アナログ企業のDXは面倒で難しく実現には時間がかかる。だから最初からデジタル化を必須とする米モデルナ社

作成者:神山 峰郎 投稿日:2021年7月14日

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新型コロナワクチンで先陣を切って注目されているメッセンジャーRNAテクノロジーの可能性はどれほどあるのでしょうか?
mRNAの適用疾患
上の図はモデルナ社が計画しているmRNA技術が適用可能な疾患をグループ毎にマッピングしたものです。コロナウイルスだけではなく分子レベルで個人化されたがん免疫治療、動脈疾患、テング熱、ジカ熱、鳥インフルエンザなど多種多様な疾患治療への適用が計画されています。これらがmRNAのコードの書き換えだけで可能になるという点がデジタルプラットフォーマーと自らを規定する同社の所以で、製薬業界におけるテスラと称させる理由がよく分かります。

2021年7月12日に配信されたSAP SAPPHIRE NOW Japan~DX最前線の基調講演を行った米モデルナ社のCDOマルセロ・ダミアニ氏は、同社のDNAともいえるDXについて以下のように基調講演の中で語りました。

「私は、前の会社でもモデルナのCEOステファン・バンセルと一緒に仕事をしていました。
そこで私たちが学んだことは、デジタル変革は面倒で、実現するのが難しく、時間がかかるということでした。
なぜなら、やろうとしていることは、人々の仕事のやり方やプロセスを変えることであり、
そのような変化に対する抵抗が大きいからです。
また、私たちが学んだことは、変革に取り組む前は、データがサイロ化していたり、
複数のシステムに分散していて不正確であったり、
データを利用するための信頼できる情報源がなかったりするということでした。
私がモデルナに入社した時にやりたかったことは、モデルナという企業の性質上、
学習が重要であり、品質が重要であり、効率が重要であることから、
私たちが見てきたことや、過去の経験をきちんと回避し、
最初からデジタルにすべてを統合して構築することでした。
なぜなら、無駄のない効率的なスケールアップは、将来的に後付けするよりもはるかに簡単だからです。」

米モデルナ社オフィスR&D部門と管理部門がオープンにつながるモデルナ社オフィス

「私が入社した2015年当時の当社は100人程度の非常に小さなバイオテック企業でしたが、
デジタルへの投資は実に深謀な選択でした。
デジタルに1ドル投資する代わりに、R&Dに投資すれば、研究のペースを速めることができるからです。
しかし、私たちもは、研究のペースを速めるためには、デジタルへの先行投資が必要だと考えました。
そして、この理念は現在も変わっていません。
なぜなら、統合されたデジタル企業は、サイロ化されたデータや
自動化されていないプロセスを持つアナログ企業よりも
はるかに多くのことを達成できると確信しているからです。」
(※ 現在の従業員数は2,000名を超えている)

ダミアニ氏はCDO以外にChief Operational Excellence Officerも兼務している。SAPがその利点と困難さについて質問したところ以下のように答えている。
(私が二つの役職を兼務している理由は)プロセスをデジタル化する際に、
マニュアルで行っていたプロセスをデジタルの世界で再現したくはないからです。
これでは意味がありません。
非効率であれば非効率なままですし、非効率なプロセスをデジタル化することで
さらに悪化することもあります。
私たちが望んだのは、プロセスをデジタル化すると同時に、
そのプロセスが達成すべきことに最適であるかどうかを見極めることでした。
そして、この2つの帽子を持つことで、デジタルプロセスによる環境を徹底的に構築することができるのです。」

モデルナ社Chief Digital & Operational Excellence Officerマルセロ・ダミアニ氏
「グリーンフィールドからスタートしたことは幸運だったと言えるでしょう。
小さな会社だったので、プロセスはあまりありませんでした。
幸運だったのは、最初からすべてのプロセスを非常に効率的な方法で導入できたことです。
これは、CEOのステファンと私が前社での経験から学んだことですが、
プロセスの構築を始めて、後からデジタル化するという戦略は避けたいと考えていました。
私たちは初日から、正しいプロセスをデジタル化し、
そのプロセスが無駄なく効率的であること、そしてどのようにデジタル化するのかを確認しました。」

「簡単なことのように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。簡単な仕事ではありません。
実際、課題は山ほどあります。私たちがそれを達成できた秘訣は、何度も何度も繰り返し、
ミスやエラーを経験したことだと思います。
何度も繰り返しましたが、私たちは目に見える形で何かを実装し、
それを何度も繰り返して改善していきたいと考えていました。
初日にすべてが完璧になったわけではありません。
正しい方法を手に入れるまでには時間がかかりましたし、何年もかかった部分もあります。
究極的には、ビジネスが何を達成しようとしているのかをよく理解し、密接に協力することが重要です。」

同氏による基調講演のハイライトをご覧ください。

ハイライトではなくSAP SAPPHIRE NOW Japan~DX最前線の全編見逃し視聴ご希望の方は こちらから お申し込みください。基調講演のモデルナ社マルセロ・ダミアニ氏の講演の他にIDCジャパン寄藤幸治氏による講演などが見逃し視聴が可能です。

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