基幹業務システムのシンプル化 − 化学業界グローバル企業の動向

作成者:竹川 直樹投稿日:2021年6月22日

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SAPにおける化学業界含めた素材産業のお客様向けグローバルイベントが、2021年4月27〜29日の日程で、オンラインにて開催されました[イベントサイトへのリンク]。隔年で開催しているイベントですが(今回は2020年に予定されていたものがCOVID-19の影響により延期)、前回と同様、多くのSAPユーザー企業が、様々な変革の取り組みについて語りました。当ブログでは、基調講演を行ったEvonikおよびAlbemarleを取り上げ、それぞれ最新のSAP ERPソリューションであるSAP S/4HANAを、変革の取り組みの中でどのように位置付けているか見ていきたいと思います。


Evonikのデジタルトランスフォーメーション

Evonikはドイツに本社を置くスペシャリティケミカルの企業です。100ヶ国以上で事業を展開し、2020年度の売上高は約1.6兆円(€12.2 billion)、EBITDAは2500億円近く(€1.9 billion)に上ります。古くからのSAPユーザーであり、2021年の5月にSAP S/4HANAによる新しい基幹業務システムが稼働を始めました。“NexGen ERP with S/4HANA”、あるいは、“Digital Business Core”と標榜されているこのシステムは、44ヶ国に渡って16,000のエンドユーザーが使用するグローバルレベルでの「シングル」システムであり、Evonikのほぼすべてのビジネスをカバーするものとなっています(cf. 売上高の95%をカバー)。では、なぜ同社は“NexGen ERP with S/4HANA”を必要としたのでしょうか。

Evonikのデジタル変革ストーリー(イベント講演資料より)

今回のイベントでは、同社のThomas Meinel氏が登壇し、以下にあげる3つの“動機(Motivation)”について説明しました。なお、同氏は間接材調達部門の責任者ですが、今回の基幹業務システムの刷新に深く関わっています。

  1. デジタライゼーションを実現し、将来の機会にオープンになる
  2. 業務プロセスの標準化/整流化に注力し、効率性を追求する
  3. 未来志向のテクノロジー、すなわち業務プロセスに組み込まれた分析や機械学習の活用を促進する

「将来の機会」や「未来志向のテクノロジー」という表現からは、機械学習やRPA(Robotic Process Automation)を始めとする、日々進化するテクノロジーからの恩恵を見逃さない、という視点もあると思います。一方で、講演の後半で同氏の所管である調達領域の変革ストーリーでは、デジタル化により組織の役割やプロセスの刷新にもよりよい影響があったことが語られます。すなわち、“Classical Procurement”では、営業やマーケティング、製造部門から“ボトルネック”としてしか見られなかった調達部門が、状況に応じてダイナミックに様々な選択肢を与えうる組織へ変革した事例が語られます(cf. “Dynamic Alternative Sourcing”)。調達先とデジタルに繋がることにより実現できた変革であり、より迅速なプロセスや高い透明性・柔軟性の実現にテクノロジーが寄与していることに言及がありました。業務プロセスや働き方を、より広い視野で見直す「将来の機会」を逃さなかったと言えるでしょう。

その前提ともなると思いますが、今回の取り組みでは、“ベストクラスのビジネスプロセス(Best in class business processes)”の実現が目標として掲げられ、S/4HANAが提供する「業界標準」の活用に言及がありました。また、S/4HANAへの移行の前に、標準機能の活用を見直す(“Back to standard”)ことにも取り組みました。SAPがS/4HANAに順次組み込んでいく機械学習や分析のシナリオは、もちろん標準機能を前提として開発していくものであり、標準機能を活用する方がより迅速に「未来志向のテクノロジー」からの効果創出に貢献することが可能になります。また、分析のシナリオもS/4HANAで可能となったOLTP(Online Transaction Processing: 記録系処理)とOLAP(Online Analytical Processing: 分析系処理)の融合により、モダンなユーザーインターフェースの実現に貢献しています。

なお、グローバルで複数存在していたERPシステムをひとつに統合する取り組みは、今回の取り組みよりも前に行われていました。このシンプルなグローバルシングルシステムにより、買収した多くの事業/企業をより迅速にオペレーションに組み込むことができているようです。

Albemarleのデジタルトランスフォーメーション

Albemarleはアメリカに本社を置く臭素や触媒等の機能化学品を取り扱う企業です。2015年のRockwood社の買収により、リチウム系素材においては世界的な市場リーダーとなっています。2020年度の売上高は約3500億円($3.128 billion)、135ヶ国でビジネスを展開し、グローバルでの従業員数は約6,000人という規模の企業です。Rockwood社の買収を大きな契機として、CIOであるPatrick Thompsonが、デジタルを中核に据えた様々な変革の取り組みをリードしています。同氏が掲げるITのミッションは、“Right Information. Right Time. Anywhere! Empowering our Employees Potential!”という表現がなされています。「従業員のポテンシャルを引き出す」という部分にとても共感します。同社は昨年新しいCEOを迎え、“The Albemarle Way”という変革の取り組みをさらに強化しています。

Albemarleのグローバル・ビジネスIT戦略のフレームワーク(イベント講演資料より)

同社では、ITプログラムは大きく3つに分類され、それぞれ必要な施策が計画立案・実行されていきます。

Program A: ITインフラ(ネットワーク、セキュリティ、コラボレーション等)
Program B: ビジネストランスフォーメーション(※筆者注: S/4HANAはこの位置付け)
Program C: デジタルビジネストランスフォーメーション

そして、 “Program A+B+C = Digital Business Transformation”と語られる通り、デジタルを活用したビジネス変革は、ITインフラや基幹業務システムの変革も併せて考えなければなりません。なお、Program AおよびBに関しては、当初計画の既に80%を実現しているとのことです。S/4HANAは、Program Bに位置付けられますが、同社は2018年にSAP S/4HANAによる基幹システムを稼働させています。“Digital Core”と呼称されるこのシステムが“デジタルビジネストランスフォーメーション”の不可欠の要素となっているわけですが、どのようなシステムなのでしょうか。

Albemarleの基幹業務システムの過去と現在(イベント講演資料より)

先述のRockwood社の買収前は、やはり複数の「似て非なる」SAP ERPが複数存在しており、各事業に固有とされる要件に対応するために多くのカスタマイズが加えられて効率性が低下していました。また、買収した企業の基幹業務プロセスも断片化されており、グローバルレベルでの可視性に問題がありました。そういった状況をS/4HANAの導入により変革したわけですが、結果としては、各事業が共通して活用できるプロセスをグローバルでひとつのシステム(=1ERP)に実装し、またそれによる可視性・透明性の向上に大きな改善がありました。

特筆すべき点として、徹底してS/4HANAの標準機能の活用にこだわったことが挙げられます。“ゼロ・カスタマイズ(no system customizations)”と表現される通り、このプロジェクトでは、導入パートナーであるDeloitte社の“Chemical Best Practices”をベースに、標準機能には殆ど手を加えなかったようです。基幹業務プロセスが他社との「差別化」を生み出すわけではない、とは同社のビジネストランスフォーメーションを管掌するVPも言い切っており(下方に引用)、この基幹業務システムを基盤として“Program C: デジタルビジネストランスフォーメーション”の取り組みで競争優位性に貢献し得るビジネスモデルやビジネスプロセスの実装を想定しているものと考えられます。

ひとつしなければならなかったことは、どうやったら従業員を成長させることができるか、繰り返しの業務や、情報をシステムに入力するだけのような業務から移行することができるかを考えるということでした。私たちはより付加価値の高いタスク、例えば、お客様対応や従業員の能力開発、そしてビジネスにおける継続的な改善をしたいのです。私たちは業務プロセスが差別化に資するとは思っていません。私たちは、製品やマーケット、そして、人々とその働き方が差別化に資すると考えています。

One of the things that we had to do is to look at how do we enable our employees to really move beyond transactions, and to move beyond just inputting information into our system. So we wanted to make it sure that we could do more value added tasks, like taking care of our customers and developing our employees and driving continuous improvements in our business. We knew that our processes did not differentiate us. We knew that our products and our markets, and our people and work differentiated us.

− Larry East, VP of Business Transformation, Albemarle

ちなみに、同社は2020年にS/4HANAをバージョン1610から1809へアップデートしています。その際のテクニカルイシューは、ゼロ(“no technical upgrade issues”)。“ゼロ・カスタマイズ”、“ゼロ・イシュー”ということです。


この2社のセッションからは、デジタルトランスフォーメーションに向けて「基幹業務システムのシンプル化 ≒ 標準機能の最大活用」が必須要件であり、それを満たしながら新しいテクノロジーの活用やデジタル化範囲の拡張、そして、それらを土台としてビジネスにおける競争優位性への貢献を目指していることがよく分かります。SAPとしてはS/4HANAに組み込まれている25業種/業界をカバーする“ベストプラクティス”の適用を、これまでも、そして、これからも訴求していきたいと考えています。

現時点(2021年6月)では、このイベントの各セッションをオンデマンドで視聴することが可能です。ぜひイベントサイトへアクセスの上、当ブログで紹介した内容を深掘りしたり、他セッションでの事例講演やSAPのサステナビリティ関連ソリューションのアップデート含めた多数のコンテンツをご活用頂ければと思います。

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