データドリブン経営に取り組むJSRが進めるSFA/CRMを活用した企業の意識・風土改革

作成者:SAP Japan イベント 投稿日:2022年8月19日

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2022年7月に開催された年次イベントSAP Sapphire Tokyo。3年ぶりのリアル開催となった初日の事例セッションでは、JSR株式会社のデジタルソリューション事業企画部 部長の藤谷智浩氏が、「データドリブン経営と企業文化変革を目指すB to B企業の挑戦」と題し、同社のデータドリブン経営に対する考え方と、現在進めている企業変革について講演を行いました。

JSR株式会社 デジタルソリューション事業企画部長 藤谷 智浩 氏

JSR株式会社 デジタルソリューション事業企画部長 藤谷 智浩 氏

データドリブン経営に必要なツール・システムと意識・企業の文化改革

1957年に日本合成ゴム株式会社として設立されたJSR。1969年に純民間会社となった同社は高分子技術をベースに事業を拡大し、現在ではデジタルソリューション、ライフサイエンス、合成樹脂の3事業を展開。そのなかで、デジタルソリューション事業は半導体関連の電子材料、LCD(液晶ディスプレイ)などのディスプレイソリューション、耐熱透明樹脂など光学用途向け材料を扱うエッジコンピューティングという3本柱で展開されています。
データドリブン経営というと、「データに基づく経営」、すなわちあらゆるデータを収集する仕組みを構築することが想起されます。しかし、JSRの考えるデータドリブン経営は、「収集データの意味を捉えて事業上の共通言語化を図っていくこと」と、「データのもたらす意味を読み取る意識と視点を高度化すること」の2点にあると藤谷氏は語ります。
「そのためにはそれに資するツール/システムが重要であり、合わせてそれを扱う社員の意識、企業の文化改革がなければデータドリブン経営は達成できません」

当社にとってのデータドリブン経営とは?

例えば、売上と利益の管理において、前月比で当月の売上が落ちた場合、一般的には市場動向、競合状況、自社状況を見ながらその原因を探ります。売上が増えたにも関わらず利益が変わっていなければ、価格対応、製品構成変化、原料費高騰、輸送費上昇、固定費上昇などの原因が考えられます。しかし、これらの要因次第では、利益率が改善せずに挽回が困難になることも考えられます。この場合、目指すべきことは、当月の売上結果に定性情報を加えて将来の売上に影響する要因を分析し、「価格対応が有効なら、お客様に提案する」といった対策を早期に打つことです。そのようなリアルタイムな情報と共に対策を行うことで、影響を最小限に留めることが可能になります。
「事業数字をリアルタイムに把握することはできなくても、数字に紐づく定性情報との組み合わせでリアルタイムに対策を講じることは可能です。これをSFA/CRM上で、定常的な営業活動だけではなく、開発・生産など製造業の基本となる業務に関わる人たちともお客様のニーズを共有し、同じベクトルを向いていくことが当社のデータドリブン経営の狙いです」(藤谷氏)

ツール導入の期待効果を定量化することでデータドリブン経営につなげる

現在、JSRはSFA/CRMの試験運用を実施中です。その中では、既存の業務プロセスをツールに載せるのではなく、顧客のニーズを起点に意識や行動を変える視点で導入に取り組んでいるといいます。
一方、データドリブン経営の効果測定では、ツールの導入コストやアカウント使用料を単なるコスト増と見るのは本末転倒であり、活動の変化などツール導入の期待効果を定量化することが重要だと藤谷氏は指摘します。
例えば、プロジェクトの担当者が出張でお客様先まで飛行機で出向き、大人数の会議に出席して、そこで出された課題を自社に持ち帰ってくるケースを想定してみましょう。この場合、プロジェクトの内容に応じてそれなりの出張回数、移動時間、費用が発生します。ここで意識を変えて、SFA/CRMを活用してメールやオンライン会議等で現地の駐在者と相互に情報をインプット・共有し、現地の駐在者だけがお客様先に出向いて、担当者は必要ならオンラインで会議に参加するとしてみましょう。この場合、担当者の出張・移動時間・費用はすべてなくなり、SFA/CRMのアカウント使用料を払うだけでよくなります。
「このように、データドリブン経営に向けては業務内容を見直し、社員全体の意識改革を進めることが、SFA/CRMの導入効果の最大化につながります」(藤谷氏)

データドリブン経営の効果測定とは?

ツールや社外コンサルは触媒であり人の意識や組織風土こそが変革の主役

JSRでは、データドリブン経営への道のりを、2020年から2025年までの5年計画で進めていこうとしています。現在はSFA/CRMの導入を進めている段階ですが、その前のステップとしてデジタルマーケティングの導入プロジェクトを先行して実施したことが効果的だったと、藤谷氏は振り返ります。同社は2020年に始まったコロナ禍によって直接お客様と会えない状況が続く中、いかに事業変革をしていくかという観点からデジタルマーケティングの取り組みを開始しました。しかし、このときに自社都合でツールを選ぶ方向に行きかけてしまったために、デジタルマーケティングの導入検討が迷走しかけたことがありました。
「このままのコンセプトでは行き詰まってしまう、自社の中だけでは課題解決できないと危機感を抱いて、外部のコンサルタントに協力を求めました。その中で、自分たちがやるべきことを、カスタマーエクスペリエンス(CX)の観点から見ていくことの大切さに気づかされました。コンサルタントには当社の業務の良い点、悪い点をすべて丸裸にしてもらい、耳の痛い指摘も含めてすべてを受け入れたうえで、対応策を検討しながら導入を進めていきました」(藤谷氏)
SFA/CRMツールの導入においても、その際の失敗経験を活かして外部のコンサルタントに依頼することを決定。コンセプトを詰めていく中で、複数のパートナーに声をかけた中からSAPをパートナーに採用し、クラウド型のSAP Sales Cloudの導入を決定しました。
「決め手は、SAPがグローバルで保持しているデータが活用できることと、自社だけでは対応できないコンサルティング業務を任せることができることの2点にありました。ツールだけでなく、意識・行動の変革も合わせて対応できること、しっかり伴走していただけるパートナーであるということに期待してSAPのソリューションを採用しました」(藤谷氏)
SAPは、JSRのSAP Sales Cloudの導入に際して、方向性の検討段階から参加し、経営トップとの話し合いの場にも参加しました。SAP Sales Cloudをどのように使っていくのか、どういったシステムに発展させていくのか、ユーザーに対してどのように浸透させていくのか、といったことに対してもセミナーや内部社員向けのトレーニングなどを開催して積極的な参加を呼びかけました。
「SAPに深く関わっていただいているという意味では、期待通りのサービスが受けられていると感じています。その先でデータドリブン経営を達成したいと思っていますが、一番大切なことは社員の意識と行動変革であり、これらが伴わなければ、結局はツールを入れても使わなくなってしまいます。成功のポイントは、人の意識や組織風土をどのように変革していくかにあります。その中で、ツールや社外コンサルタントは触媒の役割を果たすものです」(藤谷氏)
試行錯誤を重ねたJSRの事例は、データドリブン経営を目指す多くの企業の方々にも、大いに参考になるものといえます。

データドリブン経営への道のり

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