川崎重工業がSAP S/4HANA PEO本稼働によりデジタル変革を加速

作成者:SAP Japan Customer Award 事務局投稿日:2021年2月16日

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川崎重工業 常務執行役員/航空宇宙システムカンパニープレジデント 下川広佳 氏(右)とSAPジャパン 社長執行役員 鈴木洋史

川崎重工業 常務執行役員/航空宇宙システムカンパニープレジデント 下川広佳 氏(右)とSAPジャパン 社長執行役員 鈴木洋史

※撮影は感染対策を講じたうえで行いました

「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」をグループミッションに、航空機および航空機用エンジンなどの開発・製造や生産プロジェクトを手がけ、日本の航空宇宙産業をリードする川崎重工業航空宇宙システムカンパニー(以下、川崎重工業)。SAP® Japan Customer Award 2020で「Japan Industry 4.0」部門を受賞した同社では、複雑な生産工程や厳格な安全性基準といった航空宇宙業界特有の課題に、世界に先駆けてSAP S/4HANA® Manufacturing for Production Engineering and Operations (以下、SAP S/4HANA® PEO)を導入、デジタル変革を推進してきました。2020年12月に本稼働を迎え、さらなる加速が見込まれる同社のデジタル変革の全容を伺いました。


「競争力の確保」と「トレーサビリティ」両者を実現するのがデジタル変革

民間航空機のほか、防衛省向け航空機などを製造する川崎重工業。主力の生産拠点は岐阜工場で、ほかにも名古屋第一工場、名古屋第二工場、明石工場、西神工場を有しています。
日本のものづくりの企業にとって「カイゼン」は生命線です。同社も同様で、KPS(Kawasaki Production System)という独自の活動を行い、「カイゼン」を進めています。同社常務執行役員/航空宇宙システムカンパニープレジデントの下川広佳氏は話します。

「“カイゼン”は毎日細部に至るまで行われており、我々の競争優位の源泉となっています。すべての作業を標準化し、それを常に見直し、よりよく変えていく。こうした活動を日常的に実施しています。“カイゼン”は絶え間ない地道な活動であり、そのやり方も日々進歩していますが、さらなるデジタル化に余地を残しています。特に航空機製造業においては、ものづくりを担う“人”の行動をどうやってデジタル化するか、“カイゼン”をいかにデジタル化し、次へつなげていくかが今後の競争力を確保する手段となりうると考えています」

さらに、デジタル化を進める背景には航空機の需要変動や人的リスクもあったといいます。

「航空機の需要変動は周期的に起きており、航空機製造業としては柔軟に対応できるものづくりが急務。また、熟練者の減少も危機的状況です。“人”に頼ったものづくりはデジタル化しにくいことに加え、生産現場ではいまだにデジタルになじみのないところもあるのが実態。しかし、この状況を打破しなくてはらない。これらに対応するための有効な手段がデジタル化です」

また、デジタル変革を進めるきっかけには、航空機製造業が持つ特有の理由もありました。それが「トレーサビリティ」です。トレーサビリティとは技術部門の図面指示やスペック指示を正確に現場に伝え、確実に実施し、記録をとるという一連の活動のこと。航空機製造には厳しい品質が要求され、「JIS-Q-9100※」をはじめとする航空機特有の認定制度や技術要求に対応し、情報開示を迅速に行う必要があります。
※「航空宇宙・防衛産業における顧客および規制要求事項を一貫して満たす製品・サービスの提供」を実現するための品質マネジメントシステムの要求事項を定めたJIS規格。ISO 9001をベースとするが世界の航空宇宙・防衛産業で採用される国際的基準として採用されている

「航空機の生産現場ではトレーサビリティが極めて重要です。SAP S/4HANA PEO導入以前、トレーサビリティは紙を主体に行われおり、多大な労力をかけていました。しかし、KPSによる現場は常に変化しており、紙では現場のKPSに追いつくことができない」

現場の情報収集、分析、反映は紙もしくはローカルシステムで行っていたため、トレーサビリティと日々変わる現場(KPS)を両立させるのは大変な苦労が伴っていました。

「現場レベルで対策が進み、紙のデータをエクセルやローカルのデータベースに取り込むといった改善がなされてきました。しかし、そのことがローカルルールの乱立を生むことになってしまった。データを全体最適に向けて活用することが困難になっていたのです」
 

SAPグローバルの協力と「巻き込む力」で現状打破

トレーサビリティとKPSを前進させる解決策として、同社ではデジタル変革を「Smart-Kプロジェクト」と名付け、業務プロセスの統合、データ活用などに踏み切りました。そして、それらを実現するソリューションとしてSAP S/4 HANAPEOが採用されることになったのです。採用の経緯を、同社博士/フェローの酒井昭仁氏 はこのように振り返ります。

「変革を行う業務の対象を設計、生産、品質保証、IT部門などすべての関係部門からメンバーを集め、部門横断した検討を実施したところ、かなり広範囲にわたる業務が出てきました。そこで工程設計から生産現場の実績取得に至るまですべてを一元化して管理できるプラットフォームを調査することに。調査のなかでSAP S/4HANA PEOが私たちのニーズに近いという判断でしたが、検討当時は出たばかりのソリューションで採用実績もなく不安でした。しかし、SAPグローバルの開発陣と何度かの対面を含むディスカッションを経て、開発陣の熱意とソリューションの可能性を感じて決断しました」

導入パートナーとして選んだのは富士通。SAPグローバルと密接に連携していることや製造業に対する高い知見を持っていること、さらにUXデザインのアプローチでも実績が豊富であることも選定の決め手になりました。

デジタル化を進めるにあたり、同社ではSAP R/3導入の経験がベースにありました。なるべくアドオンを作らない「Fit-To-Standard」を志向したのです。しかし、ここにはあるジレンマが存在しました。

「競争優位である“KPS”を実現するための機能は標準機能にはなく、大きな意思決定が必要でした。そこで競争優位を確保するためにあえてアドオンを選択。納得のうえで巨大アドオンの作成に臨みました」(下川氏)

一方で、SAPの標準モデルから外れるのはバージョンアップ時などに作業の煩雑化やコスト高などを招く恐れがあります。デジタル変革と競争優位の両立をどのように解決したのか、酒井氏は、その背景にはパートナー企業との協働があったと語ります。

「SAPグローバルの開発陣と協力し、我々の業務を理解してもらい、さまざまな機能を標準機能に盛り込んでもらうことにしました。そのため、標準のデータモデルを利用することが可能となり、毎年のバージョンアップにも柔軟に対応できるようになりました。特にパフォーマンスの問題が大きく懸念されましたが、SAPと富士通のおかげで劇的な改善を得ることができたのです」

Smart-KプロジェクトチームがSAP本社のワルドルフを訪れ、SAP S/4HANA PEO稼働に向けて議論

Smart-KプロジェクトチームがSAP本社のワルドルフを訪れ、
SAP S/4HANA PEO稼働に向けて議論


 
それでも、実装には大変な苦労が伴いました。対象の業務範囲が広く、やりたいこと、成し遂げたいことの要望や思惑がひろがり、部門間調整が困難に。また、すべてをかなえるには時間も費用もないという事態に陥りかけたといいます。そこで対象とするスコープは時間と費用を前提に置いて優先順位付け等を行い、プロジェクトのリーダシップを強化することで解決しました。

そして、同社が最も苦労したこと。それは「変革意識の浸透」でした。

「生産現場に密接に関連する業務範囲のため、関係者が多く“巻き込む力”が重要でした。カンパニープレジデント以下経営陣直轄のプロジェクト組織を立ち上げ、定期的な推進会議での経営幹部向け報告や一般従業員を対象とした意見交換会や見学会を数十回開き、巻き込んでいきました」(酒井氏)

プロジェクトを進めるうえで重視したのは2つ。1つ目は「ビジョンの共有」です。

「メンバーに話して考えてもらったのは、現状が『JIS-Q-9100』を守れる体制かということ。『JIS-Q-9100』には“図面通りのものができる仕組みを作れ”と書いてある。果たして仕組みが紙のままで、それは強い仕組みなのかと。ユーザーが求めているのは、紙に書き写す仕組みではないでしょう。」(酒井氏)

強い『JIS-Q-9100』を作るためには、デジタル変革が必要。そして、それは顧客が喜ぶことにつながる。そのような認識を醸成させていったのです。そして、酒井氏はこう呼びかけたといいます。

“皆が変革の立役者になろう”

なぜやるのか。プロジェクトに込めた想いを語り続けることで、デジタル変革が必要なものであるという意識が徐々に浸透していきました。2つ目が「ユーザーの意見を聞くこと」です。

「たとえ脇道に逸れた意見であっても、それはユーザーにとって大事なもの。尊重することを決して忘れませんでした。そうすることでユーザーを味方に引き入れていきました。こうしてユーザーの間に当事者意識がうまれていきました」(酒井氏)

 

製造工程の共有がもたらした部門間コラボレーション

プロジェクトは2018年10月1日から開始され、2020年9月23日にEngineeringが、同年12月14日にProductionが本稼働を迎えました。変更管理の効率が20%向上を見込むなど、早速効果が現われています。

「作業内容が可視化され、付加価値のある作業とそうでない作業が明確になってきています。これまではその境界線が曖昧だったから、カイゼンの指針が立てにくかった。これからはそういうことは少なくなるでしょう。当社では1時間で何をやったのか、付加価値の有無を別にして仕分けており、デジタル変革によってその内容をマネージャーが直接見ることができるようになりました。そのデータはマネージャーが即座に意思決定するのに役立っています」(酒井氏)

さらに、製造工程のデータが共有されたことによって、部門間コラボレーションが生まれているといいます。航空機製造の現場は多様な業種の集合体。今回、デジタル変革によってお互いが持っているデータを共有できるようになったことで、部門を横断して付加価値の創出を考えるようになったといいます。また、現場でのアプリケーションの利用は、従業員の満足度向上にも貢献しています。

「アプリケーションは短期間で仕上げることができましたが、今後はユーザーフレンドリーなものへとブラッシュアップすることが課題です。例えば腹ばいになって作業している人は、タブレットを両手で操作することができません。インターフェースは今後も改善を続けなければなりません」(酒井氏)

システムから得られた情報はKPSだけでなく、サプライヤーにとっても価値をもたらします。航空機の製造は部品点数が多いため、部品メーカーは在庫過多や納品よりも早く製造してしまい、キャッシュフローが悪くなる傾向にあります。進捗が可視化され、その情報が共有できるようになれば、部品製造のタイミングをジャストフィットでき、サプライヤーの生産効率が格段に上がるというわけです。今後、さまざまなデータが蓄積されていくなかで、部署や会社の垣根を超えた取り組みが広がっていくことが期待されます。

SAPと富士通とともに世界に先駆けてSAP S/4HANA PEOを導入し、競争優位であるKPSとデジタル変革を両立し、進化を続ける川崎重工業。下川氏はこのプロジェクトをこのように振り返ります。

「既存の仕組みを取り払う果敢なチャレンジ。大きなプレッシャーがかかったが、なぜやるのかを徹底的に語り、ベクトルを合わせることでやりきった。このプロジェクトチームならばなんでもできそうだと思っています」

下川氏は今後のプロジェクト進行で「手始めに目指すのは、リードタイムの15%削減」と語ります。その表情には、航空宇宙産業が持つ困難を乗り越え、本稼働まで成し遂げた自信が伺えます。「いずれAIを使ってデータを処理し、ベスト解を見つけ出すソフトウェア工場をスマートに運営したい」という展望も、決して遠くない未来に実現するでしょう。

最後に、デジタル変革を推進するための「最高のパートナー」に求められることを、下川氏に伺いました。

「一緒に悩み、面白がってくれること。そして困難を切り開く気概があること。それらを持ったパートナーに巡り会えてこのプロジェクトを成功させることができました。構築した関係性を大事にして、これからもステップアップしていきたいですね」

SAPジャパンは、航空宇宙産業のデジタル変革を推進する同社の取り組みを、今後とも強固なパートナーシップによって支援して参ります。

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