資金管理、コーポレート、ESGxデジタル。多方面からの変革を進めるリーディングカンパニー3社の取り組み

作成者:SAP Japan イベント投稿日:2021年9月13日

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7月15日にオンライン開催されたSAPPHIRE NOW JapanのFinance(金融)トラックの今年のテーマは、「変革を支える経営基盤」。今回は、日本からグローバルにファイナンス領域をリードするユーザー企業3社をお迎えしました。まずソニーグループにおけるグローバルトレジャリートランスフォーメーション、次にNECグループにおけるコーポレート・トランスフォーメーション、そしてエーザイにおけるESG/非財務指標の経営管理の3つのセッションの発表の模様をお伝えします。

コロナ禍でも世界最大規模のSAP S/4HANA導入を実施したソニーグループ

ソニー株式会社はファイナンス領域でも先進的な取り組みをする企業として知られており、2000年より、世界でも最大規模の社内銀行をいち早く立ち上げ、ソニーグループ内で運用してきました。
本セッションでは、新型コロナウイルス感染症がグローバルに拡大する中、2020年にソニーグループが『SAP S/4HANA Treasury』をグローバルに導入した、日本初で世界でも最大規模の事例について、プロジェクトを主導したソニーグループ株式会社 本社財務部の石黒博之氏よりご講演いただきました。

ソニーグループ株式会社 本社財務部 石黒博之氏

ソニーグループ株式会社 本社財務部 石黒博之氏

ソニーでは、グループ全体の社内銀行として2000年に英国にSGTSを設立し、グローバルな為替リスクヘッジ・資金管理の一極集中化を達成しました。2016年には米国のSCCに在米グループ企業向けのキャッシュマネジメント機能などを移管し、米国資本市場へのアクセスも強化しました。そして2018年からSAP S/4HANAを活用して新たなトレジャリープラットフォームを構築する「METRO」プロジェクトを開始。コロナ禍にもかかわらず、2020年10月に無事プロジェクト活動を完了し、効果的・効率的でかつ安定したグローバル為替資金オペレーションをBig Bang方式で実現しました。

METROプロジェクトは、ソニーグループの本社財務部が中心となって、日本だけでなく、海外のソニーグループ各財務拠点の業務を標準化・シンプル化・自動化するため、2018年にプロジェクトを開始しました。IT面では、SAP S/4HANA中心に最先端のさまざまな新しいテクノロジーをクラウド環境で導入することにより、約20年利用した従来のシステムを置き換え、複雑化したレガシーテクノロジーの排除を目指しました。ソニーグループ本社(SGC)財務がプロジェクトオーナーを務め、8カ国の海外拠点のメンバーが参画しました。そして、METROプロジェクト導入により、ソニーグループのビジネス領域のうち、金融を除く全てのセグメントをカバーし、全世界337社のFXリスクヘッジや資金ニーズなどを新システムでしっかりとサポートする体制が構築できました。

今回のプロジェクトの最大の成果の1つは、FXリスクヘッジがスピードアップし効率化したことです。この自動化は、SAP S/4HANAおよびSAPのTPI(Trading Platform Integration)ソリューション、360T Trading PlatformおよびSWIFTnetなどの新しいテクノロジーを自動連携することにより実現できました。これにより、ゲームや音楽・映画、イメージセンサーやエレクトロニクスなど、ソニーグループの様々なビジネスにおけるFXリスクをより効果的・効率的にヘッジできるようになりました。
またソニーグループでは、全世界のお取引先への支払いについて、社内銀行がソニーグループ各社の代わりにお支払する代行支払サービスを2000年より開始しています。このサービスを、SAP In-House-Cashをはじめ最先端のテクノロジー導入で置き換え、毎月70,000件ものグループ会社の支払を、安定的・効率的に運営しています。
次世代のテクノロジーにより、支払依頼やBank Statementなどの銀行とのデータ接続がスムーズに行えるようになったことで、タイムリーな資金状況の把握ができるようになり、在宅勤務の環境下でも、より精度の高いキャッシュマネジメントが実践できています。世界でも最大規模のソニーグループの社内銀行が、SAP In-House-Cashと最新テクノロジー導入で、さらに進化しました。

In-House-CashとPayment Factory

今回のプロジェクト最大のチャレンジは、SAP Treasury専門家の不足でした。この課題の解決策として、SAPのR&Dチームとの協業が最新のSAPテクノロジー導入に際して効果を発揮しました。さらにZandersチームの採用により、SAP Treasury専門家が社外パートナーとして参画したことが、プロジェクト成功への鍵となりました。
2020年には新型コロナウイルスが世界的に感染拡大したため、すべての出張がキャンセルとなり、在宅勤務を強いられました。そこでITツールを活用したグローバルなコミュニケーションや、タスクの細分化による効率化、外部専門家も交えた社内人材の育成、銀行への伝送テストも含めた入念なテスト実行などを徹底しました。

石黒氏は、今回のMETROプロジェクトで達成したことの紹介に続き、プロジェクトからの「学び」として、財務部メンバーとIT部門の並走の重要性、若手・中堅社員の積極的登用と育成、専門のパッケージソフトウェアの活用、社外専門家の活用と協同、取引金融機関との密な連携体制などがあったといいます。最後に同氏は「METROを通じて育成した次世代DX人材を活用しながら、さらなる財務領域の変革を推進していきたい」と述べました。

METROが「達成したこと」

大規模なコーポレート変革に挑み、顧客にもノウハウを提供するNECグループ

日本電気株式会社(NEC)からは業務改革本部長である井手伸一郎氏が登壇され、NECグループのコーポーレート・トランスフォーメーションの取り組みについて講演を行いました。

日本電気株式会社 業務改革本部長 井手伸一郎氏

日本電気株式会社 業務改革本部長 井手伸一郎氏

NECグループは最先端の技術力を活かしながら、競争力のある提案によってコンサルティングからデリバリーまで、顧客のDX強化を推進しています。その戦略のなか、業種軸・共通商品軸の双方の事業推進と、事業間シナジーを促進するためのコーポレート機能の強化に向けて、2021年6月にTransformation Officeを設置。制度、プロセス・組織、ITにデータ・人を加えた「三位一体 Plus Oneの改革」として、約150のプロジェクトを推進しています。改革のコンセプトは、Resilience(強さ)× Agility(しなやかさ)。これにより、コーポレート・トランスフォーメーションとカスタマーエクスペリエンスの高度化を目指し、従業員のエクスペリエンスも高めることで、人による付加価値や能力を引き出していく考えです。

10年前のNECグループでは、制度・プロセス・IT・人・データの各領域が連携されていませんでした。「この問題を解消するべく、事業領域ごとに全体視点で再構築し、最終的には『時代の変化を先取りし、変革を続ける文化の醸成』を目指しています」と井手氏は語ります。特にデータに関しては、これまでの各プロセス領域別のデータをData LakeとBIを用いた限定的な活用しかできていませんでしたが、企業としてのベースレジストリを整備し、リアルタイムにデータの価値を最大化して経営の高度化につなげていく構えです。

NECの目指すEnd to Endデータドリブン経営

さらに企業価値の最大化に向け、財務データや非財務データなど全社管理するデータ項目を特定し、その利活用のための基本原則をまとめ、適用していきます。それを支える次世代の基幹システムのアーキテクチャでは、クラウドなど市場のベストプラクティスをコアとし、そこに付加価値をアジャイルに組み込む開発を行っていきます。クラウドサービスの効果を享受しながら、開発にも業務側とIT側の双方が参画し、業務とシステムのデザインを行うスタイルを確立させていく計画です。この考え方をもとに、2025年までに700を超える社内システムのモダナイゼーションを進めます。

NEC 次世代基幹システムのアーキテクチャ

組織の改革については、コーポレートの視点と事業特性の双方の目線を持ちながら、事業部長を支えていく、FP&Aなどのビジネスパートナー機能を構築。また、営業利益から共通コストを除いた貢献利益で事業部長の業績を評価する制度を導入し、コーポレートのさまざまな取り組みの責任の所在を明確化しながら全社の共通化を進めています。また、働き方の改革にも着手。テレワーク率は85%を達成し、社員がチャレンジできる働きがいのある環境作りも進めています。

井手氏は最後に、NECグループの一連の改革を経て、ITツールやデジタル基盤だけでなく改革手法も顧客に提案していくことを強調。SAPのソリューションベンダーとしても、グループ会社のアビームコンサルティングとともにコンサルティング、技術力、大規模SI力を組み合わせ、お客様・社会のDXを牽引していくと語りました。

非財務指標を経営管理に折り込み、日本企業の価値向上をリードするエーザイ

エーザイ株式会社 専務執行役 チーフフィナンシャルオフィサーで早稲田大学客員教授の柳良平博士は、ビジネスの持続的成長に向け、ESG(Environment, Social, Governance)への取り組みを企業価値にどう結びつけるか解説しました。

エーザイ株式会社 専務執行役 チーフフィナンシャルオフィサー、早稲田大学客員教授 柳良平博士

エーザイ株式会社 専務執行役 チーフフィナンシャルオフィサー
早稲田大学客員教授 柳良平博士

冒頭で「ESG×デジタル」というキーワードを掲げた柳氏は、ESGをデジタルの力を借りて定量化することが、潜在的な企業価値を顕在化し、世界の投資家にアピールできるエビデンスとなると主張します。理論的には、日本企業の企業価値は2倍、日経平均株価は4万円を達成可能とアピール。その根拠として、会計上の簿価の純資産の何倍の時価総額になっているかという指標であるPBR(株価純資産倍率)について、日米英の企業の比較チャートを提示。日本企業が1倍から1.5倍になのに対して英国企業は2位倍、米国企業は3~4倍となっています。純資産との差は、知的・人的・社会関係などの非財務資本であり、日本企業が本来持っている見えない価値を市場にアピールすることが重要だとしました。

ESGとPBR 日米英比較

また柳氏は、世界の投資家へのアンケートで世界の4分の3の投資家が資本効率とESGを両立した価値関連性の提示を望んでいるという調査結果も示しました。投資家にESGの価値を示すには、デジタルデータの活用が重要です。SAPも、2015年に公表した統合報告書に、従業員エンゲージメント指数が1%上昇すると営業利益に40百万~50百万ユーロの正の影響をもたらすとESGの価値を示しています。

そして、日本企業こそ見えない価値を見える化するために、概念の提示、デジタルを活用した実証研究のエビデンス、統合報告書での具体的開示、そしてエンゲージメントの蓄積が必要だとし、自身が考案した「非財務資本とエクイティ・スプレッドの同期化モデルの提案(柳モデル)」を提示。人材、特許や研究の価値、環境問題への対応といった非財務資本が株主から認められれば、市場価値が高まるというものです。足元の財務業績を高めるためにリストラや人件費・研究費の大幅削減をしてしまうと、市場価値が下がるとみなされます。長期の時間軸でESGを重視する投資家にアピールすることが重要です。

非財務資本とエクイティ・スプレッドの価値関連性モデル

(出所:エーザイ統合報告書2020)

エーザイでは、柳モデルによってESGとPBRの関係を2020年度の統合報告書で示しています。これは、エーザイのESGのKPI88個を12年分さかのぼって、28年分のPBRと照合したものです。女性管理職の登用や研究開発費の向上が何年後に企業価値向上に相関してくるかなど、現在のESGへの取り組みが長期的な価値を生み出すことを95%の確率で証明しました。このような傾向はエーザイのみに起きることではなく、日本企業全体にも共通するものです。

エーザイのESGと企業価値の実証研究

(出所:エーザイ統合報告書2020)

さらに柳氏は、営業利益に研究開発費と人件費を足し戻したESG EBITという指標を示しました。2019年度のエーザイの営業利益は1,255億円ですが、ESG EBITは3,678億円となり、冒頭に挙げたPBRが3倍としても割高でないと説明。この考え方は、短期利益を求める株主への対抗手段にもなると、ESGの価値を顕在化することの重要性をアピールしました。

エーザイは製薬企業としての社会的責任を果たしながら、非財務資本の価値向上への取り組みを並行しています。そして2021年、KDDIグループでも脱炭素に向けた取り組みに「柳モデル」が採用されました。
「日本企業の潜在的価値は本当に大きく、ESGの価値を顕在化することで企業価値は倍増できる。私たちが皆で同志として進めば、ESG Journeyは拓けます」と柳氏は力説し、講演を締めくくりました。

⇒ 他のSAPPHIRE NOW 2021に関する記事はこちら

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