2021年SAPジャパン 新型コロナワクチン職域接種の記録

作成者:佐宗 龍投稿日:2021年12月2日

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イントロダクション

2021年6月8日、当時の加藤官房長官が記者会見で、コロナワクチン職域接種について、6月9日から企業や大学からの受付を開始することを発表した。さらに早ければ6月21日から接種が出来るように進めていきたいとのことであった。

その際、職域接種についての実施要件として以下の5点が求められていた。

  1. 医師・看護師等の医療職の他、会場運営のスタッフ等、必要な人員を企業や大学等が自ら確保すること
  2. 接種場所・動線等の確保についても企業や大学が自ら確保すること
  3. 社内連絡体制・対外調整役を確保すること(事務局を設置すること)
  4. 同一の接種会場で2回接種を完了することに加え、最低2,000回(1,000人×2回接種)程度の接種を行うことを基本とすること
  5. ワクチンの納品先の事務所でワクチンを保管の上、接種すること

上記の要件を満たすための準備やコストの社内調整に時間を要することから、職域接種実施を躊躇する企業もそれなりに多かったはずである。実際にSAPジャパンよりも規模の大きな企業でも職域接種が行われないことも多かったと聞く。

これまでの仕事の経緯からドイツ本社との関わりが強かったことで、SAPジャパンにおいて職域接種実現に向けて当初より参画した筆者が、その経緯を振り返ることにした。

 

SAPジャパン社内での動き

SAPジャパンでは、受付開始日にあわせて厚生労働省に職域接種の申込みを行い、約4,000人分の接種を申請した。受付当日に申し込みを行ったことは、その後のワクチン供給制限によって追加の職域接種の申込みが停止したことを考えると、結果として経営陣の素早い意思決定が功を奏したことになる。

2021年6月11日、社長の鈴木より全社員宛に「コロナワクチン職域接種の支援ソリューションと我々自身のワクチン職域接種の検討について」というメールが送信された。社員の多くからSAPも職域ワクチン接種をしてほしいという声が挙がっていること、既に厚生労働省に対して職域接種実施を申請済みで、進め方を検討中であることが通知された。最初の案内では、SAPジャパン・アリバ・コンカー・クアルトリクス・シグナビオに所属する全社員(正社員と派遣社員、更にパートナー企業社員でSAPのIDを持っている者も含む)だけでなく、社員が同居している家族やパートナーも対象として職域接種を検討していることが合わせて周知された。

2021年6月14日には人事部門からの全社員に向けた接種希望のアンケートが出され、各地のオフィスで必要なワクチン数が把握された。

前述の通りSAPジャパンは職域接種の申込受付初日に申し込みを行ったことで、「遅くても」7月上旬~20日までに1回目、28日後(職域接種はモデルナ製ワクチンを利用するため)以降に2回目の接種を行うこととして準備を進めることとなった。7月上旬での接種実施を目指した理由は、申込みの検討が行われていた6月上旬は、まだ7月23日開会式の東京オリンピックを、有観客で行うのか無観客で行うのかの国としての判断が出ておらず、経営陣としてはオリンピックの際に生じうるコロナ拡散前に対処をすることを前提に、7月上旬の第1回目接種実施を目指して準備を行うこととした。

 

海外の状況

職域接種の準備を進めるにあたって、参考にしたのがドイツのSAP本社の取り組みだった。実は本社があるドイツでは、日本と同様、インフルエンザのワクチン接種をオフィス内で行ってきたことから、コロナワクチンの接種に関しても、本社があるウォルドルフだけでなく、複数の拠点で既に職域接種を行っていた。ドイツでは交差接種(交互接種)※という、1回目と2回目に違うタイプのワクチンを接種することを推奨しているために、拠点や日時だけでなく、ワクチンも選択できるようになっていた。また2021年春にリリースされた、コロナワクチン接種向けのSAP Vaccine Collaboration Hub(VCH)ではなく、従来からあったSAP Event Ticketingというスポーツ&エンターテイメント業界向けのチケット販売ソリューションを、社内のヘルスケアシステムや人事システムと連携をするために、一部機能拡張する形で使用していた。

ドイツの職域接種などに関するポータルサイトや予約サイト

※交差接種:1回目にmRNAタイプのファイザー製やモデルナ製ワクチンを接種した場合、2回目はウイルスベクタータイプのアストラゼネカ製やジョンソンアンドジョンソン製ワクチンを接種するというもの

 

職域接種に向けた準備

全社員への案内に先立ち、社長室、ヘルスセンター、総務部、沖縄市へのSAP VCH導入に携わったメンバー間で、職域接種に向けた対応についての打ち合わせが持たれた。具体的には、接種をお願いする医療機関との調整はもちろん、接種日当日の運営をどのように行うか、外部のサポートが必要か、予約の仕組みや受付処理、接種記録はどのように行うか、国が管理するワクチン接種記録システム(Vaccine Record System:通称VRS)への登録方法など、短い期間の中で検討すべき内容は多岐に渡っていた。通常お客様に提案や導入を行うメンバーは、今回のような社内向けのシステム構築に関わることはあまりない。

ただし、たまたまその前に我々が沖縄市の自治体接種向けシステム導入をサポートしていたことによって、予約から接種記録に至る一連の業務とシステムの流れをあらかじめ把握していた。振り返ると、短期間での業務プロセスとシステム構築が不可欠な今回の場合、その経験が大いに役に立った。筆者は予約の仕組みと受付処理、接種記録をどのように行うのかという、システムに関わる部分を主に担当した。

通常基礎自治体が運営する会場で接種を行う場合には、事前に基礎自治体から配布された接種券を元に予約を行い、接種後には接種券のデータを元にVRSへの登録を行う。しかし今回の職域接種の場合は、まだ接種券が届いていない人にも接種するケースがほとんどであり、様々な自治体に居住している人が接種を行う、いわゆる住所地外接種となる。果たしてどのようにVRSへの登録が行われるのかに関しては内閣官房IT統合戦略室が行うワクチン接種記録システムオンライン説明会に参加して確認しなければならなかった。

 

システム準備

今回、沖縄市に導入したVCHに関しての情報を集めるために連絡を取っていたドイツ本社の公共セクター担当の同僚から、ドイツの職域接種の状況と社内向けワクチン接種システムを担当しているメンバーを紹介してもらい、沖縄市で導入したSAP VCHを用いるか、ドイツで利用しているSAP Event Ticketingを用いるかの検討を開始した。職域接種は、上述したとおり非常にタイトなスケジュールで進めているなかで、必要な機能は維持しつつも、短納期でシステムを立ち上げなければならず、更にはコストも最小化することが求められた。その結果、SAP VCHでは予約管理機能の一部に外部ソリューションを利用していることもあってコスト面で見送りとなり、SAP Event TicketingとQualtricsに加え、一部カスタム開発のアプリケーションを利用することにした。予約の要であるSAP Event Ticketingに関しては、打ち合わせから3日後にはテストテナントが構築され、必要な機能の確認が行われた。更にドイツの担当者にレポーティングやデータ連携機能などの必要要件を伝えた上で、そこから1週間後には本番用のテナントが構築された。またドイツでは行われていないが、予約者が当日来場した際の受付処理のモバイルアプリケーションをローコードツールで開発、更にはワクチン接種後の15分の待機時間中に接種体験、次いで接種の3日後に体調確認のアンケートを実施して、参加者の声を取得することをQualtricsを用いて構築した。

システム化に向けたスケジュール

接種実施

ちょうど職域接種を開始する時期の少し前から、いくつかの自治体において、40代くらいまでを対象に接種券が配布され始めた。自治体での予約は取れなくても、自衛隊が運営していた大規模接種センターでの予約が取れ出したこともあり、SAPジャパンで確保していたワクチン数と当初の予約数に乖離ができ、さらに接種希望者を募れる余裕が出てくることがわかってきた。そこで、経営陣、社長室、ヘルスセンターの判断により、同居している家族やパートナーに限定していた予約を、同居していない家族やパートナー、友人についても予約が行えるように、臨機応変に社内ルールの改定を行った。

接種について、東京オフィスでは1回目、2回目ともに3日間で行い、合計で2,300人強(4,600回以上の接種)の社員、家族、パートナー、友人の接種を行った。これにはヘルスセンターや社長室、総務部だけでなく、社員がボランティアで受付業務や案内業務を支援してくれたこともあり、非常にスムーズに行うことができた。

接種終了後は15分ないしは30分の待機時間中にQualtricsを通じて接種体験のアンケートを実施したところ、満足度のスコアは5点満点で4.91であった。さらに数多くの感謝のコメントが寄せられた。その一部を紹介したい。

  • ワクチン接種に関する情報がなかなか入ってこなかった外国人社員やその家族や友人がSAPジャパンで行われた職域接種でワクチン接種が出来たことへの感謝
  • いつワクチン接種できるかどうか分からない不安がある特に若い世代から、早期に家族をも含めた接種ができた安堵

 

振り返って

SAPジャパンは2020年2月18日の社長の鈴木からのメールで、オフィス勤務および顧客企業勤務が必須でない社員及び派遣社員に関しては、基本的にテレワークでの勤務となっており、2021年12月時点でも継続されている。社員は在宅勤務をしているとはいえ、その家族は必ずしも在宅勤務をしている訳ではないし、買い物や子供の送り迎えなどで外出する機会もあるだろう。社員だけに職域接種を行う企業が多いが、同居している家族やパートナーへの接種が行われないと、感染抑止力の点で不十分であろう。

またワクチン接種は地方自治体も職域接種を行った企業も、接種支援を行う業者に丸投げしてしまうケースが多い。SAPジャパンでは、前日の会場設営や当日の案内など一部の業務に外部の事業者のサポートを依頼したが、多くの部分を自社で対応を行った。本来の業務では、数多くの、それぞれの組織に所属する社員たちが、自分の分を超えて、国内外連携した上で準備から実行までを行えたことが短期間での成功に繋がったと確信している。

以上をまとめると、立ち上げから接種実施までを円滑に実施できた要因はこうなると考える。

  • 社長からのトップダウンメッセージによって全社員がミッションを理解しひとつの行動になった
  • ドイツ、日本双方で、社員が命や健康に関わるミッションと捉え、自分の時間を融通し参画、周囲もそれを支援した
  • 1年以上の在宅勤務の経験から、顔を付き合わせていなくても自分のタスクを完遂できるコミュニケーションスキルが身についていた

筆者自身、このプロジェクトを支援して、いくつかのことを再認識した。

  • 日本での準備を非常にスムーズにした、ドイツ本社の新型コロナワクチン接種やインフルエンザの職域接種の知見、および社員への周知の方法も含めた仕組みの存在
  • 刻々と状況が変化していくなかで、実行しながら柔軟に意思決定を進めていくための経営層の積極的関与
  • 受付時と来場確認のために作ったアプリケーションが、接種会場で看護師の方がワクチン充填時のコントロールに役立つなど、業務でのデジタルデータ活用の有効性

これからも、過去にない、予期しない事態に対応しなければならないことが起きるかもしれない。これは筆者にとってのその際の覚書だが、多くの方々の参考になれば幸いである。

最後に、ドイツ本社での対応だけでも多忙なはずの担当者たちが、休日返上で日本向けの環境構築や技術サポートをしてくれたことに深く感謝したい。

追記

実は職域接種の場合、住所地外接種となるために、VRSへの登録が一括では行えず、職域接種を行った企業に配布されたタブレット1台で、紙の接種記録書のスキャンから登録作業を、個別に、つまり4,600回分行わなければならなかった。おそらく職域接種を行った企業(もしくは業務委託先)も同様ではなかっただろうか。今後3回目の職域接種が計画されていると聞くが、実施するならば、職域接種を行う企業の業務負荷の低減と、政府によるリアルタイムな接種状況の把握のためにも、VRSへの接種記録の一括登録が行えるようになることを期待する。

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