も再開されるとまた元に戻ってしまうとの予測がされています。ご存じの通り、経済の活性と環境負荷軽減の両立をして新たな未来を作り上げる流れが世界の潮流です。

欧州は脱炭素と経済成長を図るグリーンディール政策を打ち出し、2020年9月に「温室効果ガス排出を2030年までに1990年比で少なくとも55%の削減」と野心的な発表をしています。最大の温室効果ガスを排出している中国でも、習近平国家主席は「2060年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする脱炭素社会の実現を目指す」と2020年9月に表明。同月日本も、コロナ後の経済社会を持続可能でレリジエントなものへと再設計(Redesignし、環境と成長の好循環を実現させていくため、脱炭素社会の実現に向けた連携に関する合意書が環境省と経団連で取り交わされました。国連は単に過去の姿に戻る復興ではなく、環境も考慮したサステナブルな復興を目指すグリーンリカバリーを提唱。必然的に投資家のESG投資も拡大しています。

一方、米国ではカリフォルニア州で過去最悪の山火事を記録。過去3年の合計を上回る面積が焼失しています。地球温暖化が理由であると多くの科学者が指摘しており、元々米国の中でも環境問題に対する意識が非常に高いカリフォルニア州。しかもここは米国の中で最大の自動車市場であり、全米の11%を占めています。

 

ハイテク化する自動車業界と競争激化するEV市場

2020年9月、カリフォルニア州ニューサム知事は、ガソリンエンジンを動力とする乗用車とトラックの州内での新車販売を2035年から禁止する方針を打ち出しました。電気自動車(EV)への移行を促し、環境負荷を低減し、毎年発生する山火事をなくすことが狙いのようです。

新型コロナウィルスによりEV市場全体では一時的に落ち込む予測ですが、長期的な展望では成長が見込まれています。ブルームバーグNEFによると、2020年は全乗用車の約3%がEV、2040年には58%になり半数を超える予測をしており、自動車関連各社はEVを軸に開発競争しています。まだまだEVは内燃機関乗用車に比べてコスト面に課題がありますが、初期費用+ライフタイムコストでいうと2025年ごろには追い付くとの予測もあります。その中で注目されているのがEVの動力であるリチウムイオン電池です。EVコストの実に3割をしめているのがリチウムイオン電池で、このコストダウンこそがEV販売価格低下のカギを握っており、OEM各社はリチウムイオン電池メーカーとの提携や自社開発の推進など戦略を練っている状況です。リチウムイオン電池の重要性は高まり、競争も激化してきています。

リチウムイオン電池の市場にこれまでにない拍車がかかりました。

 

CATLの取り組みから

彼らが発信する、世界を相手に貢献し自分たちも成長していくために、直接の顧客のみならずエンドユーザーも含む受け取り手の視点、それも世界中の視点を意識したシンプルな情報からは、フレッシュなエネルギーと真摯さが伝わります。

彼が選択したのが、旺盛な需要に応えるための企業の競争力強化、つまりQCDの向上、さらに付け加えるのであれば、環境に配慮したCATLのリチウムイオンバッテリーであることから、環境の“E”を加えたQCDEの向上を継続的に行っていくことだと認識しました。何よりもスピードが求められる経営環境では、製造プラットフォームを早急に確実に確立する必要があったことはいうまでもありません。蓄積される大量のデータから、オペレータへの異常アラートや経営の意思決定を支援する情報提供がされる点など、データドリブンな企業運営を可能にしている点も重要なポイントだと改めて感じました。

見渡すところ隙のないようなCATLという世界トップのプレーヤーは素晴らしい手本です。さらに世界各国の環境意識の高まり。ユーザーのアンテナの高さ。競合相手が伍していくには、CATLの歩みから学び、それぞれの強みを加味し、地球環境改善への想いを原動力にして独自のアプローチを見出し実行することしかないように思います。たとえ競争がこれまで以上に激化していくとしても、その結果が地球環境の保全に繋がり人の生活がよくなっていくこの分野で、日本企業のさらなる活躍を期待して止みません。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、CATL社のレビューを受けたものではありません。

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