「人」の体験を中心に考える変革へのアプローチ

作成者:豊田 滋典 投稿日:2020年11月5日

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2020年も終わりに近づいていますが、『DX』や『デジタルトランスフォーメーション』という言葉を毎日と言っていいほどニュース等で見かけるようになりました。
DXという言葉の定義する範囲は人によって様々ですが、顧客向けビジネスのデジタルトランスフォーメーション、自社内の従業員の働き方のデジタルトランスフォーメーションなど、色々な領域でDXの話が飛び交っていることは事実です。
それだけデジタルを活用した大きな変革に世の中の意識が向いている状況にあると言えるでしょう。

一方でよく言われる「PoC(Proof of Concept : 実証試験) 疲れ」のように、変革に向けた取り組みに着手はしてみたものの、途中で止まって大きく拡がっていかないケースも多いようです。
こちら(Link)は海外での調査の数字ですが、PoCから次の段階に進むことのできるのは22%程度だそうです。

真に望まれるのは、デジタルによる変革が実際に実を結ぶことによって得られる価値です。
本ブログではこの変革を形にするための、「人」を中心にして考えるアプローチ方法についてご紹介したいと思います。


F-S-D-V の観点

そもそもDXと呼ばれる変革の対象として議論されるものにはどのような領域があるのでしょうか。
代表的なものとしては

  • 業務プロセスをデジタル活用を前提に変革し、より付加価値の高い業務に比重を移すこと
  • デジタルをフル活用した新たなビジネスモデルに乗り出すこと
  • 製品/サービスの利用者や従業員のUX(User Experience : 体験価値)をデジタル活用によって改善・向上すること
  • 社内に継続的に変革を起こすためのカルチャー醸成

といったものが挙げられます。
そして、例えば新しいビジネスモデルを実現するには業務プロセス側の変革も必要だったりと相互に依存関係があったりもするので、包括的に考えなければいけないところが悩ましいところです。

さて、これらの変革の取り組みを進める上では、以下の4つの観点 – FSDV が重要になってきます。

  • Feasibility:技術面や制度面での実現性の観点
  • Scalability:技術/ビジネス両面における拡張性の観点
  • Desirability:利用者にとっての魅力や価値、使い勝手の観点
  • Viability:ビジネス面での収益性の観点

取り組みを進める中でこれらがバランス良く満遍なく吟味され、それぞれ突破口が明確になっていることがポイントです。
このFSDVがうまく重なるところに、理想的な変革の姿があります。

例えば、「とにかくAIを使って何かやれ」という話は Feasibility だけにフォーカスしすぎている形になりますし、逆に社内のあらゆる課題を解決する万能AIを求めても技術的な実現性の観点から良い結果にはつながらないでしょう。
また特定の課題に対処するAIを導入してみたものの、後続の業務プロセスを担う部分とつながっていないため手作業での連携が必要で使い勝手が悪く、結果あまり利用されないということもあり得ます(Desirability)。そうなるとユーザーも増えず、活用効果も広がっていきません(Scalability)。
ユーザーを絞ったPoCでは問題なかったものの、拡大しようとするとAIに適用する学習データのメンテナンス工数がかかりすぎて工数やコストに見合う効果が得られなかったり(Viability)、PoC後の本番環境を継続的に維持・運用ができる組織体制に着地できないと発展も見込めません(Scalability)。


「人」を中心に考える変革アプローチ
Human Centered Approach to Innovation

こうした変革に向けて、SAPは「人」の体験を中心に据えたアプローチを実践しています。
これは変革の対象となる課題・ニーズの発見から適用施策のデザイン、そしてそれを形にしつつ最終的に大きく展開していくところまで、ユーザーや従業員など「人」の体験価値にフォーカスしながら進めていくアプローチです。

HCAI

前半では人に焦点を当てて課題やニーズの発見から大胆なアイデア創出を行い、その後プロトタイピングを通じて実際に見える/触れる形にしつつ、最終的に様々な業務プロセスを担う部分と結びつけながら拡大展開していくという進め方です。
この中で先ほどのFSDVの観点を都度考慮しながらアジャイル的な反復性と軌道修正を入れつつ進めていきます。

では、このアプローチを実践するには何が必要でしょうか。

まず前半の望ましい将来像に関するアイデアを創出するための方法として、デザインシンキングの活用があります。
デザインシンキングは「人」への共感を中心に、課題・ニーズの発見や施策のアイデア創出などを、様々な立場の人間のコラボレーションによって進めていきます。
経験豊富なファシリテータと共に、デザインシンキングを活用して人への共感を中心に理想像を描くことは、変革に向けての非常に有効な入口となります。
SAPのデザインシンキングの取り組みには長い歴史があり、実際に数多くのお客様とワークショップを開催しています。また、グローバル全社レベルでデザインシンキングに関する大きなコミュニティが形成されており、SAPジャパン内でも活発に活動が行われています。
SAPとデザインシンキングについてはこちらの記事(Link)にも詳しく書かれているので是非ご一読ください。

また、コンセプトを形にするプロトタイピングの重要性と方法については、こちらも以前記事(Link)を書いたものがありますのでご参照ください。
SAP単体だけでなくパートナー様との協業なども含めてご支援しています。

そして最後に大きく拡げていく場面においては、変革の取り組みが不十分な状態で止まらないように関連する業務プロセスとうまく連携ができていること、その連携を支えるテクノロジー基盤が備わっていることが重要となってきます。
せっかくAIを使って上手く何かを判定できるようになっても、結果を一度ファイルに出力してから後続プロセスの業務システムにあれこれ手入力するようでは利便性が見えづらいですし、チャットボットで何かの問い合わせ対応をするのであればそのまま発注などの手続きまで処理できるボットの方がユーザーもうれしいはずです。
この点を踏まえて、SAPの提唱する Intelligent Enterprise の全体像を少し振り返ってみましょう。

https://youtu.be/bksZ1I7Lqus?t=1682

DXによって「人」の望ましい体験を実現するという観点で見ると、AIやIoTなどのテクノロジーに加えて、業務プロセスとの連携や利用者からフィードバックを得ること、さらに業務プロセスの先で複数会社間がネットワークでつながっていくことなど、先ほどのFSDVを満たすための包括的な環境の重要性も見えてくるかと思います。


いくつか事例も見ていきましょう。

こちら(Link)は、機械学習を使ってベーカリー部門の製造計画をサポートしている事例です。
製造管理を担当する「人」に焦点を当て、彼らの業務プロセスにおける課題やニーズをデザインシンキングワークショップによって探索しながら解決策のアイデアを創出し、プロトタイプによって形にするところを経て、実際に工場での生産管理に適用して廃棄率削減や業務効率化などの大きな効果を得ています。
さらにこれを成功事例として社内の他の業務においても同様のアプローチで進められないかという検討も進んでおり、イノベーションカルチャー醸成の足がかりになっている点も特長です。

また、別の事例(Link)では、動物園内スタッフの購買や休暇申請などのアドミ処理を統合モバイルアプリによるワンストップで、広い園内でも場所に依存せず実行できるようにしています。
デザインシンキングワークショップを通じて園内スタッフという「人」に焦点を当て、彼らが飼育やゲスト対応などの重要業務により多くの時間を割けるようにするという価値向上のための施策が詰まっています。
ERPやクラウドサービスともつながって関連する業務プロセスとも連携されており、さらにユーザーからのフィードバックを収集して継続的な改善に活かせるような仕組みまで含まれているとのこと。
実際にユーザーからの具体的な追加機能のリクエストも収集が進んでいるようで、今後も機能拡張が進み業務体験が継続的に向上していくことが期待されます。

このように「人」を中心としたアプローチで考えていくと、起点となる操作から最終的に到達してほしい処理の完了まで、End-To-Endで滞りなくデジタル上での処理が流れていくことの重要性がわかります。
その結果として従業員やユーザーの体験価値の向上に着地することが目標であり、そのための Human Centered Approach to Innovation です。


以上、SAPの「人」を中心に考える変革へのアプローチ Human Centered Approach to Innovation  の概要をご紹介しました。
改めてですが、一部のテクノロジーだけを部分的に切り出してDXを考えるのではなく、Feasibility – Scalability – Desirability – Viabilityを包括的に考えて、ユーザーや従業員という「人」の体験価値をデジタルで変革して向上させていくという視点を持ち続けることが重要だと思います。

Human Centered Approach to Innovationについてはこちら(Link)にも情報がありますので、ご興味のある方はご参照ください。

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