馬術競技から見たデータの持つ可能性 – Equiratings社が開いた新たな扉

作成者:佐宗 龍投稿日:2021年6月23日

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馬術競技とは

馬とスポーツというと、皆さんは日本では日本中央競馬会(JRA)などが主催する競馬を思い浮かべると思います。しかし競馬はオリンピック種目にはありません。オリンピック種目として採用されている馬術競技は、タイムを競うだけのものではなく、馬に騎乗して運動の正確性や美しさを競うものとなっています。また馬術競技はオリンピック種目の中で、唯一動物を使用する競技でもあり、更には男性と女性の性別を分けずに行われる唯一の競技でもあります。馬術競技のオリンピック種目としては、馬場馬術(ドレッサージュ)、障害飛越競技(ジャンピング)、総合馬術(イベンティング)の3競技があります。1932年のロサンゼルスオリンピックでは、西竹一選手が障害飛越競技において、馬術競技として唯一の金メダルを獲得しています。また選手(騎手)は馬に正確な競技をさせることが一番の競技力となるために、選手寿命が非常に長い競技としても知られており、2012年のロンドンオリンピックに71歳で出場された法華津寛選手は、1964年の東京オリンピックにも選手として出場をされていました。

読者の皆様の中に、馬術競技をご覧になった方はいらっしゃいますでしょうか?残念ながら馬術競技はTVの中継もほとんどなく、さらには自分で体験することの敷居の高さもあり、日本では正直なところメジャーな競技ではありません。筆者も正直なところSAPでのスポーツビジネス関連の仕事に携わるまでは、競技についての知識はほとんどなく、試合も見たことはありませんでした。そんな中でSAPがスポンサーをしているCHIO Aachen(チオ・アーヘン)という世界最大規模の馬術大会に行く機会があったのですが、5万人以上の観客を集める大会の規模の大きさと、それを受け入れる競技施設の大きさ、街をあげての盛り上がりに大変驚きました。ヨーロッパにおいては、かなりの人気競技のひとつであることを認識しました。

馬術競技におけるSAPの取り組み

さて馬術競技においても、競技面、運営面、ファンエンゲージメント面と様々な点において、国際馬術連盟(La Fédération équestre internationale:FEI)が主体となって、デジタル化を推し進めています。SAPはFEI及びCHIO Aachenのスポンサーシップや、5度オリンピック出場し、金メダルも獲得しているIngrid Klimke(イングリッド・クリムケ)選手のサポートも行っています。SAP自身もFEIなどの競技団体やパートナー企業と一緒に様々なデジタル化の取り組みをしてきました。その一例としては、

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Live Tracking

GPSデバイスなどの各種センサーなどのIoT技術とアクションカメラを活用することで、ファンに新しい観戦体験を提供するサービス

 

Spectator Judging

観客が自席にいながら競技の採点を行い、ランキングをリアルタイムに可視化するアプリ

Equestrian Quiz

ゲーミフィケーションにより、ファンが競技や大会のことを学びながらポイントやバッジが獲得でき、ファンに馬術競技をより身近に感じてもらうためのアプリ

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などがあります。それぞれの取組みにおいて、選手やコーチ、チームに対しても競技力の向上に繋がるデータや分析を提供したり、ファンにデータや映像を活用した新たな観戦体験を提供してきました。

Equiratings社の取り組み

今回SAP Innovation Awards 2021を受賞したEquiratings社は、馬術競技においてデータ活用を中心としたサービスを協会、チーム、選手、ファン向けに、SAPと共に提供してきた会社です。その中でも有名なサービスとしては、Eventing Prediction Centreというサービスがあります。このサービスは3つの種目で競う総合馬術向けのサービスです。統計モデルを用いて、試合前および試合中のデータをもとにして、大会結果の予測をおこなうアプリケーションです。数学的な解説はこのブログの趣旨ではないために詳細は割愛しますが、SAP Analytics Cloudの予測モデル(ロバスト回帰)を用いた各競技のパフォーマンスの予測モデル、モンテカルロシミュレーションを用いた全競技を通じた勝率予測などを算出し公開しています。
もし分析の詳細にご興味がある方は、こちらのEquiratings社のHPをご確認ください。

伝統的な競技へのデジタルの適用を適用した新たな価値の提供

コロナ禍ということで、2020年は馬術競技についても、数多くの大会が中止を余儀なくされました。様々なスポーツがコロナ禍において、ファンやスポンサーに価値を提供するために試行錯誤を繰り返してきましたが、馬術競技においてその役割のひとつを担ったのがEquiratings社の新たな取り組みであるEventing ManagerというiOS/Android向けのアプリケーションです。

ファンタジースポーツというゲームを皆さんはご存知でしょうか?日本ではまだ馴染みが薄いですが、このゲームは自分の好きな実在する選手達を集めて架空のオリジナルチームを作るシミュレーションゲームです。選んだ選手の実際の成績と連動しチームのポイントが変動するもので、MLB(野球)やNBA(バスケットボール)では数多くの人々がゲームに参加しています。優秀な選手を選ぶことで、それだけ強いチームが作れるわけですが、実際の試合と連動するために、選手の好不調を見分けるということが一番重要になります。そのために参加者はリーグ等が公開している様々なデータを分析することで、選手を比較し、自分のチームを作り上げていきます。

通常のファンタジースポーツでは、大会や試合が開催されている中で、選んだ選手の本当の成績により、参加者の順位をつけているのですが、Equiratings社の取り組みは、コロナ禍において、大会が開催されていない中でも、アナリストやデータサイエンティストが構築した過去のデータに基づいた予測モデルにより、仮想の大会を開催するという点、伝統的な競技である馬術競技のファンに対して、シミュレーションされた競技の概念を持ち込むという点で非常に斬新な取り組みでした。現在は一部で物理的な大会が再開されているために、Eventing Managerは通常のファンタジースポーツのアプリケーションとなっています。

また競技団体や大会主催者の視点においても、サポートしてくれるスポンサーへの価値提供というのは非常に重要です。従来のように大会が開催されていれば、企業ロゴの露出や大会期間中のホスピタリティプログラムへの参加などでの価値提供ができていました。今回のような仮想の大会においても、同じようにスポンサーに価値を提供することをEquiratings社は考えており、Eventing Managerのアプリケーションの中にサーベイ/アンケートツールであるQualtricsを組み込みました。アプリケーションの利用動線を考慮して、埋め込まれた設問により、50%以上という非常に高い回答率を実現しています。

このようなデータを活用した新しいアプローチにより、競技そのものの新たな可能性を見出しただけではなく、ファンエンゲージメント領域でのデジタル化を更に進め、馬術競技の人気向上や新たなファンの獲得、コロナ禍での新たな競技観戦のあり方やファンの関わり方を提供した同時に、「21世紀の石油」とも言われているデータの可能性についても新たな示唆を与える取り組みではないでしょうか。今後の動向が非常に気になります。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、Equiratings社のレビューを受けたものではありません。

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