エンジニアリングとデジタル ふたつのノウハウを持つ強みで新たな価値を生み出すコスタイン(英)

作成者:土屋 貴広投稿日:2021年6月23日

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コスタインは英国内でインフラビジネスを展開するエンジニアリング会社。彼らが参画したプロジェクトには、チャネルトンネル(イギリスとフランス間の鉄道トンネル)、High Speed 2(将来の低炭素輸送にとって重要な高速鉄道輸送)、クロスレール(ロンドンの地下鉄システムの大規模なアップグレード)などがある。今回、英国政府が主導するデジタルプラットフォーム構想のひとつである 「Intelligent Infrastructure Control Center(略称IICC)」への取り組みがSAP Innovation Awards 2021を受賞した。

このIICCは、我が国の国土交通省が主導する「i-Construction」と近しいコンセプトを持つGaaP(Government as a Platform)なのだが、エンジニリング会社であるコスタインが、このデジタルプラットフォーム構想をリードしていることに今までにない新しさを覚えた。日本の建設業界各社が次の成長戦略を模索する中、「専門知識や経験に裏付けされたノウハウにデジタルを融合させ、ITソリューションのみを提供する」発想自体が大いに参考になると感じたからだ。

英国政府のデジタル戦略と運輸省の推進するデジタルプラットフォーム構想

英国政府は国連が発表するデジタル政府の開発状況を示したEGDI(E-Government Development Index)で2016年にはランキング1位を獲得するなど、早期からトップダウンでデータ活用やイノベーション支援を進めるデジタル化推進国のひとつ(2020年の発表では7位)。2011年にデジタル戦略の司令塔となる「GDS(Government Digital Service)」が設置され、政府自体のデジタルトランスフォーメーションも推進している。この取り組みは、顧客視点を徹底させること、手段を目的化しないこと、民間とのコラボレーションを積極的に推進することなど、過去の経験と反省から新たなアプローチを導入したことでも有名である。

そんな英国政府が、公共インフラの持つ体系的な問題に産学官で取り組むために発足させたのが「TIES Living LabTransport Infrastructure Efficiency Strategy Living Lab)」で、このLabから生まれた最初のイニシアティブのひとつが「Intelligent Infrastructure Control Center(略称IICC)」だった。

公共インフラのスマート化を目指すIICC

ロンドン地下鉄、鉄道、主要高速道路などの輸送インフラを持つ運輸省(Department for Transport)の年間支出は約6,000億ポンド(2021/6の換算レートでは約92兆円程度)。同省は、これまでも様々なデータを収集し、支出に関わる全てのプロジェクト管理をサポートしてきた。しかし提供される機能やデータが限定的で、実態は伝統的に多くの作業をマニュアルで対応していた。ただ幸いなことに昨今のデジタル技術の進化により、各プロジェクトから生み出される膨大なデータが利用可能になり、(非効率だった)プロジェクト管理プロセスを再考する好機が訪れた。同時に、環境問題への配慮(二酸化炭素排出量の削減問題、騒音や大気汚染物質問題など)の新たな課題への配慮も必要という認識のもと、IICCでの検討が始まった。

IICCの基本コンセプト
  • 各建設プロジェクトから生み出される膨大なデータを集約し、データを使い建設現場の生産性を向上させる
  • その結果 プロジェクト全体の効率を向上させ、プロジェクト期間・コストを削減する
  • プロジェクト全体の効率が向上させる、環境問題も大きく改善する

それらの背景をもとに具体的な目標が掲げられた。

  • サイロデータを有効化し、建設現場のデータ使用率を30%から80%に高めることで効果的な意思決定に寄与
  • プロジェクト効率の改善により、5年間で1,800億ポンド(または、年間支出の30%)のコスト削減
  • 2050年までにカーボンネットゼロを達成するための二酸化炭素排出量の改善
  • 環境インパクトの透明性を改善し、騒音公害を大幅に削減し、さらに建設時の大気汚染物質削減

これらの目標を実現するデジタルプラットフォーム構想を主導するパートナーに選ばれたのが、エンジニアリング会社の「コスタイン社」だった。

問題解決を主導するコスタイン

政府・行政の志向するところを実現するには、「建設現場の生産性を向上させる」ことが最優先課題なのは明らかだった。ただ、実態を見てみると、建設現場で生産性を改善にデータが活用されている割合は30%以下であり、その有効性すら再認識してもらう必要があった。

コスタインは、データ活用の有効性を認識してもらうには、圧倒的にデータソースが不足していること、個別に出力しているアウトプットに問題があることを指摘した。彼らの持つ専門知識や自身の経験の裏付けされた業務ノウハウ、デジタル活用の知見を用い、使用可能なデータ量を増やしながら、提供する機能の建設現場への有効性を高める方法を検討した。

その結果、以下の機能がデザインされた。

  1. テレマティクス(3D化した建設現場に建設機械の稼働状況、天候、大気質、作業進捗などのパフォーマンスデータをリアルタイム配信)
  2. 支出管理(ブロックチェーン技術を用いたサプライヤー請求照合の自動化など)
  3. プロジェクト管理(現在のタスクの進捗状況、生産性・コスト予測など)
  4. 生産性予測(プロジェクト計画、天候、環境、サプライヤーパフォーマンスなどの要因による生産性予測分析)
  5. Social Value of Carbon
  6. 資産管理(材料などの使用状況)

これらの機能のシステム化は、高度な実装技術を持つデロイト(Keytree)と最新のテクノロジープラットフォームを持つSAPとの共同開発で実行された。コスタインが、このようなテクノロジーパートナーとタッグを組むのは、“自分達はあくまで顧客の持つ問題解決を主導する”立場を貫いているからだ。

導入効果

コスタインが実施した施策は、既に結果も出始めている。

  • データの有効性が改善されたことでアクセスが71%増加
  • 様々なデータを集約したことで監査コストが57%削減
  • サイロ化されていたデータ処理の最適化によりITコストが64%削減

未だ報告された効果は一部ではあるが、このように結果を出しながら経験値を高めていく姿はコンサルティング会社のようだ。また、実装された機能の改善活動は進行中で、今後のリリースに伴う新たな効果報告も非常に楽しみだ。

コスタインからの学び

ここからは、コスタインのケースから学んだ点を共有したい。

繰り返しになるが、コスタインに今までにない新しさを覚えたのは、「専門知識や経験に裏付けされたノウハウにデジタルのノウハウを融合させ、ソリューション提供だけで事業を成立させている」ことだった。

以前に紹介したエンジニアリング企業のVINCI Energiesは、工場やプラント建設というエンジアリング事業があり、そこにITソリューションを組合せることで新たな価値を提供していた。それに対し、今回コスタインは、ITソリューションの提供のみで事業を成立させているのだ。

このことは、ITシステムの構築そのものの能力が自社になくとも、与えられた問題(課題)に対し、業界知見やデジタル技術の活用ノウハウを活かし、最短で成功に導ければ、事業として成立することを意味している。実際、彼らもデジタル技術の実装部分はパートナー企業と協働しており、全て自前化する必要はないのだ。重要なのは、自分達の強みを何にするのか?であり、経験を以ってその強みを進化させていくことだと思う。

ただ、これだけでは不十分で、今回のようなパートナーシップを成功させるためには鉄則がある。出所も言語も違う同士がシナジーを作るためにはお互いの言語を理解し、要件を伝え、議論を円滑にファシリテーションできる能力が不可欠であり、これらのコミュニケーションを主導する主役となる必要がある。さらに言えば、それを持たない場合、自社の価値を使われるだけに終わり、このパートナーシップは成立しない。

コスタインの場合は、培ってきた業界知見やエンジニアリングのノウハウに加えて、日々進化するデジタル技術の双方を理解する人材が存在し、彼らの強みとなっている。

コスタインが強みとする部分が、彼らの戦略の中に記載されていたので紹介する。

Source : COSTAIN Annual Report 2020 Highlight

上図はアニュアルレポートの中で表現されているサービスポートフォリオで、円の中心にあるパーパス(目的)を推進している2つのイネーブラーが存在する。

  • Digitally optimization(デジタルで最適化)
  • Leading edge solutions(常に最先端のソリューションを提供)

“デジタルのノウハウを自分のものとすることで、常に顧客の期待値を超えていく”とも解釈できるこれらふたつは、彼らが提供する全てのサービスに適用される考え方であり、企業活動を行う上で避けては通れないモノになっている。

“150年以上の歴史を持つ企業に新たな価値観を浸透させるにはこのやり方しかない “との見方もできるが、今回コスタインが実現したのは、 “デジタルを自分の強みとすることで新たな価値を生み出した”ことに違いなく、加えて新たな事業展開の可能性を提示したパイオニア企業でもあった。

今後、日本の建設業でもコスタインと同じ戦略で頭角を表す企業が登場するかも知れない。その際には、我々がパートナーとして選ばれる企業でありたいものだ。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、コスタイン社のレビューを受けたものではありません。

参考:SAP Innovation Awards Entry-Pitch Deckコスタイン

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