SAP Customer Data Cloudの活用により多様な顧客接点の一元管理を推進する阪急阪神グループの「ミンテツDX」

作成者:SAP Japan イベント 投稿日:2022年8月30日

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3年ぶりのリアルイベントとして、7月12日にグランドプリンスホテル新高輪で開催されたSAP Sapphire Tokyoの事例セッションのテーマに1つとなったのが、データを活用した顧客管理の変革でした。本ブログでは、その中から阪急阪神ホールディングス株式会社が取り組む「ミンテツDX」についてご紹介します。SAP Customer Data Cloudを基盤として導入された統合的な顧客ID「HHcrossID」によって、グループを横断した顧客接点の一元管理が実現し、リアルとデジタルを融合した新たなサービスの創出に大きな貢献を果たしています。

日本独自のビジネスモデルである「ミンテツ」が目指すイノベーション

「ミンテツDX」をタイトルに掲げて登壇した阪急阪神ホールディングス株式会社のグループ開発室 DXプロジェクト推進部長を務める山本隆弘氏が冒頭で言及したのは、世界に類を見ないビジネスモデルである日本の「ミンテツ」についてでした。同氏によると、「ミンテツ」とは「民鉄(民営鉄道)」を表すもので、もともと「国鉄(国有鉄道)」との区別のために用いられてきた言葉でしたが、ミンテツは明治期の設立当初から鉄道事業だけではなく、鉄道を中心とする複合的な企業体としてビジネススキームを構築してきたといいます。
ミンテツの生みの親とも言われる阪急電鉄の創業者である小林一三氏が起こしたイノベーションは、「人がいないところに線路を引く」ことで職(仕事)と住(生活)を分離するために宅地開発と住宅販売を行い、通勤客を自ら作り、休日には都市部の百貨店、あるいは田舎の遊園地と、路線を中心にさまざまな需要を生み出すビジネスを展開した点に大きな特色がありました。
阪神・阪急の沿革にみるイノベーション
1910年(明治43年)に始まった小林氏の事業は、1929年(昭和4年)には阪急百貨店を創業するに至り、この時点ですでに現在の阪急阪神グループのほぼすべてのビジネスユニットが揃っていました。この点について山本氏は、「AmazonやGoogleといった現在のプラットフォーマーが、インターネット上でさまざまなサービスやコンテンツを提供するビジネスモデルと見事に重なるもの」と表現します。
阪急阪神グループは現在、鉄道、不動産、エンターテインメント、ホテル、旅行関連事業などを担う阪急阪神ホールディングス、百貨店・スーパー・コンビニ事業を担うエイチ・ツー・オー リテイリング、「東京宝塚劇場」の名に由来する東宝グループの3社で構成されており、傘下の企業は180社超、2022年3月期決算の売上は1兆8千億円超に上ります。
その中でも、阪急阪神ホールディングスの2022年3月期の連結営業収益7,462億円の内訳は、鉄道が22%、不動産が31%、次いでエンターテインメント事業が8%となっています。エンターテインメント事業は、東宝グループや関連会社の関西テレビを合わせると約4,000億円の売り上げ規模を誇り、ここからも鉄道という堅実なインフラを守りながら、エンターテインメント事業に大きな力を注いできたことが分かります。

阪急阪神ホールディングス株式会社 グループ開発室 DXプロジェクト推進部長 山本 隆弘 氏

阪急阪神ホールディングス株式会社
グループ開発室 DXプロジェクト推進部長
山本 隆弘 氏

人口減少社会での生き残りをかけて「阪急阪神DXプロジェクト」を推進

鉄道、劇場、球場、商業施設といったインフラをベースに多様なサービスを展開するミンテツの事業は、かつての人口増加社会においては確実な収益が見込めるビジネスモデルでした。しかし、それは裏を返せば人口が減少する現在の日本社会では、必然的に減収減益を余儀なくされることを意味します。この危機感から生まれたのが、2022年5月に発表された「阪急阪神DXプロジェクト」です。
同プロジェクトでは4つの指針、すなわち「お客様を『知る』取り組み」「お客様に『伝える』取り組み」「お客様が『デジタル時代の利便性』を最大限に享受できる取り組み」「グループの強みであるコンテンツを磨き上げる取り組み」の4つを有機的に結びつけながら実行していくことが目標として掲げられています。
阪急阪神DXプロジェクトの基本構想
「阪急阪神DXプロジェクト」の概念として、山本氏が指し示したのが上の図です。基本は現状のリアルビジネスを維持しながら、そこにデジタル空間でのビジネスを重ね合わせていくという2階層の構造になっています。
「つまり、リアルとデジタルの両方で確実に収益を上げる『もうけるDX』を実現するということです。こうした基本構想の根底には、創業者である小林一三の『電車に乗る客がいなくて赤字になるなら、乗る客を作り出せばよい』という、いわばグループの原点ともいえる理念への回帰がありました」(山本氏)

グループ共通の統合IDによって生涯にわたる顧客接点を一元管理

デジタル空間上で新たなビジネスを生み出していくに当たって、まず大きな課題となったのが生涯にわたる持続的な顧客接点の構築でした。阪急阪神グループでは、子どもから大人まであらゆる人々のライフサイクルに寄り添う多様なサービスをリアルで展開してきました。しかし、これまでは各サービスが事業会社ごとにバラバラで提供されてきたため、そこで蓄積される顧客データの統合的な活用ができていませんでした。この解決策として導入されたのが、リアルとデジタルの両方のサービスを横断して顧客接点を管理する統合ID「HHcrossID」でした。

「HHcrossIDは、阪急阪神グループが提供するすべてのサービスで利用できる共通のIDです。Apple IDやAmazon IDは、1つのIDでいろいろなサービスを使えて実に便利であり、マーケティングの対象となる個人を特定するIDとなります。これまで私たちがマーケティングを行う際のツールは主に商業施設のポイントカードや提携するクレジットカードに目を向けてきたのですが、これからはHHcrossIDによるマーケティングに着目していきます。このIDは既存のリアルサービスとデジタルサービス全てにアクセスできるようにして、ビックデータの収集とその解析によるマーケティングにつなげたいと考えています」(山本氏)
そして、このHHcrossID の発行やポリシーの異なる複数のサイトでのシングルサインオンを可能にしている基盤がSAP Customer Data Cloudです。
「阪急阪神グループではSAPのERP製品は使っていませんが、SAP Customer Data Cloudは顧客IDの一元的な管理基盤として非常に優れていると感じています。さまざまな開発要件やカスタマイズへの対応はこれからですが、当グループ傘下のすべての事業会社のサービスをSAP Customer Data Cloudでカバーできると考えています」(山本氏)

グループを横断した顧客データ分析を通じて新たなサービスの創出、街づくりにチャレンジ

阪急阪神グループのサービスをより多くの人に利用してもらい、そのデータ分析を通じてサービスの改善や新たなサービスの創出へつなげていく。このサイクルを回していくための共通のデジタルプラットフォームは、阪急阪神グループが描くバーチャルとリアルを横断した「もうけるDX」の中核に位置付けられています。HHcrossIDを発行した会員数は、2022年6月時点ですでに23万3,154人に上っており、この数字は現在も着実に増えつつあります。
「部門間で共有するデジタルプラットフォーム」とは?
また、データ分析の高度化に向けた施策として、2021年4月に東京大学との産学連携により「データ分析ラボ」を設立しています。ここでは統計解析や最新の機械学習など、さまざまな手法を用いたデータ分析を行っており、すでに延べ500万人分のデータを活用して、現状の理解や課題の把握を進めています。今後はグループを横断した顧客データの分析も進め、約1,200万人の顧客データの活用を支援していく予定です。
一方、阪急阪神グループではメタバース基盤の整備にも力を入れており、甲子園球場を3DCGで再現した「デジタル甲子園」や、デジタル空間上に再現した大阪・梅田の街を舞台としたバーチャルアーティストの音楽祭「JM梅田ミュージックフェス」など、メタバースイベントの開催実績も着実に積み重ねています。ここで目指すのは、「サイバーとフィジカルが一体となって私たちの暮らしが成り立つ世界」です。
「サイバーとフィジカルが二極化することはありません。むしろ、二極化しているのは私たち企業の側です。鉄道会社からスタートした当社も、これからは新たなミッションとして、デジタルビジネスに積極的にチャレンジしていくことになります」と語る山本氏。
同氏は講演の最後に80年前の梅田駅前の写真を示しながら、「80年の時間をかけて、私たちは高層ビルが立ち並ぶ現在の梅田を作り上げてきました。今後も私たちの街づくり、プラットフォームづくりは止まりません。DXを通じて、会社の成長に貢献したい。」と決意を語り、セッションを締めくくりました。

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