データ主導型組織へと進化するため全社トランスフォーメーションに挑んだ資生堂の軌跡

作成者:高橋 正樹 投稿日:2022年9月9日

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株式会社 資生堂は、世界約120の国や地域で化粧品の製造・販売事業を展開し、国内外でトップシェアを誇る、言わずと知れたグローバル企業です(https://corp.shiseido.com/en/ir/news/)。しかし、グローバル企業であるがゆえに、世界中のビジネスデータを捉え、集め、経営陣が意思決定に活用するまでには、多くの課題や複雑な問題が立ちはだかります。しかし自社の成長のためには、データ主導型組織へと進化しなければならない、そう決意した資生堂がどのような課題を抱え、それらをどのように乗り越え、経営や日々の業務でデータを活用した意思決定を行えるようになったのか、その一端についてご紹介したいと思います。

※ 当ブログは2022年7月に行われたSAP Analytics Cloud (SAC) のユーザーが集まるコミュニティ SAP Analytics Cloud USERS MEET UP (第三回) での資生堂様のご講演内容を基に執筆しています。

真のグローバルカンパニーへの成長を目指す「FOCUS」プロジェクト

2019年からスタートした資生堂の「FOCUS」プロジェクトは「First One Connected & Unified Shiseido」の頭文字を取っており、海外売上比率の高い資生堂が、真のグローバルカンパニーとして競争優位性を保ちながら成長を加速していくためのビジネス変革プロジェクト。従来のビジネス要件を満たしながら、資生堂グループ全体において業務プロセスの標準化と最適化、またデータの標準化と統合を可能な限り、高いレベルで実現していく、そのための複数年にわたる大規模プロジェクトです。

資生堂 Global Business Intelligence Lead Bruce Dando氏(2022年9月時点)

資生堂 Global Business Intelligence Lead Bruce Dando氏(2022年9月時点)

資生堂の Global Business Intelligence Lead として「FOCUS」プロジェクト内で「FOCUS BI」プラットフォームの構築をリードされた Bruce Dando (ブルース・ダンド) 氏は「プロジェクト開始前は、申請作業が紙やExcelのフォームベースで、承認者の押印が必要だったり、手紙や電話でのコミュニケーション、しかも地域や事業部ごとにやり方が異なる、という事が往々にして存在していた。こうした属人的で多様化したプロセスから共通のデータセットを抽出し、横断的な分析を行う事は非常に難しかった」と語ります。

Bruce氏がリードしたのは、グローバルな競争力維持・推進を可能とするデータ主導型の組織とするため、その基盤となるクラウドベースのデータ可視化および分析プラットフォーム「FOCUS BI」の実装でした。これはシステム構築が目的ではなく、社員の誰もが必要なデータを必要なタイミングでアクセスでき、簡単にそれを活用できるようにすることで、社員が自ら働き方を変え、効率的で効果的な活動にシフトしていくための仕組みを作ることでした。そのためには古いデータや整合性に疑義があるようなデータでは意味がなく、「FOCUS」プロジェクトでは「FOCUS BI」を含め、以下を同時並行的に進めることで、本来の目的への道程を確実に進めるものとなっています。

「FOCUS」プロジェクトの目標
・ 最先端テクノロジーの活用
・ 全社システムの統合
・ データの標準化と統合
・ 業務プロセスの標準化と最適化

FOCUSプロジェクトのこれまでの旅路(ご講演資料より抜粋)

ビジネスニーズを満たす「FOCUS BI」の構築と浸透のための奮闘

実は業務プロセスの標準化だけではなく、適切なデータセットを作り、誰もがアクセスできるプラットフォームとし、活用を浸透させるまでには、他にも多くの課題に直面していました。その1つが、マスターデータ品質です。データを生み出す日々の活動の手順が同じになったとしても、データ生成や運用におけるルールを決め、ガバナンスを効かせておかなければ、横串で一気に使えるデータにはなりません。資生堂「FOCUS」プロジェクトでは、マスターデータの標準化と合わせて SAP Master Data Governance (MDG) を導入、グローバルレベルでマスターデータの一元管理をできるようにしました。従来の資生堂では、マスターデータは各国管理で独自のコードの発番が許されていました。そのため国をまたがるレポートを作成する際には、各国管理の情報をExcelで共有し、これを突き合わせており、多大な工数がかかる上にミスも発生していました。現在は Global Central Team がメンテナンスや管理を行い、共通のロジックやツールで運用できています。

こうして正規化されたビジネスデータは過去のデータも含めて36か月分、データウェアハウス SAP BW/4HANAで統合。ここへSAP Analytics Cloud にダイレクトに繋ぐことで、詳細かつ最新のデータをいつでも、世界中のどこからでもアクセスできるようにしました。Bruce氏「以前はレポートの取得だけに数日かかっていましたが、現在は誰でも好きな時に、どのデバイスからでもレポートにアクセスし、リアルタイムのデータを見て、データドリブンでアクションをとれるようになりました。」

データ活用のシステム構成全体像(ご講演資料より抜粋)

とはいえ仕組みができたらからと言って、すぐに現場のビジネスユーザーが使ってくれたわけではありません。各地域で使っていたバラバラのレポートからグローバルで統一されたレポートへシフトしていくには、現場は新しいレポート様式やツールに慣れないといけないですし、時に何故変えなければいけないのかと反発も出てきます。「FOCUS」プロジェクトでは、CFOをはじめとするトップエグゼクティブの強い支援もあり、トップダウンで改革の意義を伝えていくとともに、ビジネスユーザーにはツールの習得はもちろん、新しいダッシュボードをリリースする際には、ターゲットのユーザー層に対して個別トレーニングを行う等、現場に根付かせるための努力も継続的に行っています。以前はレポート作成を部下に依頼し数日後に受け取っていたエグゼクティブも、現在では他国のデータも含めて「FOCUS BI」で瞬時に確認し、アジャイル型の意思決定が行えるようになりました。

まだ終わりではない、進化を続ける「FOCUS」プロジェクトの今後

「FOCUS」プロジェクトは、まだ終わりではありません。2022年中にはさらにデータ品質を向上させる施策を行いながら、まだ展開できていない国や地域へのロールアウトを行っていきます。またその先では、「AIや機械学習の機能を取り入れて、将来の動向についての予測分析を行うところまで、視野に入れている。」とBruce氏は語っています。

FOCUSプロジェクト今後の見通し(ご講演資料より抜粋)

実は「FOCUS」プロジェクトには、もう一つの目標があります。データ主導型組織となることで、プロジェクト開始時点で10%だった営業利益率を、プロジェクト完了の3年と少しの間に15%まで引き上げることを経営目標として掲げているのです。プロジェクト開始直後に起きたCOVID-19により、この目標は少し先送りになるかも知れませんが、データ主導型の強い組織基盤が出来上がった資生堂ならば、必ずやこの状況を打破されると思います。

COVID-19のようなウィルスによるパンデミックや金融危機のような世界情勢を脅かすような事態が数年置きに発生したり、従来の業種や市場の枠組みを覆すような新しいテクノロジーやサービスが次々に生み出されるVUCAの時代においては、いかに自社の状態を迅速に捉え、早期に根本原因まで辿り着き、アジャイルな意思決定を行っていけるかが、ビジネス成長をし続けるために重要となっています。またそのためには、資生堂のような全社レベルでの取組みを通じて、使えるデータを如何にして効率的に集め、現場の活用を促していくかが鍵となります。

ぜひこの記事が、皆様の企業活動の一助になる事を願っております。

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