SAPのスタートアップエコシステム構築への挑戦―SAP.iOが果たすべき役割とは?
作成者:大山 健司 投稿日:2021年2月15日
SAP.iOとは
2017年にサンフランシスコで立ち上がったSAP.iO。”iO”とは、small input, big Output(最小のインプットで最大の成果を)を意味します。
当ブログでは、エンタープライズ向けERPを初めとしたソフトウェア提供会社であるSAPがなぜこのSAP.iOをグローバルで展開するのか?(SAPの戦略とどう連携しているのか?) 他社が手がけるスタートアップエンゲージメント活動とは何が違うのか?関連するステークホルダー(お客様、スタートアップ、SAP自体)に対してどのようなメリットをもたらすのか、などについてご説明します。
SAP.iO は、B2Bスタートアップとの共創のためのグローバル組織です。世界9都市で展開されており、B2Bスタートアップへの株式投資を行うSAP.iO Fundと、B2Bスタートアップとの製品連携や共同営業を中心とした協業プログラムを推進するSAP.iO Foundriesの2つの機能があります。
SAPジャパンでは、このSAP.iO Foundriesの1都市として2019年に立ち上げ、SAP.iO Foundry Tokyoを運営しています。
いまやスタートアップを対象とした”アクセラレータープログラム”は世の中に広く普及し、事業会社や投資家・自治体も含め、様々なプレーヤーが手がけるプログラムが乱立しています。これらとSAP.iO Foundriesはどう違うのでしょうか?
一般的な“アクセラレータープログラム”は、シード期/アーリーステージ期のスタートアップを対象に、スタートアップの事業そのものや資金調達・人事/採用に関するアドバイスなどを行います。その先には、プログラム運営者が事業会社の場合は自社の顧客基盤をスタートアップに紹介することもあると思います。
それに対してSAP.iO Foundriesは、特定の業界/企業に対するPMF (プロダクトマーケットフィット: 顧客の課題を解決させる製品として受け入れられること)が終了したスタートアップを対象とし、SAP製品との連携とSAP顧客への共同営業に特化しています。
また、SAPには長年の企業向けソフトウェアビジネスで培ってきたB2B営業の方法論がありますが、それらも如何なく共有されます。
すなわち、製品面・営業面の双方の観点で、自社事業を国内外にスケール(拡大)させていきたいB2Bスタートアップにとっては最適なプログラムといえます。
そのため、いわゆるアクセラレーターというよりは、Scale + Acceleratorで”スケーラレーター”という造語がありますが、そのように呼んだ方が相応しいかもしれません。
加えて、Partner Edge への加入やSAP Store の登録もフルにサポートされるため、SAPのソリューションパートナーとなっていただくためのショートカット(最短ルート)を辿ることができます。
さらには、SAP.iO Foundriesの世界9拠点のネットワークが活用できるため、海外展開を加速したいスタートアップにとってもメリットの大きいプログラムとなっています。
“Intelligent Enterprise”の実現を目指して
では、このようなSAP.iO Foundriesの中で連携したスタートアップが、SAPや顧客企業に対してどのような価値をもたらすのでしょうか?
SAPは顧客企業における“Intelligent Enterprise”の実現を大きな戦略として掲げています。“Intelligent Enterprise”とは、「企業が最新の技術を使いこなしつつ、より機敏に、そして社内や社外との連携を高めることで、収益性だけでなく有事の際の回復性や社会への貢献度を高めるもの」として定義されています。
*参照:Intelligent Enterprise概論① : 目指す姿と期待価値
SAPの顧客企業は、この統合された業務アプリケーションと、それを支えるプラットフォーム、社外との連携性を高めるビジネスネットワークを提供し、それらは連携性、革新性、機敏性を兼ね備えることができます。
しかしながら、SAPは単独でこのIntelligent Enterpriseを実現できるとは考えてはいません。SAPとスタートアップを含むパートナーが提供する業種別ソリューション群である”Industry Cloud”により、様々な業界の幅広いイノベーションニーズをカバーしようとしています。
SAP.iO FoundriesはまさにこのIndustry Cloud戦略に沿った活動の一つとして位置づけられており、これまで約280社のスタートアップと協業し、各社との連携ソリューションがSAP Storeで提供されています。
SAP.iO Foundry Tokyoでは2019年以降、これまで3回のプログラムの中で計13社のスタートアップと協業し、そのうち10社のソリューションとは、顧客接点/管理、製造、物流、設備/資産管理の領域で関連するSAP製品との連携が実現できています。
各社とはプログラム終了後もSAPのお客様への共同提案の活動を継続しており、いくつかの実案件の獲得にも繋がっています。
各都市で年に2回、それぞれ3ヶ月間のコホートプログラムを運営していますが、自社だけでは解決できない顧客企業の課題解決のため、スタートアップとSAPの両者が手を取り合って相互補完しながら、新たな発見や気づきを与えるべく膝詰めで取り組んでいます。
その熱量の高さには毎回驚かせられますが、今後は各プログラムのDemoDay(成果発表会)での結果の共有のみではなく、そのような活動の様子も可能な範囲でこのブログ上などで公開していきたいと思います。
SAP.iO Foundry Tokyoの2021年上期(3月〜6月)の次回プログラムとして、上記のIntelligent Enterpriseをテーマとして、B2B SaaSやテクノロジースタートアップを現在募集しています。(SAP.iOの募集ページはこちら)
次号以降では、SAP.iO Foundry Tokyoにおいて、SAPならではの特徴も踏まえてどのようにプログラムを運営し、どのようにスタートアップエンゲージメントを図っているか、などについて触れていきたいと思います。
今後もSAP.iOにどうぞご期待ください!