SAP Innovation Awards 2022 で Freudenberg が SAP 50周年記念賞を射止めた理由

作成者:古澤 昌宏投稿日:2022年9月26日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

世界展開している製造業の需給計画。各国独自の方法で計画立案しているので、企業全体として統合計画を立案することが困難、という難問に直面している企業は多いのではないだろうか。
その困難に立ち向かい、見事に本社主導のトップダウン需給計画立案プロセスに変革した企業を紹介したい。

SAP Innovation Awards 2022 の 50周年記念賞

2022年の SAP Innovation Awardsでは、SAP創業50周年を記念して50th Anniversary Legend が最上位の賞として設定された。その栄冠を見事勝ち取ったのがフロイデンベルグ社である。
同賞を獲得したプロジェクト内容を記した文書は、こちらからダウンロード可能だ。

フロイデンベルグ (Freudenberg) とは

フロイデンベルグという企業名に聞き覚えがある方は少ないかもしれない。11のビジネスグループで構成されている同社は、創業者、カール・ヨハン・フロイデンベルグの価値観が創業から170年後の今も息づく、家族経営(非上場)企業である。 1849 年に皮革製品メーカーとして設立されて以降、時代や市場のニーズに合わせて業容を多角化し、人工ゴム製品、清掃用具などを供給。1990年代半ばに「高度に分散化された組織構造」で再編成した結果、現在は持株会社の下に4つのビジネス領域、10のビジネスグループ、2つのサービス部門が割り当てられている。
ビジネスグループのひとつが、資本比率フロイデンベルグ75%、東レ25%の「日本バイリーン株式会社」(下図に緑枠で表示) であり、もうひとつが、今回紹介する Award 受賞対象の 「Home and Cleaning Solutions社」(同赤枠)である。同社は Vileda®, Vileda Professional®, O-Cedar®, Oates, Wettex, Gala®, Marigold® などのブランドを保持している。残念ながら、同社は日本でビジネス展開していない。

フロイデンブルグの組織構造

図1. フロイデンベルグのビジネスグループ (同社Webページから引用し一部加筆)

 

フロイデンベルグでは、従業員全員が起業家のように幅広い活動を行うことが求められている。個人としての独立と委譲された権限が、最小限の正式なルールと相まって、グループの特徴的な企業文化を維持している。

この企業文化から生じた実際のビジネスオペレーションには、どのような課題があったのだろうか。またそれをどのように解決したのだろうか。今回の SAP Innovation Award受賞理由から紐解いてみる。

顧客需要に合わせた供給計画を企業全体で立案するには

Home and Clean Solution社における以前の需給計画立案プロセスには、次のような特徴・課題があったという。

  • 各国組織が独自のロジック、独自の方法によって年間計画を立案している
  • 何種類かのツールを使用し、複数の異なるデータ ソースと計画立案者から取得した情報を使用する一貫性のない計画プロセス
  • 何百もの異なるスプレッドシートをもとに、手作業で計画立案準備を行う
  • トップダウンの計画立案をするにしても業務担当者の参画が必要
  • 予測は販売額のみに基づいて実施。数量計画との統合がなく、財務計画と実務計画の間に矛盾が生じている

上記を解決し実現したかったのは、次のようなものだ。

  • 企業全体の予測プロセスを調和させ、信頼できる単一の情報源を計画立案者に提供する
  • 統合されたグローバル シミュレーションおよび計画プラットフォームで、販売計画、予測、実務計画をスマートに組み合わせ、全社的な意思決定を加速する
  • 計画パイプラインの透明性を向上さえ、より多くの情報に基づいた意思決定を、より迅速に可能にする
  • 財務データと実務データを組み合わせ、必要な製品数量・原材料・販売額の詳細を矛盾なく産出すること
  • 製品チームが国境を越えて予測を作成できるようになる

プロジェクトの目標と実現したこと

プロジェクトでは、次のようなゴールを設定した。

  • 消費財部門全体で計画と予測のプロセスとツールを調和させることで、国から小地域、地域から企業全体へと計画を統合していく
  • 革新的なツールとUIにより、計画立案者が財務データとサプライ チェーン データの両方にアクセスできるようにすることで、より良いビジネス上の意思決定を可能に
  • 計画立案粒度を個々の製品および個々の顧客レベルにまで詳細化。グループ通貨および現地通貨の両方で実施
  • ビジネス上の意思決定の結果をすばやくシミュレートする。たとえば、P&L への影響を理解したり、ギャップを埋めること、など

これまでは地域ごとに予測アプローチが異なっていたため、効果的な計画に必要な詳細レベルで全社的な予測を行うことが困難だった。現場からのマニュアルの報告プロセスも時間がかかり、エラーが発生しやすいものだった。

下図2.を参照されたい。
SAP HANA 上に搭載した SAP Business Warehouse (SAP BW) の既存インスタンスを活用して、単一の集中型データ ウェアハウスを確立した。これに、SAP ERP アプリケーションからフィードされる財務 KPI と販売データ、および SAP Integrated Business Planning for Supply Chain (SAP IBP) からの数量予測データを統合した。これにより、各販売組織に対して自動で計画のドラフト版を生成できるようになった。この計画ドラフトは、財務計画立案者がさらに処理するために SAP Analytics Cloud に送り込まれる。計画の最終版は、計画または実際の分析と SAP IBP のために SAP BW に書き戻される。このデータは、販売、財務、およびマーケティング各部門によって使用されることになる。また、生産部門は、計画プロセスの早い段階で、 calculation view と標準 BW レポートを使用して詳細な製造BOMの構造を利用するメリットも享受できるようになった。

システムアーキテクチャ

図2.フロイデンベルグのシステムアーキテクチャ

企業全体で予測プロセスを調和させ、計画立案者に信頼できる唯一の情報源を提供することで、計画立案効率は向上する。また、計画パイプラインの透明性は大幅に向上し、より機敏に、より迅速に、より多くの情報に基づいた意思決定が可能になった。予測の精度は向上し、実務データと財務データの両方が組み合わされ、必要な製品量と原材料、および販売額の詳細が含まれるようになった。
新しいプロセスと SAP Analytics Cloud は、600人以上のユーザが引き続き利用する標準ダッシュボードを備えた SAP BusinessObjects ソリューションを実行する既存サーバとスムーズに統合された。これらのSAP BusinessObjects ダッシュボードは、プロジェクトの次のステップで戦略的分析プラットフォームに移行され、SAP Analytics Cloud に完全に置き換えられる予定だ。

プロジェクト成果とAward評価理由

冒頭記載したように、同社は SAP Innovation Awards で最上位に評価された。その理由は2つあるように思う。
ひとつは、販売額、販売数量、現地通貨などのデータ粒度を細かく均一にし、標準化された計画プロセスの調和と簡素化を図ることで、各国現地の計画立案作業によるボトムアップから、中央によるトップダウンに変革させたこと。
例えば生産部門は、計画フェーズの開始からわずか 2 日後に、最初のトップダウン ボリューム予測モデルにアクセスできるようになったという。また、計画の透明性と精度が向上し、管理者が手動でレポートを作成する作業が最小限に抑えられるようになった。それにより、考えられるビジネス シナリオの詳細な分析と、さまざまな階層レベルでの実績値と計画値の比較に基づく、より機敏な意思決定に時間を割けるようになった。これは Intelligent Enterprise 実現へのステップとして極めて重要な変革点であるといえる。
もうひとつが、既存のシステムを継続利用し、そこに新しい機能を統合させることで前述のような新たな価値を生み出したところ。SAPの営業ならば、 SAP S/4HANA, SAP BW/4HANA での置換えを併せて推したくなるところではある。しかし同社の目的は、現場から同じ粒度同じ意味をもつデータを集約し、何通りものシミュレーションを通して計画立案者が素早くグローバルの需給計画を立てられるようになることであり、それには 既存のシステム構成に SAP Analytics Cloud を統合することがソリューションであったのだ。RoIの観点からもそれは正解だったのだろう。

※本稿は SAP Innovation Awards 2022 公開情報をもとに筆者が再構成したものであり、Freudenberg社のレビューを受けたものではありません。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

連記事

  • MLBアストロズ球団に見るデータドリブン経営に向けた日本型変革モデル

    今年5月に発表されたIMD国際競争力ランキングで、日本は対象国63国中、97年以降最低となる30位となりました。
    評価基準の一つであるビジネスの効率性の評価が低く、その中でも企業の意思決定の機敏性、ビッグデータの活用や分析といった項目については63位と最下位の評価でした。順位付けには日本の経営者へのアンケート調査が反映されていることから、日本企業の経営者自らが、データを活用した経営の高度化への取り組みに大きな問題を感じていることがわかります。
    今回のブログでは、なぜ日本企業ではデータ活用型経営が上手くいかないのか、その処方箋は何なのか? について述べさせていただきたいと思います。
    そのため?にも、まずはある海外のスポーツチームの例からスポットを当ててまいります。

    続きを見る

  • 実務で使ってみて分かった、誰でも出来るピープルアナリティクス ~始めるための具体的な第一歩~

    ピープルアナリティクスをやってみたいけど“何からやれば良いのかよくわからない”や“本当に実務に役に立つのかなぁ”と思われている企業人事もまだまだ多いのではないかと思います。今回は実務での経験を踏まえ、ピープルアナリティクスが決して難しいものではなく、誰でも出来ることをお伝えし、皆様がピープルアナリティクスに取り組まれるきっかけになれば幸いです。

    続きを見る

  • San Francisco 49ers:顧客体験の向上に向けたリアルタイムなスタジアムオペレーションの見える化

    近年「顧客体験 / Customer Experience (CX)」という言葉が注目されています。Levi’s Stadiumではデジタルを活用した様々な顧客(観客・ファン)体験を提供しています。主要な取り組みとしては、当時としてはかなり最先端の取り組みであったスマートフォン向けのスタジアムアプリケーションがあります。スタジアムアプリケーションを通じたデジタルチケットはもちろんのこと、入場ゲートから自分の席までの経路案内、トイレの混雑状況の見える化、さらには座席から飲食の注文ができたり、追加料金を払うことで自分の座席まで運んで来てくれるサービスも提供しています。

    続きを見る

SAPからのご案内

SAPジャパンブログ通信

ブログ記事の最新情報をメール配信しています。

以下のフォームより情報を入力し登録すると、メール配信が開始されます。

登録はこちら