社員のボランティア参加を通じて、日本の社会課題解決を目指すSAPジャパンのCSR活動
作成者:SAP編集部 投稿日:2022年4月28日
ニッポンの「未来」を現実にするために、SAPジャパンの社員が取り組んでいるさまざまな変革プロジェクトをご紹介する本連載。9回目を迎えた今回は、SAPジャパンが取り組む「CSR活動」について取り上げます。2011年に発生した東日本大震災からの復興支援を契機に、社内の有志による活動としてスタートした取り組みは年を追うごとに拡大。現在はSAPがグローバルで展開するCSR活動の一翼を担う社会貢献活動としてSAPジャパン全体に根付いています。本ブログでは、これまでの活動の経緯や社員の意識の変化、そして2022年度の活動の展望について、社長室・CSRの笹本力さんと熊手葉子さんに話を聞きました。
(聞き手:SAP編集部)

社長室・CSRの笹本力さん(左)と熊手葉子さん(右)
東日本大震災の復興支援をきっかけに社員の自発的な活動がスタート
― SAPジャパンが取り組むCSR活動について、これまでの経緯をお聞かせください。
笹本 最初のきっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災でした。非常に大きな影響をもたらした災害であるだけでなく、SAPジャパンの社員の中にはさまざまな形で被災地と関わりのある人もいたため、そうした人たちが自発的に集まって、自分たちで何かできないかと意見を出し合うようになりました。
SAPでは、それまでもグローバルで自然災害などの被災地への寄付は行っていましたが、社員の自発的な参加による活動はこれが初めてでした。「TEARS(Tohuku Earthquake Aid and Relief Strategy)」と名付けられたこの取り組みは、現在も続くSAPジャパンのCSR活動の原点となっています。
実際に被災地を訪問したのは、震災の発生からちょうど1年後の2012年3月10日でした。このときはドイツ本社が用意したファンドを活用して、現地のNPO法人とも協力しながら、津波で壊滅的な被害を受けた宮城県気仙沼市と南三陸町の漁業関係者に25隻の漁船を寄贈しました。日本の漁業で必要となる特殊な仕様の漁船(和船)の製造については、米国のNGO団体の橋渡しでメイン州にある造船会社に依頼することができました。この他にも、海産物を保管する大型冷蔵庫や漁具などの寄贈や、SAPならではのITの知見を生かしたオンラインストア開設のサポートなども行いました。

漁業関係者に寄贈した和船
漁業関係者以外の支援では、同じ年に実施した気仙沼市への移動図書館の寄付もNPOとのコラボレーションで実現したものです。移動図書館のトラックのデザインには、絵本「おたすけこびと」のイラストで知られるヨコセ・ジュンジさんが協力してくださるなど、多くの方々のご支援を得ることができました。この移動図書館は、現在も宮城県内の小学校や仮設住宅などを毎月巡回して、年間で2,000人以上の利用者に9,500冊以上の本を貸し出しています。

移動図書館のトラック「おひさま号」
― SAPジャパンのCSR活動は、グローバルでのCSR施策と同じ理念に基づいて展開されていると聞いています。
笹本 CSR活動は、もともとSAPのグローバルでの活動における重要な柱の1つです。毎年、その年ごとの社会状況を踏まえたフォーカスエリアが示されるのですが、2022年の重点施策としては、①ソーシャルビジネス:いわゆる「プロボノ」としてNPOなどの活動を支援、②フューチャースキル:主に若者を対象にプログラミングやデザインシンキングといった教育の機会を提供、③サステナビリティ:SDGsに関連したエコロジーへの取り組みなど、の3つが掲げられています。私たちSAPジャパンも、2022年度はこのフォーカスエリアを軸に活動していく方針です。
参加者の「学びの体験」が生み出すボランティア参加の好循環
― CSR活動に参加する社員への呼びかけや、モチベーションづくりなどはどのようにされているのですか? また、社員の意識に変化は生まれていますか?
熊手 基本的にはCSRに関連したプロジェクトが立ち上がるたびに、社内公募で参加者を募っています。企画自体は、お付き合いのある全国のNPOの皆さんから「こんなことをやりたい」「こんなことで困っている」といったご相談をいただいて、SAPとしてバリューを提供できると判断したものをプロジェクト化しています。これらはすべて社員のボランティア参加で成り立つ活動ですので、笹本さんと私がNPOと社内の参加者の間に立って、プロジェクトを円滑に進めるための調整役を務めています。
笹本 2015年くらいまでは10人程度の参加者を集めるのも大変でしたが、現在は公募の告知をすると30分も経たないうちに埋まってしまい、「私も参加したいのですが、枠はありませんか?」といった問い合わせが寄せられるほどになっています。これだけ社内の関心が高まってきた背景の1つとして、日常の業務を離れてボランティアの現場に行くことが、参加者の大きな学びにつながっていることがあります。そのことが参加者からの口コミで伝わって、多くに社員が自分も参加してみようと考える好循環が生まれているのだと思います。
熊手 CSR活動では社内の部門を越えて多くの参加者が集まりますので、普段の業務では接点がない社員同士の交流が生まれるメリットもあります。これまでは廊下ですれ違っても見知らぬ同士だったのが、CSR活動への参加を機に一緒に食事をしたり、議論をしたりといったコミュニケーションが深まっていく。そこから生まれる社員同士のエンゲージメントは、持続的な組織を支える大きな力になると考えています。
― 参加した社員が新たな気づきを周囲の人に伝え、それが良い循環を生み出すというのは、本来の業務だけでは生まれない成果ですね。
熊手 活動に参加した社員からは、フィードバックをしてもらうようにしています。その中から他の社員と共有したい声をピックアップして、オンラインの社内報に掲載しています。その際もただ感想を紹介するだけでなく、次のボランティア参加の呼びかけとして、社員のモチベーションを高めていくためにはどうすればよいかを考えながら進めています。活動内容が難しく見えてしまうと参加のハードルが高くなりますし、イベントの開催時には参加した社員同士が気軽にコミュニケーションできる環境づくりも大切です。
一方、会社としても社員がCSR活動に参加しやすい制度づくりに取り組んでいて、すべての社員は年に1回「ボランティア休暇」を取得することができます。とはいえ、仕事内容や役割によっては平日に休暇を取りにくい社員もいるので、現状では企画を立てる際はできるだけ活動日を土日に設定するようにしています。そうすることで新たな参加者が増えて、1回参加した後は継続的に活動に参加する率も高まっています。
次世代教育など領域でSAPならではのバリューを提供
― 現在、SAPジャパンが取り組んでいるCSR活動の具体的な内容をお聞かせください。
笹本 現在はNPOの皆さんと連携しながら、日本全国でさまざまな活動を展開しています。新型コロナウイルスの影響もあり、2021年度はZoomを利用したオンラインでのイベントとなりましたが、累計で49回イベントを開催し、総勢243人の社員が参加してくれた結果、3,308名の受益者の方々に貢献することができました。
活動の大きな柱としては、①地方創生、②次世代育成、③災害復興支援の3つがあります。地方創生では、2015年11月に福井県鯖江市で立ち上げた「Hana Open Innovation Dojo(通称、Hana道場)」や、その第2弾として2020年9月に福島県会津若松市で開設された小学生向けのICT教育プログラム実施拠点である「寺子屋Hana」、国内第3弾となる2021年4月に沖縄市に開設した「Hanaわらび」などがあります。また災害復興支援では、原点となった東日本大震災からの復興支援に加えて、2016年の熊本地震、2018年の西日本豪雨災害など、大きな自然災害の被災地での支援活動を継続的に行っています。
もう1つの重要な柱が次世代育成です。この領域は、ERPやデザインシンキングなどSAPならではの知見を提供できるという意味で、ボランティアを受ける受益者の皆さんにとって非常に価値の高いものであると同時に、SAPでなければできないCSR活動だと自負しています。
― 次世代育成の領域での代表的なコンテンツや活動事例を教えてください。
笹本 対象は小学生から大学生までを中心に、「プログラミング」「経営シミュレーション」「キャリアスタディ」「デザインシンキング」の大きく4つのプログラムに分かれています。
特に「ERPsim」という経営シミュレーションゲームを使ったセッションは、SAPならではのプログラムとして好評です。ゲームとはいっても、フロントエンドはSAP Fiori、バックエンドではSAP S/4HANAが動いている本格的なシミュレーションです。チームワークやリーダーシップ、意思決定力などが試されるこのゲームを通じて、参加者は会社経営の難しさや楽しさをバーチャルで体験することができます。
レベル的にはMBAを目指す人のトレーニングや、SAPのお客様向けのデモにも使えるほどですが、中学生くらいでも十分に楽しめる内容です。ある中学校でこのセッションを実施した際は、視察に来た市長や先生方から「こんなに難しいことは中学生にはとても無理だろう」といった声が出ましたが、参加した生徒たちは自由な発想で課題に取り組み、その理解力の高さに周囲の大人たちが驚いたほどです。
このシュミレーションゲームをCSR活動に取り入れたのは日本が最初でしたが、その成果は海外でも評価されて、現在ではSAPのグローバルCSRの「フューチャースキル」領域における実践項目の1つとして展開されています。

オンラインでERPsimセッションに参加する中学生の皆さん
― そうしたイベントやプログラムに参加した社員からは、どのような声が寄せられていますか。
熊手 オンラインで実施したデザインシンキングを学ぶ高校生向けのプログラムに、ファシリテーター(講師)として参加した若手社員からは、「普段の業務では体験できない学びや達成感があった」というフィードバックがありました。社員はみんな大人ですから、取引先や上司など大人同士で話すことはあっても、高校生に何かを教える機会はほとんどありません。この社員もどうすれば高校生たちが興味を持ってくれるか、どのように対話をすればよいのかをボランティアチームの仲間とディスカッションすることで、多くの学びが得られたといいます。
また、コロナ禍以降に入社したこの社員は、約2年間にわたってリモートワークが中心で、自分の担当業務外の社員とコミュニケーションをとる機会がほとんどありませんでした。今回の催しもリモート開催でしたが、初めて会った他の社員たちと言葉を交わし、1つのことに取り組む体験を提供できたことは、私たち運営側としても大きな喜びです。
CSRの取り組みを通じて、日本の社会課題を解決する
― すでに2022年度がスタートしていますが、今後のCSR活動の具体的な展開はどのようにお考えですか。
熊手 2022年の3つのフォーカスエリアの中でも、「サステナビリティ」は特に重要なテーマです。その第1弾として、Earth Dayの4月22日に海洋ゴミの問題で指摘されているマイクロプラスチックなどの削減に向けて、東京・名古屋・大阪の河川敷で80名以上の社員が参加し、“ウォーターウェイクリーンアップ”(河川・海洋ゴミの回収)を実施しました。この活動は久しぶりに現地で開催する活動だったため、社員同士が実際に顔を合わせて一緒に社会貢献活動する中で、お互いのつながりを感じてもらえる場となりました。継続的な活動にしていきたいと思っています。

80名以上の社員が参加した河川・海洋ゴミの回収活動
笹本 SAPのパーパスという観点からは、最終的にはCSR活動を通じて日本の社会課題を解決できるようになりたいと考えています。海洋ゴミの問題にとどまらず、女性の働き方改革などダイバーシティに関連したテーマ、さらには国際紛争における難民の受け入れといった問題まで、幅広い視点に立った活動を展開していきたいと思います。
その実践の過程では、やはりSAPならではのバリューが提供することができ、なおかつ受益者も参加するSAPジャパンの社員もこのバリューを享受できて、お互いにWin-Winの関係を築けることが重要です。その結果として、日本の社会課題が解決できればベストだと思っています。いずれにしても、それらはNPOの皆さんやボランティアとして参加してくれる社員の力がなければ達成できません。そのことを常に忘れることなく、私たちもSAPジャパンのCSR活動を精一杯サポートしていきたいと考えています 。
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