製造業は需要変動にいかに早く対応できるか ー 発注変更までにかかる時間の短縮がカギ

作成者:豊里 陸王 投稿日:2021年12月2日

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コロナ禍を契機に、需要変動に対応可能な供給体制の必要性が改めて見直されています。本稿では、需要が変化したとき直面する計画プロセスの課題を整理するとともに、需要変動に対して素早く生産計画を行う方法として、SAP S/4HANAを使用した生産管理ソリューションをご紹介します。

多くの製造業のお客様が、生産スケジューラーを使用してライン計画を立案しているかと思います。生産管理システムの資材所要量計画(MRP)機能を使うと日バケットでの計画は立案できますが、日単位での計画は製造指示や調達計画としては粒度が荒すぎることが多いため、MRPの計画を補完する目的で生産スケジューラーを使用します。MRP単体では負荷は考慮できませんが、生産スケジューラーを併用すると工程能力を使用した負荷計算を行うため、ラインの制約に基づいて時間バケットの生産計画を立案できるという利点もあります。また、ジャストインタイム(JIT)納入指示を行いたい場合は、時間単位の手配をサプライヤーに渡す必要があるため、生産スケジューラーの活用がより重要になります。生産管理システムと生産スケジューラーを相互補完的に使用すると非常に便利になる反面、需要変化が激しい場合には、ふたつのシステムを使って再計画することが問題となる可能性があります。

※資材所要量計画(MRP: Material Requirements Planning)とは、需要情報をもとに生産日・生産数、資材の所要日・所要数を計算する仕組み。

※ジャストインタイム(JIT)納入とは、サプライヤーがセットメーカーに対して必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ供給すること。

生産計画を行う際の一般的なシステム運用

生産管理システムと生産スケジューラーを併用している場合、ふたつのシステムを行き来して生産計画プロセスを完了させることが一般的です。

はじめに、需要情報に基づき、ラフカットでの所要量計算を生産管理システム内で実行し、計算結果として生成される基準生産計画(MPS)を生産スケジューラーに転送します。設計変更後のマスタデータや、当日までの生産・仕掛実績も併せて連携させる必要があるため、一連の計算・転送処理は、夜間バッチによって行われます。

次に、生産スケジューラーを使用した工程計画の調整作業が翌朝以降に行われます。実際のライン負荷や部品の到着予定に基づいた工程計画が立案されます。納期が守られるように工程間の整合性がチェックされると、各ラインの工程計画が出来上がり、社内で生産される品目の着手日時が確定されます。

その後、生産計画の最後のステップとして通常の所要量計算(MRP)を生産管理システム内で実行します。生産スケジューラーとは別個のシステムになるため、再度バッチ処理によって計画データが連携されたのち、計算処理が実行されます。作成された工程計画を基に、ここで初めて構成品目全体の所要量展開が行われ、外部調達品目の手配が生成されます。システム負荷が大きいMRP実行は夜間や週末といった工場非稼働時間に行われることが多いので、実行結果と生成された手配の確認は3日目の朝以降となります。このような計画プロセスを採用していると毎日行うことが難しいので、月次または週次で一連の計画業務を行うことが普通です。

※基準生産計画(MPS: Master Production Schedule)とは、タイムバケット単位で設定された生産予定のこと。

生産管理システム・生産スケジューラーを分けて運用するときの問題点

通常の計画では問題はなくとも、需要変動に対してすぐさま再計画を行う必要がある際には、前述の計画プロセスが障壁となり、機会損失につながることがあります。再計画の場合は、一度確定させた工程計画を見直すことに加え、調達手配を更新し、サプライヤーに変更を依頼する必要もあります。新しい工程計画の最終化は供給可否に依存するので、返答を待ってから計画を確定させる必要があります。そのため、ライン計画の調整が完了するまでには、上記の計画にかかる時間に加え、サプライヤー回答にかかる時間も含める必要があります。

また、商流の都合で納期までの余裕が少ないメーカーでは、変更依頼が間に合わないことが常態化するので、調達済み在庫数量を制約条件として生産スケジューラーを使用することが当たり前となっているケースもあります。こうした従来のシステム運用では、変更分の部品調達が間に合わない、または調達済み数量を前提に工程計画を立てざるを得ないことが原因となり、本来なら受け付けることができた受注を逃してしまうことが発生します。部品不足による失注を防ぐ対策として、安全在庫に頼ることも可能ですが、供給不足を避ける策であるがゆえに過剰に在庫される原因となりやすいです。

SAPの生産管理ソリューションを使った解決策

SAP S/4HANAによって提供される生産管理ソリューションは、従来は別システム(SAP Advanced Planning and Optimization)に搭載していた生産スケジューラー機能を基幹システム内に取り込んだことにより、MRPから生産スケジューリングまでを一度に実行できるようになりました。図1で示すように、計画業務でボトルネックとなりやすいデータ連携による遅延が発生しません。新たな需要情報がシステムにインプットされた時点で、工程計画までを一気に引き直し、必要調達数量に更新された発注伝票を出力します。SAP S/4HANAから新たに搭載されている高速MRP計算機能のおかげで、夜間バッチ処理に頼ることなく、処理完了までの時間が1時間程度に抑えられます。そのため、発注変更は最短その日中にサプライヤーに受け渡されます。SAP S/4HANAを採用すると再計画時間が短縮化され、部品の追加発注が間に合う可能性が上がるので、今まで設けていた厳しい変更期限を取り払い、受注の追加や変更に対応することができます。加えて、納期により近いタイミングで得られる確度の高い需要に合わせて生産・調達できるため、過剰在庫策に陥る必要がなくなります。一度のシステム処理で再計画プロセスが完結するため、終業時間後に実行していた計算処理やシステム連携を日中に行い、すぐさまサプライヤーに変更依頼を送付することが可能になります。

今まではシステム間の転送時間を夜間に確保する必要があったため、再計画プロセスの長さがボトルネックとなり、変動需要に合わせた発注変更が間に合わないことがありました。SAPの生産計画ソリューションに切り替えると、従来のシステムの問題が解消され、再計画プロセス全体を1日で終えることが可能になります。セットメーカーに直接納入している業態だと、自社の生産数量が最終製品の販売数量に依存するので、そもそも需要予測頼みの生産活動が難しいことがほとんどです。また一次サプライヤー(あるいは二次サプライヤー)という特性上、即納を求められることも少なくありません。こうした製造業のお客様には、毎日の生産計画立案から、部品発注管理までを一括で行うSAPの生産管理ソリューションを採用していただくことで、需要変動に強い生産体制が期待できます。

生産システムをSAPシステムに刷新し、計画にかかっている時間が短縮されると、あわせて以下のような点も改善が期待されます。

  • 計画プロセスが短くなるので、現行月次で立てている計画を週次に、週次の場合は日次計画へと、計画サイクルを短くすることができるようになる
  • 納期に近いタイミングで実需要に基づいて生産計画を立てることができるようになるので、在庫リスクが減少する
  • 需要変動が激しく、部品管理点数も多くなりがちなマスカスタマイゼーション品目も扱うことができるようになる
  • 直前の需要変動にも対応できるようになるので、販売側と取り決めている受注受付期間を生産リードタイムぎりぎりまで伸ばすことができるようになる
  • 追加部品数量を早いタイミングで算出できるので、複数の仕入先からの購買が検討できるようになり、交渉力強化や、長期的な調達リスク低減につながる

今回ご紹介したソリューションのほかにも、サプライチェーンまわりの課題に対して様々なご提案させていただきますので、ぜひご連絡ください。

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