サプライチェーン改革の原資になる在庫削減効果の数値化
作成者:前川 純 投稿日:2022年6月23日
最近注目されている「ジャストインケース物流」について、「ジャストインタイム物流」との比較展開を前々回に行いましたが、2つの戦略に共通しているのは、在庫をどのように考えて活用するかです。
今回はこの在庫の価値について、在庫削減効果の数値化を、EPS(Earnings per share; 1株当たり利益)の単位で表現して、その意味するところを述べたいと考えます。
デジタルサプライチェーン改革の原資をどう確保するのか
今日、多くの企業がサプライチェーンのデジタル化の実現に動いています。一方で、まだこれからだという企業にとっては、デジタル化をどのように進められれば良いのかというのと同時に、このデジタル化がどの程度の投資を必要として、投資金額に見合うのかという壁に当たるかと思います。
そこで、今回のテーマである在庫削減価値の数値化により、この削減金額が投資の原資となり得るか判断するのも一つの手法ではないかと考えます。特に在庫削減は自社努力の範囲内で行える、最も身近で効果のある改善とも言えるからです。そのような意図からもEPSで価値を見るのは経営判断的にも有効なのでは無いでしょうか?
少ない人員で、協同自律走行ロボットが倉庫内を走り回り、その他の様々な自動化機器と倉庫管理システムが連携した次世代ロジスティクス。その輝ける未来像実現の為、地に足を添えた入念な計画を実行するにあたって、予算編成段階で暗礁に乗り上げてしまうわけにはいきません。
では、在庫削減金額価値の数値化をEPS換算する方法について述べたいと思います。まずは、在庫削減率の想定を10%において考えたいと思います。この想定はそれぞれの状況に応じて変えてください。更に、この在庫金額については、皆様の棚卸金額全体をベースに考えても良いですし、完成品在庫や仕掛品在庫に絞っても構わないと考えます。
1株当たり収益で可視化される在庫削減の価値とは
まず、次の表1の2つの会社を参照して、その仕組みを考えてみましょう。この2社は同業他社で、在庫金額は百万円単位となっています。これらの数値は公表されているものですが、あくまでも比較の為に使用していますので、ここではどちらが優れているかということは考慮する必要はありません。
次に、保有する棚卸資産の金額を認識し、発行済普通株式数と株価収益率を求めます。その上で、以下の計算式を適用することができます。
棚卸資産の削減金額÷発行済株式数×株価収益率
この式に当てはめると、以下の表2のようにEPS換算の金額が得られます。
このように、上記A社とB社とも、現在の株価に対して、それぞれ10.7%、25.9%の在庫削減効果が見て取れます。特にB社の25.9%はかなりの好影響が想定できますし、これらの数字以上に企業価値を高めることがいかに難しいか想像してみると、この数値上の重みが理解できると考えます。
加重平均資本コストでみる更なる効果とは
余談ですが、更なる効果金額の想定が必要な場合や、正確に想定したい場合は、WACC(加重平均資本コスト)を使った想定を考えてみてください。在庫を減らすという事は、その在庫相当となっていた10%の金額が不要になるのみでなく、その削減金額に対する資本コストも節約できるということなので、より正確な想定が可能となります。
(在庫削減額+(WACC×在庫削減額))÷株数×株価収益率
皆様のサプライチェーンデジタル化を考える上で、ぜひ一度、在庫削減活動を、一つの手法として活用して、即効性が期待できる原資を捻りだし、デジタルトランスフォーメーションの領域に再投資してみては如何でしょうか。
お願い
最後によろしければ、前述の「ジャストインケース物流」に関してのブログと「サプライチェーン改革 – 刮目すべきフレームワーク」についても、お読み頂き、サプライチェーンの“効果性”と“効率性”について、それぞれ「ジャストインケース物流」と「ジャストインタイム物流」を考える上でのヒントとして頂ければ幸いです。