ITサービス企業のデジタル変革はどこから始めるか?

作成者:久松 正和投稿日:2021年10月25日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

はじめに

DXがブームになって案件が増えたのにエンジニアが足りなくて泣く泣く断る、というようなお話も聞くほどにITサービス企業の多くが業績好調と聞きます。日本は米国に比べてユーザー企業にIT人材が少ないため、DXが遅れたといわれます。ITサービス企業がデジタルで事業を改革するのに必要な人材を効率的に活用することで、日本全体の事業の変革を加速できたら素晴らしいことと思います。しかし、ITサービス企業の業務は、紺屋の白袴、ほかの産業ほど効率化できているとはいいがたい様子も耳にします。IT企業のDXはどこからどうやって始めていったらいいのでしょうか?

プロジェクトビジネスの成功要因

ITサービス企業の業務は、エンジニアなどのエキスパート人材によって顧客に成果を提供するプロジェクトビジネスです。扱うものがITテクノロジーなので、自動化されたプロセスによって、スマートでインスタントに提供されるような気がしますが、実態としては顧客やベンダーとの意思疎通をきちんと管理し、エンジニアを統率する「プロジェクトマネージャー(プロマネ)」の管理力によって成否が決まるとも言えます。

プロマネの仕事は多種多様です。通常は企業のIT部門をお客として活動していますが、顧客企業の中でIT部門のさらにお客である現場部門からも要件を聞き出さないといけない場面が多々あります。プロマネは、とてもダンドリを要求される仕事です。双方の意思確認をバランスよく図り、要件の変更を先回りして提案し、足りないエンジニアやトラブルを限られたリソースでカバーし、チーム全体のモチベーションを下げないよう盛り上げて、期日に間に合わせてシステムを構築する、というようなことを求められます。よくKKD(経験・勘・度胸)などと揶揄されますが、ITサービス企業の経営者の方々とお話をすると、プロマネや営業などの顧客フロントにいる皆さんの人間力とコミュニケーション能力に事業自体の成否を頼っているようにも感じられます。ヒトを収益源とするITサービス企業としてはこういったタレントの活用が重要な成功要因なのでしょう。

コミュニケーションの功罪

ところで、ITサービス企業はプロジェクト実行する以外にも下記のような業務を行います。

案件→見積→契約→要員のアサイン→プロジェクト実行→成果提供→請求

エンジニアリング部門が出てくる前に、営業や人材管理、財務などの様々な部門がかかわって、案件創出から現金化まで(Lead2Cash)の全体ビジネスプロセスをまわしています。昨今のITプロジェクトでは様々な条件が加わり、仕事の進め方もどんどん複雑になり、そのために業務を円滑に進めるためにより綿密な情報の共有が必須になってきています。そのために、個々の業務プロセスでも、その間でも関わるチーム全般にわたってコミュニケーションが必要になりますが、筆者がヒアリングをした限りでは結構その進め方が難しいようです。

  • 案件管理:案件の進捗状況、個別の課題などについて把握するため、毎週1~2時間かけて部門ミーティングで案件全部を意識合わせする。
  • 見積管理:お客様の要件に合わせてWBSを組みコスト概算を出すが、その後、関連するプロダクト部門やエンジニアリング部門などに個別にコストやリスクについて会議を重ねて、2~3週間かけて見積もりを作成する。
  • 契約:顧客は固定金額での契約を望み、できるだけフレキシブルな成果を求める。エンジニアリング部門は決まったサービスの提供だけを約束し、かかっただけの時間を請求したがる。基準が示せずに常に両者との交渉になるため、プロジェクトの中身が決まってから契約締結までに1か月くらいかけて意識合わせする。
  • 要員管理:営業はプロジェクトマネージャと相談しながら、エンジニアリング部門やパートナー企業と交渉して、要員アサインと受注のタイミングをすり合わせる。
  • プロジェクト進捗管理:個々のタスクごとに割り当てられた進捗を確認するために毎週固定の日時枠で長時間ミーティングで進捗確認をする。顧客からの変更要望が起こるたび、計画を作り直し承認会議を行う。
  • 請求管理:請求書発行のための原価データ(調達伝票・経費精算・勤怠データなど)が集まらないことが多いので、プロジェクト終盤では毎週会議を行って、見込み情報を作り関連部門に回して意識合わせする。
  • 計画と管理業務:関連するすべての部門の意識を合わせた計画を立てるために必要な情報を集めるため、四半期に数回、確認のための部門全体ミーティングを実施する。

日本の企業はホウレンソウ(報告・連絡・相談)を重要視しますから、しっかり仕事をまとめていこうとすると、こういう進め方になるのも当然なのかもしれません。しかし、こうやって書き下してみると、こうも「会議」や「意識合わせ」が多いと手間がかかって面倒だと感じませんか?事実こういったことを伺ったITサービス企業の現場のエンジニア・エキスパートの皆さんは、「会議体が非生産的」とか、「報告内容自体が上司の都合ではないか」とか、決して肯定しきれない感触をもっていらっしゃるようでした。

プロジェクトビジネスは、定量的な観点ではエンジニア・エキスパート・コンサルタント・プロジェクトマネージャーの「時間」を売るものです。その重要な「時間」をどこまでコミュニケーションに割り当てるべきなのか、バランスも必要です。上述したような業務の進め方では、意識を合わせる・情報を共有するという作業を部署全員の時間を合わせて行うことで、コストとなって全体の効率性や収益に影響を及ぼしている可能性があります。

当たり前のことですが、現場で案件を進める営業やエンジニアなどのエキスパートが、顧客を向いて仕事をして、初めてサービスの質を高められ、顧客の満足を得て、収益に結びつきます。そのためのチームを動かす情報共有は効率的であるべきです。基本的な情報をきちんと定義して分析できるKPIを定め、デジタルツールを活用すれば「意識合わせ」もロジカルに、快適になるのではないでしょうか?

グローバルトップ企業のオペレーション

ITサービス企業において効率的な経営を行い、高収益を得ている企業はどのような業務の進め方をしているのでしょうか?米国マサチューセッツ州に本社を置くアバディーン社がITサービス業、コンサルティング業を含む、プロフェッショナルサービス事業の約400社に対して調査をしました。まず調査対象を収益規模で分類し、上位20%に当たるトップ企業とその他全体の企業がどのようにパッケージソリューションを導入しているか比較しました。アバディーン社の調査におけるプロフェッショナルサービス事業向けソリューションとは下記のような分類になっています。

  • リソース計画ツール
    エンジニアなどの要員の需要と供給から受注計画・採用計画
  • 作業原価管理と見積管理
    案件ごとの見積もりとそのための作業原価を管理
  • 要員管理
    プロジェクト開始に要員をアサイン、管理
  • タイムシート管理
    アサインされた要員の勤怠とプロジェクトごとの時間コストを管理
  • 請求管理
    案件の請求管理と債権管理
  • サービス業務自動化ソフトウェア
    業務全般を自動化するワークフロー管理

※この分類に含まれていないCRM(案件パイプラインの管理)やERP(財務会計・プロジェクト会計の連動)は、すでにすべての企業が導入しているため議論から外したもようです。

Project Business Solutions

プロフェッショナルサービス企業におけるソリューション導入

上位20%のトップ企業はそのほかの企業に比べて、全般的にシステムソリューションの利用が進んでいます。図1に示すように、トップ企業のおよそ7割が請求管理・見積管理・要員管理などのソリューションをパッケージで利用しており、グローバルスタンダードな業務プロセスを志向して業務を組み立てているのが見て取れます。

特に作業原価管理・見積管理ソリューションについてはトップ企業とそのほかの企業での差が大きく開いています。収益の高いトップ企業ほど複雑で大規模なプロジェクトを提供していると推察できますが、それだけにより精緻な原価管理が求められます。こういった業務を会議や意識合わせというような人間的な手法によらず、パッケージソリューションのスタンダードな業務プロセスに基づいて組織間の情報共有と証跡の管理を進めています。過去のプロジェクト実績のデータや現状の経済状況のデータを参照することで見積のリスク判定指数などを作り、データによる科学的な判断基準を作っています。トップ企業は「システム内のデータを信頼している」割合が全体よりも18% も高かったようです。その信頼性の高い業務プラクティスの目指すところはサイエンスです。逆に考えると、こういったプラクティスがあるからこそ、トップ企業が収益を上げることができたのだと考えます。

どこから取り掛かるか?プロジェクトビジネスの変革

日本のITサービス企業の業務を、グローバルのトッププロフェッショナルサービス企業のような「データに基づいた業務プラクティス」にするためには、どこから取り掛かればよいものでしょうか?やみくもにソリューションを導入すればよいというものでもなさそうです。

アバディーン社のレポートに一つのヒントがありました。請求管理、作業原価管理と見積管理、要員管理というソリューションすべてに共通して必要となる一次情報は、エンジニア・エキスパートなどの要員の勤怠情報=時間です。プロジェクトを稼働時間ベースで契約するT&M契約の場合も、成果提供までの価格を固定した定額契約の場合であっても、個々の要員の時間がもととなります。時間管理は古くはパンチカードの時代から存在し、どの企業も当たり前のように従業員の勤務時間を把握していると考えることでしょう。しかし、その時間はきちんとプロジェクト、タスクに結びついて正確に計測されているでしょうか?データをERP上で一元管理し、再利用できているでしょうか?また、各要員からみて時間の計測が手間になっていないでしょうか?

業務プロセスがその場その場の手作業にならざるを得ないのは、信頼に基づいたデータがきちんと共有されていないことが、原因です。データに基づいた業務変革を志すのであれば、まずはその環境の中で一次データを整備すべきです。

時間の把握が進み、信頼性の高いデータとなることで、自社のプロジェクトビジネスがどのように進んでいるのかを的確に表現し、かかるコストの基礎情報を作成し、エンジニア・コンサルタントのリソース稼働率と近い将来のリソースの空き状況を算出する基礎情報がそろいます。また、信頼できるデータ共有は、前段で議論した会議の中で生産性を損なう「情報確認」という作業を軽減します。

昨今のタイムシートソリューションは、ERP上に登録されたプロジェクト情報に連携し、モバイルを用いたスマートなUIで時間を取得し、プロマネの承認作業もAIが代替します。そして、それらのデータはクラウドで一元管理され、時間ベース・課金ベース・計画値との対比・プロジェクトごとの加算などでいつでも確認できるようになります。SAPは、こういった領域では自社のソリューションにこだわらず各社の仕組みと連携できるようにSAP S/4HANA Cloudに連携するIndustry Cloudを用意しました。そしてReplicon社のような市場でデファクトになりつつあるタイムシートソリューションとの連携をIndustry Cloudで実現しました。(詳細はSAP StoreでRepliconを検索してみてください)

ソリューション導入は良いきっかけになりますが、それだけで事業変革できるわけではありません。その先で業務全体をデータで管理・判断する仕組みづくりをすることでデータが業績に寄与できる環境を作れます。そのためには、時間のようなシンプルな一次情報だけでなく、案件のステータスや過去のプロジェクトのフィードバックなどのより高次の情報も標準化し、自動的に処理し、効率的に共有できる環境を作るべきです。そのことによってのみITサービス企業の業務を人手によらない、データドリブンなものに変革できるのだと考えます。そして、その変革は現場で働く、営業・プロマネ・エンジニア・リソースマネージャー・財務部門などの作業負担を軽減し、原価管理や見積管理のような次のデータプラクティスに向かう余地を作ってくれます。

業務プロセスをどのように組み立てるかは、経営が主導して進めてゆかなければ変わりません。SAPのプロフェッショナルサービスインダストリでの経験はソリューションにとどまらず、各SAPパートナーと培った改革の実績があります。皆さんの改革のロードマップに役立つような事例や手法について議論させてください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

連記事

SAPからのご案内

SAPジャパンブログ通信

ブログ記事の最新情報をメール配信しています。

以下のフォームより情報を入力し登録すると、メール配信が開始されます。

登録はこちら