連載 日本に合った製造DXの秘訣教えます 第1回

作成者:遠藤 讓一投稿日:2022年2月7日

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タイトル負けしない連載を目指しますのでどうかお付き合いください。

・新三現主義の課題

製造業の皆様には釈迦に説法ですが、三現主義という考え方があります。“現場” “現物” “現実”の3つの“現”を重視し、机上ではなく、実際に現場で現物を観察して、現実を認識した上で、問題の解決を図らなければならないという考え方です。

三直三現という言い方をする場合もあります。問題が起きたら、「直ちに現場に行き」、「直ちに現物を調べ」、「直ちに現時点での手を打つ」ことです。明日行きます、来週行きますでは遅すぎるという事で、本田宗一郎氏は一日何度でも現場に行きなさいと強調していたと言われています。

さて、この10年ほど新三現主義という言葉が使われる様になってきました。三現主義にITによるデータ監視・分析を追加しデジタルで補完する考え方です。

この新三現主義でも「直ちに」が出来ていないという課題が最近浮き彫りになりつつあります。機能制約やシステム分断などの為、当初決めた分析は出来るが新しい問題の分析はシステム改修を待たなければならない、システム間のデータの紐づきがわからず、人海戦術で整合を取らないと原因追及に至らないなど様々な問題が噴出している状況です。

・日本の製造業の強みをデジタルで強化するために。なぜ新三直三現が企業の競争力に直結するのか

日本の強みである現場改善ループをデジタルで「直ちに」行うにはどうしたら良いか。三直三現をデジタルで補完した新三直三現主義が求められています。
規模の優位、技術優位だけでは勝利の条件にならず、アジリティ(俊敏性)が鍵という考え方が経営にも浸透してきました。
近年ビジネス適用が盛んなOODAループ(※軍事行動での迅速意思決定フレームワーク)なども「直ちに」を強調しています。

※観察 (Observe) 情勢への適応 (Orient) 意思決定 (Decide) 行動(Act)の頭文字を取ったフレームワークです。PDCAと似ていますが計画(Plan)に時間をかける傾向が多いPDCAと違い、観察から「直ちに」適応・意思決定へ進むことを強調している点が近年特にビジネス界で注目されています。

お客様の社史を拝見すると、新しい分野で国内・欧米企業と俊敏に競争し急成長を遂げた創業期などについて書いてある事がよくあります。
歴史は繰り返すので、自社の俊敏性が減れば新たに創業した機敏性の高い企業に抜かれていく事になります。
新興企業に対し歴史のある企業が後塵を拝するニュースが近年増えているのではないでしょうか。
Apple社は「当社では、3か月計画を事業計画といい、1ヵ年計画を中期計画と呼びます」と言っているそうです。※1

伝統的に日本は現場力を競争力の源泉としてきたと思います。しかし現場内・職場内の改善は出来ても職場間・部署間改善を直ちに行うにはデジタルの不整備が足を引っ張っている状況です。

・なぜ「直ちに」出来ないのか

一言で言うと情報連携が出来ていないという事です。
以下に「直ちに」が行えない障害を列挙します。
1.現場の情報を「直ちに」得る事が出来ない
現場情報は全て紙、データになっていてもバッチ処理となると現場にいても欲しい時に鮮度の高い情報が手に入らない、常に現場とデジタルがずれているという事になり、見える化が出来ません。「事件は現場で起きる」ので翌日/翌週まで待っては意味が無いという事です。
2.上流の情報が「直ちに」来ない
設計情報や生産計画の情報など上流の情報伝達遅延により、最新がどれか調べないとわからない為、何が問題か特定する事すら難しいといった問題に直面します。
3.「直ちに」調べられない
問題の分析の為には様々な角度からの分析・集約が必要ですが、集約の為にはバッチ処理が必要、当初決めた要件の分析方法しか使えないといった問題をよく見ます。
問題が解決すると次の問題が出てくるためシステム改修分だけリードタイムが発生する事になります。
例としてはボトルネック工程の分析ですが、ある特定ボトルネックを分析・解消できると今度は違う工程がボトルネックになる為、システム改修を待たなければ分析が出来ないという事になります。
柔軟にデータ集約・分析が出来るシステムが望まれます。
4.「直ちに」製品設計・設備設計・工程設計の本来の意図に立ち戻れない
設計部門だけでなく部門・サプライヤをまたがって情報共有し常に見直しを図っていく事が必要です。
高度成長期の日本では関連会社など一丸となって製品競争力向上に取り組んできた歴史がありますが、当時と大きく違うのは会社自体がグローバル化し情報共有しづらくなった事、
製品自体が複雑化(エレキ・メカ・ソフトウェアが混在)し社内でも製品の意図を共有しづらいといった課題が出てきている事です。
専門的な機械図面、エレキ設計図、プログラムコードでは部門間で会話を成立させる事が難しい為、製品のコンセプトを機能表などで簡潔にまとめる必要があります。
上記の図でモデル情報と書いてある部分です。本来どういった機能を目指しているかを機能表としてまとめ、そのずれを常に見直していく必要があります。
特に近年必要となっているのは製品コンセプトを図示し社内外で「直ちに」わかるようにする事です。MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)と呼ばれています。

図:MBSE(電動アシスト自転車を例に。時速24kmを超えると電動アシストが止まる事を図示)

簡潔に作成して共有できれば営業やマーケティングでも「直ちに」理解出来るようになり、営業企画まで巻き込んだ改善ループに出来ます。
MBSEの元となったシステムズエンジニアリングですが、ドイツでの調査によると大企業・中小企業にかかわらず殆どの企業でシステムズエンジニアリングが重要と考えているという調査結果が出ています。

図:ドイツでの現在におけるシステムズエンジニアリングの重要度 (1(重要でない)から 10 (存続のために不可欠)の範囲。平均すると 7.6。)

システムズエンジニアリングが何の役割も果たしていない、あるいはわずかな 役割しか果たしていないと回答した企業はない。

上記資料によるとドイツでは5年後には8.7まで重要度が上昇するというアンケート回答になっています。※2
日本の場合、システムズエンジニアリングの認知度自体が無い、設計部門の一部に留まっているという課題があります。

上流から下流への情報の流れを確立するだけでなく、日本の現場力を生かし下流から上流工程へ直ちに情報をフィードバックしシステムズエンジニアリングモデルに現場の知見を直ちに反映し、高速改善ループを実現する事が日本の強みを生かした製造DXの鍵であると考えます。

次回は、新三直三現を実現する為に必要なアプローチについてご説明いたします。

 

※1 「OODA LOOP: 次世代の最強組織に進化する意思決定スキル」より引用。

※2  https://www.ipa.go.jp/files/000056213.pdf Copyright © Fraunhofer IESE 2016 / IPA/SEC2016資料より抜粋

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