調達・購買機能を強化する企業の動きが加速。コロナ禍で急激に進むDXとグローバル化に対応
作成者:SAP Japan イベント 投稿日:2021年9月10日
7月14日にオンライン開催されたSAPPHIRE NOW JapanのProcurement(調達・購買)トラックでは、「守りから攻めの調達・購買へ」と題して、SAP Aribaの活用を中心に調達・購買機能を強化したSAPのユーザー各社の事例紹介が行われました。荏原製作所、ヤマハ発動機、ポルシェジャパン、宇部興産のチャレンジをお伝えします。
荏原グループの業務革新とグローバル調達・SCM戦略
ポンプ、コンプレッサ・タービンなどの風水力機械や半導体製造装置の製造、廃棄物処理施設の設計・管理を手掛ける産業機械メーカーの株式会社荏原製作所からは、はじめに業務革新統括部 統括部長の植松暁子氏が同社グループの業務革新とグローバル調達・SCM戦略について解説しました。

株式会社荏原製作所 業務革新統括部 統括部長 植松暁子氏
荏原グループでは現在、中期経営計画「E-Plan2022」のもと、経営・事業インフラの高度化に向けて「ビジネスプロセス革新」「システム基盤の刷新」「企業文化の変革」を進めています。グローバル共通システムとして、基幹システムはSAP S/4HANA、経費精算はSAP Concur、タレントマネジメントはSAP SuccessFactors、間接材調達はSAP Aribaで統一するプロジェクトを同時並行的に進めています。SAP Aribaは2021年8月に国内で稼動開始予定です。
「これまでの調達・購買は事業の担当者が個別に対応し、調達・購買部門は管理業務中心でした。購買改革の目標は、グローバルで集中・集約・標準化を実現し、サプライヤーを含めて荏原グループの最適調達網を構築することです。さらに、調達・購買を足掛かりにグローバルエクセレントカンパニーへと進化し、経営改革と業務革新につなげていこうとしています」(植松氏)
各事業固有の直接材の調達・購買は、各事業で責任を持ちながら横串で調達機能を統合するグローバル調達ネットワークを構築し、グループ調達・購買統括機能を確立していきます。
続いて業務革新統括部 グローバル調達SCM戦略部(GPS)部長の長谷隆之氏が調達改革にかける思いを語りました。

株式会社荏原製作所 業務革新統括部 グローバル調達SCM戦略部(GPS)部長 長谷隆之氏
長谷氏が率いるGPSチームは2000年5月に発足し、現在は「攻める」「守る」「基盤」の3つの確立に向けて活動しています。これまでの1年2カ月で荏原グループの購買・調達は統一され、直接材、SCM、間接材のグローバル戦略を描くことが可能になりました。将来的にはグローバルポリシーを規定し、SAP AribaでPDCAサイクルを回すことで、億単位のコスト削減を実現する計画です。
間接材についてはSAP Aribaをノンカスタマイズで導入。特徴的なのは、契約条件と発注条件をSAP Aribaの自動照合処理で実現していることです。
一部のサプライヤーは自社のシステム改修に及び腰のところもありましたが、これをやり切ればSAPを使っている他の企業にも対応できると説得。その結果、サプライヤーからは「コロナ禍で紙請求の支払遅延が増えてもCSVはこの問題が発生しない」、「膨大な紙請求処理がなくなり、工数を大幅に削減できた」、「請求書の紛失/遅延リスクがなくなる」といった声が聞こえてきているといいます。
「今は、サプライヤーも1つのチームとしてやり切ろうという連帯感が生まれています。これこそがSAP Aribaの醍醐味であり、連帯の輪が広がれば荏原だけでなく日本経済全体がよくなると信じています」(長谷氏)
GPSの活動を通して、さまざまな自信を得た一方、新たに取り組むべき課題も見えてきました。今後は「なぜこれをやるのか」を考え、調達購買を強化することが全社の改革につながることをメッセージとして発信していく考えです。長谷氏は「従業員が高い志と情熱を持って働ける部署を作り、調達購買の責任である『最適なコスト』の実現を目指します」と語って事例紹介を終えました。
間接材構造改革に端を発したヤマハ発動機の企業文化変革
オートバイ、船外機などの輸送用機器を製造するヤマハ発動機株式会社からは、調達本部 戦略統括部 間材調達推進部の部長を務める内山代穂氏が、SAP Aribaの導入を支援した日本アイ・ビー・エム株式会社の木村耕氏と平尾理氏とともに、同社の間接材構造改革を紹介しました。

ヤマハ発動機株式会社 調達本部 戦略統括部 間材調達推進部 部長 内山代穂氏、
日本アイ・ビー・エム株式会社 木村耕氏、平尾理氏
ヤマハ発動機が2018年以前に抱えていた課題は、総経費の約2割を占める間接材を統括する組織がなく、ガバナンスが効いていないことでした。間接材は直接材と比べてコスト削減余地も大きいことから、全社横断的に改革を進めることになりました。
2018年5月に間接材専門の調達部署を立ち上げ、IBMテンプレートを用いて11カ月でSAP Aribaを導入。ところが、もともとユーザー部門の調達自由度が高かった背景もあり、稼動当初は反発も大きく、調達通過率は18%に留まっていました。そこで役員クラスが参加するステアリングコミッティを活用し、「2021年夏までに調達通過率100%達成」を経営のコミットメントとして掲げました。
「経営層と方向性を合意することで、本部長がより厳しい目で自部門を評価するようになりました。その結果、2021年4月時点で調達通過率は94.4%を達成しています。歩調を合わせるようにコストダウンも進み、2021年は改革前に比べ10%のコスト削減が実現できる見込みです。」(内山氏)
ガバナンスを高めるための活動も、外部の知見を取り入れながら、さまざまな施策を実施しています。本部長以上管理職向けに配信する全社の調達通過率、違反リスト、対策案を通知するガバナンスレポートが“通信簿”代わりとなり、各部門が自発的に取り組むようになりました。稼動後にも本来の目的や趣旨が忘れられないよう、全社員約1万人を対象としたE-Learningによる再教育を実施。SAP Aribaの利用率が低い部門には、利用しない理由や困りごとをヒアリングする活動も行っています。カタログについても、当初6万件だった登録件数を20万件に拡充し、利用率は94%に達しています。
発注1件あたりのユーザーの処理時間は、SAP Ariba導入前の都度見積で平均57分かかっていたところが、導入後は最大で83%減の10分に短縮し、オペレーション工数の削減に寄与しています。発注から支払まで規定通りのプロセスを踏むことで、コンプライアンスの遵守にもなっています。
今後は、生産設備や生産副資材などの生産間接材の構造改革に取り組み、さらには国内子会社からアジアへと拡大し、最終的にはグローバル全体での調達の最適化を目指していく方針です。
デジタルで進化するポルシェジャパンのソーシング戦略
世界最大の伝統あるスポーツカーメーカーであるポルシェ社の日本国内販売会社、ポルシェジャパン株式会社からは、購買部の佐藤あかね氏が、SAP Aribaの導入を支援したアビームコンサルティング株式会社の水村広明氏とともに、戦略ソーシングへのDigital活用について事例紹介しました。

ポルシェジャパン株式会社の導入を支援した
アビームコンサルティング株式会社 水村広明氏
同社の調達における取引先の選定(Source to Contract)は、一定金額以上は購買部門でソーシングし、審査することを徹底しています。年間30件程度の案件のほとんどはRFPやRFIを複数回実施する戦略的なソーシングを行っています。購買プロセスのProcure to PayについてもSAP ERPの機能を利用し、注文書に対してのみ支払いを実施する「No PO, No Pay」を徹底しています。
同社はグローバル本社の内部監査でサプライヤー選定の透明性・モニタリングの必要性の指摘を受け、2019年8月から2020年1月にかけてSAP Aribaを導入しました。
「グローバル本社からは、情報セキュリティの面からクラウドサービスの活用に高いハードルを課せられていましたが、日本での高い実績、加えてグローバルでも利用しているSAP ERPとの親和性を考慮して採用しました」(佐藤氏)
本稼動から18カ月が経った現在、すべての高額案件はSAP Aribaで一元管理され、事前の審査漏れは発生していません。サプライヤーとのコミュニケーションもSAP Aribaに集約した結果、サプライヤー横並びのトラッキングが容易になりました。2021年夏にはブランド体験型施設の「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」がオープンし、年間の事案が従来の30件から50件まで増える中でも効率的なソーシングが可能になっています。さらに、ソーシング案件と契約書がすべてSAP Ariba上で連携しているため、契約終了日から事前アラート通知が担当者のもとにくるため、時間に余裕を持ったソーシング活動に貢献しています。

ポルシェジャパン株式会社 購買部の佐藤あかね氏とSAP Aribaがビジネスへ貢献する理由
日本法人発の取り組みはポルシェ台湾にも広がり、アジア地域におけるソーシングの標準化・高度化にも貢献しています。現在はSAP Aribaのリバースオークション機能の実用化に向けてテストを実施中で、これによりコスト適正化を進めていく考えです。
都度見積の削減で生産性向上に貢献する宇部興産の購買戦略
山口県宇部市に本社を構える大手総合化学メーカーの宇部興産株式会社からは、購買部 第一グループ 主席部員の藤本秀夫氏が、ビジネスネットワークによる戦略的革新について、SAP Aribaの導入を支援したビジネスエンジニアリング株式会社(B-EN-G)の中村新氏のリードで紹介しました。

宇部興産株式会社 購買部 第一グループ 主席部員 藤本秀夫氏
宇部興産は2000年のSAP ERP導入をきっかけに、間接材調達システムを導入してインターネット発注を開始。その後、BtoB向けのECサイトと多数連携しながら、購入できる商材を増やしていきます。ところが、商品数が増えると価格をコントロールすることが困難になり、さまざまなECサイトをつないだ弊害も出てきました。そこでSAP Aribaへ調達機能を集約し、業務の合理化と最適化を図ることを決断。SAP Aribaに移行する対象品目は、既存の調達システムで行っていたインターネット発注品と、基幹システム(SAP ERP)で行っていた地元の販売代理店経由の単価契約品、都度見積で個別発注していた見積品の3種類に設定。合わせてAmazonの法人向けECサイトを導入することで工数のかかる都度見積品の削減を目指しました。
インターネット発注を開始して以来、小額都度見積品の比率は年々減り続け、2002年度に70%を超えていた比率は、2020年には40%を切るようになりました。SAP Aribaへの集約で、2022年度には20%以下まで削減できる見込みです。

宇部興産 小額購買件数比率の推移
SAP Aribaの導入時は、既存システムの機能を取捨選択してSAP Aribaの標準機能に業務を合わせる業務改革を実施。社内への丁寧な説明と、操作教育の実施、導入後のヘルプデスクの充実等を意識しながらプロジェクトを進めたといいます。
導入に際しては、販売店、システム供給元、システム部門からの幅広く理解と協力が得られたことが成功要因と分析しています。最後に藤本氏は「コストダウンや業務改革は、“やる気”、“情熱”、“粘り強さ”、“真面目さ”があれば誰でもできる」と訴えて事例紹介を終えました。