サステナビリティと事業を融合したヒューリックの先進的な取り組み


本記事は、2020年12月24日にヒューリック株式会社(以下ヒューリック)向けに行われたオンラインインタビューを元に構成しています。

Naruse-sama

(経営企画部 サステナビリティ室長 成瀬様)

 

SAP福岡(以下福岡):ヒューリックといえば不動産デベロッパーとしては名が知られていますが、サステナビリティへの先進的な取り組みとしてもよく話題に挙がります。
今回は、その推進担当の方に中身について伺ってみたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

ヒューリック成瀬様(以下成瀬):こちらこそよろしくお願いします。
経営企画部でサステナビリティの取り組みをリードしています成瀬です。

 

サステナビリティ推進に至る背景と構造

福岡:私はヒューリックはとても勢いのある若々しいイメージを持っていたのですが、歴史もある会社ですよね。  サステナビリティの取り組みに至る背景から教えて頂いてよろしいでしょうか?

成瀬:おっしゃるとおり、元々は銀行の不動産管理会社として長年の歴史を持つ会社です。ビジネスモデルを不動産デベロッパーに変えると決めた2007年に社名もヒューリックに変更しました。
その時期から社会貢献活動を担う部署があり、社会貢献だけでなく今でいうサステナビリティに関連した活動を行っていました。当時はこの言葉がまだ浸透していなかったのですが、やっと世の中で通じるようになりましたので、2020年に経営企画部の下でサステナビリティ室として組織化し、その中に社会貢献活動も編成しました。

福岡:なるほど。結構コロナ禍を受けてサステナビリティを検討するという会社も多いと思いますが、当時から意識されていたというのは珍しいですね。推進の構造はどういったものなのでしょうか?

成瀬:まずは、経営層が自分の言葉でサステナビリティに対する考えを社内に発信しており、それが各社員へのシャワー効果を生んでいます。
並行して、ボトムアップでも「サステナビリティサポーター」という制度を設けており、各部内での浸透及び全社推進の運営、さらには全社のサステナビリティ活動に対する企画や提案にも関わってもらっています。
あとは、不動産開発という自社事業の特性として、サステナビリティへの取り組みがお客様や投資家へのアピールポイントになることから社内に再エネなど環境技術に関する部署があるため、事業活動と融合してうまく推進出来ているのかなと思います。

福岡:サステナビリティを事業戦略に組み込みたいけどなかなか苦労されている会社は多そうです。その点御社の場合は、トップの当初からの強い意思も大きいのでしょうか?仮にそうだとすると、当時としては斬新なメッセージだと思うので、社員の反応も伺ってみたいです。

成瀬:そうですね。サステナビリィを事業にうまく組み込めているのは、経営トップがサステナビリティに対して一貫したメッセージを継続的に発信しているのは大きいと思います。
当時の社員の反応についてですが、この言葉だけが発信されたわけではなく、事業を変革するという大きな流れのなかで社名変更や東証一部上場を同時期に行いましたので、どちらかというと「変わること」への期待と戸惑いがあったのかなと思います。
なお、コロナ禍においても、取り組みの大きな方針は変わってはおりません。ただ、やはり活動方法は制約を受けています。例えば本社のある地元で夏祭りを毎年行っていたのですが、集会を伴うイベントは難しくなっていますので、代替で何をするか工夫しているところです。


具体的な施策と事業性評価について

福岡:ここはとても興味深いです。サステナビリティは独立したスローガンではなく「企業変革」の流れとして方針を打ち出されたのですね。 その方針がしっかり根付いているので、コロナ禍でもぶれずに継続出来ているのだろうと感じました。

次にその施策について伺いたいのですが、実は元々御社のサステナビリティ活動で興味を持ったきっかけが下記の2つの記事でした。
1.「日本初のサステナビリティ・リンク・ボンド発行(日経ESG 2020/11)」
2.「自社保有資産の再生エネルギー化で2050年CO2排出ゼロへ(2020/12/7プレスリリース)」

まず1について、この新しいボンドに関心を持つ企業は多いとおもうのですが、他社よりもいち早く実行された、その意思決定の背景やプロセスについて教えて頂けますか?

成瀬:はい。ESGボンドは日本でも発行額が増え、以前から当社も関心は寄せていました。グリーンボンドなども検討はしたのですが、当社のサステナビリティに対する思いをマーケットに伝えるファイナンスとしてはしっくりせず見送っていました。
そういった中で、2020年に新たに発行基準が整備されたサステナビリティ・リンク・ボンドは、取り組みの内容を目標に定めその達成を約束する仕組みで、自社の環境への強いコミットメントを示せることから、国内で初めての発行を決断しました。
これは現場からの発案で、経営層もその意図を理解して迅速に承認してくれました。当社は不動産デベロッパーとしては後発ですので、大手様との競合していくには選択と集中とスピードを重要視しており、これは当社の経営に根付いているものです。

福岡:このスピード感は本当に素晴らしいですね。御社の経営計画(下図)でも打ち出されており、まさに日常の意思決定で体現されてますね。2の目の自社保有資産の再エネ対応についても、同じような流れで決断に至ったのでしょうか?

中超期経営計画

ヒューリックの中長期経営計画(クリックで出所元へリンク)

 

成瀬:こちらについては、自社グループの使用する電力だけでなくテナントの使用する分もCO2排出ゼロを目指す、という、難易度が高い目標です。従って当社でも、決定するまで経営層・サステナビリティ室・事業部門(不動産・環境技術等)など多様な関係者が喧々諤々の議論を行いました。

この件でこだわったのは、他者からの調達でなく自前で再生可能エネルギーを発電・供給し、日本の電源構成の中の再生可能エネルギーの割合を高めることに貢献することです。また、昼夜を問わず安定的に電力を供給するために、太陽光だけでなく小水力発電も取り入れることにしました。
これは不動産業界では初のチャレンジで、社内で徹底的に議論をしました。
重要と考えているのは、こういった活動は社会貢献の側面だけでなく、事業としても成立しないといけないことです。短期的には減価償却など投資への負担がのしかかってくると思いますが、中長期の視点でみた事業採算性も合理的に評価したうえで最終的に実行に踏み切りました。

 

個々の社員と経営層との対話

福岡:ここは重要な論点ですね。再生可能エネルギーを採用すると、足元では通常の電力より費用がかさむ一方で、長い目で見れば顧客からはその施設に対する評価が上がる可能性もあるわけで、事業性も見込めるのですね。
喧々諤々とのことですが、そもそも個々の社員のサステナビリティに対する意識が強くないと議論すら難しいと想像します。
そこで改めてボトムアップの定着化について伺いたいのですが、まず、現在においては特にこのテーマで課題はないのでしょうか?

成瀬:正直申し上げて、どこまで全社員にサステナビリティが定着しているかというと、まだまだやることはあると感じています。
先ほど触れました「サステナビリティサポーター」制度は、毎年約20名に企画・運営支援にかかわってもらい、毎年交代制を設けることで全社員が経験してもらうことで、当事者意識をもってもらおうとしています。

サステナビリティ推進体制図(クリックで出所元へ)

サステナビリティ推進体制図(クリックで出所元へ)

従来の企画は我々サステナビリティ室が担当し、その活動を各自の所属組織へ広めたり、企画実行時の運営面や作業で手伝ってもらうという、やや依頼対応型の役割でした。
2020年からはボトムアップ効果を一層強化する方針を打ち出し、企画から関わって頂くように案内しています。今後はサポーターから挙がった企画が次の新しい活動として実現していくように運営したいと思っています。
そのためには、意見を言いやすいように会議以外にもインフォーマルな場を出来る限り用意するなど、日常的な場づくりを心掛けています。

福岡:場づくりにはとても共感します。一方で、サステナビリティ室として経営層との対話はどのようにされているのでしょうか?

成瀬:サステナビリティに関して組織の中で責任を担う会議体としては、社長を委員長とするサステナビリティ委員会があります。ただ、そこでというよりは、必要な時、例えば統合報告書を作成していく過程で財務・非財務指標設計やメッセージをどうするのかなど、会議という固い場でなく、都度直接相談して対話が出来る機会を頂いています。経営層自らが何を考えているのかが分かるようにいつも配慮してくださっていて、この近い距離感は本当に貴重だと感じています。

福岡:経営層もやはりその重要性を理解されているのでしょうね。私も御社の統合報告書(下図)を拝見しましたが、この価値創造の流れが非常に分かりやすいですね。マテリアリティ(重要課題)の特定や財務・非財務の評価軸などは結構苦労されたのでしょうか?

サステナビリティブック2020(クリックで出所元へ)

サステナビリティブック2020(クリックで出所元へ)

成瀬:当社はSDGsが2015年に国連で採決される前から活動を行っていましたので、マテリアリティについては当社の取り組みがどのSDGsに寄与しているかの紐づけは円滑に進み、あとはその重要度付けをどうするかの議論に時間を割きました。その過程において、複数部署の社員の声を反映しました。
価値創造プロセスですが、まだまだ改善したい点があります。例えば、最終的に企業価値向上に繋がるためには、実施している環境への配慮がどういう定量的な影響を与えているのか、例えばCO2排出削減対応を行うことでどれくらいの家賃収入の向上が見込めるかといった定量評価が行えるとよいと考えています。
現在、日本政府がCO2削減やカーボンプライシングなどを本格的に検討していますので、遠くない将来でそういったことがやりやすくなってくるのではないかと感じています。

福岡:なるほど、非常にクリアですね。
改めて御社のサステナビリティ戦略が事業活動と融合されていることが深く理解できました。そして骨格だけでなく、それを社員全員が自発的に実践出来るような仕組みづくりまで考えられており、大変参考になりました。本当にありがとうございます

成瀬:こちらこそありがとうございます。