開発のスピード感を知るNTTデータ、再び社会課題に挑む

作成者:久松 正和投稿日:2022年8月30日

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3年前の2019年に、外来植物の駆除のサポートにAIを活用した事例をご紹介した。NTTデータグループのドイツ子会社Iteligence社は、AIによる画像解析とドローン監視のケイパビリティを用いたしくみづくりで、社会課題となっている毒性のある植物ジャイアント・ホグウィードを発見・駆除するアプリケーションの開発に成功した。このIteligence社は、NTTデータグループの再統合によって、2021年、NTT Data Business Solutionsとなり、ドイツだけでなく全欧州をカバーするシステムインテグレーターとなった(以下NTTデータと呼ぶ)。そして、再びAIのケイパビリティを用いて、コロナ禍における社会課題解決を実現した。ひとつの成功で満足せず、その知見を糧に次なる社会課題の解決にデジタル技術を活用し、迅速でレベルの高い開発を認められて、2022年もSAP Innovation AwardsPartner Paragon(パートナー企業を対象としたカテゴリーで、直訳すると「パートナーの鑑」)として表彰された。

再び彼らの社会課題に向けた取り組みを紹介したい。

コロナ禍の子供の教育

この話の舞台は、バルト海と北海に挟まれた北ヨーロッパの小国、デンマークである。彼の地を訪れたことのある読者は、よくご存じと思うが、資源にも国土の広さにも恵まれない代わりに、福祉や教育に注力する北欧型の高福祉国家である。このデンマークにおいても、コロナ禍により他国と同様、幼稚園・小学校への登校が規制され、幼児教育が分断された。子供は家庭に留まざるを得なくなり、それが1年以上続くことが想定された。

大人と違い、幼児から小学校低学年児にとって、1年という時間は長大である。また、言語脳をつくり、これからの学習の基礎を確立させるために、48歳といった適切な時期に学習を進めることは非常に重要でもある。デンマークでは、幼稚園・小学校で行ってきたレベルの教育をホームスクーリングによって補完させることは、国家的な急務として捉えられた。

 

もともと、パンデミック前の環境でも、一時的な病気、心理的問題、親や保護者の選択など、様々な理由によって子供が学校に通えなくなる事象は存在していた。長期の疾病などにより、小学校に進学する児童が体力的に通えないようになれば、保護者は自身の家庭内でその児童の教育を行わなければならない。しかし、家庭教育は、児童本人、教師、保護者全ての時間とエネルギーの消費を必要とし、特に弱い児童にとってはストレスの源になる。また、ホームスクーリングは、リモート環境の設置など、学校側の予算にも大きな負担がかかる。実際、2019年以前、全生徒数を100とすると、1%未満のホームスクーリングを受けなければならないこれらの脆弱な生徒のために、学校予算の最大 10% が費やされる場合もあった。このことから、コロナ禍の課題とはいえ、恒久的な課題でもあるとして理解できよう。

 

低年齢の児童の教育は、保育士さんのように児童の感情面に配慮することが重要である。また、児童一人ひとりの学習進度はバラバラであるため、個々の進み方に合わせて内容のカスタマイズも必要になる。企業内の教育ツールとしてのSAPSuccessFactorsなどの導入に長けているNTTデータにとっても、これは難題だった。

AIの活用によるラーニングヘルパー

ところで、賢いロボットが主人公をサポートしてくれる物語は数多くある。スターウォーズではルーク・スカイウォーカーやハンソロの冒険をR2D2やC3POがガイドし、お茶の水博士のへまを鉄腕アトムがたしなめ、ヤッターマンは犬型ロボを駆って悪党一味を懲らしめ、ドラえもんはダメなのび太を助けて人間としての成長を助ける。

子供にとって、日常生活はすべてが目新しく、いろいろなことが不安と期待に満ちている。そんな時に身近に寄り添ってくれ、自分よりも少し賢くガイドしてくれるような仲間は心強い。自分専用のコンパニオンロボットは、長年のすべての子供の夢と言っても過言ではないだろう。

 

NTTデータはAIによるパーソナライズされたLearning Helperアプリケーションを開発した。コンパニオンに目をつけて、画面に登場するキャラクターが子供の興味を引きつつ、保育士さんのように、繰り返し子供の感情から生まれる反応に対応し、個々の子供の理解度に合わせて学習コンテンツを推奨するものである。
詳細を語るよりもまずどんなアプリケーションなのか、是非ご覧になっていただきたい。(Personalized Education with the AI Learning Helper)iPadに現れるキャラクターが子供に語り掛け、会話をしながら英語の学習を進める。保育士が促すように、楽しげに元気にキャラクターが絵本を選ぶことを促す。子供が絵本「パイレーツボーイ」を選ぶと、キャラクターは海賊に変身して、子供の感性に訴える。表紙にある絵を子供に説明させながら新しい単語を教え、先へと促す。

Video of AI learning helper application

AI Learning Helper

「読み聞かせができ、発音を教えてくれたり、テキストについて質問したりできる読書仲間を想像してみてください。いつでもどのデバイスからでもアクセスでき、世界中のすべての時間を子どもたちのために使える学習の友です。これこそまさに私たちが AI Learning Helper で作成したものです」
NTT データ  AI & ロボティクスのグローバル責任者 Thomas Nørmark 氏

このAI Learning Helper は、本物の教師のように、子供たちが読み方を学ぶのを助ける。子供の言うことを理解し、子供の感情を理解するように設計されている。子供が意欲を失ったり、フラストレーションをあらわにすると、教え方を変える。個々の子供に焦点を当て、言葉に現れるマイクロ表現やボディー ランゲージの検出、感情的なフィードバック、要約アルゴリズム、Q&A などをAIによって分析することで、学習内容を変え、キャラクターの外見も変更してパーソナライズした教育を提供する。

 

このプロジェクトの目標は、前述のように何らかの理由で学校に通うことができず、自宅で学習しなければならなかった子供たちを支援することであり、2019年以前に構想されていた。それがコロナ禍によって自宅で学習しなければならない子供ばかりになり、対応が急務な中、見事に期待に応えた訳である。なおも、AI Learning Helper はその使命を抱き続け、社会にインパクトを与えながら発展している。今後は、戦争地帯、農村地域、低所得世帯などにおける子供たちの教育へのアクセスとして、非常に貴重なツールとなると、NTT データは確信している。また、学校に通えてもなお苦労している子供たちのためにも、このソリューションは安価な個別指導を提供することができる。AI Learning Helperは、オンライン学習スペース内の多くの課題に役立つ、魅力的で個人的な方法として、教育における紛れもないニューノーマルとなる。

 

このAI Learning Helperの効果は、下記のように報告されている。

  • デンマークにおけるホームスクーリングのコストが 50% 削減され、その結果、学校全体の予算の 5% の費用が削減されると推定
  • 教員の労働環境の充実と、生徒の学習経験と教科知識の強化を同時に実現
  • クラウドによるIT環境によって容易な導入の実現
  • 教師・生徒・保護者の生活の改善に寄与
  • GDPR準拠によるプライバシーの保証

NTT データは、迅速にコンパクトに設計〜開発〜テストしたAI Learning Helper を、様々な子供たちにパイロット使用してもらい、インタビューを行いながらアプリケーション化してきた。特にこれまでクラスでの学習が困難であった失読症の子供たちなどの学習にも非常に役立つものであることがわかった。多様な特性のある子供たちにとっても、心理的安全性を担保した包括的学習環境となっている。

AI Learning Helperのシステム構成

AI Learning Helperのアーキテクチャーは多くの方々にとってご興味あるところだろう。

子供のインターフェースとなるのは、iPad上のアプリである。このアプリは24/7、つまり常時稼働し、子供の呼びかけに対していつでも対応する。

ユーザー(子供)の発言や身振りなどの操作は、アプリからネットワークを通して、SAP Conversational AIを中心としたCognitive Servicesに送られ、認識される。その認識結果に基づいて、SAP Data Intelligenceが学習プランや回答を作成し、キャラクターを表現するDigital Human Platformが対応する。肝心の学習コンテンツは、SAP Analytics Cloudによって最適なものが選択され、キャラクターによってユーザーに提示される。

AI Learning Helper Architecture

AI Learning Helper Architecture

 

取り組みから得られる示唆

市販のゲームでは既に実現されているようなアプリケーションではあるものの、ごく限られたリソースと時間の中でこういった開発が進められたのは、プラットフォームとモジュールを活用したことによる功績である。NTTデータはこのようなクラウドプラットフォームの活用に長けた能力を持っており、前回の外来植物の駆除サポートでのAI活用においても、その実力を遺憾なく発揮している。もちろんプラットフォームソリューションの開発元であるSAPのサービス部門との効果的協働によってスムーズに開発を進めることができたことも一因ではあるが、エコシステムの活用も含めて、これからのアプリケーション開発の在り方を示す事例として表彰されたと受け取れる。

「社会課題に真摯に向き合っている」と、口で言うことは容易いが、課題に悩む人たちに応えてこそ仕事であり、その際に求められるのがスピード感であれば、知見を持つ者同士が組んで少しでも早く結果を残そうとするのは当たり前のことだ。

NTTデータは、次のステップとして、AI Learning Helper を一般提供し、スキルセットを拡張してライティングと数学のコンテンツを提供する予定だそうだ。今後の進展を期待したい。


※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、NTTデータ社のレビューを受けたものではありません。

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