サステナビリティに向けた実践手引き

作成者:福岡 浩二 投稿日:2021年11月22日

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11月12日にCOP26が閉幕し、各組織・報道機関から様々な発表がなされています。
それぞれの現状と目指すゴールによって調整が必要なことはいうまでもありませんが、1つだけ言えるのは、もうすでに脱炭素を含めたサステナビリティ(持続可能性)への企業としての取り組みは、実行段階」に入っているということです。

今回からシリーズで、企業の立場でサステナビリティを具体的な行動に落とし込むときの考え方やITを使った実装イメージについてお届けしたいと思います。
今回は、まずその前提として、外部環境と全体の指針を中心にお届けしますが、実践を重視するために、具体的な製品による実装イメージも後の回ではご紹介します。

収れんしつつある非財務開示フレームワーク

まず、企業を取り巻く環境として関係者が頭を悩ましているのは「非財務開示基準」ではないでしょうか?
代表的なフレームワークを列挙すると、GRICDPCDSBIIRCSASBなどがあげられ、民間からは、こういった乱立を整理するため、世界経済フォーラム(WEF)が監査法人・大手投融資機関と提唱した「ステークホルダー資本主義指標(SCM)」も2020年9月に提唱され賛同の声が上がっています。

そのうち、IIRCとSASBが2021年6月に統合しVRFになりましたが、今回のCOP26開催中に、IFRS財団による「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」設立の発表が行われました。
一見足し引きゼロにも見えますが、ISSB設立発表と併せて、VRFやCDSBもここに統合されることや、世界経済フォーラムも参画しているTechnical Readiness Working Group(TRWG)によるプロトタイプに基づく検討を2022年6月までに策定することも公表されました。
つまり、従来の主要な団体が国際的な協調を見せて、外部開示基準が収れんしつつあることを意味します。これは報告する側と評価する側両方にとっても、過渡な負担や比較可能性が高まるという点で望ましいことです。

また、これは後の回でもふれますが、非財務開示基準だけでなくその評価についても企業の関心は高まっています。社外・社内でもあっても報告自体は手段で目的ではないので、これは当然の姿だと思います。
1つだけSAP自身も設立に関わっている例を挙げると、民間発のNPO「VBA(Value Balancing Alliance)」では、非財務指標がどのように財務インパクトを及ぼしているのか、その方法論を標準化する活動を行っています。
VBAはすでに、4大監査法人や学術機関・政府団体とも協調し、既に上記の世界経済フォーラムのSCMで参照されたり、欧州で進められているサステナブルファイナンスへの参画など国際的な標準化に向けて進めています。

なお、日本でも経産省が以前より非財務情報開示の研究は進められており、例えば下記のように、その資料は部分公開されています。(SAP事例図を引用)

経産省「非財務情報開示指針研究会」2021/9

脱炭素だけではない非財務情報

COP26は、脱炭素に向けた国際的な取り決めですが、この数年急速に注目されているのが「人的資本」です。
特に大きな反響を呼んでいるのが、2020年11月にSEC(米国証券取引委員会)が上場企業に対して人的資本の開示義務を設けたことです。
それ以前より、ISO(国際標準化機構)が2018年に人的資本開示のガイドラインとして「ISO30414」を発行したり、国内でも2020年9月に「持続可能な企業価値向上と人的資本に関する研究会報告書」などが注目されています。

重要なのは注目が集まる背景で、2つだけ重要な論点を挙げると以下の通りです。産業構造によって偏りはあれど、多くの読者の皆様が感じているのではないでしょうか?
・産業競争力が有形からヒトの能力や知財といった無形資産にシフト(ICTが代表例)
・コロナ禍を経験することで、従業員へのエンゲージメントが企業の活力に影響

関連ですが、最近一部の企業では、「Well-being(ウェルビーイングとそのまま呼称)」への取り組み及びその言葉を用いた組織化を進めています。(細かいですが、すでに政策としてもこの用語を使った検討が進んでいます)
勿論従来からある「健康経営」もその側面がありましたが、重要なのは「従業員の幸福を高めること」です。
サステナビリティと聞くと、どうしても反射的に今だと「環境」だけをとらえがちですが、従業員も重要なステークホルダーです。例えばSAPでは、統合報告書でエンゲージメントや自社独自の健康指標をKPIとして開示しています。その中身は本シリーズでも紹介したいと思います。

それで、ここで問いたい重要な論点は、「誰にとっての持続可能性なのか?」ということです。
企業の持続性に必要なのは昔も今も「企業価値」であることに変わりはありません。つまり、言い換えると「企業は誰にとってどういった価値があるのか?」を継続的に追求する営みに他なりません。

サステナビリティの立脚点

今回は、ステークホルダーの視点として環境(自然資本)と従業員(人的資本)だけを取り上げましたが、勿論各社の置かれた環境において価値尺度とその優先順位は変わってきますが、その拠り所はある程度必要ではないかと思います。

今回お話した通り、ある程度外部開示の標準化へ対応する必要はありますが、本質的なのはルール対応でなく「企業価値の向上」です。
非財務情報が付加的に組み込まれることで、その対応に追われて「目的と手段の逆転現象」はよく起こりえます。(これは変革共通の悩みです・・・)
そこで、SAPにおいては、その指針として「Purpose(存在意義)」を置いています。
「何のために自社があるのか?」そして従業員は「なぜそこで働いているのか?」企業と従業員の見る粒度は変わっても、その指針が同一であることが重要です。
それに立脚する限りは、たとえどのような非財務指標が今後入れ替わり登場したとしても、企業価値の向上という目的に対する手段として、ぶれることなく活動を推進できるものと思います。

次回は、Purposeから全体の設計(組織・ルール・プロセス・IT)への落とし込みを中心にご紹介したいと思います。

 

今回例示したVBAが最新の財務インパクト方法論を紹介するWebinarを11月30日に行います。まだ若干枠はあいてますので、サステナビリティ関係者・関心のある方はぜひご参加ください。

※追記
本イベントは2021年11月20日に終了しましたが、引き続きオンデマンドでご視聴いただけます。
詳しいプログラムやお申し込みは下記バナーのイベントサイトをご登録ください。

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