資金管理、コーポレート、ESGxデジタル。多方面からの変革を進めるリーディングカンパニー3社の取り組み
作成者:SAP Japan イベント 投稿日:2021年9月13日
7月15日にオンライン開催されたSAPPHIRE NOW JapanのFinance(金融)トラックの今年のテーマは、「変革を支える経営基盤」。今回は、日本からグローバルにファイナンス領域をリードするユーザー企業3社をお迎えしました。まずソニーグループにおけるグローバルトレジャリートランスフォーメーション、次にNECグループにおけるコーポレート・トランスフォーメーション、そしてエーザイにおけるESG/非財務指標の経営管理の事例をご紹介いただきました。こちらではNEC様とエーザイ様の発表の模様をお伝えします。
大規模なコーポレート変革に挑み、顧客にもノウハウを提供するNECグループ
日本電気株式会社(NEC)からは業務改革本部長である井手伸一郎氏が登壇され、NECグループのコーポーレート・トランスフォーメーションの取り組みについて講演を行いました。

日本電気株式会社 業務改革本部長 井手伸一郎氏
NECグループは最先端の技術力を活かしながら、競争力のある提案によってコンサルティングからデリバリーまで、顧客のDX強化を推進しています。その戦略のなか、業種軸・共通商品軸の双方の事業推進と、事業間シナジーを促進するためのコーポレート機能の強化に向けて、2021年6月にTransformation Officeを設置。制度、プロセス・組織、ITにデータ・人を加えた「三位一体 Plus Oneの改革」として、約150のプロジェクトを推進しています。改革のコンセプトは、Resilience(強さ)× Agility(しなやかさ)。これにより、コーポレート・トランスフォーメーションとカスタマーエクスペリエンスの高度化を目指し、従業員のエクスペリエンスも高めることで、人による付加価値や能力を引き出していく考えです。
10年前のNECグループでは、制度・プロセス・IT・人・データの各領域が連携されていませんでした。「この問題を解消するべく、事業領域ごとに全体視点で再構築し、最終的には『時代の変化を先取りし、変革を続ける文化の醸成』を目指しています」と井手氏は語ります。特にデータに関しては、これまでの各プロセス領域別のデータをData LakeとBIを用いた限定的な活用しかできていませんでしたが、企業としてのベースレジストリを整備し、リアルタイムにデータの価値を最大化して経営の高度化につなげていく構えです。
さらに企業価値の最大化に向け、財務データや非財務データなど全社管理するデータ項目を特定し、その利活用のための基本原則をまとめ、適用していきます。それを支える次世代の基幹システムのアーキテクチャでは、クラウドなど市場のベストプラクティスをコアとし、そこに付加価値をアジャイルに組み込む開発を行っていきます。クラウドサービスの効果を享受しながら、開発にも業務側とIT側の双方が参画し、業務とシステムのデザインを行うスタイルを確立させていく計画です。この考え方をもとに、2025年までに700を超える社内システムのモダナイゼーションを進めます。
組織の改革については、コーポレートの視点と事業特性の双方の目線を持ちながら、事業部長を支えていく、FP&Aなどのビジネスパートナー機能を構築。また、営業利益から共通コストを除いた貢献利益で事業部長の業績を評価する制度を導入し、コーポレートのさまざまな取り組みの責任の所在を明確化しながら全社の共通化を進めています。また、働き方の改革にも着手。テレワーク率は85%を達成し、社員がチャレンジできる働きがいのある環境作りも進めています。
井手氏は最後に、NECグループの一連の改革を経て、ITツールやデジタル基盤だけでなく改革手法も顧客に提案していくことを強調。SAPのソリューションベンダーとしても、グループ会社のアビームコンサルティングとともにコンサルティング、技術力、大規模SI力を組み合わせ、お客様・社会のDXを牽引していくと語りました。
非財務指標を経営管理に折り込み、日本企業の価値向上をリードするエーザイ
エーザイ株式会社 専務執行役 チーフフィナンシャルオフィサーで早稲田大学客員教授の柳良平博士は、ビジネスの持続的成長に向け、ESG(Environment, Social, Governance)への取り組みを企業価値にどう結びつけるか解説しました。

エーザイ株式会社 専務執行役 チーフフィナンシャルオフィサー
早稲田大学客員教授 柳良平博士
冒頭で「ESG×デジタル」というキーワードを掲げた柳氏は、ESGをデジタルの力を借りて定量化することが、潜在的な企業価値を顕在化し、世界の投資家にアピールできるエビデンスとなると主張します。理論的には、日本企業の企業価値は2倍、日経平均株価は4万円を達成可能とアピール。その根拠として、会計上の簿価の純資産の何倍の時価総額になっているかという指標であるPBR(株価純資産倍率)について、日米英の企業の比較チャートを提示。日本企業が1倍から1.5倍になのに対して英国企業は2位倍、米国企業は3~4倍となっています。純資産との差は、知的・人的・社会関係などの非財務資本であり、日本企業が本来持っている見えない価値を市場にアピールすることが重要だとしました。
また柳氏は、世界の投資家へのアンケートで世界の4分の3の投資家が資本効率とESGを両立した価値関連性の提示を望んでいるという調査結果も示しました。投資家にESGの価値を示すには、デジタルデータの活用が重要です。SAPも、2015年に公表した統合報告書に、従業員エンゲージメント指数が1%上昇すると営業利益に40百万~50百万ユーロの正の影響をもたらすとESGの価値を示しています。
そして、日本企業こそ見えない価値を見える化するために、概念の提示、デジタルを活用した実証研究のエビデンス、統合報告書での具体的開示、そしてエンゲージメントの蓄積が必要だとし、自身が考案した「非財務資本とエクイティ・スプレッドの同期化モデルの提案(柳モデル)」を提示。人材、特許や研究の価値、環境問題への対応といった非財務資本が株主から認められれば、市場価値が高まるというものです。足元の財務業績を高めるためにリストラや人件費・研究費の大幅削減をしてしまうと、市場価値が下がるとみなされます。長期の時間軸でESGを重視する投資家にアピールすることが重要です。
エーザイでは、柳モデルによってESGとPBRの関係を2020年度の統合報告書で示しています。これは、エーザイのESGのKPI88個を12年分さかのぼって、28年分のPBRと照合したものです。女性管理職の登用や研究開発費の向上が何年後に企業価値向上に相関してくるかなど、現在のESGへの取り組みが長期的な価値を生み出すことを95%の確率で証明しました。このような傾向はエーザイのみに起きることではなく、日本企業全体にも共通するものです。

(出所:エーザイ統合報告書2020)
さらに柳氏は、営業利益に研究開発費と人件費を足し戻したESG EBITという指標を示しました。2019年度のエーザイの営業利益は1,255億円ですが、ESG EBITは3,678億円となり、冒頭に挙げたPBRが3倍としても割高でないと説明。この考え方は、短期利益を求める株主への対抗手段にもなると、ESGの価値を顕在化することの重要性をアピールしました。
エーザイは製薬企業としての社会的責任を果たしながら、非財務資本の価値向上への取り組みを並行しています。そして2021年、KDDIグループでも脱炭素に向けた取り組みに「柳モデル」が採用されました。
「日本企業の潜在的価値は本当に大きく、ESGの価値を顕在化することで企業価値は倍増できる。私たちが皆で同志として進めば、ESG Journeyは拓けます」と柳氏は力説し、講演を締めくくりました。