海外企業のシステム開発現場に学ぶ“日本人気質”に似た「品質へのこだわり」
作成者:大岩 康志 投稿日:2013年8月1日
こんにちは、SAPジャパンの大岩です。前回は「システム運用の負荷を減らして新たな投資を行うために」をテーマに、監視ツールで重大障害を90%、障害復旧時間を25%削減した金融機関の事例などをご紹介しました。今回は前回に引き続き、SAP Quality Center by HPを活用したいくつかの海外事例をご紹介しながら、こうしたツールの導入がいよいよ本格化する日本企業が学ぶべきポイントについて見ていきましょう。
多くの海外企業がSAP Quality Center by HPで自社システムの開発品質&効率を向上
前回もご紹介しましたが、SAP Quality Center by HPがツールとして備えている特長は、大きく以下の3つがあります。
- テストに関する情報の一元管理(要件管理、進捗管理、障害管理)
- テストの自動化による工数削減
- ノウハウの蓄積、再利用が可能
このツールを活用している海外企業は多く、今年の5月に米国で開催されたSAP のイベントSAPPHIRE NOW 2013でも、やはりSAP Quality Center by HPに関するいくつもの講演が行われています。主だったものだけでも、以下のようなさまざまな業界の成功事例があります。
Tモバイル
T-Mobile USAは、加入者数 国内第4位を誇る米国の携帯電話事業者です。SAPを基幹システムに採用し、加入者申し込みなどの取引から受注、請求、調達、支払、財務、人事までの主要な業務を行っています。システム品質向上と運用効率化を重要な経営課題として、SAP Quality Center by HPを導入。①ERPのカットオーバー後の不具合発生を約75%削減、②スクリプト自動化によりテスト実行時間を約50%短縮、③ERPアプリケーションの可用性が向上、といったメリットを実現しました。
エクソン モービル
エクソンモービルは、世界最大の国際的な石油・ガス企業で、エネルギーや石油化学事業のあらゆる面で業界のリーダー的な存在であり、世界中に製品を提供するとともに、石油や天然ガスの資源開発も手がけています。システム安定稼働の大きな要素となる「システムテストの自動化」、「システム品質作業の効果最大化」に向け、SAPの業務プロセスを最大限活用することをテーマにSAP Quality Center by HPを活用しています。
ハイネケン
ハイネケンは、世界71カ国に140以上の醸造所を展開する、世界第3位のビール会社です。同社では、「製品の品質は常に最高水準でなければならないこと」を自社のコアバリューとして掲げてきました。近年そのポリシーをITの品質に対しても適用する取り組みに着手し、SAP Quality Center by HPを利用した「テスト センター オブ エクセレンス」の仕組みを構築して、ITの品質を大きく高めることに成功しました。
ベイカーヒューズ
トップダウンの意識改革と同時に新たなツールとしてSAP Quality Center by HPを導入
このほかにも、私自身の経験として、先日米国のベイカーヒューズ社というユーザー企業を訪問して、現場の方々から導入効果について伺うことができました。少し詳しくご報告しましょう。
ベイカーヒューズ社は、石油や天然資源の掘削用ドリルのメーカーで、グローバル90カ国に展開しています。企業規模としてはかなり大きく、ドリル製造以外にも天然資源開発に関連した複数のビジネスを展開しています。こうした事業の多様性に加えて、原油価格といった大きな変動要因も抱えており、ビジネスにおける判断も組織も、そして製品もめざましいスピードで変化させていくという事業の特長を持っています。
私は同社を訪れて、予想外の事実に大きな衝撃を受けました。何が衝撃的だったかというと、彼らが本気で自社のあるべき姿をひたむきにかつ継続的に追求し、取り組んでいるという事実です。このかつて日本人がもっとも得意とした分野を、いまや米国の人々が日本人以上の熱心さで取り組んでいるという事実に、「日本の私たちも、こうしてはいられない」と思わざるを得ませんでした。
さて、具体的なベイカーヒューズ社の取り組みの内容ですが、複数の分野に展開し、ビジネスの変化をドライブする自社システムの開発体制を構築するため、まず行われたのがトップダウンによる意識改革です。それまで長らく、システムはビジネスの進化を妨げる大きな要因の1つだと見られてきました。それをトップみずからが「システム、ITこそがビジネスの変化をドライブする役割を担っており、その運用の改善、とりわけシステムのテスト周りには大きなメスを入れるべきだ」と宣言して、組織も大きく改革し、SAP Quality Center by HPを導入したのです。
海外に学んだヒントに日本企業の長所を重ねてさらに大きな成果を
意識と組織、そしてツールまでを刷新したベイカーヒューズ社が次に取り組んだのは、社内に品質を担保する組織の立ち上げでした。自社のIT担当者と協力ベンダーによって構成され、システムや業務横断的な特長を持つこの組織は「TCoE (Testing Center of Excellence)」と呼ばれ、テストに特化したナレッジを小規模のチームに全部集めることを目的としていました。
しかし、もちろんナレッジを集めるだけでは、なかなか具体的な生産性向上の動きにはつながりません。そこでオートメーションという視点から、SAP Quality Center by HPを含むSAPの情報管理ソリューション群を導入。ここで得たノウハウや効率化に関するテスト資産を、社内のプロジェクトの中で徹底的に利用するというサイクルを確立したのです。この結果、品質が飛躍的にアップし、一方で関連する作業規模やエンドユーザーの関わる作業が大幅に縮小するといった効果が生まれました。また、これらのメリットを数字で見ると、以下のような成果が上げられます。
- システム開発のコスト削減:25%
- テストフェ―ズの期間削減:60%
- ユーザーテスト作業時間の短縮:40%
- テストケース計画期間の短縮:35%
ベイカーヒューズ社では、こうしたTCoEの仕組みを導入して以降、製品のリリース、プロジェクトのカットオーバー後の重大なバグの発生がほぼ皆無になったといいます。その結果として、これまで“目に見えない大きな関連コスト”とされてきたものが、この時点で一掃されたのです。
ここまで海外の事例をいくつか見てきましたが、ここから改めて感じるのは、それぞれの事例自体は特に高度な技術を駆使した取り組みなどではなく、むしろ組織の仕組みやツールの使いこなしに工夫を凝らし、なおかつその取り組みを継続的に、確実に実行していくだけで、ここまでの成果を達成できるのだという事実です。
これこそは、私たち日本人や日本企業が得意としてきた“小さなことの積み重ねにより、大きな成果を成し遂げる”という「勤勉さ」「品質へのこだわり」の気質に他なりません。もちろん海外の事例をそのまま日本に持ち込むことが、正解とは思いません。しかし、学ぶべき点を学び、それを日本の得意分野や長所と結びつけて、国内のお客様に適したご提案をしていくのは、グローバルベンダーである私たちSAP の使命だと自負しています。
繰り返しになりますが、こうした取り組みにおいては、これまでにない奇抜なアイディアを模索する必要はありません。むしろ日本の高品質なものづくりのDNAの中で長らく取り組んできたことに、新しいSAPの情報管理ソリューション群をフィットさせていけば、今回の海外事例以上の成果を上げることは可能だと私たちは確信しています。そのためにもSAPは日本企業と日本の競争力を、情報活用の側面からこれまで以上に支えていきたいと思っています。どうぞ、お気軽にご相談ください。
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