持続可能な社会を支えるデジタルファイナンス
作成者:前園 曙宏 投稿日:2021年12月1日
新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)が未だ世界各地で終息せず、人の移動はまだまだ制限・抑制が続いていますが、企業のバリューチェーンは世界中に張り巡らされており、既にボーダレスな社会環境となっていたため、コロナ禍の社会・生活環境下においてもモノ・カネ・情報・サービスは国境を越え、グローバルサプライチェーンの維持管理が世界経済にとって重要な存在であることがあらためて明確になったと言えます。
また、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)での議論の後押しもあり、カーボンニュートラル、ネットゼロ、脱炭素経営に向け多くの企業がサプライチェーン排出量(スコープ3)の管理・削減に大きく舵を切りだし、サプライチェーン全体に渡る透明性とトレーサビリティーの厳密な情報開示に対する意識がさらに高まっています。そこで、今回は持続可能な社会を支えるグローバルサプライチェーン、貿易業務のデジタル化に伴うデジタルファイナンスに関する取組み事例を取り上げます。
ゴールドマン・サックスは2020年にSAPが運営する年間取引額3.2兆ドル(約350兆円)規模の世界最大規模の企業向け購買・調達ネットワーク(Ariba Network)へクロスボーダーグローバルペイメントの提供を開始しました。
ゴールドマン・サックス トランザクション・バンキングのグローバルヘッドであるハリ・ モーシー氏は、次のように述べています。「お客様がより円滑に、より魅力的で透明性の高い価格設定で海外取引決済できるために、SAPと提携して革新的かつシンプルな方法で、ご提供できたことを誇りに思います」と述べています。
この提携によるバイヤーとサプライヤーのメリットは、次のとおりです。
- 海外サプライヤーへの支払にまつわる煩雑さを解消、支払プロセスの合理化と同時に、競争力のある為替レート、低コストで現地通貨決済が可能となる
- 請求書照合や勘定調整がより簡単になることで運用効率を改善、リアルタイムでの支払状況追跡により、サプライヤーからの支払関連の問合せを削減
- 銀行手数料のコストを透明化
- ゴールドマン・サックスの高度な機械学習技術で支払を最適化
- 可視性の向上で、調達および財務利害関係者の外国為替支払コントロールを高め、為替エクスポージャーリスクを低減
- 最小限の変更管理、各優先通貨で取引が完了、バイヤーとサプライヤー間で煩雑なやりとりは不要となる
スタンダードチャータード銀行は、190カ国460万社以上の企業をつなぐ世界最大のデジタルビジネスネットワークであるAriba Networkを通じて、アジア太平洋地域の企業が同行の金融サプライチェーンソリューションを容易に利用できるようにすると発表しました。
スタンダードチャータード トランザクションバンキング部門のグローバルヘッドであるリサ・ロビンズ氏は、「我々のゴールは、お客様とそのエコシステムの環境をより快適にすることであり、お客様のビジネスの進化に合わせて我々も進化していきます」、「当社はSAP Aribaと協力して、お客様の調達から支払いまでのライフサイクルをサポートできることを嬉しく思います。我々はオープンバンキングを採用することで、我々のフットプリント全体でコミュニティを繋ぎ、顧客が持続的にビジネスを成長させることを可能にする統合ソリューションへのアクセスを提供する」と述べています。
この戦略的提携サービスにより、Ariba Networkのバイヤーは、支払いやサプライチェーンファイナンスのニーズをシームレスに管理できるようになり、サプライヤーは、スタンダードチャータード銀行のグローバルネットワークを利用して、資金調達や外国為替に迅速にアクセスできるようになります。さらにサプライチェーン全体のデジタル化を加速させ、バイヤーとサプライヤー双方の効率性、透明性、正確性を向上させると共に、持続可能な経済成長を支援し、企業が資金調達にアクセスしやすくすることを目指しています。
※参考:SAP Ariba Networkと銀行API連携、Embedded Finance(組み込み型)サービスなどで実現するデジタルファイナンスのイメージ
SAPのグローバルパートナーであるmsg社は、ブロックチェーン技術を活用したデジタル貿易金融コンソーシアム・マルコポーロ・ネットワーク(貿易・決済・運転資金調達のためのソフトウェアプラットフォーム)と、多くのグローバル企業に採用されているSAP ERPシステムとの間のシームレスな統合、ユーザー・エクスペリエンス、リアルタイムデータ交換を促進するソリューションとエクステンション開発に着手しています。これにより、貿易業務に関する煩雑なデータフローは自動化され、これまで対象外となっていた貿易取引でも新たな資金調達対象として扱われたり、柔軟なキャッシュフロー管理や正確な需要予測のためにERPシステムをリアルタイムに更新できるようになります。
国内では、ブロックチェーン技術を活用した貿易DXを推進するトレードワルツが、SAP.iO Foundry Tokyoプログラムに採択され、SAPとのAPI接続・標準コネクタ開発に着手されています。
トレードワルツによれば、「契約情報や会計情報を取りまとめる基幹システムに関しても、特にSAPに関しては、貿易実務者からは標準コネクタのニーズが多い状況で、7月に貿易コンソーシアムでアンケートをした際には、同コンソーシアム中のSAPユーザーの79%が標準コネクタの開発に強いニーズを示されました。」とのこと。この取組みにより、国内外の貿易業務のワンストップ化がさらに加速されることに期待したいと思います。
米マイクロソフト創業者ビル ゲイツが1994年に「銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」と発言し約30年が経ち、デジタル技術の革新に伴うフィンテックの台頭、COVID-19の影響もあり、世界中の金融機関においてマイクロサービス化、オープンAPI、Embedded Finance(組み込み型金融)などを活用した新たなデジタル金融サービスの開発・提供が急加速しています。その中でも個人向け金融サービスのデジタル化に比べて大きく出遅れていた企業向けDX(デジタル・トランスフォーメーション)、デジタルファイナンスの領域では、世界中のフィンテックや異業種などの新規参入、既存の大手金融機関による新しい金融機能サービスの開発・提供が増加すると予想されています。
また、地球規模で一気に加速し出したカーボンニュートラル達成に向けたサプライチェーン全体の広範かつ詳細、複雑なデータ収集・分析・評価が求められるサステナブルファイナンス領域への継続的な金融機能サービスの開発・高度化に力を注いで頂き、既にグローバルと繋がっている多くの日本企業の底支えとなるような企業向け金融サービスDX、デジタルファイナンスへの積極的な取り組みに一層の期待をしたいと思います。
※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、各社のレビューを受けたものではありません。
出典:SAPとゴールドマン・サックス、Ariba® Network上での 海外取引代金決済をより容易にする革新的なグローバルペイメントを提供
出典:Award winning Marco Polo & msg announce strategic alliance
出典:貿易DXを推進するトレードワルツが、「SAP.iO Foundry Tokyo」 プログラムに採択。SAPとのAPI接続-標準コネクタ開発に着手。