グラミン日本との協業を通じて生活困窮者の自立を支援するSAPジャパンの社会貢献活動
作成者:SAP編集部 投稿日:2021年5月28日
ニッポンの「未来」を現実にするために、SAPジャパンの社員が取り組んでいるさまざまな変革プロジェクトをご紹介する本連載。3回目は、2021年4月から本格的な稼動がスタートしたばかりの「Social Recruiting Platform」です。この取り組みは、一般社団法人グラミン日本とSAPジャパンをはじめとするパートナー企業の協業によって、生活困窮者と企業のジョブマッチングを支援するものです。この社会貢献活動を通じてSAPジャパンは何を目指すのか、プロジェクトを推進するインテリジェントスペンド事業本部 バリュー アドバイザリー ディレクター 兼Social Recruiting Platform プロジェクトリーダー 太田智さんに話を聞きました。(聞き手:SAP編集部)

SAPジャパン インテリジェントスペンド事業本部 プロジェクトリーダー 太田智
社内起業プログラムから生まれたSAPジャパンの社会貢献活動
― まず「Social Recruiting Platform」の取り組みの概要と、これまでの経緯について聞かせてください。
太田 私自身、以前から社会貢献活動には関心があったのですが、SAPジャパンに入社して2~3年目くらいのときに、あるセミナーでグラミン日本の活動について知る機会がありました。グラミン日本は、グローバルで生活困窮者の支援活動を展開するグラミン銀行の日本支部ですが、私も日本での活動にぜひ参加したいとお願いしたのが始まりでした。
その活動の中でSocial Recruiting Platformに取り組むきっかけとなったのは、グラミン日本のパートナー企業が主催したワークショップでした。このワークショップは、グラミン日本と会員企業が協同で、生活困窮者支援に関わる新規事業のアイデアを考えるものでした。その具体的なアイデアの1つがジョブマッチングによる就労支援であり、それなら人材のシェアリングエコノミーを実現するSAP Fieldglassをプラットフォームとして活用できるのではないかと考え、社内で検討を開始しました。
― その取り組みが社内起業プログラム「One Billion Lives」の最終選考を通過して、SAPジャパンの新規事業として採用されたのですね。
太田 このワークショップの結果を社内に持ち帰って、SAP Fieldglassのチームと検討する中で、せっかくだから「One Billion Lives」のスキームに乗せてみようという意見が出ました。One Billion Livesはすべての社員が応募できる社内起業プログラムで、このときもアジア全体で135件の応募があり、そこから4件に絞ってアジア大会が行われ、さらにそこで選ばれた2件がグローバル大会で審査を受けました。この最終選考を通過したことで、SAPジャパンの新規事業としての立ち上げが決まったのです。ちなみにOne Billion Livesの選考がグローバルで開催されるようになって以降、日本からの応募が最終選考に残ったのは、これが初めてのことです。
動画:SAPが取り組む社会課題解決について
― Social Recruiting Platformは、既存の人材紹介などのビジネスとはどのような点で異なるのでしょうか。
太田 既存の人材紹介サービスは、あくまで「仕事を探しやすくするサービス」です。しかし、現状で特別なスキルは持っていない、単純作業しかできないとなると、なかなか相対的貧困から抜け出せません。こうした方々に対して、就労支援だけでなく、スキルアップ=教育の機会も提供する点が、既存の人材紹介ビジネスとは大きく異なっています。
また、就労先の選択肢があまりないため、せっかく仕事に就いても、いわゆるブラック企業の劣悪な労働を強いられるなど、負のサイクルに陥りがちです。そこで私たちは、Social Recruiting Platformでの求人登録を会員企業のみに限定し、かつ求人してもらうのに望ましい職種や業務、生活困窮者の雇用で必要なケアなどについて詳しく説明し、マッチングが成立した後に問題が起きないように配慮しています。
また、仕事に就いた方の職歴やスキルをデータ化し、信用情報を持たない生活困窮者の方々のキャリアを保証する情報として活用することも検討しています。これにより、将来的にご本人が自らのスキルをより得意な分野で活かして、収入アップを図るためのアドバイスを提供することも可能になります。
― 人海戦術になりがちなNPOの業務を、デジタルの力で効率化しようという試みは、まさにSAPジャパンの本領発揮ということですね。
太田 単なる就労支援ではなく、経済的自立のためのトータルな支援を行う上で、外部人材の募集、選考、契約、勤怠、スキル情報などを一元管理できるSAP Fieldglassは最適なプラットフォームです。SAP Fieldglassをベースに開発されたSocial Recruiting Platformでは、求人企業と就労を希望する生活困窮者やその支援団体を結びつける仕組みを独自に構築し、グラミン日本が運用しています。
「女性のデジタル人材の育成」に向けた教育支援にも注力
― 2021年4月末からSocial Recruiting Platformが本格稼動しましたが、現在のチームの規模や重点的な取り組みについて教えてください。
太田 この事業におけるSAPジャパンの現在のコアメンバーは、私を含めて9名です。そのうち4名は SAP Fieldglassのチームから参加。その他は、社内から参加を申し出てくれた人たちです。私が社内に向けた情報発信を行う中で、理念に共感してくれた人たちが自発的に集まってくれました。
現在もっとも注力しているのは、会員企業により多くの求人情報を登録してもらうことです。言うまでもありませんが、求職者にとってはSocial Recruiting Platformにどれだけ自分の希望する求人情報が登録されているかが、就労の機会=困窮した状況の解消につながるからです。
とはいえ、より賃金の高い仕事に就くためには、求職者本人のスキル向上も欠かせません。そこで力を入れたいと考えているのが、女性のデジタル人材の育成です。「女性の就労機会の拡大」と「デジタル人材の不足」という、求職側・求人側のニーズをうまくマッチングさせるためにも、これは社会的意義のあるテーマだと思います。
― 具体的なスキルとしては、どうようなものを想定していますか。
太田 現状においては、経済的自立を得られるスキルの習得を目標にしています。相対的貧困は、世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のことです。相対的貧困からの脱却を単純労働で実現するには、とてもハードな働き方をしなくてはならない。こうならないためには、デジタルスキルなどの習得が必要と考えており、今後の社会のニーズに応じて検討を進めていく予定です。
多くの人との出会いやつながりが活動の原動力
― これから社会貢献活動にトライしてみたいと考えている企業に向けてアドバイスをお願いします。
太田 まず1つは、スポンサーを見つけることです。Social Recruiting Platformの取り組みも、SAP ジャパンの内田会長(代表取締役会長 内田士郎)やSAP Fieldglassのエグゼクティブから強力な支援を得られていることが、対外的な信用の獲得や安心して活動できる背景になっていることは間違いありません。
2つめは、自分がやりたいこと、目標をしっかり定めたら、手段はケースバイケースで柔軟に選びながら、基本の軸がブレないように常に意識すること。
そして3つめは、適切なチームの設計とモチベーションの維持です。基本的に全員が兼業で取り組んでいるので、報酬や KPI に直接つながらない仕事に熱意を持ち続けてもらうためのフォローを忘れないことが大切です。
― 社会貢献活動に取り組む上で、モチベーションの維持はとても重要ですね。
太田 そのためにも、まず日本社会の現状と課題をきちんと理解することが第一歩だと思います。いろいろな問題に関心を持ち、対峙し、意識して取り組む。貧困などの問題はそもそも世の中に存在しないことが理想ですが、私たちは実際にはそうではない現実と向き合って生きていかなくてはなりません。そこにそれぞれが持っている力を提供することができれば、より良い国や世界を作っていけると思っています。
とはいえ、これはとても1人で成し遂げられることではありません。多くの人との出会いやつながりがあって初めて実現します。その意味でSocial Recruiting Platformの取り組みも、尽力する皆さんの力を借りながらようやくスタート地点に立てたということです。そこを大切にすることが、これからの成功の一番のポイントかもしれません。
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