「ジョブ型」検討に潜む罠(第三回)~ジョブ型要素を取り入れた人事制度運用例


昨年来のコロナ拡大により、在宅勤務/リモートワークが一気に進むとともに、働き方も大きく変化したことを実感している方は多いと思います。

このようなVUCA環境においては、日本企業が高度成長期から積み上げてきた人事体系、いわゆるメンバーシップ型よりも、海外で主流であるジョブ型の方が向いている、いまこそジョブ型に制度変更するべきだ、という論調が多くなっているように思われます。

しかし本当に「ジョブ型」にすれば様々な人事課題は解決するのでしょうか?

 

第三回の本稿では、ジョブ型の要素を取り入れ始めた様々な企業様事例から、どのような工夫のもと課題解決へと向かっているのかについて、ご紹介いたします。(第一回記事はこちら、第二回記事はこちら

第一回: 「ジョブ型」の本質と導入の狙い
第二回: 「ジョブ型」を導入する際の検討ポイント 286427_shutterstock_629137274

 

「ジョブ型」要素を取り入れた人事制度運用例

ジョブ型を導入することをご検討中の皆様の最大の悩みは、「メンバーシップ型とジョブ型をどのように併用するのか」という点と思われます。

第一回でご紹介したように、本来これら2つの体系は仕事と人の関係性、および会社と個人の契約形態が異なるため、そもそも“併用する”という考え方自体がおかしいとする議論もあります。

しかし、現状の制度のまま運用し続けることで、継続的な組織強化は成し遂げられるのでしょうか?

以下では、「ジョブ型」の良い点を日本の人事制度に取り込み、メンバーシップ型を前提としながらも、数々のメリットを享受しはじめている各社の適応方法について、より具体的にお伝えします。

 

1)管理職層における適応

日本企業においても、管理職、それも上位層になればなるほど「ポジション」を意識した後継者アセスメントが実施されています。ただし、メンバーシップ型では「Aさんが担当していたXポジション」という形で認識されることが多く、本来は人と仕事を分けて考えるべきところが切り分けされない例が多く見受けられます。

海外の投資家は、そのようなあいまいな選定基準で役員候補を選定している企業に厳しい目を向けており、より明確な選定基準(職務要件)を作成・公開し、公正なプロセスで後継者選定を行うことを求めています。

このような背景の元、役員ポジションを頂点に、部門長レイヤ、部長レイヤまでの全ポジションを明確化し、その職務に対してひとつずつ職務定義書(JD)を作成、管理する例が増えています。

この考え方を導入することにより、下記の改善が期待できます。

・事業戦略を中長期遂行するために必要なキーポジションがより明確になる

・キーポジションを遂行するために必要となる職務要件がより明確になる

・職務要件が明確になることにより、全社員から後継者候補を選抜しやすくなる

・後継者候補として選抜された本人に、その職務を遂行するために欠けている知識・スキル・業務経験を認識してもらうことで、異動配置も含めた後継者育成が行いやすくなる

・職務要件が明確であるため、日本人しか着任できていなかったキーポジションにも、グローバルの現地社員からの登用が積極的に行えるようになる

 

また、職務定義を明確化することと紐づけてグレード制を導入し、報酬額を個別査定に変更する例や、管理職ポジションはすべて公募制にする例もあります。

 

2)特定職種における適応

おなじ職務定義を明確化する活動でも、職種を限定し、役職者のみでなく全社員にまでその考え方を拡げていく例も見受けられます。

具体的には、技術系・開発/生産系職種への適応から始める例が増加しています。手法としては、まず、トップエンジニアやエバンジェリストと呼ばれる方々の仕事レベルを頂点とし、新卒社員までを4~6階層ほどの業務レベルに区分けします。次に、各レベルで必要とされる知識・スキル(技能系も含む)・資格や経験を職務定義書に記載します。さらに全職務定義書を俯瞰・集計することで、社内の無形資産である「知識やスキル」を形式化します。

この考え方を導入することにより、下記の改善が期待できます。

・特定職種において必要なスキルが明確化され、スキルライブラリーとして体系化される

・複数の職種に共通のスキル・技能が洗い出され、研修カリキュラム作成が行いやすくなる

・各社員がどの職種x業務レベルに属しているかを把握することにより、組織力を定量的に把握できるようになる

・中長期に必要なスキルと、今後転換が必要なスキルとを識別することにより、社員のリカレント教育を戦略的に行うことができる

・定年となる熟練工やスーパーエンジニアのノウハウを、若年層へ計画的に引き継ぎやすくなる

 

スキルライブラリーを構築・維持することは非常にコストがかかりますが、逆に必要となるスキルを中長期に見通せていないと、製品開発や保守・運用体制が確保できないという危機に陥る可能性もあります(人はいてもスキルが不足し、業務遂行不能となる状態)。

また、特定職種の職務定義を明確化することと紐づけて、職種別給与体系を運用する例や(データサイエンティストやDX人材などが多い)、管理職とは異なる複線化人事体系を運用する場合もあります。

 

3)社内公募における活用

多くの場合、ジョブ型は「キャリア自律を促す」ことを目的に導入されています。
これは逆に言うと、日本企業の人事部の皆様は、「メンバーシップ型ではキャリア自律が行いにくい」とお感じであるということでしょう。
メンバーシップ型でもキャリア自律意識が高い社員の方は多数いらっしゃるとは思います。ただ、ジョブ型により目指すべき職務を提示しやすくなり、今まで曖昧であった「キャリアステップ(※)」を描きやすくなるという点を重視されているのだと思います。
(※: 一般的な“キャリアパス”という言葉は、会社側が用意したキャリアの道筋をイメージするため、ここでは社員が自ら選択して道を踏んでいくという意味合いの“キャリアステップ”と表記しています。)

 前述1),2)のように大々的に職務定義を行う活動とは異なり、社内で必要となるポジション(それも既存部署にあるポジションではなく、新規職種・役割の場合が多い)に対しジョブ型の考え方を適応し、社内公募を通じたキャリア自律を促す例が増えています。

この考え方を導入することにより、下記の改善が期待できます。

・既存部署の配属のままではチャレンジできない新しい仕事に、自ら手を挙げてチャレンジすることを促せる

・社内(ときにはグループ会社全体)から公募を行うことにより、新規ポジションの重要性をアピールできる

・社内/グループ会社の枠を超えて、最適、かつ意欲のある社員に新規ポジションを担ってもらうことができる

・公募に合格した場合、現業から3か月以内での異動をルール化するなどにより、部署内での人材囲い込みを抑止できる

・募集を行う管理職側にも、自ら組織を強化することが責務であるという認識を再強化できる

 

また昨今では新規ポジションのみでなく、メンバーシップ型での定期異動を廃止し、全面的に社内公募で異動調整を行うことを目指す企業も増えています。さらには、管理職ポジションはすべて公募制にし、現職者も含めて全ポジションの配置を行い直すなど、「適所適財」の考え方に大きく舵を切る事例も出始めています。

 

 4)新卒採用における活用

メンバーシップ型であるがゆえに日本独自で発展・定着してきた「新卒採用」の場においても、ジョブ型の考え方を取り入れる例が増えています。
これは、2.で紹介した「特定職種への適応」の延長として、新卒においても中途採用と同じようにポジションを明確化し、「未就労者でも応募可能な職務」を募集するという考え方です。

この考え方を導入することにより、下記の改善が期待できます。

・特定領域における高い知識や研究実績がある新卒層が、自分が望む職務を保証してもらった上で入社可能となることにより、採用確率が高まる

・キャリア指向性が高い近年の学生に対し、入社直後からより明確な「キャリアステップ」を提示することが可能であり、採用確率が高まる

・職務に応じた個別給与を設定可能となるため、特定技能保持者などを一律の初任給で処遇する必要がなくなる

・海外の優秀な学生層に対し、理解しにくい「一律初任給」の提示を行う必要がなくなり、国内人材に限定しないグローバル採用が進めやすくなる

入口としての新卒入社時から明確な職務を提示することに対し、大方の日本企業の人事部の皆様は抵抗感があろうかと思います。というのは、ご自身も含めて「ローテーションしながら適性を見極め、育成・配置を行う」という考え方の中で経験を積んできているからです。

今後、大学での教育がより専門的になり、高度な知識・技能を保有する学生が増えるであろう中で、「ローテーション」することの非効率性は明らかでしょう。
全職種に対してジョブ型適応が一気に進むことはないと筆者は考えますが、一部領域からでも運用開始することで、技術系やグローバル人材の採用力が高められることは、個人的経験からも言い切れます。

 

SAPがご支援できること

SAPでは、上記のようにジョブ型を一部適応する例についても、多数のご支援実績がございます。どのようにジョブ型の考え方を取り込んでいくべきかという点も含め、人事業務アドバイザリーサービスを一定期間無償でご提供しております。(詳しくはこちらからお問い合わせください)

また、メンバーシップ型にもジョブ型にも対応した、高度な組織運営を支援する「SAPのHXMソリューション」をご活用いただくことにより、中長期にわたる「人事トランスフォーメーション」に伴走いたします。(HXMソリューションの詳細につきましては、こちらをご参照ください。)

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以上、3回にわたって「ジョブ型」検討に潜む罠について解説させていただきました。
皆様の企業において、「ジョブ型」を活用し、より強い組織を作ることの一助となれば幸いです。