国籍や性別等で区別しない、公正な実力主義を重視するJTグループの人財マネージメント


こんにちは、SAPジャパンの鎌田です。5月24日に東京・霞ヶ関のイイノホール&カンファレンスセンターで開催された「SAPグローバル人材フォーラム2013 第4回 グローバルリーダー育成の取り組み~人事部のあり方と可能性」でのセッションをレポートしていく本連載。今回は、日本たばこ産業株式会社(JT)の人事責任者である佐々木治道氏によるご講演、「グローバル人財育成の取り組みについて」です。

民営化を機にさらなる成長を目指して海外市場に進出

Blades of grass, close-up1985年に日本専売公社の民営化によって、日本たばこ産業株式会社(以下、JT)が設立されて以降、JTはたばこ事業を中核に、医薬品、食品、飲料など、さまざまな分野で事業の多角化を進めてきました。そこには、少子高齢化や喫煙率の低下による国内たばこ市場の縮小で、国内たばこ専業では成長が望めないという市場背景がありました。

そこで同社では、海外たばこ事業への進出を図り、英国のたばこ工場買収などの取り組みを進めていきました。しかし、自力での海外進出は予想以上に困難が多く、そこでの成長にも限界が見えていたと佐々木氏は振り返ります。

「悠長に構えている余裕はありませんでした。そこで『時間を買う』という発想の転換を行い、1999年には米国R.J.Rナビスコ社の海外たばこ事業部門であるR.J.Rインターナショナル社を、さらに2007年には英国の大手たばこメーカーであるギャラハー社を買収するM&A(合併・買収)戦略を進めていったのです」

これらの買収を機に、JTは本格的な海外事業の基礎を固め、世界第3位のグローバルプレーヤーの地位を確立しました。

「任せる経営」でグローバルに最適な組織・プロセスを構築

Business people meeting at table in conference roomJTの海外たばこ事業を担っているのは、グループ会社であるJTI(Japan Tobacco International)です。現在約120カ国で事業を展開しています。JTIの世界本社はスイスのジュネーブにあり、50以上の国籍を持つ社員が在籍。また、世界各国に90カ所のオフィスと27カ所の工場、6カ所の研究施設を所有し、100カ国以上の国籍で構成された約2万4000名の社員が働いています。このうち、JTからの出向者(日本人)は145名にすぎません。

「多彩な国籍の人財がそろっており、文字通りのグローバル企業です。日本人に過度に依存しないグローバル化と言えるでしょう」(佐々木氏)

ちなみにJTでは、「人材」をあえて「人財」と表記しており、そうした部分にも、JTグループの「人こそが事業基盤の成長を支える財産である」という考え方と、育成へのこだわりがうかがえます。

JTIのもう1つの大きな特長として佐々木氏は、「任せる経営」を挙げます。「エグゼクティブコミッティ」と呼ばれる経営陣は、12の異なる国籍からなる17名のメンバーで構成されており、そのうち日本人は2名です。副CEOの1名を除き、すべてのポストは国籍や出身企業を問わず適材適所を原則に与えられます。

また、経営方針としては、目先の利益にとらわれない中長期的な視点に立った事業基盤の強化に重点が置かれ、同時に、日本のJTの考え方を強いることなく、JTIにとって最適な組織・プロセスが構築されています。さらに組織だけにとどまらず、予算・中期計画の策定と事業遂行責任も、すべてJTIに委ねられていると佐々木氏は強調します。

「JTが行うのは、基本的には『年間の予算・計画の承認とKPIの設定』『一定額を超える投資やコミットメントの承認』、『執行役員人事や報酬の決定・承認』などです。親会社の承認権限を最小化し、適切なガバナンスの下で『任せる経営』を志向しているのです」

しかし、海外は海外で自由に事業を運営して、利益さえ上げれば良いということでは決してありません。JTグループには、お客様を中心とした、株主、従業員、社会に対する責任を高次元でバランスよく果たし、4者に対する満足度を高めていく『4Sモデル*』という考え方があります。JTIも、この全社共通の理念を共有、尊重しながら、JTグループの一員として事業展開を行っています。

*4Sモデル:「お客様、株主、従業員、社会」それぞれに対する責任をバランスよく果たし、“Satisfaction(満足)”の総和を高めていく考え方のモデル。

公正な実力主義を通じたグローバル人財の確保・配置

JTIでは、人財マネージメントにおける基本の考え方として「ビジネス戦略とそのニーズに合致したすぐれた人財を引きつけ、報い・繋ぎ止め、配置することを通じて、組織力を強化し、持続的成長へ貢献」というミッションを掲げています。グローバルな事業環境で、優れた人財を自社に呼び込み、長く在籍してもらおうというのです。できる人ほどキャリアアップに積極的な海外で、優秀な人財を確保し、企業力を高めてゆく上で必然的な選択といえます。

「具体的には、大きく2つのポイントがあります。1つは『あらゆる人事制度でのグローバル・スタンダードを志向』。もう1つは『グローバルな競争相手を意識した人財配置の実施』です。つまり、属性や出自にかかわらず世界共通のマネージメントや処遇のルールを適用し、なおかつ能力や実績のみで評価を行い、人財配置を決定することです」(佐々木氏)

JTIは世界90カ国以上で事業を展開しており、各国で採用される人財が大多数を占めています。こうしたローカルでの採用人財を、いかにグローバルで通用する人財へと育成していくかが課題であり、それにはグローバルで通用するポリシーによる分け隔てのない処遇や、世界レベルのビジネススクールによる研修といった人財育成プログラムが必須なのです。

人財の選抜・配置においても、国籍や性別、年齢、また出身会社で区別されることはありません。日本のJTから出向者を派遣する場合も、JTIのインタビュー審査を通過することが原則であり、ここで適切でないと判断された場合、派遣中止や役職ダウンとなった例があると佐々木氏は明かします。

また、JTにおいても、「日本企業のグローバル化ではなく、真のグローバル企業を目指し、能力および実績に基づく人財マネージメントを推進」という基本方針を掲げており、JTIとの大きな差は見られません。JTでは従来、日本特有の新卒春採用を中心とした採用活動や、若手を対象に全社員が参加できる研修を行ってきましたが、昨今の社会情勢等を踏まえ、またJTIや他のグローバル企業の取り組み等から学び、ここ数年、ポスト・職種別の経験者採用や、部長クラスまでを投資対象とした指名型の研修にも力を入れてきております。

グローバル人財の早期育成に向けて、新たなプログラムを開始

Philosopher's Walk, Kyoto Prefecture, Honshu, Japan最後に佐々木氏は、JTおよびJTIにおける具体的なグローバル人財育成の取り組みについて紹介します。基本となるのは「JT/JTIタレント パートナーシップ プログラム」と呼ばれる海外派遣を通じたグローバル人財育成プログラムです。ひとつは、ディベロップメントアサインメントと呼ばれる、人財育成を目的とした配置で、選抜した若手人財を約2~3年間、JTI拠点に派遣し、仕事を通じた研修を積ませるものです。研修期間終了後には元の職場に戻って、研修の成果を発揮することを期待しています。もう一つは、ファンクショナルアサインメントと呼ばれる、派遣先のビジネスニーズに基づく派遣です。これらの経験を通じて、真にグローバルな環境で活躍できるビジネスリーダーやエキスパートを育成しようというものです。

「しかし、優秀なグローバル人財は圧倒的に不足しています。国内で活躍してきた、リーダーとして活躍できる実力を持った社員を、グローバル人財として一刻も早く育成しようという考えで始めたのが2012年から導入したMMGP(ミドル マネージメント グローバライゼーション プログラム)という新たな育成プログラムです」

佐々木氏がここ数年のグローバル人財育成の目玉とも呼ぶこの育成プログラムは、国内で活躍している40代前半の社員を海外に派遣し、1年間現地ビジネススクール等での研修を積むというものです。初年度は5名が選出されました。

「今国内の現場でバリバリ働いている部長級の人間を引き抜いて海外に出すわけですから、本人にも周囲にも最初は抵抗がありました。しかし、40代で役員を務められるほどの実力を持ったグローバル人財を育てるには、海外での生の経験が不可欠です。必ずここから、期待する新しい人財が生まれてくると確信しています」

佐々木氏は今後の取り組み課題として、グローバル対応力を強化するため、「早期からの育成」と「ダイバーシティマネージメントの推進」の2つに注力していきたいと語ります。

今後ますますグローバルでのビジネスは複雑化し、事業展開における予測の難しさは増していくことが確実です。そうした厳しい時代と市場を切り開いていくための優れた経営層を育てるには、早期から段階的かつ着実な育成を図ることが不可欠です。また、多様化する市場・事業環境で成長を続けていくためには、女性、外国人、高齢者など、多様な人財を有効に活用するダイバーシティマネージメントが不可欠であり、社員ひとりひとりが意欲や能力、スキルを十分に発揮できる環境・風土の醸成も必要です。

「JTIも含め、多様な人財で構成されるグローバル企業を見ると、まず『個人の意思や考え方は、多様な人財が集う環境においては伝わりにくいもの』という前提に立って、できるだけシンプルなメッセージを、わかりやすく伝える、というコミュニケーションを実践しています。私たちもぜひそうした事例を参考に、真のグローバル化へ向けた取り組みを今後も続けていきたいと考えています」と力強く語り、佐々木氏はセッションを結びました。

ご質問はチャットWebからも受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

●お問い合わせ先
チャットで質問する
Web問い合わせフォーム
電話: 0120-554-881(受付時間:平日 9:00~18:00)