SAP HR Connect 2022~事業戦略を支える人事の挑戦~:トラスコ中山における、人事制度改革~自ら考え、独創的な人材を生み出す
作成者:SAP SuccessFactors編集部 投稿日:2022年8月9日
2022年6月22日、「SAP HR Connect 2022~事業戦略を支える人事の挑戦~」がオンラインで開催されました。本稿では当日行われた4つのセッションのうち、トラスコ中山株式会社 経営管理本部 人事部 部長 喜多 智弥様による「自ら考え、独創的な人材を生み出す人事制度改革」をご紹介します。
SAP HR Connect 2022 オンデマンドサイトはこちらhttps://gateway.on24.com/wcc/eh/3847030/sap-hr-connect-2022
同社は、社長のこころざしを下に、時代や価値観の変化と向き合い、社員の独創力を養うための人事制度改革を行っています。本講演では、その具体的な取り組みをご紹介いただきました。
トラスコ中山株式会社
経営管理本部 人事部 部長 喜多 智弥 様
冒頭、喜多様はトラスコ中山のビジネスモデルやコーポレートメッセージ、こころざし(PURPOSE)を述べました。主な事業内容はプロツール(工場用副資材)の卸売業及び自社ブランドTRUSCOの企画開発を行うことであり、「人や社会のお役に立ててこそ事業であり、企業である」というこころざしの下、事業を行っていると紹介しました。
■人事制度改革の内容
続けて喜多様は、人事部の活動を紹介。現在大きく取り組みを行っているのが、人事制度改革です。なぜ今、その改革を行っているのかを以下の3つのテーマに沿って解説しました(図①)。
<図①:なぜ今人事制度改革をするのか>
■1.いつの時代も日本のモノづくりのお役に立つために
人事制度改革を行う一つ目の大きな理由として、喜多様は「社長が掲げているありたい姿を実現するため」を挙げ、「人事制度を変えていくことで、社員の成長につなげていきたい」と述べました。そして「数値目標よりも、日本のものづくりのお役に立つために、当社はどんな企業であるべきか、どんな能力を持った会社になるべきかという能力目標を大切にしています」と述べ、企業のありたい姿11個を紹介しました(図②)。
<図②:いつの時代も日本のモノづくりのお役に立つために~あるべき姿・数値目標より能力目標~>
■2.企業の競争力の源泉を強化
次に、喜多様は人事制度改革を行う2つめの理由として、「企業の競争力の源泉は独創力」であることから、その「独創力を強化する」ためだと述べました。(図③)。
<図③:企業の競争力の源泉を強化>
そして喜多様は、独創力をつける人事制度として複数の人事制度を紹介しました。
◆ジョブローテーション
同社の人材育成の基本であるジョブローテーションは、社員が部署から部署へ移り、新しい力を身につけるものだと喜多様は解説します。3名のローテーション事例を示し、「様々な職を経験することで、様々な人の気持ちがわかるようになり、それが同社にとって大きな武器です」と強みを述べました(図④)。
<図④:ジョブローテーション>
◆ボスチャレンジコース
また、チャレンジ制度「ボスチャレンジコース」は、支店長や課長など、ボス(責任者)になるために必要な制度です。
当初の課題として、立候補制であることから、手を挙げる人が限定的、かつ男性社員に寄ってしまう傾向があり、解決策として、責任者による推薦枠を設けたところ、女性社員からも多くの手が挙がるようになったといいます。
◆行きたい部署で活躍できるチャレンジ制度
続いて、「行きたい場所で活躍できるチャレンジ制度」として、3つの新しいチャレンジ制度を2020年11月に立ち上げたと喜多様は説明しました。
自身が希望する部署で経験を積む「ジョブチャレンジ」、特定の部署の要望時に立候補できる「オープンポジション」、所属部署の仕事をしたまま、希望した部署での仕事にチャレンジできる「兼任ジョブチャレンジ」の3つです(図⑤)。
<図⑤:行きたい部署で活躍できるチャレンジ制度>
ジョブローテーションにおける「キャリアプランを描きづらい」という課題を解決するものだと喜多様は解説しました。
◆360度評価(OJS:オープンジャッジシステム)
同社は、360度評価(OJS:オープンジャッジシステム)を2001年から導入しています。背景として、役員が気に入った部下だけが昇格する課題があり、上司だけでなく周囲からも公平に評価される仕組みが必要になったと喜多様は語りました。
現在は、全部で5つのOJSを運用していると喜多様はそれぞれを解説しました。
1つ目の「昇格OJS」は、全社員から昇格の可否とコメントをもらうもので、一人で黙々と作業し成果を出したとしても最低得票数に満たなければ主任や係長に昇格することができないと喜多様は解説しました(図⑥)。
<図⑥:360度評価(OJS:オープンジャッジシステム)>
2つ目の「人事考課OJS」は、半期ごとに同じ事務所や働く社員同士で評価するもので、評価給・賞与・年次退職金、昇格・降格に関わる人事考課に30%反映する点が特徴です。
3つ目の「取締役・監査役・執行役員・部長OJS」は、経営幹部の評価とガバナンス強化のために、全国の責任者及び経営会議メンバーの約150名から年1回評定されるOJSです。
4つめの「社長OJS」と5つめの「パートタイマーOJS」は、社長とパート社員を評価するものです。「すべての働き手が関わることになるからこそ、自覚を持って真剣に投票するようになってきました」と喜多様。
そして長年運用しながらいくつかの課題を乗り越えてきた結果、「日ごろのコミュニケーションがいかに重要かということが見えてきました」と、喜多様は思いを語りました。
そして喜多様は、360度評価が企業文化都市に根付くためのポイントとして「制度の信頼性」「フィードバックからの自己改革」「全社員が同じ目線の評価軸を持つことや誹謗中傷の禁止による客観性・公平性の確保」の3つを挙げました(図⑦)。
<図⑦:360度評価が文化として根付くには>
■人事システム導入
さらに喜多様は、人事部が抱える課題の一つに「人事データの明確化・可視化」を挙げ、人事システムで解決していることを紹介しました。
従来は、Must(会社からの期待)が多く、Will(本人の意思)やCan(スキル)が多くなかったように感じているといいます(図⑧)。
<図⑧:人事システム導入>
「SAP SuccessFactorsを導入し、社員一人ひとりのCanとMust明確化し、人事に反映していきたい」と喜多様は話しました。そして、「社員一人ひとりの思いを大切すること、会社がどういう風にありたいのかということを開示することによって、実現できるものだと感じています。緻密な情報を集約し、内発的な動機付けを行うことができるこのタレントマネジメントシステムをいかに使うか、そしていかに社員全員が活用してもらうかということが大きな課題です。未来に向けて我々人事部はSAP SuccessFactorsを基軸にしたタレントマネジメントを行っていきたいと考えております」と今後の意気込みを語りました。
■エンゲージメントサーベイの実施
2022年1月に初めてエンゲージメントサーベイを実施したことも喜多様は紹介。働き方や仕事に対する考え方が多様化しているからこそ、社員の声を聞き、会社と相互関係を築く事で、社員の自律化を目指したいとし、エンゲージしている従業員の定義を5つ紹介しました(図⑨)。
<図⑨:エンゲージしている従業員の定義>
■対談セッション
講演後、喜多様とSAPジャパン人事・人財ソリューション事業本部長 森 太郎による対談が行われました。
SAPジャパン人事・人財ソリューション事業本部長 森 太郎(左)
トラスコ中山株式会社 経営管理本部 人事部 部長 喜多 智弥様(右)
森は喜多様の今回の講演テーマの中で、以下の5点を質問しました。
1.ジョブチャレンジ制度設立の苦労
2.ジョブテーションにおける人材育成の工夫(教育・リスキリングについて)
3.ジョブローテーションガイドブック制作の苦労と背景
4.現場の自立化を図る人事部の取り組み
5.エンゲージメントサーベイによって現場が主体的に動くようにするための工夫
喜多様からは、「社員の行く道を少しでも多く持ちたい」「人材アセスメントを開示して、人事、責任者、社員が連携し、学びやチャレンジにしっかりと結びついていくようにしたい」「人事が勝手にやらないということを意識して人事政策を考えている」「大事なのは、キャリアプランを持つ社員も、どこの部署でも行く社員も両方正しいと人事が考えていることを社内に周知すること。ジョブローテーションとジョブチャレンジの両方の手段で2、3年後に良い会社になるために、今、チャレンジをしています」など、人事部のやるべきことについて、広い知見と会社と社員の成長に寄り添うご回答をいただきました。