新型コロナウィルス感染拡大に立ち向かう – 新たな行動で難局を打開したハイデルベルク大学病院

作成者:松井 昌代投稿日:2021年6月21日

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これまで多くのSAP Innovation Awardsのエントリーピッチを見てきましたが、ハイデルベルク大学病院のエントリーピッチは他のピッチとは違うものを感じました。ご存知のように、SAP Innovation Awards のエントリーピッチはSAPが作成したものではなく、お客様やパートナー様ご自身が作成されたものです。そこには、直接取り組みに関わった人ならではの、一人称で語られる真実が浮き彫りになっている一方で、Award獲得を狙う煌びやかな強調がなされていることもしばしばです。しかしハイデルベルク大学病院のエントリーピッチには全くそれが感じられません。見栄えやウケを気にした様子がなく、しかし、”We”で始まる文章からは、新型コロナウィルスの感染拡大の中、第一線で患者のために戦い、最初の難局を打開した医師たちの、まさに”誇り”が伝わってきました。

We are proud to have led the regional fight against COVID-19 with a quick and efficient solution for optimal management of beds and equipment during the surge of seriously ill patients.

(私たちは、重症患者の急増中にベッドと機器を最適に管理するための迅速かつ効率的なソリューションで、新型コロナウィルスとの地域の戦いをリードしたことを誇りに思います)

ハイデルベルク大学病院

ハイデルベルク城より、ネッカー川対岸のハイデルベルク大学病院を望む

神聖ローマ帝国内でプラハ大学、ウィーン大学に次ぐ3番目として 1386 年に創立されたハイデルベルク大学は、今日、生命科学プログラム、とりわけ医学の分野で国際的な評価を集めています。ヨーロッパで最大かつ最も近代的な医療センターのひとつとして、ハイデルベルク大学病院は、複雑な治療を必要とする腫瘍学やそのほかの専門分野を中心に、最高レベルの国際基準を満たす医療を提供する 40 の専門の科で構成されています。ハイデルベルク大学病院はドイツ国内の国立研究機関と積極的に協力していることから、世界中から患者が集まり、何名かのノーベル受賞者を輩出しています。

SAPグローバル本社のあるワルドルフから近いこともあって、ハイデルベルク大学病院、および連携する国立研究機関とSAPは、これまで多くの医療関連プロジェクトを通じて強固な信頼関係を築いてきました。

先進的医療機関であるハイデルベルク大学病院にとって、パンデミックに際してその配下にある 18 の病院とともにドイツ国内(さらにヨーロッパ)の人々からの期待に応えることは、彼らにとって当然のことでした。これまでに経験したことがない緊急医療案件が急増する中で、可能な限り患者に最適な治療を提供するには何をしなければならないか。彼らは新たな課題には新たな行動が必要だと考えたのです。

自らに課した使命を全うするために

医療スタッフには、増え続ける救急患者が迅速かつ効率的に救命処置を受けられるように、ICUベッドの空き状況を瞬時に把握するすべが必要でした(ちなみにそれはまるで、基幹業務におけるリアルタイム在庫管理に似ていて、彼ら自身も「ベッドの在庫」と称しています)。

単に地域の医療機関の空きベッド情報を集めれば済む話ではありませんでした。既にそれぞれの医療機関の診療科の強みや設備を考慮した、患者の重篤度に合わせた担当医療機関が決められており、重篤度に応じた必要な治療用資材を含めたリアルタイムの空きベッド情報が必要でした。さらに、患者を適切な医療機関に搬送するためには、救急搬送経路を制御するための情報や、それらを州および連邦当局に報告するために、ライン・ネッカー大都市圏全体のベッド占有率の、透明かつリアルタイムの全体概要の情報が必要でした。

ヘルスケアにおける常として、何よりも優先されることはそれぞれの患者に最適な治療を確保することでした。しかし、パンデミックがその使命の達成を複雑にしたとき、彼らはデジタル化に目を向けて、根本的なプロセス改善を加速的に行う決断をしました。これまで強固なパートナーシップを築いてきたSAPと協力して、すぐさま開発に着手。SAP Integration Suite 上の SAP Analytics Cloud ソリューションを使用して、実証実験を経ずに実際のベッド管理に適用するために、スケーラブルで拡張可能なソリューションを構築して関係者に提供することを視野に入れ、将来の改修や強化に対応できるアジャイル開発プロセスに合意しました。それはまさに、パンデミックが浮き彫りにした「新しい課題に対処するため」です。そして、SAP Fiori ユーザー エクスペリエンス ソリューションも活用。これによってデスクトップ、ラップトップ、スマートフォンなどのマルチなデバイスをサポートし、承認されたユーザーが必要なときに必要な場所でリアルタイムのデータにアクセスできるようになります。

稼働したのは1週間後

全てのデバイスを繋ぐ優れたインターフェースを使うことで、踏襲されていた面倒な手動プロセスが置き換えられ、まず25病院の48病棟でリアルタイムにベッドの空き状況の一元化、分析、公開する強力なメカニズムが医療スタッフに提供されました。

最新のデータが患者治療負荷を分散した最適なプランとして提案。その結果、ハイデルベルク大学病院のあるライン・ネッカー大都市圏全域の45の搬送可能な医療機関を対象に、地理情報にマッピングされ統制された救急搬送経路情報が救急車サービスに提供され、医療従事者がタイムリーな情報をもとに人的物的双方のリソースを最大限に生かし、それぞれの患者が適切なベッドと可能な限り最高な治療を受けられるようになりました。

 

「ハイデルベルクとその地域の患者とベッドの分布を一元的に調整することが重要です。リソースをリアルタイムに把握することで、危機の際には限界に達する既存の構造を効率的に軽減することができます。ハイデルベルク大学病院が主導する新たなソリューションにより、必要なデータは常に最新であり、全ての関係者がいつでもどこでも利用可能です。

Professor Dr. Ingo Autenrieth,

Chief Medical Director and Chairman of the Board,

Heidelberg University Hospital 」

システム詳細

提供されたソリューションは、10 個の個別のアプリケーションへの簡単なアクセスを提供する SAP Integration Suite のポータルでした。

  1. ロールのレジストリ管理(病院の管理者とスタッフ用。データ編集および表示)
  2. ロールのレジストリ管理(レポート閲覧者用。さまざまな病院や病棟のデータ閲覧)
  3. 管理者用新規ユーザーのオンボーディング リクエスト管理
  4. 病院の管理者とスタッフによる病棟ごとの患者数とタイプ別ベッド数の編集
  5. 各病院固有要件に基づいた分析①(SAP Analytics Cloudソリューション活用)
  6. 各病院固有要件に基づいた分析②(SAP Analytics Cloudソリューション活用)
  7. Microsoft Excel にダウンロードするオプションを含むライン・ネッカー大都市圏が必要とする病院や病棟全体で収集されたデータ表示
  8. Microsoft Excel にダウンロードするオプションを使用した連邦政府の報告用の各病院のデータ集計
  9. 全病院の全タイプのベッドの収容能力の要約情報
  10. SAP Analytics Cloud へのジャンプオフとして機能するGUI
導入効果

当初の要件を満たしたアプリケーションが提供されたことで、パンデミック発生当初には行き詰まったマニュアルベースの業務プロセスが劇的に置き換えられ、全ての関係者が同じ情報をリアルタイムに共有して患者の治療にあたることが可能になり、医療スタッフのバックオフィス業務の過負荷のリスクが軽減されたことでの質の高い医療サービスの継続的な提供に安心感がもたらされたことは目覚ましい効果です。当初からアジャイル開発を選択したことで、対象範囲の追加変更に柔軟に対応できるだけでなく、今後まだまだ予断を許さない、他の新型コロナウィルス感染地域での公衆衛生保護に適用することも可能です。

2020年9月、ライン・ネッカー大都市圏を対象とした「新型コロナウィルスコーディネーションセンター」が設立されました。ハイデルベルク大学病院で開発されたアプリケーションが中核として活用されていることは言うまでもありません。

推察:SAPから見たハイデルベルク大学病院とのパートナーシップ

前述の通り、ハイデルベルク大学病院とSAPは、これまで医療分野における数々のプロジェクトを通じてお互いをよく知り信頼し合う関係にありました。SAP HANAを活用した悪性腫瘍の診断や治療、スマートフォンとSAP HANAを連携させた妊婦のメンタルケアなど、これまで日本でもご紹介してきました。

ここからは私の推察です。

2020年、新型コロナウィルスの爆発的な感染拡大という未曾有の危機が訪れた際、ハイデルベルク大学病院は、デジタル技術の専門家としてこれまで付き合いのあったSAPに声をかけたのでしょう。診断や治療分野でのプロジェクトで行ってきたときと同じように要件を提示し、できる限り早期のソリューション提示を求めたことは想像に難くありません。そしてその要件とは、SAP側から見ると、いわばこれまで企業の基幹業務プロセス領域で培ってきた、在庫管理、ロジスティクス管理、レポーティング機能に落とし込むことができる、ある意味「餅は餅屋」の経験が活かせる仕事で、それが1週間という驚異的なスピードに繋がったのではないかと、もちろんそんなことはお客様によるエントリーピッチのどこにも書かれていませんが、素晴らしい成果を生み出した背景を想像しました。

不測の事態に直面して成果を上げたことは決して偶然ではない。平素の関係でお互いのスキルもマインドセットも進め方も知り合っていたことがモノを言う。そんなことを考えさせてくれ、希望を持たせてくれた、ハイデルベルク大学病院の取り組みでした。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ハイデルベルク大学病院のレビューを受けたものではありません。

参考:

SAP Innovation Awards Entry Pitch Deck ハイデルベルク大学

SAP News Article : Bed Management in Real Time at the Point of Care for COVID-19 Patients

 

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