「ジョブ型」検討に潜む罠(第一回)~ ジョブ型人事制度の本質と導入の狙い


昨年来のコロナ拡大により、在宅勤務/リモートワークが一気に進むとともに、働き方も大きく変化したことを実感している方は多いと思います。

このようなVUCA環境においては、日本企業が高度成長期から積み上げてきた人事体系、いわゆるメンバーシップ型よりも、海外で主流であるジョブ型の方が向いている、いまこそジョブ型に制度変更するべきだ、という論調が強くなっているように思われます。

しかし本当に「ジョブ型」にすれば様々な人事課題は解決するのでしょうか?

本稿ではジョブ型検討を進められようとしている皆様に対して、盲目的に進めてよいのか?という警鐘を鳴らすとともに、どのように検討を進めていくべきかについて、3回にわたりご紹介いたします。

第一回: 「ジョブ型」の本質と導入の狙い
第二回: 「ジョブ型」を導入する際の検討ポイント
第三回: 「ジョブ型」要素を取り入れた人事制度運用例

Businessman and two women in office having a meeting

人事制度検討会(イメージ)

「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の本質的な違い 

本稿で詳細を述べるまでもなく、人事体系上の違いについては様々な誌面・Web情報で認識されていることと思います。ここで指摘しておきたいのは、全体的な論調として2元論的な対比が目立つこと、「メンバーシップ型」ではダメで、「ジョブ型」がすべてを解決に導くかのような議論が目立つことです。

時には雇用契約に論点がおかれ、「メンバーシップ型=終身雇用、ジョブ型=即解雇が可能」というような短絡的な誤解も見受けられます。

筆者は両形態の本質的な違いはそこにあるのではなく、「仕事をどうとらえ、どう組織づくりを行うか」にあると考えています。

 

ジョブ型は、その名の通り「仕事(職務、ジョブ)を明確に定義し、その仕事に対して絶対的報酬価値を認める」という考え方です。 中長期事業計画で明示された数値目標・各種KPIを達成するためには、どのような組織を作る必要があるかを先に考え、必要となる仕事をあぶり出し、いつ、どこに、どのレベルの人が何人必要かを計画することから組織づくりを始めます。明確化された要員計画に基づき、既存人員を配置し、不足するポジションについてどのように異動配置するか、または外部から採用するかを検討します。この思考過程を経ることにより、組織内における仕事が明確になり、期待役割や責任範囲、その仕事に対する妥当な報酬額も決定されていくことになります。

一方、メンバーシップ型は「仕事は配属部署や職位によって暗黙に規定され、その活躍度によって相対的報酬価値を認める」という考え方と言えるでしょう。組織づくりは既存社員が部署に何名配置されているかを起点とし、退職者数を織り込んで欠員補充をしたり、業容拡大によって人数枠を追加算定したりすることから始めます。ここでは大まかな仕事内容(職種や職位レベル)は議論されますが、そもそも既存社員がどのような仕事をカバーしているのかが不明確であるため、ポジション単位の配置計画ではなく、総人数単位の計画に留まることが多くなります。この思考過程では、そもそも達成しようとしている事業計画に対し、最適な人員構成で挑めているのか、最適な組織編成なのかの検証は行いにくいということがお分かりいただけるでしょうか?

例えるなら、ポジションや期待役割が明確なプロフェッショナルサッカーチームの組織づくりがジョブ型だとすると、ポジションは不明確、できる人がゴールするというチーム編成になりやすいのがメンバーシップ型とも言えるのではないでしょうか。

 

組織の中で個々の社員が持つポテンシャルを最大限発揮しやすくするために、暗黙のポジショニングではなく、明白なポジショニングや指示を与え、組織力を最大化しようとするのがジョブ型であり、個々人のすり合わせに任せるメンバーシップ型との本質的な違いとも言えます。

 

なぜジョブ型導入を目指す企業が増えているのか? 

筆者は年間100社近くの大企業の人事部の皆様と議論を重ねていますが、経営メンバーから「ジョブ型を検討せよ」という指示を受け、対比的なまとめをし、ジョブ型適応は自社には難しいという結論を出している例をよくお見掛けします。

そもそも今、なぜ「ジョブ型」を導入しようとするのでしょうか?

これにはおそらく3つの経営判断的側面があると思われます。
1つ目は、メンバーシップ型では人員再配置が難しく、経営の自由度的にも諸外国競合に負けてしまうと認識されていること。
2つ目は、50代以上の社員構成比率が高まる中で、人件費総額が高止まりする構造を抜本的に変えていく必要性を認識していること。
3つ目は外部環境変化が激しくなる中で、専門職割合を高める必要性を認識していることです。

「メンバーシップ型」では、これら3つの課題は解決しえないのでしょうか?
長年ローテーションによってジェネラリストとして育成されてきた50代以上の部下なし役職者に対し、報酬額に見合った仕事の再割当が難しいことを見ても、メンバーシップ型の限界は認識できるでしょう。

ジョブ型を管理職以上に適用し、役割定義を明確にし、管理職層の給与上昇を抑えるとともに、若手世代からキャリア指向性を高めさせ、専門職比率を高めようという試みが進んできている背景は、経営者の危機意識から来ていると認識できます。

 

既にジョブ型導入している企業における効果は? 

ではすでにジョブ型を導入している企業において、どのような効果が出始めているのでしょうか?

厳密にいうと、雇用契約も含めメンバーシップ型をジョブ型に切り替えている上場企業は非常に少ないと思われます。日立製作所、富士通、KDDI、資生堂、三菱ケミカルといった企業では、メンバーシップ型の雇用形態を維持しつつ、組織づくりの考え方を抜本的にジョブ型に変更しようとしている段階と言えるでしょう。

また、ジョブ型の適応方法においても、ミッショングレード制を上位管理職に適用する緩やかなものから、全社員の職務定義を行い、ポジション単位での要員計画立案を目指すものまで、幅があります。

ではジョブ型を適用し、組織運用を始めた企業において、どのような効果が認められ始めているのでしょうか?筆者が様々なお取り組みを伺う中で把握している主な効果領域は下記となります。

・上位管理職者の役割の明確化と、職務に応じた報酬との連動
年功賃金で高止まりしていた管理職者層において、職務内容・レベルに応じた報酬を明確に定義・運用しやすくなった(ひいては、平均年齢が上昇しても報酬総額の上昇を今までよりはコントロールしやすくなった)

・キャリア自律の意識浸透
自分が目指すべき職務がより明確になり、また求められるスキル、知識、経験などに対してギャップ認識が行いやすくなり、キャリア形成を自ら行う意識が強化された

・チャレンジマインドの醸成
ローテーションによる本人の意図しない異動のみでなく、社内公募による積極的な新職務への挑戦などが誘発され、埋もれた人材活用にもつながった

・目標に対する上長との認識ずれの抑止
職務内容が明確であり、KPIとの連動も高まったため、上長との認識ずれは起こりにくくなった(あわせて、1on1を推進することも増え、リモート下でもより明確な目標認識を行えるようになった)

上記のように、メンバーシップ型運営のみではなかなか改善しえなかった人事課題について、徐々に改善の方向に向かいつつある状況とも言えます。

 

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ジョブ型の導入が組織課題解決、ひいては事業の目標達成に結び付くかどうかは、その企業それぞれの人事課題や事業環境、組織文化により様々でしょう。ただし、少なくともジョブ型のエッセンスを取り込むことで、改善する課題はあるということがお分かりいただけたでしょうか。

次回2回目の本稿では、ジョブ型導入の検討推進をされる人事部の皆様の視点で、検討を行う際のポイントについて記載します。