人事情報一元化のその先へ 人材データ活用のはじめかた 第3回:データ標準化と品質向上
作成者:籔本 レオ 投稿日:2022年2月4日
「ヒト」は「モノ」や「カネ」と違って定量化が難しい、経験と勘によるアナログな管理が必要と言われることが多い人事・人材領域においても、昨今、人事戦略や方針の中で「データドリブン」、「データ活用」という単語を見ること、聞くことが多くなりました。本稿シリーズでは、人材データの活用を検討する際の考え方や、勘所をご紹介します。
人材データの活用をグループまたはグローバル横断で取り組む場合は、データ定義や収集で苦労されている例が多くあります。第3回では、グループ横断で取り組む場合のデータ標準化をどう進めるか、データ精度・鮮度をどうやって確保・向上するかについて紹介します。
データ標準化 – まずは対象範囲を絞り込む
グループ横断で人材データベースを構築する場合に「横串を通した」データの可視化を目指すことが多くあります。その目的としては、グループ一体経営として遅滞なく非財務指標を把握したい、グループ全体の事業・組織の構造を柔軟に組み替えられるようにしたい、従業員の自律化・多様化に対応するためのキャリア機会をグループ全体に広げたい、人材ポートフォリオにもとづきグループ内での人材流動性を高めたい、などが挙げられます。
しかし、このような目的を掲げて進めている例においても、グループでのデータ定義の標準化に苦労している、またはデータ収集はするが標準化は後回しにしていることがあります。グループ会社は事業や制度が異なるので考え方が大きく異なる、これまで各社に運用を任せていたため今さら言うことを聞かせられない、聞いてくれないなどということが主な理由のようです。
データ標準化というと、人材に関するあらゆる属性情報の定義が共通になっていることをイメージされている方が多いのですが、データ活用の目的に必要なデータだけを標準化すればよいのです。
例えば、営業、IT、人事などの大きな機能の分類で把握できれば十分なのであれば、配下の組織名や職種名までそろえる必要はありません。入退社の増減を把握できれば十分なのであれば、その内訳までそろえなくても問題ありません。
全社が同じ考え方で人材マネジメントを行う、収集したデータをさまざまな軸で集計する、となると、標準化の範囲が広くなり実現難易度が高くなりますが、はじめからすべてのデータ定義をそろえなくてもよいのです。
項目を絞るだけではハードルは下がらない
データ標準化の対象を絞れたとしても、まだ課題が残ります。各社からの「現行業務の考え方と合わないので変えられません」という反応です。
①「では読み替えましょう。」
②「では二重管理してください。」
③「では標準化をあきらめます。」
のいずれかで対応する例が多いようです。①は読み替えルールがあれば自動化できます。ルール化できない場合は、負荷はかかりますが②のような二重管理の例もあります。③のようにすぐにあきらめる例はないのではと思われるかもしれませんが、「将来検討しましょう」、「いったんこのままで」という言い換えで、対応期限のない未来に申し送る例が少なくありません。
標準化を進めるためには①か②が選択肢のように思われますが、これらの対応では本社が収集する段階ではデータ定義を合わせられるものの、各社では独自定義の運用が残ってしまいます。
ですので、ここでは「④業務の考え方を統一してください。」に挑戦していただきたいです。グループ全体で同じ考え方でデータ活用するためにも、グループ標準化対象とするデータは、全社が同じ定義で管理することが望ましいです。最低限必要と絞り込んだ範囲だけでも検討してみてください。
役員、管理職、非管理職のような従業員区分の例で考えてみます。従業員区分はグループ各社だけでなく、自社単体のみでも複数の定義が存在する場合があります。外部機関への提出のために指定された区分で集計することがありますし、社内においても、データの利用目的に合わせて異なる基準で集計していることがあります。
これらを共通の定義にそろえていくのですが、現状のすべての定義で整合性をとろうとすると、データの定義が細かくなりすぎて収集や管理が煩雑になってしまいます。そこで、社内でのデータ活用に必要な定義のみを残し、各社にはその定義に合わせてもらいます。データ定義を変更することでシステムの設定変更が必要になる場合はありますが、社内での利用においては、今まで見慣れていた区分を踏襲したいというだけで現状にこだわっていることが多く、変更後の一定期間を経て慣れてしまえば業務に支障をきたすことはほぼありません。
外部機関へ提出するデータは変えることが難しいですが、社内での活用に比べて頻度が少ないため、読み替えなどの追加作業で対応することを検討します。それなりの作業負荷がかかるということであれば、RPA活用による省力化も考えられます。
評価レイティングをそろえたくなる誘惑
データ標準化を検討するときに、定義をそろえたい要望の上位にくるのが評価レイティング(評価記号)です。各社の評価制度には手を付けないが、A社は5段階、B社は3段階、C社は4段階…、というものを5段階にそろえることで、グループ横串でハイパフォーマー・ローパフォーマーを把握し、比べられるという活用イメージのようです。
なんとなくそのとおりと思ってしまいそうですが、果たしてそうでしょうか。
評価や等級などの人事制度、レイティングの各段階の評価基準や割合をそろえられればグループ横串での比較ができるかもしれませんが、評価の結果だけをそろえてもその評価の意味合いが異なります。
グループ横断でキー人材を識別したいということであれば、人材プール管理の方が向いています。各社の評価制度におけるハイパフォーマー、評価と切り離して選定したハイポテンシャル人材など、目的に合わせた人材のグルーピングが可能です。また、ノーレイティングの制度であっても対応可能です。
データ精度 – 「まあまあ正しいらしい」だと使ってもらえない
データ標準化とあわせて苦労するのが正しいデータの収集です。グループ各社、特に海外子会社からデータを集めようとすると、各社側では本社が必要とするデータを適切に管理できていない、そもそも管理していないということがあります。そこを確認せず収集してしまうと、部分的に欠落している、誤っている、古いまま更新されていないデータが混在したまま人材データベースができあがります。
社内での利用で、概ね正しければ多少の誤りは問題ないという場合は別ですが、社外に公開するデータであれば正確さが求められます。社内での活用においても、誤りの指摘や訂正が増えると、正しい部分のデータも含めて信用を失います。そうなると関係者に有益なはずのデータを提供しても、使いたがらない、活用する代わりに誤り探しや訂正に注力するということになりかねません。さらに、信用できるデータを別ルートで作るためにメールやExcelファイルが行き交うようになり、作業負荷まで高くなってしまうという残念な結果になる可能性があります。
そのため、データの品質に問題があるのであれば、品質を担保できる部分と要改善の部分を明確にしておき、用途に応じた利用適否の判断や将来のデータ品質改善ができるようにしておくことが重要です。
データ鮮度 – 連携頻度を増やせば鮮度はあがるか
データ鮮度についても考慮が必要です。理想はすべてがリアルタイムで可視化されることですが、グループ会社の人事システムやプロセスが統合されていないことで実現困難となっている例が多くあります。
システム統合が難しい場合はシステム間のデータ連携によりデータ収集をしますが、どのくらいの頻度でデータ更新すればよいか迷われる方もいます。日次などの短いサイクルでデータ更新した方が最新状況を把握しやすいですが、データ連携のシステム対応(インターフェース構築)が必要となりコストがかかります。四半期毎など頻度が少ない場合はシステム対応コストをかけずに手動で対応できるかもしれませんが、作業負荷がかかってしまい、また、手作業による誤りのリスクもあります。
このようなトレードオフの関係の中で、データの活用方法にあった頻度を設定することがのぞましいです。各関係者にダッシュボードを提供して、常に最新状況を見られるようにするのであれば日次連携が必要となります。月次や四半期のレポートでしか見る機会がないのであれば、連携頻度を月次または四半期にしても問題がないかもしれません。
データ鮮度は連携頻度だけに依存するものではありません。連携元となる各社で鮮度の高いデータ管理がされていることが前提となります。人材情報を月次でしか更新していない、入社データを1週間遅れて入力している、ということがあると、各社のデータ鮮度がよくないため、データ連携の頻度をどれだけ増やしてもデータ鮮度が不十分になります。
各社とのデータ連携を検討する場合は、このように各社側のデータの精度・鮮度を調査しておくことが重要です。
まとめ
以上、3回に分けてデータ活用について紹介いたしました。
第1回ではデータ活用に関するトレンドであるピープルアナリティクスと人的資本の情報開示と、その失敗例を紹介しました。
第2回では、データ利用者の役割ごとに目的や活用イメージと合わせて取り組むことが重要であることをお伝えし、役割ごとに持っているであろう課題感と対応する指標の例を紹介しました。
第3回では、グループ横断で取り組む場合に苦労することが多いデータ標準化、およびデータ精度・鮮度についての考え方を紹介しました。
人材データ活用を検討している方の参考となれば幸いです。また、「自社における人材データ活用についてディスカッションしたい」、「自社の取り組みを紹介したい」などありましたら是非お声かけください。
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