SAP HR Connect Autumn 2020 DAY5 Session1|プロサッカークラブの人事―勝利のための“選手(じんざい)”戦略


2020年10月26日~30日の5日間、オンラインで開催された「SAP HR Connect Autumn 2020」。今回は、DAY5(10月30日)の株式会社モンテディオ山形 代表取締役社長 相田 健太郎 氏による「プロサッカークラブの人事~勝利のための“選手(じんざい)”戦略~」をご紹介します。プロサッカークラブの人事×デジタル化の取り組みが、タレントマネジメントシステムSAP SuccessFactors の活用事例を交えて語られました。

株式会社モンテディオ山形 代表取締役社長 相田 健太郎 氏

株式会社モンテディオ山形 代表取締役社長 相田 健太郎 氏

タレントマネジメント活用に至った選手獲得の3つの課題とは?

同社は『山形の未来を切り拓こう。』を理念として、山形県全域をホームタウンとして活動。その事業内容は、現在J2リーグに所属するプロサッカーチーム「モンテディオ山形」の運営(トップチーム事業)および、公園の指定管理事業。株主の半数は山形県と関連した公益社団法人が保有する株式会社です。2019年には営業収入が過去最高を記録し、J2リーグ所属時としては過去最高の年間約17.4万人(1試合平均8,289人:前年比110%)の観客を動員するなど、地域と密着して着実な成長を続けています。 

同社のミッションは「優勝」と共に「黒字化」があります。プロスポーツ運営会社が利益をあげるには、強いチームが必要。強いチームを作るためには、優秀な人材を集めることが求められます。そこで「人材強化の取り組みに向けて、タレントマネジメントが必要との考えに至りました。」と相田氏は語りました。

年々、選手に費やす金額は増え続けていますが、チームの人件費はリーグ全体として見るとJ1、J2に所属する全40チーム中、31番目。この状況について相田氏は「昇格を狙うチームでは選手の年俸総額が約8~10億円なのに対し、我がチームは約5.5億円です。状況的に財源の大幅な拡張は、難しい状況にあります。」と分析しました。

ここから相田氏は、優秀な人材確保、すなわち選手獲得プロセスの課題について、大きく3点に分けて解説しました。

課題1:対象となる選手の多さ

日本国内(Jリーグ)には約1,600人の選手がおり、優秀な選手は当然年俸も高く、競争も激しい状況。そのため、さらに広い視点で選手を探す必要があり、学生や海外も含めた調査が、しかも毎年必要となります。相田氏は「距離的な問題もあり、いかに調査を効率化するかが課題」と語りました(図1)。

図1:課題01 獲得対象選手

図1:課題01 獲得対象選手

課題2:評価軸と情報管理

相田氏が挙げる2つ目の課題は、「活動を続けるスカウト個々の評価軸のバラツキを、いかにして平準化するか」。サッカーは一般的に、データ分析が野球やバスケットなどに比べ遅れていると言われており、定量的な評価が難しい競技とされています。相田氏は「しかし、人の感覚による定性的な評価頼みではズレが生じやすく、積み重なると組織に悪影響を及ぼします。」と語りました(図2)。

図2:課題02 評価軸と情報管理

図2:課題02 評価軸と情報管理

加えて、サッカー競技では評価する側のスタッフが他チームに異動することもよく起こります。そのため、評価軸が定性的だとナレッジが蓄積されないという状況が続きます。相田氏は「定量的な評価軸の導入と、さらに、その評価を時系列で追う仕組みも必要」と述べました。

課題3:比較対象の曖昧さ

3つ目の課題は「比較対象の曖昧さ」です。優秀な選手の獲得はすべてのチームに共通する願いですが、モンテディオ山形では「誰と」比較するのかとの軸がなく、「良い選手」の明確な基準が示せていなかった、として「自チームの選手との比較なのか、リーグ全体と比較して『良い選手』なのかを、明確にする必要」があった、と相田氏は語りました(図3))。

図3:課題03 比較対象

図3:課題03 比較対象

そこで同社は、自チームが置かれた環境およびこれらの課題解消を目指し、タレントマネジメントシステムとして、SAP SuccessFactorsを導入しました。

タレントマネジメントシステムSAP SuccessFactors導入の決め手とは?

当初、自社での専用ツール開発も検討したそうですが、SAP SuccessFactorsの導入を決めたきっかけを相田氏は「開発費用、導入期間、導入後の運用の手軽さ、汎用性」として、そのメリットを次のように説明しました(図4)。

図4:タレントマネジメントの導入

図4:タレントマネジメントの導入

「SAP SuccessFactorsは要件定義から約3か月で利用開始することができました。これは自社開発する場合と比較して、遥かに安いコストかつ、短期間です。PCのみでなくタブレットやスマートフォンで入力、閲覧できる点もポイントです。自社開発ですとマルチデバイスへの対応だけでかなりの工数がかかります。その点、SAP SuccessFactorsは全世界で幅広く利用され、改善されたシステムであることの安心感がありました。」(相田氏)

SAP SuccessFactorsの活用事例

ここからはいよいよ、SAP SuccessFactorsを用いた具体的な活用事例です。相田氏はプロセスごとに、以下のポイントを解説しました。

導入初期

  • 初期は自チームの選手および、獲得対象となる重要選手のみ、約180人を登録

「まずはスモールスタートで、登録選手は絞り込みを行いました。登録の際、Excelファイルから一括での取り込みが可能で効率的でした。」(相田氏)

評価

  • 選手に求める能力は、評価基準をポジションごとに統一
  • 基礎体力、テクニック、ポジションごとに求められる特性、マインドなどの基準を統一し、可能な限り定量的な指標で評価

「この機会に定量的な評価基準を策定し、その上で定性的な評価コメントも記録できる仕組みとしました。」(相田氏)

図5:統一された定量指標による評価

図5:統一された定量指標による評価

蓄積と進捗管理

  • 登録した評価が、日付ごとのレポート形式で保存される

「試合ごとの比較に加え、時系列での進捗が評価できる点が有用です。」(相田氏)

図6:評価の蓄積と進捗管理

図6:評価の蓄積と進捗管理

比較

  • 獲得したい選手と、自チーム内の同ポジションの選手との比較をグラフで視覚化
  • さらに同ポジションのアマチュア選手の平均値との比較も可能

「これまで曖昧であった比較が明確に可視化され、定量的な検討が可能となりました。」(相田氏)

図7:さまざまな対象者との評価比較

図7:さまざまな対象者との評価比較

その他

  • 主力選手のヘッドハンティングや怪我による長期離脱、現役引退などに備え、代替え、後継人材の準備が必要

「システム内に選定のための候補選手の一覧ページを構築し、選定が後手に回らないよう、取り組みを続けています。」(相田氏)

今後の展望~あらゆるデータを集約した共通プラットフォーム化を目指す

相田氏は現段階を「チームにおけるさまざまな情報を確認し、その中から最も重視すべきデータを統合する、チーム強化の基本としてのPhase1」と捉え、来るべきPhase2では健康状態や育成およびコンディショニング情報への拡大を予定しているとのこと。そして将来的には「獲得、育成、コンディショニング、分析、査定、編成に至るまでのあらゆる情報を集約し、一元管理だけでなく未来に活用可能な、共通プラットフォーム化を目指します。加えて、変化に対応すべく新たな指標の取り込みなども、優先順位を見定めながら実施していく予定です。」と、相田氏は述べました。

また、相田氏はAIを活用した、中高生などのアンダーカテゴリ選手からプロカテゴリで活躍する選手を育成する仕組み作りについても言及。「そのためには、どのようなトレーニングやコンディショニング指導が必要なのかの情報を積み上げる必要があります。」と述べました。中でもコンディショニング管理について相田氏は、ツールの発達によりプレイ中の身体の負荷量など、さまざまなデータが取得できるようになっていることを踏まえ「今後はこうした新たなデータの蓄積により、怪我の予防や疲労度の把握など、より個人に特化したケアが可能になる。」との見解を示し、「これまではあまり活かされてこなかった視点をチーム強化に活かしていきたい。」と語りました。

最後に

相田氏は、デジタルを導入して気づいたこととして、以下の3点を挙げました。

  1. すべてを解決するツールは存在しない
    「すべての課題を解決するツールは存在しません。向上心を持って取り組めば、次々と課題が見つかります。その都度、ツールにより何ができるのか、できないのかを明確化し、本質的な目標達成に向けた道筋を見極めていくことが重要です。」
  2. スタートは小さく、一部門からフェーズ管理で着実に
    「環境と共に要件も常に変化し続けます。軌道修正や撤退も視野に入れ、リスク管理をして進めることが成功への鍵です。」
  3. 導入以上に運用にはエネルギーが必要
    「導入時にはもちろん人、時間、コストなどのエネルギーがかかりますが、運用はそれ以上だと思います。スタッフ、経営の意思決定層まで全員が、運用にさらなるエネルギーを注入することが求められます。利用する側は『やらされている』ではなく『やるべき』業務として捉え、開発・保守側は『よりよく』することを考えて行動し続けることが重要。そのため経営層は、導入して終わりではなく、企業としてこのツールを活用していく姿勢を示すことが求められます。」

最後に相田氏は、なぜ人事にデジタルが必要なのか、の問いに対し「これまで”なんとなく”で済ませていた曖昧な表現や情報を可能な限り明瞭化し、組織全体での共通理解とするため」として、その理由を「プロスポーツではそうした個々の感覚や認識のズレや違いが、結果に結びつきやすく、成功の阻害要因となっている。そのためには人の記憶ではなく、デジタルによる情報の活用と蓄積が必要なのです。」と述べました。

そして「情報を蓄積することに早すぎるはありません。いま着手できれば明日から蓄積でき、それが未来へ活かせます。1日も早く、スピード感を持って取り組む必要があると思います。」と結びました。