サステナビリティに向けた実践手引き5~ZERO EMISSION1 as Exemplar~
作成者:福岡 浩二 投稿日:2022年7月5日
今回から、SAPでの主要施策ごとに深堀していきたいと思います。
改めて、SAP Sustainabilityの全体像を模式的に表すと下図のようになります。
このうちの ZERO Emisison、もう少し砕いていえば、GHGの大半を占めるCO2排出の抑制となります。
実務に関わらない方向けに、まずは基礎的な分類を触れておきます。
様々な企業活動のシーンでCO2が発生しますが、それを大きくSCOPEという概念で定義したのがGHG Protocolと呼ばれる基準です。
今はほぼこれがスタンダード化しており、例えばパリ条約が満たす抑制基準を科学的に証明する「SBT(Science Based Target)」も、GHG Protocolを分類基準に置いています。
環境庁のHP(こちら)で詳細が載っていますので、もっと深く知りたい方は訪れてみてください。
同じく環境省が作成したSCOPEについての説明図を引用しておきます。(2022/3/17に作成)
初見の方も、何となくこちらでSCOPEの持つイメージがつかめたと思います。
私自身の経験も踏まえての大まかな企業動向では、SCOPE1・2は省エネ・再エネ切り替えを通じて抑制を図っています。(業態によっては、技術革新でSCOPE1でのCO2発生を抑制)
一方で、一般的に難しいとされているのがSCOPE3です。上記図では部分抜粋されていますが、SCOPE3はさらに15個のカテゴリに分解されています。
難しさの理由の1つは、「社外発生由来で自社コントロールが効きにくい」点にあります。
SAP自身の事例でいうと、2023年にカーボンニュートラルを宣言しており、それに向けてデータをタイムリーに可視化してボトルネックの解消に努めてきました。
そのマイルストーンを振り返ると、大体2014年までは、グローバル全体での最大のCO2排出量は、社内で管理するデータセンターでの消費電力に伴うものでした。
それをコーポレート全体での契約で再エネに100%切り替えました。近年では、こういった取り組みをコーポレート PPA(Corporate Power Purchase Agreement)と呼ばれます。
要は、法人が発電事業者から再生可能エネルギー由来の電力を長期に(通常 数十年)購入する契約のことを指します。
次のボトルネックは、SCOPE3の1カテゴリあたる「従業員の出張」でした。
SAPは製造業ではなくサービス業にあたるため、ヒトの移動、特に飛行機を使った移動に伴う排出量が相対的に多くなります。
この抑制については、社内でそのデータを丹念に可視化するだけでなく、カーボンプライシング制度を導入しました。
要は管理会計と同じ枠組みで、飛行機の利用単位で自動的に排出量をはじき、それをCO2 1tあたりの価格(ユーロ)に置き換えてPL軸で予実統制するイメージです。
ちなみに、事後での評価だけでなく、SAP Concur (以下、Concur)というシステムで出張申請時にも前もってCO2排出量が見えるようにしており、「個人の行動変容」を促しています。
このようにして出張項目の抑制を進めて以降、次のボトルネックは「Corporate Car」つまり社用車由来の排出量でした。
こちらも上記のConcur同様に、行動変容を促すためにEVの利用促進とその消費動向をリアルタイムに可視化する仕組みを開発しました。
こちらについては、自社事例も含めて動画として公開していますので引用しておきます。
現時点でのボトルネックはFacility、つまり施設発生由来です。
こちらは、現在進行形で取り組みを進めています。
施設内にセンサーを取り付けて電力利用の最適化を図るというテクノロジードリブンな仕組みや、またそもそもとして、施設で働かなければいけない、という思い込みを捨てて、働き方から見直そうという施策も講じています。
一旦は2023年のカーボンニュートラルと目指してはいますが、ある意味終わりのないジャーニーに近い営みですので、持続性のある仕組みづくりが必要と考えています。
最後に、社内でのSustainability Dashboardにおける排出量を表示したイメージ(データは仮)を紹介しておきます。
今まで紹介した取り組みは、前提として「データ(事実)に基づくアクション」です。
社内でよく使われる言葉として「見えないものは評価できない」というものがあります。
過去の先人でも近い言葉はよく聞きますね。(筆者がぱっと思いだしたのはP.F.ドラッカー)
もしどういった施策をやるべきか、という以前にデータを効率的に見える仕組みづくりが整っていなければ、まずはそこから入るのも王道だと思います。
そしてその際に、データを取る過程で過渡なコストやリスク(オペレーションミス)は生まないようにしたほうがいいかもしれません。
あくまでデータ化は手段であり、最終的にはそれを元にして法人または個人の「行動変容」が効いてくる、というのが経験則です。
つまり、データ化自体で過渡な負担をかけてしまうと、後続のactionにも影響を与えかねません。
近年はよくDXという言葉が使われます。もしそういった社内改革を進めている企業は、業務フローの見直しの段階で、CO2排出量を計算して抑制できる仕組み化も目指すのがお勧めです。
次回は、ZERO Emission as Enablerとして、社外にも提供している業務組み込み型のEmission可視化ソリューションをご紹介していきたいと思います。
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