投資対効果を早期に刈り取る、世界初のDXを実践するボディプレス部品メーカー

作成者:山﨑 秀一投稿日:2021年6月21日

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背景

100年に1度の大変革に直面している自動車産業においては、既存事業の徹底した利益率向上と新規事業による収益向上が2大経営課題です。後者の経営課題に対して、ジョイントベンチャーにより、新規事業を立ち上げたドイツ企業があります。長年取引関係があるスポーツカーメーカーのPorsche AGと大手自動車部品メーカーのSchuler AGの両ドイツ企業がジョイントベンチャーで、ボディプレス部品のSmart Press Shop GmbH & Co.KG(以降、SPS社)社を設立しました。合弁会社のSPS社の最優先課題は言うまでもなく、一刻も早くボディプレス部品の生産を開始し、新たな販売チャネルから収益を計上することです。

SPS社の事業計画には、2021年3月の工場操業が記されていました。工場には、建屋や生産設備だけでなく、基幹システムや現場の製造実行システムが必要になります。2019年12月からシステム選定作業を開始しされた矢先、新型コロナウイルスがプロジェクトを直撃しました。

パンデミックという逆風にさらされながら、2021年3月15日、計画通り、ドイツのHalle an der Saale工場の操業が開始しました。

どのような特徴の新工場を設立し、何故、このような逆風の中で新工場が計画通りに操業できたのか、工場の屋台骨のひとつであるシステムにフォーカスして成功のポイントを解説します。

 

スマートファクトリー

従来の自動車メーカーに加えて、新規参入企業も含めて、世界的に電動車の供給量が右肩上がりに急増しています。電動車の性能と航続距離を左右する要素のひとつには軽量化が挙げられます。自動車メーカーは、サプライヤに対して部品の軽量化を強く要請しています。一昨年発売を開始した高性能電動スポーツカーのポルシェタイカンは、徹底した軽量化により、高性能でありながら長い航続距離を実現しています。とりわけ重量のあるボディプレス部品は素材、形状、製法によりKg単位での減量の可能性がある部品です。タイカンのボディプレス部品の企画から量産には、長年ビジネスパートナーとして取引をしている大手プレスメーカーのシューラ―の技術が大きく貢献しています。部品の軽量化は競争優位に立つ要素ですが、それだけではこれからのビジネス環境で成功を収めるには不十分です。部品の性能や品質に加えて、脱炭素の視点で自動車メーカーの基準に合格していなければならないからです。SPS社の新工場は、その要件を満たすために、100%再生エネルギーで操業する工場であり、ゼロカーボンで競争優位性の高い部品の供給をしています。SPS社の工場はインダストリー4.0の考え方を踏襲し、ペーパーレス生産であり、すべてのプレス機器とレーザー切断機は完全自動化がされています。軽量且つゼロカーボンなボディプレス部品は、あらゆる自動車メーカーの要求に応えられるフレキシブルな製品供給ができることを実現したスマートファクトリーです。

 

クラウド版ERP&MESの採用

SPS社が多様な仕様のボディプレス部品のタイムリーな供給を実行していくためには、現場の人材、高性能な製造機械、それとシステムが不可欠です。新規事業として世界中の自動車メーカーをターゲットにした多様なボディプレス部品を生産する工場では、新製品企画、原価企画、図面、設計部品表、生産部品表、製造工程、設計変更、生産計画、生産指示、製造実行、標準原価、実績・実際原価、品質・トレーサビリティ管理などのモノづくりに関わる情報量と複雑性が、日々飛躍的に増加し、それらの膨大な情報をタイムリーに管理できるERP:基幹システムとMES:製造実行システムが必須になります。

SPS社は、自動車部品サプライヤとしては、前例のないクラウドERPとクラウドMESが連携したシステムを採用しました。

安全・安心を最優先し、石橋を叩いて渡る慎重なカルチャーを持つ自動車産業のメーカーでありながら、何故、前例のないシステムを採用したのでしょうか。SPS社は、ジョイントベンチャーとして設立された合弁会社であり、一刻も早く収益に直結する結果を出さなければなりません。その事業のスピードを担保できるシステムには、工場立ち上げの足かせにならないクラウドは必然でした。さらにSPS社の経営から製造現場に求められる業務要件に対するカバレッジ、将来の拡張性、導入パートナーなどの視点からパッケージ選定・評価を行った結果、基幹システムはSAP S/4HANA Cloud Essentials(以下、SAP ERP)、製造実行管理システムは、SAP Digital Manufacturing Cloud for Execution(以下、SAP MES)が選定されました。

クラウドシステムのアーキテクチャ

買い手の自動車メーカーと売り手の部品メーカーという、企業文化、組織、業態、業務プロセス、業績評価指標が全くことなる両社のジョイントベンチャーから生まれたSPS社の新規事業の基幹業務の要件定義から実装までの導入期間を短縮するためには、SAP ERPが提供する業界ベストプラクティスが役立ちました。またSAP ERPとの統合管理と最先端技術の製造設備との高度な連携ができる製造実行管理システムの短期実装には、SAP MESが貢献しました。 脱自前主義と吊るしの服をそのまま着こなすことをプロジェクト方針とし、Fit to Standard型の導入方法論を徹底した結果、SPS社のシステムアーキテクチャはTier1の自動車部品サプライヤとしては非常にシンプルな構成を実現することができました。このシンプルさは、将来のモノづくりの変化に対する迅速な対応力の高さとしシステム運用コスト削減に貢献できる特長であり、事業の強みに直結していると言えます。

まとめ

日本と同様にモノづくり先進国のドイツでは、世界初のマルチテナントクラウドERPとクラウドMESを統合したアーキテクチャで、早期に収益力拡大に直結するデジタルトランスフォーメーションがはじまりました。

要求レベルの高い自動車産業の基幹システムや製造実行管理システムにおいてもクラウドが適用可能であり、クラウドの機動力の高さを実証しました。これまで製造業では、MESは、オンプレのスクラッチ開発でなければならないという考え方でした。今後は投資対効果を早期に刈り取れる、将来の変化対応力にも強い、クラウド版のERP・MESがデジタルトランスフォーメーションのデファクトになると予想します。日本の製造業においても競争力を高める、SPSのような取り組みが展開されることを期待したいです。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、Smart Press Shop GmbH & Co.KG、Porsche AG、Schuler AGのレビューを受けたものではありません。

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