サステナビリティに向けた実践手引き2~全体設計とPurpose~
作成者:福岡 浩二 投稿日:2021年12月2日
前回はこちらで、サステナビリティをテーマにした実践的な取り組みの背景として、外部環境の動向について触れました。
今回からは、企業内部の取り組みとしての全体設計と初めのポイントを中心にお届けします。個社特有によって判断する領域もあろうかと思います。ただ、丸めるとどうしても抽象的すぎて実践から遠くなるデメリットもありますので、適時我々SAPのケースも添えてみます。
読者の皆様が所属する企業の1つの議論のたたきとして受け止めてもらえれば幸いです。
サステナビリティ活動全体の流れ
初めに全体の流れについてお話します。下図が外部環境と企業内での全体のサステナビリティ活動のフローを模式化したものです。
以下より、企業内での全体像をざっと解説します。
はじめに、サステナビリティなのに「Purpose策定」がスタートであることに、違和感を持っている方もいるかもしれません。
和訳すると「存在意義」、砕いて書くと「なぜこの組織が社会にとって必要なのか?」という意味を表します。
そもそも今、世界中でサステナビリティが叫ばれている背景の1つは、経済活動を通じた利益偏重による環境・社会問題の顕在化にあります。
たとえば、環境影響を考慮せずに原材料を調達したり、現地で不当に安い賃金で働かせても、経済的な評価には直接的に組み込まれないと、どうしてもそれを優先してしまいます。そのしわ寄せが一部のステークホルダーに及び、奴隷労働や地球温暖化問題として顕在化しています。
企業としてそれらから目をそらさずにどう向かい合うのか? そこがまさにPurposeも絡むことであり、後半で深掘りします。
次に、「サステナビリティ方針」を定めます。つまり、ステークホルダーのうち、どこをどこまで重視するのかを宣言します。最近ですと、脱炭素としてカーボンニュートラルを掲げる企業が増えていますが、もちろん環境以外も含まれます。
次の「経営戦略との紐づけ」は、直前の方針とも影響する話ですので、無理に切り分ける必要はありません。
一般的にはここで、自社としての強みがどう活かせるのかという観点も含めて、たとえばマテリアリティ(重要課題)を特定してそこに資源を再配置する基準を与えます。
次に資源の再配置ですが、さらに分けて「組織設計」と「業績評価」に大別できます。もし戦略に紐づく組織がなければ新規設立もここで検討します。例えば日本企業でも、この数年で独立した「サステナビリティ推進部」を新設するケースが増えています。
「業績評価」についてのポイントは「非財務と財務の連関」と、それを踏まえていかに事業本流のプロセスに組み込めるかが大事になってきます。
最後に「実行と改善」ですが、こちらは「各プロセスにどうデジタルを活用して効率・効果的に回せるか」がポイントになってきます。連載の中で具体的な製品画面イメージでの実例をご紹介していきたいと思います。
以上が全体の流れですが、通常の企業活動同様、全体・部分の視点でのPDCAサイクルを回しながら改善を積み重ねていく必要があります。
ここからは、はじめの「Purpose策定」についてもう少し深堀りしたいと思います。厳密には二軸のPurposeについて考える必要があります。
二軸のPurpose設計・運用
上記で触れたPurposeは、厳密には企業全体としての「トップダウン型Purpose」です。ただし、これを具現化するには各組織及び所属する従業員との共鳴が必要です。そのためには、並行して「ボトムアップ型Purpose」の仕組みも必要となります。
ここでSAPの例をご紹介します。
2000年以降から、グローバルでの販売体制を効率化することで経済成長を全力で追い求めていましたが、その偏重による綻びも見え始めていました。
そして2008年のリーマンショック時に、短期的な利益を確保するため社外や社内(従業員)に無理を強いることで大事な信頼を失い、結果として経済的な損失まで招いてしまったという強烈な原体験があります。(参考:SAP CFO動画)
その翌年の2009年に、会社を立て直すべく、そもそも「SAPは何のために存在すべきなのか?」から経営層が問い直して、今でも引き継いでいる「Help the world run better and improve people’s lives(世界をよりよくし、人々の生活をより豊かにする)」というPurposeを再定義しました。
ただ、それだけだとスローガンに終わってしまうため、いくつかの制度改革も同時に実行しています。その中身については次回以降で紹介しますが、ここではもう1つの「ボトムアップ型Purpose」について補足して終わりたいと思います。
改めてPurposeは存在意義であり、それは他人から押し付けられるものでなく内発的な動機であるのが理想です。企業の中でも同様で、上から従業員に押し付けるのでなく、それに共鳴した個々の従業員それぞれがPurposeを育む活動を、今でも継続的におこなっています。
SAP グローバルでは、毎年Purposeに沿ったテーマをもとにした社会課題解決コンテスト(紹介記事)や、D&Iを浸透させる活動(紹介記事)、そして社外ベンチャーとのCo-Innovation(価値共創)のなかでも社会課題に向けた活動を行っています。(紹介記事)
SAP Japan独自でもいくつか推し進めており、代表的なものではJapan2023という従業員主導型の企画が行われています。詳細はこちらでも紹介していますが、ポイントなのは、企業(経営層)からの視点では「従業員がやりたいと思ったことをサポートする場づくり」に徹することではないかと思います。
日本企業のPurpose事例として、筆者も取材させていただいた食品メーカ味の素様が、社会価値と経済価値を共創する取組みとして従業員参加型のビジョン浸透活動を推し進めています。とても実用的で参考になりますので、ぜひこちらからご一読ください。
改めて、Purpose設計はサステナビリティを実践するための行動原理にあたる営みです。そして企業全体として明文化するだけでなく、それをどのように従業員に自分事として定着化させていくのか?まさに終わりのない旅(ジャーニー)ともいえますが、あまり大袈裟に構えすぎてしまうとその活動自体が縮こまってしまいます。
難しく考えすぎず、個々が仕事を通じてワクワクしたり家族や知り合いに誇ったりできるような事柄を、個人・組織で楽しく歩んでいけばよいと思います。
その積み重ねが、重層的なPurposeの形成、ゆくゆくは企業全体の活力に繋がると信じています。