HXM(ヒューマン・エクスペリエンス・マネジメント) – 人と会社をつなぐ人材マネジメントの新しい考え方 第2回

作成者:籔本 レオ投稿日:2021年5月10日

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“HXM”という言葉をご存じでしょうか。HXMはHuman eXperience Management(ヒューマン・エクスペリエンス・マネジメント)の略称であり、従業員のエクスペリエンス(=体験価値)を重視する考え方です。人事領域ではHXMという考え方がトレンドになりつつあるのですが、「で、HXMってどんなことなの?」という話になると、「とりあえず従業員エンゲージメント調査をやればよい」、「とにかく従業員が気持ちよく働ける環境を作っていけばいい」という、従業員に寄り添うことに偏った解釈がなされることもあるようです。もちろん従業員に寄り添うことは良いことではあるのですが、本稿ではHXMを、“会社・人事が実現したいこと”と“従業員一人ひとりの想い”をつなぐ人材マネジメントの新しい考え方として紹介します。

第1回では“従業員一人ひとりの想い”としての従業員エクスペリエンスについて紹介しました(第1回はこちら)。
第2回(本稿)では、人材マネジメントのトレンドの変遷にふれながら、HXMの考え方における“会社・人事が実現したいこと”としてのタレントマネジメント*について紹介します。

*タレントマネジメント:定義はさまざまありますが、本稿では、会社・人事主導による長期にわたって人材を維持・パフォーマンスを最大化させる人事施策群として扱います。

HXM

人材マネジメントのトレンドの変遷

人材マネジメントの考え方には流行り廃りがありますが、歴史や理論との細かい整合性を気にせず簡単に分類すると以下のようになります。

① 人材は、投入量と比例してアウトプットが大きくなる労働力であり、多くの人材を獲得・維持することが重要

② 人材は、能力に個人差があるものであり、高いパフォーマンスを発揮できる人材を獲得・維持することが重要

③ 人材は、雇用期間において能力・パフォーマンスが変動するものであり、会社の財産(無形資産)である。人材に投資して育成することにより、長期にわたって人材を維持し、パフォーマンスを最大化させることが重要

④ 人材は、一人ひとりが人格をもつ人間であった。人材の声に耳を傾けることにより、人材が本人の意思で「この会社で働き続けたい・経営に貢献したい」と思ってもらうことが重要

①~③では、時代とともに人材をありがたい存在として強く考えるようになっていますが、その人格よりもポテンシャルやパフォーマンスを重視しており、人材=会社のモノ(資源・資産)として考えられているようにも受け取れます。そこで④の考え方が出てくると、③までの考え方、つまり、会社主導による人材育成やパフォーマンス向上のための仕組みづくりである、タレントマネジメントのような考え方が過去のトレンドとして否定されることもあるようです。HXMとは④のみ重視すればよい考え方なのでしょうか。

 

HXMとしてのタレントマネジメント

HXMは従業員エクスペリエンスを重視する考え方ですが、タレントマネジメントなどの会社・人事が主導する制度・施策を否定するものではありません。むしろ、会社・人事が主導する制度・施策があることで、従業員エクスペリエンスを高めることができると考えます。しかし、前述したトレンドの変遷による印象だけでなく、タレントマネジメントに対して否定的な意見もあります。そもそも変わることに前向きではない保守的な方が取り組みもせずに否定するということはありますが、中にはさまざまな人事施策やシステム導入などに取り組んだ経験から、「自社や日本企業になじまない考えである」と自らの体験もって否定する方もいます。

「過去に中計の柱として●●制度を導入したのだけれど形骸化したのでもうやめてしまったのだよ。」
「それなりの投資をしてタレントマネジメントシステムを導入して数年前に本稼働したのですが、今ではほぼ誰も使っていませんね。」

人事制度や人事システムは、世の中のトレンドに乗ればよいというわけでなく、実現したい姿や解決したい課題があり、それらに対して有効な手段であれば導入することで意味のあるものとなります。しかし、実現したい姿を描いて進めたはずなのに、現実では期待通りにならず、制度が形骸化、誰もシステムを使わない、従業員の意識が変わらない、という結果になっている例が少なくありません。原因となることはいくつかあるのですが、会社・人事の強い想いとお金と工数をもって取り組んでいるのにうまくいかない場合の原因の1つに、会社・人事の想いと現場・従業員の想いに大きなギャップがあることがあります。

従業員エクスペリエンスに関するギャップ

人事が考える従業員ペルソナ

人事は、人事手続きに関することには、証明書提出、現場上司による確認、人事による確認、複数段階の承認、承認後の念のための確認など、冗長なプロセスがあることをわかっていながらも性悪説で考える傾向がありますが、タレントマネジメントに関することには性善説で検討が進められる傾向があります。従業員は会社のどこかに埋もれていてくすぶっている。従業員はもっと活躍したくて、キャリアアップしたくて、どんどん学びたくて、自己アピールしたくて、その自己アピールを人材データベースに登録したくて、フィードバックしたいしされたい。このような人物像をペルソナとして、制度やプロセスやシステムが作られます。

理想的にはこれでみな幸せになるはずなのですが、現実は簡単には変わりません。会社で働いているのは多様な人材です。多様性(ダイバーシティ)というと、「女性活躍のことだけでなく、年齢、国籍、障がい者のような軸もあるんですよ。」という話をうかがうことがありますが、従業員の想いは、性別、年齢、国籍、障がい有無のような属性で分類困難なくらい多様です。従業員は必ずしももっと活躍したいわけでなく、キャリアアップしたいわけでなく、どんどん学びたいわけでなく、自己アピールしたいわけでなく、その自己アピールを人材データベースに登録したいわけではなく、フィードバックをしたいされたいわけではありません。また、経営理念や人事戦略に共感していたとしても、具体的な施策におとされたときに、自分の解釈や期待していたことと異なり、施策レベルでは共感できないということもあります。

会社・人事と従業員の認識ギャップを埋める

ここで重要となるのは従業員エクスペリエンスです。会社全体や各組織の従業員エンゲージメントはどの程度で、会社・人事と従業員との認識ギャップはどのくらいあるのか。課題となることはどんなことなのか。従業員個人はそれぞれどのようなことを考えているのか。外部環境や会社の方針が変わったときどう思うのか。仕事内容や家庭環境の変化により仕事への考え方が変化するのか。人事が理想とする目指す姿やそれを実現するための施策やシステムについてどう思っているのか。取り組みの形骸化の傾向はみられないか。

このようなことを把握しながら改善アクションをとることで、会社・人事と従業員との認識ギャップを埋めることができます。また、収集したフィードバックからは、改善した方がよいこと、新たにはじめるべきこと、やめるべきことがわかってくるため、会社・人事の取り組みをより効果的に進めることができます。

ここで考慮すべきことは人事が実現したいことと、従業員が望んでいることのバランスの取り方です。会社には存在意義や目的があります。最近は“パーパス”という言葉が使われることが増えた印象ですが、そのパーパスを実現することも重要ですし、そもそも多くの会社は営利を目的とした法人ですので業績についても無視できません。ですので、会社が目指すことを実現するための、会社・人事主導の人事施策も必要になります。将来の経営を担う人材を選抜する、中長期のビジネスの姿を見越して配置転換・スキル習得を促す、従業員サービスレベルを一時的に下げても業務標準化・効率化を進めるなどです。これらの施策は従業員にとってうれしいこととして受け取られない場合もありますが、フィードバックを受け改善しながら進めることが重要です。

HXMをどのように考えるか

HXMとは、“会社・人事が実現したいこと”と“従業員一人ひとりの想い”をつなぐ人材マネジメントの考え方です。従業員の想いを知ることだけに偏りすぎると、会社が目指す姿に向かわなかったり、従業員エンゲージメント向上のための施策として不十分となる可能性があります。一方、会社・人事の想いだけで施策を進めると、従業員との認識ギャップや、やらされ感から、施策が形骸化してしまう可能性があります。会社・人事の取り組みと従業員に寄り添うことの双方を関連付けて、それぞれを改善し続ける好循環をつくることが重要です。また、テクノロジーやデータの活用により双方の取り組みをつなげやすくなったことで、HXMが実現困難な理想の話ではなく、現実的に取り組めることになっています。

 

以上、2回に分けてHXMについて紹介させていただきました。考え方ということで、やや抽象的な内容となりましたが、「自社にとってのHXMについてディスカッションしたい」「自社では既にHXMに取り組んでいるので紹介したい」などありましたら是非お声かけください。また、SAPではテクノロジー・データの面からHXMの取り組みを支援するソリューションを提供しています。業務・施策の全領域をカバーするだけでなく、HXMの考え方にもとづくAI機能も拡充しておりますので、こちらについてもご興味がありましたらお声かけいただけると幸いです。

 

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