急速なグローバル化の進展で求められる日本型人事制度からの脱却

作成者:鎌田智之投稿日:2013年7月17日

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こんにちは、SAPジャパンの鎌田です。5月24日に東京・霞ヶ関のイイノホール&カンファレンスセンターで開催された「SAPグローバル人材フォーラム2013 第4回 グローバルリーダー育成の取り組み~人事部のあり方と可能性」でのセッションをご紹介していく本連載。最終回は、一橋大学大学院 商学研究科 教授 守島基博氏をモデレーターに迎え、事例講演のゲスト2名およびSAP ジャパンが参加して行われたパネルディスカッション「グローバルリーダー育成における人事部のあり方と可能性について」です。

前回まではこちら
キッコーマンのグローバル人材育成にみる老舗メーカーのDNA(前編)
キッコーマンのグローバル人材育成にみる老舗メーカーのDNA(後編)
国籍や性別等で区別しない、公正な実力主義を重視するJTグループの人財マネージメント

人事はこれからの企業経営における新たな戦略課題

617062.TIF冒頭、フォーラム全体の総括として守島氏は、「グローバル人材マネージメントとは、単純に言ってグローバルスケールでタレントマネージメントを行うこと」だと言及。そこでは、一人ひとりの人材が極限までその能力をビジネスの成長や戦略に合わせて活用できる環境作りと能力育成が求められると語った。

「しかし、その具体的な施策は企業の戦略タイプやビジネスモデルによって異なります。そこでまず自社のグローバル化がどのタイプであり、それに必要な施策は何かを見極めることが大変重要になってきます」

この考えに基づき守島氏は、グローバル人材マネージメントで求められるポイントとして、①現地人材の育成・活用 ②リーダーの確保 ③組織開発の必要性、さらにその先の課題として、④無国籍タレントマネージメントの4つを挙げ、「今回の事例講演に立たれたキッコーマンならびに日本たばこ産業(JT)も、それぞれ自社の戦略やポリシー、そしてグローバル人材マネージメントの進捗度合いに合わせて、それぞれ独自の展開を行っているのがわかります」と話しました。

本連載、「キッコーマンのグローバル人材育成にみる老舗メーカーのDNA(前・後編)および「国籍や性別等で区別しない、公正な実力主義を重視するJTグループの人財マネージメント」を参照。

たとえば現地人材の育成だけで見ても、キッコーマンはまず、日本人の人材をどのようにグローバル化していくかということが大きなテーマになっていて、そこにかなり大きな投資を行っています。これに対して、JTは国際的なM&Aの展開で得たグローバル人材を生かし、JTIという海外事業組織を核に、最初から各国の現地スタッフによる業務を展開しているといった違いが見られます。リーダー育成についても同様で、こうした対照的な人材環境によって、おのずと各社にふさわしい、また目指す方向性はそれぞれ変わってくると思われます。

さらに人材マネージメントの前段階として、基盤となる組織開発の重要性も見逃せません。それには「自社のDNAや理念の共有化」、各人に対する配慮や称賛を通じた「会社のファン作り」、そして多種多様な人材が意思を疎通させコラボレーションするための「コミュニケーションの仕組み」などが必要だと守島氏は指摘します。

「また、これらの先には、無国籍タレントマネージメントという課題も待っています。これはかなりハイレベルの取り組みが要求されますが、本当の意味でのグローバル化を進めていく上では、当然取り組むべきテーマです」

守島氏は、「今、人材マネージメントを再び戦略課題として積極的に取り組んでいくべき時期に来ています。グローバル人事は企業の最優先の戦略課題の1つであり、グローバル化の成功は人材の確保にかかっています」と説き、綿密な戦略のもとでビジネスサイドとの協力関係を築きながら、焦ることなく着実に進めていく必要性を改めて強調しました。

明確な職責を与える一方、適材適所かどうかの見極めも大切

パネルディスカッションには、モデレーターの守島氏に加え、事例講演で登壇したキッコーマンの人事部長を務める松崎毅氏、JTの執行役員で人事責任者の佐々木治道氏、さらにSAPジャパン ソリューション本部 ディレクターの南和気の4名が参加しました。

まず、グローバル人材育成の体系を作る上でどのような苦労があったかとの守島氏の問いに対し、松崎氏は単なる研修ではなく職責を与えることの重要性を指摘します。

「最初に育成対象者を“研修”として海外に武者修行に出そうとしたところ、経営トップから『責任と権限を与えないと育たない』ということをかなり強く言われました。そこで、改めて正式の職務と責任を伴うポジションを与えて派遣することになりました」

体験自体が目的になりがちな“研修”ではなく、あくまで現地の人々との取引や職責といった関係の中に身を置くことで、学ぶ側の意識も大きく変わります。さらに松崎氏は「企業の一員として派遣する以上、きちんとした職責を与えて出すことは、周囲への説得力という点でも好ましい」とメリットを語る一方で、「適切な機会やカリキュラムであれば、いわゆる研修にも十分な効果はあると、私自身は感じています」と、適材適所のプランならば有効である点も付け加えました。

また佐々木氏によれば、海外だからといって英語ができる人材が仕事もできるわけでもなく、各人の資質を見極めることが非常に大切です。

「当社の場合、研修や職責にもいろいろなパターンがあって、特に若手対象では無理と思えるほど高いレベルを要求するものもあります。しかし、そこで頑張って育つ人間は将来大きくなる可能性を持っているものです」

反対に、研修前の時点ではやや能力不足でも、人柄と周囲との信頼関係で育ち、帰国後には立派なマネージャーとして活躍できる例もあり、ここでも育成にあたる側の見極めと適材適所の配置が重要であることがわかります。

「キッコーマンでも、海外に赴任した最初は営業なら営業現場の一員として経験を積ませ、いったん帰国してまた仕事をした後、今度はマネージメント層として再び海外に出て行くといったプロセスを経ています。そうした人材教育という観点からすると、人材育成にとって適切な段階を経るというのは大事なのではないかと思います」(松崎氏)

急速なグローバル化にふさわしいリーダー育成が急務

273955_l_srgb_s_gl守島氏は、各社のリーダー育成の取り組みに質問を移し、17人の経営ボードメンバーのうち15名が外国籍というJTIがどのようにリーダーを選出し、また日本たばこ産業も親会社としてコントロールしているのについて質問しました。

「基本的に、業務執行についてはかなりの権限を彼らに渡してあります。JTが関与するのは、予算・計画や大きな投資、執行役員人事など、きわめて限定的な、経営に関わる範囲に限られます。同時にトップ同士の意思疎通やコミュニケーションはかなり盛んですし、もちろん技術やノウハウの提供も積極的に行っています」(佐々木氏)

スイスに海外たばこ事業の世界本社を置き、多くの外国人リーダーを擁する同社とは対照的に、キッコーマンでは本社機能を中心にした海外展開をこれまで進めてきました。このため、現在は現地法人のトップの多くを日本人が務めていますが、松崎氏は将来的な現地化への移行を示唆します。

「多くの現地法人は現地人のリーダーに移行していくと思いますが、現在はあくまでそのための過渡期と認識しています。日本人がリーダーを務める現在は第1ステップで、近い将来訪れる第2ステップでは、現地の人々がリーダーに就任してゆくはずです」

ただし長い実績を持つ現地法人では、その国の人材がリーダーを受け継ぐことも容易ですが、インドやロシア、南米といった今後新しく開拓していく市場の、最初の現地法人のリーダーはやはり日本人が務めることになります。松崎氏はそのポストのために、現在30~40代の現地中堅社員を急いで次世代のリーダーに育成しなくてはならないという危機意識を強く持っています。

「急速にグローバル化が進む中で、若手はもちろんのこと中堅層についても、早急にリーダー育成を行わないと間に合いません。今年工場設立40周年を迎えた米国では、その長い歴史を通じてすでに相当数の人材が育っています。今後他の地域もそれを手本に伸びていくと考えていますが、それにはやはりグローバルで通用する実力を持った日本人が、最初の地盤固めをしっかりと行う必要があるでしょう」(松崎氏)

SAPジャパンの南は、リーダー育成を戦略課題としてさまざまな取り組みを進めている自社の事例を紹介。リーダーにはビジネスを適切かつ強力に進めていく実務遂行や責任能力に加えて、現地の人々や企業と厚い信頼関係を築けるコミュニケーション能力などが問われます。

「特にリーダーとなると、受け入れる側の現地法人もどんな人材なのかを、一般の社員以上に強い関心を持って見ています」と南は語り、赴任先で能力を伸ばすことに重点を置かれる若手教育に比べ、リーダー育成では派遣前の段階から適性と能力に優れた人材を選抜する重要性を指摘します。

グローバル人材育成の基盤としてタレントマネージメントを推進

最後に、守島氏から出された「日本企業にとって、グローバル人材育成における突破点は何か」との問いに対して、松崎氏は今年大きく動くのはタレントマネージメントだと明かします。

「まずは、人材管理のためのデータベース構築から始めていこうと考えています。現在は、タレントマネージメントをグローバルで実践していくにはどういう方法やそのための仕組みがあるかといったことを、SAP の意見などをもとに検討しているところです」

具体的には、まず上位幹部をある程度把握し、その情報をもとに日本や海外同士のコミュニケーションを進めていくのを第1ステップとします。その後、各人材のデータを広く把握した上でグレードの標準化のステップへと進み、最終的に評価の標準化や人材の交流までやり遂げてこそ、本当の意味でのグローバルマネージメントが達成できると松崎氏は力強く語ります。

一方、佐々木氏はグローバルマネージメントやタレントマネージメントを推進していく上で「いかに早い段階から育成していくか?」を最重要ポイントの1つに掲げます。

「これまで日本では新卒から白紙の状態で教育を始め、キャリアを積み重ねながらステップアップさせてきました。しかしグローバルな事業環境では、そうした日本人的な育成の時間感覚の中から這い上がってくるのを待つのだけでは間に合いません」

徹底した実力主義の中で成長し、ステップアップするハイポテンシャルな人材と対等以上に渡り合えるグローバル人材を日本でも多数育成しなくてはなりません。

「こうした人材を早い段階から育成して、十分なパフォーマンスを生み出すには、これまでの日本型の育成方法では限界があります。そこを打開する新しい育成プログラムと、その基盤となるタレントマネージメントは不可欠です」と佐々木氏は語り、今後のグローバル人材育成強化への決意を語りました。

またディスカッション終了後は、パネラーへの質疑応答の時間が設けられ、満席の出席者との質疑が続く中、残された時間を惜しみつつの閉幕となりました。

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