SAPジャパン Thought Leaders 今を語る

作成者:松井 昌代 投稿日:2021年12月6日

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世界的な課題が人々の日常に危機や制約をもたらしています。コロナ禍、半導体不足、原油高。日本国内では自然の脅威がもたらす災害・・・。

自分たちが試されていると感じている方は多いのではないでしょうか。考えるまでもなく、有史以来、人間は試されてきました。であれば、現代の人間が歩みを止める理由がどこにもないことに、むしろ直近のさまざまな危機や制約を経験したからこそ、今ならではの新たな1歩を踏み出すときであることに気づいている方もまた多いでしょう。私たちもそうです。

おかげさまで開始から3年以上続けてきたこのシリーズ、今年6月に配信した「立ち向かう人々が見せてくれる未来 — SAP Innovation Awards 2021 受賞者発表」が、SAP Globalが厳選した取り組みをご紹介する、いわば我々にとっての”規定演技”の回に対して、この時期の配信は、執筆メンバー各自がテーマを選ぶ”自由演技”の回です。専門分野を持つメンバーそれぞれが、今だからこそ皆様にお届けしたいことを、最も適切と思えるトピックに寄せて語ります。

持続可能性と循環型経済の理解と浸透

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。Circular Economyは、EUが2015年12月に政策パッケージを公表したことで世界的に広まった概念です。しかしながらどちらも、当初は、否定的見解を掲げる超大国のリーダーたちによって機運が削がれがちでした。かつては日本でも、大切なことだと頭では理解しつつも、見て見ぬふりが許されていたような空気が半ばありました。やはり大きな盛り上がりを見せたのは今年になってからという印象があります。

これまで特段取り組んでこなかった社会課題に対して、単一の企業や個人ができる具体的な貢献のイメージの湧きにくさから、周りを見て二の足を踏むことがしばしば見受けられますが、業務ソフトウェアを製造販売する企業が、自社での消費を削減するサステナビリティー活動を元に開発し、新たな製品を発表しました。できることから真摯に。社員個々人の学びを社会に。

SAP E-Mobility による持続可能なモビリティ社会の実現(田積 まどか)

金融業界でも、持続可能な社会の実現に向けて具体的な取り組みを公表する企業が相次いでいます。カーボンニュートラル達成に向けた、サプライチェーンに沿うクロスボーダーな決済サービスの提供、ブロックチェーン技術を活用した貿易ビジネスの支援など、国内外の動向に注目です。

持続可能な社会を支えるデジタルファイナンス(前園 曙宏)

未だに多くの業界、多くの企業が循環型経済実現のための具体的行動は道半ばである2021年の今、製造業界において、一般的なサステナビリティー対応を超え、独自の循環型経済実現に向けた施策を実施している企業があります。同じことをどこの企業でも行えるとはいえませんが、この具体性から、それぞれがそれぞれの思いを抱かれることでしょう。

市場投入した商品を可能な限り延命させる : 半導体装置メーカー ASML 循環型経済実現への挑戦(古澤 昌宏)

変革を牽引する企業風土

私たちはこれまでもさまざまな企業の変革の取り組みをご紹介してきました。それぞれの取り組みから感じるのは、その企業独自のスピリットが決断を後押しし、難局を打開する原動力になっていることです。今回も、3つの特長的な取り組みから興味深い示唆が得られました。

航空管制サービスを提供するドイツ企業は、安全を最重要視してコンサバティブかと思いきや、未来志向のモットーを掲げて日々の業務やプロジェクトを遂行しています。設備の予知保全プロジェクトでは、枯れた技術で収まるのではなく、プロトタイピングを重ねることによって機動性を発揮し、新たな技術の活用を促しています。

イノベーションを現実にするための要諦をDeutsche Flugsicherung(DFS)から紐解く(桃木 継之助)

「Work Together」を企業文化として掲げるスイスの国内企業が、海外へのビジネス拡大を成長戦略として描いたとき、たまたまその文化を生かしきれていない領域が成長の足枷となりかかっていました。彼らがその領域にこれまでとは違った体制を敷き、真の「Work Together」を実践するアプローチを選択し推進したことは、その後に成長軌道に乗った要因のひとつに挙げられます。

センシリオンの成長戦略を支える変革の歩み(柳浦 健一郎)

100年近い歴史を持ち、北米でビジネスを拡大する建設会社は、業界特有の多様なプロジェクト形態に対応して役割を変化させることで顧客の要望に応えています。成功を導き出すキーワードは”共感”。関係するパートナーをあたかも「運命共同体」として、ともにゴールを迎えられるような具体的な施策を講じ実践することにITを活用しています。

”共感で人が動く”ことに長けた建設業 グラハム社(土屋 貴広)

成すべきことのための変容

これまで人が行ってきた仕事をITが肩代わりするようになったことで、仕事全般における人が成すべきことが大きく様変わりしています。社会や市場から求められる「人」の存在が企業の存続を左右するといっても過言ではないでしょう。

長らく顧客から高い評価を得ている企業は、その規模が大きければ大きいほど、変革に向けて足並みを揃える難しさがあることを容易に想像できます。ビジネス環境の変化に応じて柔軟に変化していくためには、組織が「人」でできていることに今一度着目し、一人ひとりの市場価値を上げる必要があります。世界的なプロフェッショナルサービス企業の取り組みから、業界を問わず、従業員が時代に即した戦力であり続けるためのノウハウを学ぶことができます。

自ら学習する組織 — ジョブ型雇用の先に描かれるもの(久松 正和)

右肩上がりの市場だった業界が大変革の時代を迎えています。元々大手自動車メーカーの子会社だった経営およびITコンサルティング部隊が、親会社での実績を糧に、同業他社を含む自動車産業全体で成功を納め、今や業界横断の変革を支援し、さらには社会全体へ影響を及ぼすポジションを得たことで、結果として親会社のブランド価値向上にも寄与しています。ITの知見は市場のみならず社会的な価値であることを証明しています。

MHP — 自動車メーカーコンサルティング部隊の劇的進化と社会への貢献(山﨑 秀一)

ビジネスはデータがもたらすインサイトありき

日本で「DX」という言葉が広く一般に使われ出したきっかけのひとつは、2018年の経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』でした。内容は、多くの日本企業が、既存システムのブラックボックス化を解消できないことでデータを活用できずにいて、このままこの課題を克服できずにいると、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるというものでした。ありがちなことですが、その後DXという言葉が独り歩きして、最近では、テクノロジーを使った新しいことを何でもDXと呼ぶ傾向すら見られました。経済産業省が警鐘を鳴らした既存システムのブラックボックス化の解消が、その後思うように進んでいないことの現れと言えるかもしれません。

ここでは本来のDXという言葉に相応しい取り組みについて。デジタルデータを経営に活かすとはどういうことか、そのために何が必要か。ソフトウェアだけでは実現できない、使えるデジタルデータを生成するためには避けては通れない活動があり、真正面から取り組んだ企業だけが得られる果実を紹介します。

データ構造の標準化がもたらすLIXILの一体化(東 良太)

日本のお客様のデータ構造標準化の取り組みの次は、どなたにもお使いいただける弊社提供データのご紹介を。全世界15,000以上のお客様のご協力のもと、匿名での開示許諾をいただき、随時更新される630種以上の経営指標データは、既に海外では多くのお客様に、自社の立ち位置を確認し、今後の事業成長を目指すためのツールとしてご活用いただいています。このたび日本のお客様にも同様にご活用いただくための糸口を分析しました。

海外の中堅成長企業のデータ活用アプローチから学ぶ (原納 悠)

トリガーとしてのコロナ禍

2020年1月以来、人々の命や健康が脅かされ、経済活動や生活が制約されたままです。しかし、制約されて縮こまるのではなく、「第二次世界大戦以降、世界が直面した最大の試練」を貪欲に活かしてこそ、払った大きな犠牲に報いる行動でしょう。

早くから医療制度が充実していたイギリスですが、新型コロナウィルスの感染者・死者数が急増し、医療サービスを提供しているNational Health Service (NHS)スタッフの負荷が増大、国民が「Clap for Cares (医療・介護従事者に拍手を)」というキャンペーンを展開したほどでした。あまりにも過酷な経験だったからこそ、NHSは時をおかず、未来に向けた医療サービス環境整備と人材育成に関するPeople Planを策定し、医療従事者の生の声を反映させた具体的な活動を始めています。

組織の大いなる変革に向けて心をひとつに — NHSの挑戦(松井 昌代)

新型コロナワクチン接種は一人ひとりにとっての自分ごとであり、毎日メディアで取り上げられたことはどなたの記憶にも鮮やかなはず。今年の夏、自治体主導の接種の他に職域接種が行われ、SAPジャパンも実施しました。そこには必ず実施するという経営層や運営チームの強いコミットメントと状況に即した臨機応変の対応、職域接種で先行するドイツ本社の知見と献身的なサポート、通常業務に加えて時間を割いた有識者たち、接種当日のボランティアの協力者たちがいました。実施したからこそ、次に向けた知見が貯まりました。

2021年SAPジャパン 新型コロナワクチン職域接種の記録(佐宗 龍)

新たな時に向かって

この先がどうなっていくにせよ、今回挙げた5つのテーマがトーンダウンしたり霧散したりすることは考えられませんし、このうえまだまだ新たなテーマや難題が持ち上がるかもしれないと、もうここまでの経験から皆様も思っていらっしゃるのではないでしょうか。さらにわかっているのは、繰り返しになりますが、新たな課題には怯まず縮こまらず、自分ごととして積極果敢に取り組むことで自らの知見となり、ひいては市場価値になるということです。今や耳慣れた言葉になりましたが、”Fail Fast, Fail Often”です。

そのためには知っている人を知っておくことが肝要です。最後にご紹介した弊社の新型コロナワクチン職域接種では、先に職域接種の予約システムを構築・運用しているドイツ本社の存在が、日本での実現を可能にした要因のひとつでした。そのことを身を持って経験した私たちだからこそ、お客様にとって少しでも、今よりももっと「知っている人」「頼れる人」でありたい。そのために一層視野を広げ、研鑽し、実践してまいります。

これからも、皆様とともに学びと成果の多いときを過ごせますことを心から願っています。

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