連載 日本に合った製造DXの秘訣教えます 第2回
作成者:遠藤 讓一 投稿日:2022年2月22日
・日本の製造業の強みをデジタルで強化するために。新三直三現の実現
前回は日本の強みである三現主義による現場改善ループをデジタルで「直ちに」行うにはどうすべきかについて説明しました。そして三直三現をデジタルで補完した新三直三現が求められているというご説明をいたしました。
規模の優位、技術優位だけでは勝利の条件にならない現在、新三直三現により企業の機動性を高め、競合に対し倍速で対応していく事が狙いとなります。
日本の強みである現場力を生かし、現場が情報を「直ちに」得て「直ちに」調べ、現場の改善を上流工程にデジタル情報として返し、外部も巻き込んだ形で「直ちに」現時点での手を打っていく事で競合に対し優越していくことが必要です。
実現する為に重要な点を以下にまとめます。
1.現場の情報・上流の情報を「直ちに」得る
現場内・職場内の改善だけでなく職場間・部署間改善を直ちに行うにはモノがどう作られているかを全体把握しなければなりません。作業手順データを一カ所に整理整頓する必要があります。
つまりデータ自体に対し5Sの徹底が必要という事です。データを整理・整頓し、清掃(精度合わせ)し綺麗に揃える必要があります。
※5S:整理・整頓・清掃・清潔・躾のローマ字頭文字のSを取った職場改善スローガン。
簡単な様で意外と出来ていません。以下例の様に4階層あります。
階層1:
生産管理の為にはある程度大きな粒度(上記図右の「①生産管理用作業手順」の例ですと加工、組立といった括り)の情報が必要です。この情報がずれるとSCMと原価がずれます。つまり儲からない仕組みになるという事です。
※リードタイムが実際より長ければ機会損失になりますし、短ければ納期遅延となります。
この階層1と階層2の詳細情報が定量的に把握できていない為、生産管理と製造の不信感に発展するというケースをよく見かけます。製造側は「生産管理側から出来もしない納期を要求される」と感じて長めにリードタイムを設定、生産管理側は「製造側が能力を隠しているのでは?」と疑うといった状況です。国内でもそうですから海外では更にコミュニケーションが困難になります。
せっかくの競争力のある製品がやっと市場に供給されたときには競合に占拠されているという状況は避けなければなりません。
階層2:
生産管理では「組立」という括りですが実際に組み立てるには詳細の手順が必要です。(上記図の②詳細作業手順)。現場の詳細作業手順は改善により日々変わるので原単位が実態と合っていない事が多いです。この情報を整理整頓しないと「直ちに」わかりません。
※上記図で割愛していますが当然「受入」「加工」「外観検査」「梱包」にも詳細手順が必要です。
最近はライン全体を見渡せる方が減っている実態があります。つまり管理出来ていないと問題があっても「直ちに」どころかずっとわからない状況が続きます。
この階層2はSCMとは関係無いと思われがちですが適切に管理する事で生産管理側でのリードタイム設定の精度向上がなされ、儲かる仕組みに寄与します。
階層3:
上記図の「③自動化ロジック」は段取準備作業の自動化フローを例としています。
詳細作業と自動化フローが繋がっていないと自動化は出来たが改善に結びつかないといった事態になります。
階層4:
上記図左「④ラダー制御」は機械の信号制御です。(例:機械のスイッチon/off)。この稼働実績を取得する必要があります。(例:offだった時間・時刻等)。上記図の様に図左「④ラダー制御」を「③自動化ロジック」と繋げ、さらに上記図の「②詳細作業」で集約して見るとボトルネック工程・ボトルネックの理由が明確になります。
上記図では作業手順のみを例としてご説明しましたが、実際には部品表(BOM)・作業手順・現場設備情報・製造実行情報・SCM情報・現場センサ情報(IoT)を関連付け・整理する事が必要です(孤島となっている場合が多いです)。
これにより日本の強い現場力の情報を集約し業務管理の情報を直ちに整合する事ができます。
既存業務の効率化の為に情報を繋げるのではなく俊敏性・機動性の実現の為に行う(今の業務を革新的にする為に何の情報が必要か?)という視点が重要です。
2.「直ちに」調べる。(製品設計・設備設計・工程設計の本来の意図に立ち戻る)
現場で起きた事は、当初想定していた事と何が違った為に起きたのかを「直ちに」把握する必要があります。その為には機能情報を簡潔に整理整頓する必要があります。
上記図の例では自動段取設備を機能分解しています。
自動段取設備の主要機能項目として工具セットと工具取り外しがあり、その機能と属性を定義しています。例えば工具セットの機能は工具を設備にはめ込む事、属性としては耐荷重や速度などがあるという例です。
この様にモデル化をしていれば機械から情報を取得する事で想定していた耐荷重や速度と違った場合「直ちに」わかります(前回連載でも少し触れたシステムズエンジニアリングを概念化して書いています)。
この機能図を要件と紐づけることで、どの要件がどの機能項目になり、どの部品に関連しているかが明確になります。また、原価企画と紐づけることで機能単位・要件単位でのコストの分析が可能になります。
上流から下流への情報の流れを如何にスムーズにするかが製造DXの主要議題である場合が多いですが、下流から上流の情報還流により現場の改善力を生かしていく事が鍵になります。その為には下流から上流まで情報一元化され整理整頓されている必要があります。
今までは大量データを時間をかけて照らし合わせて分析していましたが、Industrie4.0時代では、設計意図まで遡りリアルタイムで検討分析する事が必要となっています。
IoT情報を元にしたシミュレーションが容易になり、元々のシミュレーションモデルとの対比を常に行う事が可能になり、どの現場情報がどの技術情報に紐づいており、想定値とどう乖離したかが明確になります。
3.サプライヤも巻き込み「直ちに現時点での手を打つ」
一社ではすべてを賄えない時代となり、外部の情報をいかに活用しながら改善に結びつけていくかが重要になっています。本執筆時点での欧州企業で最大の株価はASMLですが、サプライヤをアイディア出しから活用していく体制が成功要因としてよく挙げられます。
サプライヤといかに連携していくかについてのお問い合わせが最近増えている実感があります。
これにより外部も含めた三直三現が実現します。
自動設備を例に説明をしてきましたが、設備機能図からサプライヤに共有していく事で革新設備の実現に寄与する事が考えられます。テスト仕様を一元管理しサプライヤの選定・納入まで追跡、分析し外注費の適正化やサプライヤ品質の向上に役立てるといった使い方もあります。
ちなみに連載第一回目で触れたOODAループ(※近年ビジネスで適用が盛んな軍事行動での迅速意思決定フレームワーク)ではManueverという単語をよく使います。
日本語では「機動性」と訳す場合が多いですが競合を出し抜いて勝つと言った意味合いが強く含まれます。本稿で強調したいのはこの点です。
外部も巻き込んだ形での俊敏性が求められています。
次回はSAPのソリューション製品特徴についてご説明します。