クラウドによるERPとMESの垂直統合で 工場の稼働率向上、品質管理の高度化を目指す I-PEXの「製造業のDX」

作成者:SAP編集部 投稿日:2021年4月15日

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今回は、ERPが担うサプライチェーンと、製品の企画、設計、生産準備、製造、品質記録などのエンジニアリングチェーンをグローバルで同期し、QCD(品質・コスト・納期)管理の共通化に取り組むお客様をご紹介します。エレクトロニクス機器向けのコネクターや機構部品などの開発・製造を手がけるI-PEX株式会社は、SAP ERP(ECC6.0)をSAP S/4HANA Cloudに移行するとともに、製造実行システム(MES)をクラウド型のSAP Digital Manufacturing Cloudに刷新するプロジェクトを進めています。ERPによるサプライチェーンと生産現場におけるエンジニアリングチェーンの垂直統合を実現し、工場の稼働率向上や品質管理の高度化を進めていくことを目指しています。

SAP ERPの導入から10数年を経てシステム維持と技術継承が課題に

1963年に「第一精工」として誕生し、世界的なコネクターメーカーとして知られるI-PEX。2020年8月にはグローバルでの認知度向上を目的に、社名をブランド名の「I-PEX」に統一しました。近年は5GやIoTなどの技術革新を追い風に業績を伸ばしています。
l-PEX 常務取締役 技術開発統括部長の緖方健治氏同社は、2008年より基幹システムにSAP ERP(ECC6.0)を採用し、まず国内6工場および海外7拠点に導入後、続いて海外4拠点にもロールアウトしました。現在はSAP ERPの会計、販売、購買在庫、プロジェクト管理、ガバナンス・リスク管理のモジュールをシングルインスタンスで利用し、連結子会社を含む21社の業務プロセスを統一しています。その後も計画系のSAP Business Planning and Consolidation (SAP BPC) 、多次元分析のSAP Business Warehouse(SAP BW) 、高速分析シミュレーション(例:着地点予測/為替シミュレーション)のSAP BW on HANAを導入しながら進化を遂げてきました。しかし10数年を経てシステムの複雑化が進み、バージョンアップやパッチ適用で発生するコストや負荷の課題が大きくなってきました。

「10数年前にSAP ERPを導入した当時のメンバーも年齢を重ねています。将来にわたって基幹システムを進化させていくには、若手エンジニアもシステム導入を通じて、自ら試行錯誤しながら判断を下す経験を積む必要があると考えました」と常務取締役 技術開発統括部長の緖方健治氏は語り、情報システム部内の技術継承という課題を抱えていたことを明かします。

国内ユーザーで初めてクラウド型MESのSAP Digital Manufacturing Cloudを採用

そしてI-PEXは、テクノロジーが進化し、社会も変容しつつあるこのタイミングを好機と捉えました。基幹システムの単なるバージョンアップではなく本格的なクラウドシフトに向け、SAP S/4HANA Cloud, private cloud editionへの移行を決断します。今回はリスクを最小化するためプライベートクラウドを採用していますが、いずれはパブリッククラウドへの移行の可能性を見越した判断です。
並行して、製造実行システム(MES)もクラウドサービスのSAP Digital Manufacturing Cloudに刷新することを決定しました。ERPが担うサプライチェーンと、製品の企画、設計、生産準備、製造、品質記録などのエンジニアリングチェーンをグローバルで同期し、品質・コスト・納期の一元管理と、製造現場の生産活動を最適化することが狙いです。
MESについてはスクラッチ開発を前提に、製造IoTを整備する計画が進んでいました。しかし、SAPジャパンから紹介を受け、標準化をコンパクトに実現できるパッケージ製品であるSAP Digital Manufacturing Cloudを採用。SAP S/4HANA Cloudと連携して品目や在庫などを統合管理できること、クラウドシフトのメリットなどを考慮しました。
「SAP S/4HANA Cloudをコアに据えて周辺システムとシームレスに連携するなら、パッケージ製品であるSAP Digital Manufacturing Cloudを利用すれば、より簡単にデータを取得でき、さまざまな指標をわかりやすく表示できると判断しました。当社が国内ファーストユーザーとのことでしたが、今後海外工場までMESを横展開していくならクラウド製品以外の選択肢は考えられず、ぜひ挑戦したいと思います」(緖方氏)

SAP S/4HANA Cloud移行によって工場の生産性向上を加速

I-PEXは、2020年9月より既存システムのアセスメントを実施して影響調査、移行計画の策定などを行い、2021年1月にプロジェクトを開始しました。2022年1月を目標に全21社のSAP S/4HANA Cloudのテクニカルマイグレーションを終え、SAP Digital Manufacturing Cloudはモデル工場1拠点で本稼働を開始予定です。その後、数年かけて国内外の他工場へ横展開していきます。
モデル工場へのSAP Digital Manufacturing Cloudの導入では、業務プロセスの変化に、現場には少なからず戸惑いもあったといいます。しかし、稼働後はバーコードリーダーを使った作業にも慣れ、それによって間接工数が削減されることで従業員の意識にも変化が現れています。また、データに基づいて可視化された日々の生産実績を、成績表として工場内に設置した大型ディスプレイに毎日表示した結果、従業員のモチベーションも向上しています。

設備や人の稼働状況をデータで可視化

計画系のERPと実行系のMESの垂直統合を目指す同社が、モデル工場で最初に取り組もうとしているのが稼働状況の可視化です。工場内の設備や、生産ラインで製造や検査にあたる作業員の稼働データをIoTセンサーで取得し、SAP Digital Manufacturing Cloud上で可視化することで進捗状況、実績、品質、生産性などを把握する計画です。稼働率やパフォーマンスなどのデータは、SAP S/4HANA Cloudの需給計画や生産計画にフィードバックし、調達から製造、出荷、販売までのプロセスを効率化することで、在庫の削減やリードタイムの短縮を目指します。
次のステップでは、日々蓄積していく現場のデータから製造時のトラブルを検知したり、設備の故障を予期して予防保全を実施したりすることを検討中です。また、設備の稼働状況を見ながら過剰設備を解消し、投資効率を高めることも可能になるとみています。
さらに今後、SAP Digital Manufacturing Cloudの横展開が進んでいくと、全工場の稼働状況やパフォーマンスを横並びで比較できるようになります。それによって工場の個性や得意領域に応じて新たな施策を検討する、要員や設備を増強するなどの施策を打つことが可能になります。「大切なことは、人の意思が入らない形でデータを示すことです。作業稼働率が低下している原因が材料不足によるものか、設備不良によるものかなど客観的に分析することができれば、現場の改善作業が進めやすくなります」(緖方氏)

グローバル工場を垂直に立ち上げるために必要な施策

クラウドシフトを加速してインテリジェントエンタープライズの実現へ

I-PEXは今後もSAPのサービスをフルに活用しながら、新たなイノベーションを実装していく考えです。またクラウドシフトを加速し、さまざまなシステムとの連携を見据えています。
「SAP S/4HANA Cloudをコアに、SAPのクラウドプラットフォームを介して、BIのSAP Analytics Cloud、経費精算のSAP Concur、グローバル調達のSAP Aribaなどとの連携を計画しています。そして、真のクラウド化と製造業のDXを実現するために、SAP S/4HANA Cloudをパブリッククラウドに移行し、すべてのユーザーがスマートフォンアプリや個人向けWebサービスのように、システムを意識することなく使いこなせる世界を目指していきます」(緖方氏)
I-PEXにおける製造業のDXを加速する取り組みは、SAPが提唱するインテリジェントエンタープライズ、さらにはRISE with SAPのコンセプトを先取りする挑戦であり、日本のトップランナーとして大きな注目を集めるはずです。

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