【SAPイノベーションフィールド福島の挑戦】第3回:プログラミングから始まる持続可能な教育作りの秘訣に迫る

作成者:SAP イノベーションフィールド福島投稿日:2021年10月27日

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全5回の記事で構成される「SAPイノベーションフィールド福島の挑戦」シリーズ。第3回の本記事では、SAPイノベーションフィールド福島における「教育」領域に迫りたいと思います。SAPジャパンは2020年9月、地域のNPO団体らと共に福島県会津若松市に、小中学生向けICTプログラムの実施拠点 「寺子屋Hana」を開設しました。

そこで本ブログでは「寺子屋Hana」の取り組みを、SAPイノベーションフィールド福島所長である吉元宣裕と「寺子屋Hana」を一緒に立ち上げたCODE for AIZU創設者・総務省地域情報化アドバイザーである藤井靖史氏とのインタビュー形式により、インターン生目線でご紹介します。本ブログを通して、地域が抱える教育課題について考えるきっかけとしていただけると幸いです。

寺子屋Hanaの風景

寺子屋Hanaの風景。
IchigoJam(イチゴジャム)という手のひらに乗せられる大きさのプログラミング専用こどもパソコンを使用したプログラミング学習では、3Dプリンターやレーザーカッターを使用したデジタル工作を実施中

寺子屋Hana発足の経緯 ~地域からの信頼をイノベーションに結び付ける~

――吉元さんは会津若松市を拠点に「ものづくり」「教育」「イノベーション」の3つの領域で地域課題解決に貢献されていると思います。その中でも「教育」の領域で吉元さんが実現したいことは何でしょうか。

吉元:「教育」に関しては人材の育成もそうなのですが、どちらかというとIT教育を通じて地域の信頼を獲得し、イノベーションの土台作りを進めたいという想いがありました。特にSAPはB2Bビジネスを中心にする企業ですので、市民や一般消費者の方との直接の接点は非常に限られており、地域の方からの信頼を得るのは簡単ではありません。

――具体的にどのように進められたのでしょうか。

吉元:当初SAPがCSR活動としてやらせていただいているプログラミング教室を、地域の小中学校に提案することから始めました。するとプログラミングが必須科目になるということで想定以上のニーズがあり、各学校から平日の授業の中でやって欲しいとリクエストをいただきました。ところが、平日にSAPの社員を東京から毎回呼んで実施するというのは現実的ではありません。そこで、地域の人による地域の人のための教育活動の仕組みを構築することにしました。ちょうどSAPでは福井県鯖江市で「Hana道場」の立ち上げを支援させていただいた経験があり、このノウハウを会津に持ってこれないかということを考えました。そして地域の人による活動を推進するにあたって最初に相談させていただいたのが藤井さんだったわけです。

* SAPプレスルーム :SAPジャパンとエル・コミュニティ、福井県鯖江市にHanaオープンイノベーション道場開設、地方創生を支援

藤井:ちょうどいいタイミングで吉元さんからお声がけいただきました。寺子屋Hanaのプロジェクトを始める前から、Coder Dojo Aizuの活動が盛んで、ボランティアの皆様が集まって子供達にプログラミングを教えていました。しかし、ボランティアは善意で成り立っているので、活動を支えるものが少ないです。プロジェクターなど備品が買えない、機材の置き場所など難点が多々ありました。そこで、SAPも含めた色々な組織を巻き込みながらのプロジェクトになることで、子供達にプログラミングを教えるという活動を持続的に行えるのではないかと考えたことが、寺子屋Hana 発足のきっかけです。

――短期的な結果ではなく、将来を見据えた長期的視点を意識しながら、いかに地方の課題を解決していくかを考えていらっしゃったのですね。私たちSAPのインターン生から見ても、SAPの事業はCSRに関わらず長期でのリターンを考えて活動しているのが印象的です。では、なぜプログラミングに特化した活動にしたのでしょうか。 

藤井:地域の良さを生かすことができると考えたからです。会津にはICT専門大学の会津大学があるにも関わらず、新聞などのメディアでは「会津地域のプログラミング教育は遅れている」と書かれてしまう状況でした。当時私は准教授として会津大学に所属していたので、やれることからやっていこうとなったのです。
SAPイノベーションフィールド福島 所長 吉元宣裕 紹介

地域の人による地域の人のための活動へ ~住民を顧客にしない課題解決方法論~

藤井: 持続可能な方法という観点で追加すると、寺子屋Hanaを併設しているフリースクール「寺子屋方丈舎」の卒業生にも多く手伝ってもらっています。自分1人で頑張るより、そうした地元ならではの輪の広がりが、寺子屋Hanaが持続可能な活動になっている理由な気がします。

――人とのつながりを大切にされて活動が広がっていくのって素敵です!寺子屋Hanaは複数の組織による共同開設ですが、その一つであるSAPジャパンに対して、どういった点に共感されて一緒に活動することになったのでしょうか。

藤井:課題解決は現地の人が取り組むべきだ、という点に共感しました。なぜなら⻑期的な視点で考えて、それが地域の資産になるからです。 よくあるのが、企業の社員が地方に来てプログラミング教室のようなイベントを開催する、というものです。それも良いのですが、それは一時的なものであって、地域にノウハウが残りにくく、受動的になってしまう。これまで地域で活動されてきた方からしても、ライバルが一時的に現れてしまい競合してしまうことになります。これでは、ただでさえリソースの少ない地域の力が分散されてしまい課題は解決されません。

吉元:コロナ禍の中でも休むことなくプログラミング教室を実施できているのは地域の人による取り組みにしたおかげだと思います。本質的な課題は地方と都市の格差問題な訳ですが、格差を埋めるためには地方が自立する必要があります。外から企業が入ってきて短期的にボランティア活動を行うだけでは、本質的な課題の解決にはならないと考えています。

――確かに、社会課題は複雑であり、一時的・表面的な取り組みでは根本的な解決には至らないですよね。住民に当事者意識を持たせるためにはどのようにしたらいいのでしょうか。

藤井:ポイントは、地域が顧客にならないことです。課題解決をしてあげる(してもらう)関係ではなく、もともと主体的に動いていた方々と協力するべきです。主体的に自律的に動ける人がたくさんいる町がスマートだと考えますし、その方々をサポートするためにテクノロジーを使っていくべきです。SAPとなら、地域の主体性を育む土台づくりができると思いました。

藤井靖史氏の紹介

温度差から課題を導き出すお味噌汁理論 ~対話を通じて個々の想いの温度差に注目~

――新しいプロジェクトを地域で生み出す場合、住民との信頼関係は肝ですよね。信頼関係はどのように構築してプロジェクト化に繋げられたのでしょうか。

藤井:持論である「お味噌汁理論」に基づいて話すと、まずは対話を通して地域課題に関する温度差を見つけ、そこから対流を起こすことがイノベーション創出に繋がると考えています。つまり、まずは地域住⺠が主体となって話し合える場を設けることが必要だと思います。

「お味噌汁理論」。温度差があって交流ができ、構造ができる
「お味噌汁理論」。構造が沸き起こる状態とは

――確かに熱いお味噌汁は温度差の違いから常に模様が動いていますね。SAPジャパンに限らず地域でビジネスを生み出そうとしている組織は、対話を通じて地域住民と自分たちとの温度差を見つけることが鍵のように感じます。寺子屋Hanaは対話を通した土壌作りから始めたが故に持続性ある活動になっているのですね。 

藤井:そうですね。ついつい構造作りから入ってしまいがちですが、私は対流している状態(人々が信頼関係で繋がれている状態、安心な場で議論できる状態)である土壌作りを一番に大切にしています。一人ひとりがどういう想いをもって社会課題に向き合っているのかを自らの耳で聞き、想いを汲み取ることが大事なのではないでしょうか。

――そもそも土壌がないと新しいイノベーションの種すら育ちませんよね。この考えを社会課題解決と置き換えた際、実現するのが難しくなる原因は何だと思いますか。 

藤井:多くの人において、何事も構造から入るという仕組みが定着しすぎてしまっているのはありますね。高度経済成長期はそれでよかったんです、経済という対流が順調でしたので。現在は経済が成熟しており、対流から考えていく必要があります。
よく「どうやって人を巻き込んでいるんですか」と聞かれるのですが、何もしていないのが正直なところです(笑)。構造は対流から自然とたち現れると感じています。組織や構造物を中心とするのではなく、一人ひとりを中心に、個性がつながるようなネットワーク型に活動することが持続可能な活動方法のポイントだと思います。

寺子屋Hanaの今後の展望 ~新しい教育のあり方を見せていく場~

――最後に、寺子屋Hanaの今後の展望について教えてください! 

藤井:Hana道場はすでに多くの方にご協力いただいている活動に発展しており、年齢・地域の幅を超えて地域とつながっています。私は小学校を回るなどして裾野を広げる活動をしています。このように、地域の様々な動きが有機的につながり、お互いに補完しあうような関係になっていくと感じております。自分がやりたかったことは社会の仕組みづくりを根底から変えること、構造から入るパターンから脱却し、対流から構造を紡ぎ出すパターンへの変革です。Hana道場もこのパターンの一つだと思います。これまで培ってきたノウハウや経験を活かして挑戦し続けていきたいです。

吉元:寺子屋Hanaで育った地域の子供たちが、次世代の地域の担い手となってもらえたら最高ですよね。例えばものづくりの領域でお話しした中小企業の低い生産性、デジタル化の遅れについても、中小企業が共通利用可能な業務プラットフォームを構築・提供するだけでは実はまだ不十分で、このプラットフォームを使いこなせる人を育成することも大きな課題です。寺子屋Hanaで巣立った地域の子供たちが地域の生産性向上に貢献する、こういうサイクルを生み出していきたいですね。
 

編集者の想い:

木村優希


今回のお二人のお話を通して、持続可能な形で地域発展を目指すには基盤となる「対話」が重要であるとしみじみ実感しました。特に「住民を顧客にしない」という言葉がとても印象に残っています。いま何に困っているのか、それはなぜか、それをどうしたいと感じているのか・・・一人ひとりの住民が抱える心のうちと対等に向き合う姿勢を企業は忘れてはいけないように感じます。藤井先生のお味噌汁理論は日常にも活きることが多く、確かにと納得することばかりでした。引き続き寺子屋Hanaがどのように進化していくのか見続けていきたいと思います!

角口友菜


お二人へのインタビューを通して、この取り組みの特徴は、地域の特性を生かしながら、住民主体で課題解決ができるよう促している点にあると感じました。そうすることで、一時的な課題解決ではなく、地域に根差した持続的な取り組みとなり、地域の発展にも繋がるのではないか、と思います。CSR活動に限らず、課題解決は短期的な視点だけでなく、解決した後はどうなるのかという長期的な視点も含めて考え、取り組むべきものだと改めて感じました。今後の寺子屋Hana、そして会津若松地域がどのように発展していくのか、とても楽しみです!

次回はゴミ問題をテーマに会津若松市役所職員の方とディスカッションします。
読者の皆さま、どうぞお楽しみに!

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