「ジョブ型」検討に潜む罠(第二回)~ ジョブ型人事制度を導入する際の検討ポイント


昨年来のコロナ拡大により、在宅勤務/リモートワークが一気に進むとともに、働き方も大きく変化したことを実感している方は多いと思います。

このようなVUCA環境においては、日本企業が高度成長期から積み上げてきた人事体系、いわゆるメンバーシップ型よりも、海外で主流であるジョブ型の方が向いている、いまこそジョブ型に制度変更するべきだ、という論調が多くなっているように思われます。

しかし本当に「ジョブ型」にすれば様々な人事課題は解決するのでしょうか?

 

第二回の本稿では、ジョブ型検討を進められようとしている主に人事部の皆様に対して、どのようなポイントに注意して検討を進めていくべきか、ご紹介いたします。(第一回の記事はこちら

 

第一回: 「ジョブ型」人事制度の本質と導入の狙い
第二回: 「ジョブ型」人事制度を導入する際の検討ポイント
第三回: 「ジョブ型」要素を取り入れた人事制度運用例

Shot of two businesspeople brainstorming with notes on a glass wall in an office

人事制度の検討ポイントを整理(イメージ)

 

「ジョブ型」導入の検討体制と議論の進め方

ジョブ型を検討されるにいたる経緯は、各社各様だと思われます。新聞記事でよく見かける「ジョブ型」とはなんぞや?という経営側からの質問に対して答えることから検討が始まったり、海外子会社との意見交流会の中で、メンバーシップ型の人事体系ではグローバル組織運営が行いにくいことに気付いたことから検討が始まったりと様々でしょう。

いずれにしても、「ジョブ型」の検討を開始している企業様においては、「ジョブ型の制度に(一部でも)変更することが正解ではないか」という仮説から議論が始まっており、がゆえに、ジョブ型の「形式論」に陥る例が多々見受けられます。

釈迦に説法ではありますが、人事制度体系というのは企業体としてのパーパスやミッションに紐づき、事業目標達成を行いやすくするための組織運営の仕組みであるわけで、一部の要素(たとえば職務定義書を記載し始める)を変更したからといって、全体の組織運営力が向上したり、人事課題が解決したりはしません。組織運営の疎外となっている要因・課題は何なのかを正しく認識することを差し置いて、体系をいじるということはナンセンスなのです。

ですので、これから検討着手を予定されている皆様には、是非とも「正攻法」として、下記のような体制確保・議論の進め方をしていただきたいと思います。

  1. 組織運営上の課題認識明確化
    定期的な従業員エンゲージメント調査や、組織長への定期ヒアリングなどが放置されている例をよくお見掛けします。組織課題を把握することなしに解決の方向性は議論できませんので、まず現場状況を把握し直すことから始めてください。
  2. 課題の構造分析
    把握された事象、課題を分類し、因果関係を想定し、その課題が解決された場合の影響範囲を分析します。定量化しにくい組織課題においては、ややもすると着手・改善しやすい課題のみに終始し、根本的課題が放置され、違った形で課題が再発するということも起こり得るため、構造分析による見える化と優先度判断が必要です。
  3. 課題の影響範囲に応じた検討体制の確立
    構造分析した課題のうち、全社で対応が必要なもの、課題解決時のインパクトが全社的に大きく見込めるものについては、経営レベルも巻き込んだ検討体制の確立が必須となります。トップの課題認識レベルが浅い、あるいは解決に向けた支援体制なしには抜本的改革は難しいでしょう。
  4. 解決すべき課題と、解決後の状態定義
    検討の場に載せる課題が特定されたうえで、その解決を図った時点での組織運営状態を徹底的に議論します。現状から演繹的に議論するのではなく、あるべき姿から帰納的に議論する観点も重要です。
  5. 解決に向けたアプローチの検討
    あるべき姿に近づくための方法論として、様々な施策や仕組みを調査・検証します。ここでやっと、ジョブ型の考え方を適用したほうが良いかどうかという議論が開始できます。

課題認識がない状態で、外形的なジョブ型の検討を進めるのは、手戻りが多いだけでなく、目的と手段を取り違えるリスクが高いと言えます。課題解決のために結果的にジョブ型の考え方を適用した、となる議論の進め方を意識することをお勧めします。

 

「ジョブ型」導入における不安要素

課題解決のためにジョブ型を検討し始めると、メンバーシップ型制度との違いが大きく、様々な観点での不安が浮かび上がることでしょう。しかし、違いがあり、難易度が高いからといって、せっかく課題解決に結び付きそうなジョブ型エッセンスを取り込まないのでは、本質的な改善は永遠に望めません。

以下では、メンバーシップ型からジョブ型に移行する際に、どのような項目でどのような不安要素が発生し得るのか、またそれを踏まえてどのように対応を進めるべきかについてa)~l)の12の要素毎に説明します。

(表1: ジョブ型へ移行する際の人事としての不安要素)ジョブ型不安要素

a) 仕事ありきの要員計画立案に対応できるのか?
事業計画の中でどれほど精緻な要員計画を策定するべきかは、人事のみの領域を超え、全社レベルでの意思決定が必要です。人件費率が高止まりしている、環境変化による社員のスキルシフト・リラーニングが必須となる場合には、社員数のみの計画ではなく、職種・職務や勤務場所、配置必要時期も含めた議論が必須となるでしょう。その場合には、「対応できるのか?」という視点ではなく、そもそも「どのように対応していくべきか?」を検討する必要があります。

b) 余剰人員はどう処遇するのか?
メンバーシップ型では隠れ余剰であった人員も、ジョブ型にすることによって明確に浮かび上がりやすくなります。この場合、どう仕事を任せなおすのか、どう再配置を行うべきかを検討することとなります。本人の経歴、スキル、意欲を踏まえて、よりパフォーマンスを発揮できるポジションへの個別異動調整を、人事として支援する必要があります。

c) 職務定義書(JD)はどう定義するのか?
ジョブ型検討を始めると、必ず職務定義書をどう記載・メンテナンスするかという議論につきあたります。形から入る例もありますが、多くは記載内容が不十分であり、運用に耐えられずに形骸化することとなります。
このような事態に陥らないためには、定義する内容に幅を持たせ、運用開始後に段階的に詳細化を図ることをお勧めします(職種を最初から詳細定義せず、職種 x グレードの総数が100以下に収まる程度から着手するなど)。

d) 部下に対して明確に仕事を定義、指示できる上長が少ないのでは?
長年、明確な仕事定義をしない中で昇格してきた管理職者の皆様は、自分自身の仕事を明文化することが難しい場合が往々にしてあります。改善策としては、まず管理職の皆様の仕事内容を自分自身で文書化し、あいまいな点を人事側でチェック・改定指導するなど、上長/評価者側の意識醸成と再教育が必要でしょう(さらには人事側でもチェックできない場合は、人事担当者も再教育が必要です)。

e) 雇用契約の締結しなおしは難しいのでは?
雇用契約の切り替えまで踏み込むケースはまれだとは思いますが、人事制度改定のタイミングで個人の選択制とし、ジョブ型適応の職務へと切り替えていくという例はあります。また、役職定年時や再雇用時に雇用契約切り替えを行うことはすでに行われていることからも、移行プラン次第では対応可能であることは理解いただけるでしょう。

f) 会社側に人事権がないと、柔軟な組織運営ができないのでは?
職務をより限定的に特定していくことを進めた場合に、会社側からの異動調整が行いにくくなるということを懸念される例は多いです。先行企業においては、定期異動は残しつつ、ポスティングをうまく活用し、個人がチャレンジしたい職務に現職上長の事前許可なしに応募し、合格した場合には半年以内に確実に異動するということをもって、人事側意図と社員側意図とをハイブリッドに取り込んだ運用が進んでいます。

g) 人事権を現場に移譲できるのか?
上記f)とも連動しますが、ジョブ型に完全移行すると、ローテーションという概念がなくなり、定期異動ではなくポスティングでの異動調整に近づきます。この場合、新規要員をリクエストするのは現場管理者ですし、送り出す判断も現場管理者に移譲されてゆきます。人事権を誰がコントロールし続けるのが、組織運営上もっとも円滑かという観点で、めざす形態とそこへ向けての移行プランを詳細検討することが必要です。

h) 個別査定を行う運用上のノウハウがないのでは?
個別査定を行う上で、そもそもの報酬レンジを見定めきれない、または、報酬レンジが定まっている中で査定額を算出できないという2点が課題になります。前者については、競合の報酬額レンジも含めて算出することは自社のみでは難しいため、報酬額データを保持している人事系コンサルティング会社に依頼することが必要です。後者についてはレンジ内での相対位置を昇給履歴もあわせて確認する仕組みを提供することで算出しやすくなります。

i) 退職金制度はどう運用していけばいいのか?
雇用契約を変更しない限り、ジョブ型適応をしても退職金制度は維持する例が多いと思われます。ジョブ型の議論とは別に、すでに企業型401Kへの移行を行っている場合も多いため、退職金制度変更はジョブ型適応の議論とは区別して検討されることをお勧めします。

j) 社員にキャリア自律意識を芽生えさせるのは困難なのでは?
会社からの辞令に基づきキャリア構築してきた、特にシニア世代については、キャリア自律意識を芽生えさせるのは非常に難しいと言わざるを得ません。ただし、ミドル世代以下の社員に対しては、各種意識変革の研修を行うことで「キャリア構築のドライバーズシートに座るのは自分である」と意識づけすることは、多数の企業で行われています。人事施策として、キャリアアドバイザー制度なども含めた継続的活動が必要です。

k) 中途採用をどう行えばよいのか?/ l) 入社後の定着化はどう行えばよいのか?
中途採用業務自体をうまく回せないという不安要素はあるでしょうが、本質的には「迎え入れた中途採用の方々がきちんと定着し、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境であるのか?」を人事部としては議論すべきでしょう。
組織づくりに対する意識が高く、責任をもって受け入れきれる管理職者がいる部署から徐々に開始するなど、工夫が必要です。

 

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次回3回目の記事では、ジョブ型の要素を取り入れた人事制度の実例について、運用面も含めてご紹介します。