連載 日本に合った製造DXの秘訣教えます 第3回
作成者:高島 和志 投稿日:2022年3月7日
製造現場の目指す新三直三現とは
第1回、第2回では企業が機動性を高めるために必要な新三直三現主義という考えについて紹介しました。今回はこの新三直三現主義を製造現場でどのように実現することができるのかについて解説します。
製造現場では設備からの時系列データ、いわゆるセンサーデータが常に大量に生まれ続けています。しかしこのデータはMESの指図情報との紐づけなどはされず現場層のストレージにだけ保存されている、もしくは保存すらされないケースがほとんどではないでしょうか。
このセンサーデータとMESの製造指図情報が紐づいて、そこからERPの生産管理の指図情報と紐づいて、指図情報はさらに販売管理の受注情報やPLMの製品仕様・設計情報ともつながっている状態を製造現場の新三直三現主義では目指します。データがつながることで現場で起きた現象を直ちに分析したり視覚化することが可能になるのです。
しかし現代の複雑化した生産ラインで現場にある細かなデータの記録と紐づけをするにはエクセルを使った人海戦術では不可能です。現在は設備の制御システムはMESからは独立しているケースがほとんどですが、SAPのソリューションを使うことで設備からMES、ERPへのデータの紐づけを実現することができます。
新三直三現がなぜ製造現場に必要なのか
日本の製造業の強みは現場の改善活動にあります。品質の向上やコスト低減の努力を継続することにより競争力の高い製品を世界へ提供していました。しかし、現場単位の改善活動を続けていくにつれて設備や工程は複雑化し全体を把握することが難しくなっています。生産設備の制御システムには高いレベルでの可用性と完全性そして機械との高速通信が求められるため、システムが小単位で独立して工場のラインの中に分散していることも複雑性を強めている要因の一つです。生産技術のエンジニアは小さな範囲の中で自由に素早く設計できる反面、全体の工程との連携や標準化は後回しにしてしまいがちです。その結果、改善活動が積み重なり制御システムの中身はブラックボックスになってしまいます。
ブラックボックス化してしまった設備は改造も更新も大きなリスクを負うことになます。機能改善を繰り返して全体を誰も把握できていない装置や、更新することもできなくなり予備パーツをかき集めて延命措置を続けるしかない設備に1台くらい心当たりがあるのではないでしょうか?このような状況になってしまえば担当者や保守ベンダーがいなくなると一瞬で立ち行かなくなります。さらに修繕費や改修費用だけではなく運用や保全の担当者への負荷も加速度的に増大します。
生産設備の制御システムが独立、分散したままMESやERPと連携されないサイロ化されたままの改善活動では、ブラックボックス化が必ず起きていつかはこのようなシナリオを迎えてしまいます。ニュースにこそあがりませんがラインが数週間停止する事件が起きることも珍しくありません。単純にセンサーなどのモノやシステムがつながっているだけではなく、データがきちんと連携・紐づきされている、新三直三現の状態を実現することが必要なのです。
新三直三現主義が実現された製造現場では、制御システムのプログラムを製造指図の各工程と紐づけて管理できるため生産ライン全体の動作を直ちに把握することが可能になります。複雑化していく設備のブラックボックス化を防ぎ、計画的な更新やラインの組み替えを助けることができます。また設備のデータだけでなく、生産のデータまで全体と連携することで生産中の製品一つ一つから歩留まりや加工時間のデータから原因を見える化したうえで設計に要求したり、短納期品や高粗利製品に優先度をつけることを可能にします。
SAPソリューションで実現される製造現場の新三直三現主義
製造現場の新三直三現のためには、1.設備とMES間の連携と、2.生産管理の情報と設備情報の連携の2つの要素が必要です。SAPのクラウドの製造実行システム、SAP Digital Manufacturing Cloudはこの2つを実現することができます。
まずは制御システムとMESの間の通信を確立します。制御システムのプログラムは電気回路を模したシンプルな言語なので初心者でも始めやすい反面、複雑な処理や外部との通信を前提としていません。そのため従来は外部システムを接続するために通信プログラムを大量に書く必要がありました。
IoTによる設備からのセンサーデータの収集のためのEdge機能の一つとしてSAP Plant Connectivityがあり、クラウドのSAP Digital Manufacturing CloudからEdgeを介して直接制御システムと接続することができます。接続された制御システムの中にある情報はプルダウンで自由に選択し接続することができます。そのためセンサーのベンダーの違いや新旧の機器が入り交ざった状態でも容易に接続することが可能です。このSAP Plant Connectivityにより人手を介さずに正確な設備のデータをリアルタイムに直接収集することができます。
次に生産管理の工程と設備制御プログラムの連携を実現します。従来は制御システムの中で動作ステップをプログラムしていましたが、SAP Digital Manufacturing Cloudでは視覚的に設計した製造フローで設備制御プログラムを直接制御することができます。下図はあるバッテリーセルの生産工程の一部、Hot Forming部分の製造フローを設計した例です。条件分岐や繰り返し処理の他、各処理の内容(今回はOPC-UA通信でタグの書込み/読出し)を視覚的にデザインできます。直感的に理解することが容易な製造フローが工程と紐ついて設計されるために設備のブラックボックス化を防ぎ、柔軟な拡張や変更を可能にします。
設備の起動や停止、処理の順番をSAP Digital Manufacturing Cloudから直接制御することで、生産管理システム上での工程の進捗と実際の機械動作までをリアルタイムに紐づけることができます。またこの仕組みによって生産工程の設計と制御システムのプログラムの整合性を担保することができるのです。
またクラウドで製造フローを中央管理しているので、制御システムのデバッグ時にありがちなバージョンの枝分かれを防ぐことができます。
このようにしてSAPのソリューションで製造現場の設備がMESと接続され、生産管理の工程設計と設備情報の連携・紐づけが可能になります。デジタルを活用して新三直三現主義が実現されることで、柔軟で機動性の高い製造現場を実現することができます。
次回は生産計画と実際の作業手順の連携についてご紹介します。