データ構造の標準化がもたらすLIXILの一体化

作成者:東 良太投稿日:2021年12月2日

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事業や製品の収益や成長機会をリアルタイムに把握・分析し、スピードを持って対策を決定することは、企業が変動の激しい世界に適応して生き残る上で重要な要素のひとつだ。そしてその把握・分析には、データ構造の標準化(※)は欠かせない(※マスタ(勘定科目、品目、顧客など)の一元管理とトランザクション(業務取引)の粒度や基準の統一)。

株式会社LIXIL(以下LIXIL)が行う「経理標準化プロジェクト」は、業績管理高度化のためのデータ構造の標準化が企業をひとつにした事例だ。今回、同プロジェクトに携わったLIXILの皆様からお聞きした内容を踏まえ、要訣をお伝えする。

LIXIL経理標準化プロジェクト・メンバー


持続的に成長するための業績管理の高度化

LIXILは2011年にトステム、INAX 、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合して誕生した。その後、米国の衛生陶器トップブランドであるアメリカン・スタンダードや、独国において優れたデザイン性で知られるグローエが加わり、世界150カ国で55,000人以上の従業員が働くグローバル企業となった。2021年3月期の売上は1兆3,783億円、海外比率は27.9%と成長を続けている。

5社統合の結果、LIXILは水まわり設備、住宅およびビル用内装・外装建材など実に幅広い事業と製品を有する。建築物のほぼ全てをトータル・コーディネートできるラインナップはLIXILの強みだ。

中期経営計画では、「中期⽬標達成を実現する施策」として以下4点を上げている。

競争的優位性の確⽴により持続的成⻑を実現

  1. 持続的成⻑に向けた組織を作る
  2. 魅⼒ある差別化された製品の開発
  3. 競争⼒あるコストの実現
  4. エンドユーザー、インフルエンサーへのマーケティング

出典:LIXIL中期経営計画

1点目の「持続的成長に向けた組織を作る」の中で、「事業領域の絶え間ざる再定義」を重要なポイントとしている。LIXILは「事業領域は当社が他社よりも⾼い利益率を実現でき、新規参⼊者による破壊的な事業参⼊から防御でき得る分野に常に再定義し続ける」(LIXIL中期経営計画より引用)ことを重要視し、2016年以降、売却・撤退・出資・投資において重要な経営判断を行ってきた。

事業領域のみでなく、製品やブランドでも同様のことが言える。幅広い製品・ブランドの実力値を把握・分析し、限りある経営資源を配分して、必要な対策を打つことが重要だ。LIXILの経理標準化プロジェクトは、このような「高度な業績管理」を可能とすることを目的のひとつとしていた。

経理が主導した業務データとプロセスの標準化

「経理標準化プロジェクト」は、経理の中長期ビジョンおよびITシステム施策(シンプル化・老朽化対応)を実現するための複数プロジェクトの集合体だ。2018年4月より財務会計の国際会計基準対応(IFRS対応)を開始し、2021年4月には「グループ経営管理基盤構築」を完了させた。この「グループ経営管理基盤構築」の目的のひとつが「高度な業績管理」であり、そのために必要とされたのがデータ構造の標準化だった。

5社合併の決定から新会社の発足まで時間が短かったLIXILは、当初5社のホストシステムをブリッジでつなぎ合わせる形でスタートした。当然、原材料および製品の品目や顧客などのマスタデータは、登録単位もコード体系なども統一されておらず、トランザクション(業務取引)の粒度や基準は5社の業務毎に違っていた。

しかし、事業や製品の売上・利益・成長性などを同じ尺度で正しく把握するためには、マスタの統合と一元管理、およびトランザクションの粒度や基準の合わせ(データ構造の標準化)は必須となる。経理標準化プロジェクトでは、経理システム推進部が主導して、デジタル部門、生産部門のメンバーと共同でこの標準化に取り組んだ。

まず旧来の5社の事業・製品を、顧客や販売プロセスが違う「水まわり(トイレ、水栓金具、浴槽、キッチンなどの住宅設備)」と「金属(窓、ドア、インテリア、エクステリアなどの建材)」の2つに分類し、それぞれの業務に最適なSAPベースの業務システムを構築することを決定。さらに2つのシステムを跨いでデータ構造の標準化を進めた。

この標準化には並大抵ではない労力を必要とした。マスタは、旧来の5社が持つ膨大な品目や顧客データを整理して統合する必要があり、トランザクションは、高度な業績管理を行うための業務プロセス変更にも取り組んだためだ。例えば、「水まわり」の原価計算方法を標準原価法に変更。加えて、在庫管理方法を期末棚卸法から継続記録法に変更した。業績管理において、月末着地予想や、標準(目標)原価と実際原価の差異分析等を可能とするためである。

経理財務部門が、生産部門の業務プロセス変更までに踏み込んでプロジェクトを進められた背景には、「経理標準化プロジェクトは業績管理高度化のベースであり、LIXILの将来のために絶対にやり遂げる」という経営層のトップダウン・メッセージと支援があったという。

そして、それら2つの業務システムの会計伝票の明細データを、全社の会計システムへレプリケーション(複製)するITアーキテクチャとした(下図 TOBE参照)。明細データの連携には「SAP S/4HANA for central finance」を利用。全社の会計システム上で、すべての会計伝票の明細データを様々な切り口で分析し、必要があれば明細にドリルバックして内容を確認可能とした。

経理標準化プロジェクトのASISとTOBE

例えば、標準原価と実際原価に差異が発生した際、従来では「差異が発生している」以上の事実を分析するには多大な労力が必要だった。本社経理から生産部門の工場経理に必要なデータ収集を依頼し、各ホストシステムのデータを収集し、レポートを作成する必要がある。それを行ったとしても、トランザクションの粒度や基準が違うため、同一の尺度で分析をすることは難しい。

しかしプロジェクト後は、「製品カテゴリ別に、製造差異、価格差異、在庫差異、評価差異のいずれが、どれだけ発生したのか」をその場で分析できる。多くのレポートに時間を掛けずとも、経営・経理・事業が同じデータを見てビジネスの状況を理解し、対策を検討することが可能となった。

経理標準化プロジェクトの導入効果

今の時代の経理は、レポートに時間を使うのではなく、ビジネス・パートナーとして事業パフォーマンス分析や対策検討に時間を使う必要があります。経理標準化プロジェクトでそれを実現するための基盤を手に入れました。

経理財務本部経理 システム推進部 リーダー 浜辺 常夫氏

データとプロセスの標準化がもたらした企業の一体化

経理標準化プロジェクトにおいてメンバーが最も腐心したのは、データ構造の標準化において、いかに生産部門の協力を得るかということだった。生産部門から見ると、旧来のプロセスで業務は問題なく回る。経営からのメッセージを理解しながらも、慣れ親しんだやり方を捨てて新しいやり方に変えるには大きな心理的ハードルがあった。

プロジェクト・メンバーは、「LIXILの将来のために、業績管理の高度化のベースとなるデータ構造の標準化が必要」という目的に加えて、原価計算や在庫管理方法、ITアーキテクチャ、各業務のプロセスを勉強し、現行とプロジェクト後の差異とメリットをまとめ、生産部門に赴いて説明を繰り返した。

何度も足を運ぶうちに変化が訪れる。プロジェクト・メンバーがLIXILの将来を考える真摯な態度とそのための努力が共感を呼び、協力者が増え始めたのだ。その中で、プロジェクトが経営や経理財務だけでなく、生産現場にメリットをもたらすことが注目された。標準原価と実際原価の差異を分析して有効な対策を検討できることや、継続記録法によって在庫状況が見える化されることがオペレーション高度化につながると理解され、受け入れられていった。

協力体制ができるとスピードは加速した。経理財務部門とデジタル部門のメンバーは、生産部門と協力してマスタの統一作業や、業務プロセス変更による影響のディスカッションを進めた。これまで顔を知らなかった出自が違うLIXIL社員が、経理、デジタル、業務とお互いの知識を共有しながら結びつきを強くし、一体感は高まっていった。

「グループ経営管理基盤構築」のリリース後、経営、経理、デジタル、生産部門までが同じデータを見て問題点や対策を話しあえることが、LIXILの一体感を更に強めているという。経理財務部門のプロジェクト・メンバーは、生産部門の社員から自部門の管理会計に関する質問を受けるようになった。

業績管理の高度化のためのデータ構造標準化がプロジェクトに携わった人々を結びつけ、更に同じデータ(事実の共通認識)から導かれる生産的なディスカッションが企業の一体感を強めることに繋がったのだ。

標準化を起点とするインテリジェント・エンタープライズへの旅

経理標準化プロジェクトは2023年4月に債権・資金管理導入を終了し、国内SAP会計のフル稼働を見込む。LIXILは、マスタ統合とトランザクション標準化によって、事実を元にビジネスの状況を把握・分析し、未来を見通した対策を、より効果的に打つことができるだろう。しかし、これはLIXILのデジタル化にとってスタート地点だ。

標準化されたトランザクションからは、売上・利益や成長性以外のインサイトを引き出すこともできる。例えば、「どのような顧客層がどのような製品を好むか」という、顧客エンゲージメントの分析にも利用できるだろう。LIXILはデータという資産を活用して、インテリジェント・エンタープライズへ向かう旅を進める。SAPは、データ・プロセスの標準化とシンプル化という創業以来の価値をもって、今後もその旅を支援させていただきたいと考えている。

※以下の画像をクリックいただくと、変革事例をダウンロード可能です

経理標準化プロジェクトのストーリー・ビデオ

 

 

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